「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 277
感想 : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040822556

作品紹介・あらすじ

ヒトラーの忠実なる“軍人”か、誠実なる“反逆者”か。
第二次世界大戦を動かした男の虚像と実像を暴く。
これまでの俗説を打破する決定版!!

ドイツ国防軍で最も有名な将軍で、第二次世界大戦の際は連合国からナポレオン以来の名将とまで言われた男、ロンメル。
最後はヒトラー暗殺の陰謀に加担したとされ、非業の死を遂げるが、北アフリカ戦線の活躍から名づけられた「砂漠の狐」の名称は広く知られている。
ところが、日本ではとうの昔に否定された40年近く前の説が生きている程、ロンメル研究は遅れていた。

ロンメルは、ヒトラー暗殺計画に気づいていたのか!? 知っていたとしたら、それを支持していたのか!? 最新学説を盛り込んだ一級の評伝!

「日本では【略】、軍事はアカデミズムにおいて扱われない。
一方、「本職」の自衛隊や旧軍人のあいだでも、戦前、みっちりとドイツ語教育を受けた世代が退くにつれ、
第二次世界大戦の欧州方面の歴史に関する研究が紹介されることもなくなってきたのである。
 【略】もちろん、ミリタリー本などでは、多々ロンメルが取り上げられてはいたものの、
それらのほとんどは、1980年代の段階にとどまっており、なかには、
アーヴィングの『狐の足跡』の歪曲を無批判に踏襲するばかりか、誇張して広めるものさえあったのだ。」(「あとがき」より)

感想・レビュー・書評

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  • 「砂漠の狐」といえば、言わずもがなエルヴィン・ロンメル将軍の異名としてあまりにも有名で、寡兵であるにもかかわらず大量の連合軍を相手にアフリカでの砂漠戦で数々の勝利を成し遂げた名将として名高い存在である。
    しかし、ロンメルが寡兵がゆえに苦労した原因としては従来、そもそもアフリカ軍団としてドイツは2個師団しか送り込まなかった、そもそもイタリアの尻拭いの戦いでありイタリア上層部との諍いが絶えなかった、言っても言っても補給が思い通りにならなかったなどが挙げられていたかと思う。
    にもかかわらず戦術的な勝利を続けたロンメル将軍は「名将」の名を欲しいままにしていたわけだが、欧米では逆に作られた「英雄像」ということでロンメル批判ともいうべき言論も展開されていたそうである。
    しかし、近年になって「ロンメル」像の再評価が行われているということであり、本書はそうした最近の知見を筆者の見解とともに論述した内容となっている。

    「砂漠の英雄」として祭り上げられたのは、当時「英雄」を欲していたドイツ国内の事情も大きいとのことである。
    ヒトラーの引き立てに加えて、宣伝相・ゲッペルスの「英雄」としての大喧伝、ロンメル自身の自己アピールの大きさがあったということである。
    ロンメルはプロイセン出でもなく中産階級の出であり、参謀養成の課程も受けたことがなかったため、本来は出生する人物ではなかったということであるが、持ち前の戦術指揮の優れた才能や常に最前線で陣頭指揮を行う姿、それらの結果として成し遂げた功やそれ以外に他人の功まで自分の功として猛烈に自己アピールする自己顕示欲の強さなどが最終的にヒトラーに認められたことにより大出世を遂げたとのことであった。
    (ま、こういう人は今でも少なからずいますね・・・)

    しかし、そうした性格と才能が発揮できるのは戦術レベルの指揮官までであり、戦略レベルの構想や実行、補給など軍司令官レベルに求められる才能としては失格で、常に戦術レベルの有利さを追い求め、司令官が不在となるにもかかわらず陣頭に立ち続け、補給を無視した作戦を実行するということで、それなりの上司からは有能なのは師団長までという烙印を押され続けていたようである。
    (ま、周りのフォローが続く間は良かったのでしょうね。今もいますね・・・)

    そして彼の悲劇は、彼を引き立ててくれたヒトラーとの関係が悪化し、ノルマンディー上陸作戦への対応を見誤り、ヒトラー暗殺計画に関与しようとしていたことなのだろう。
    次第にひどくなるヒトラーの国家戦略についていけなくなり、自らも決定的な戦略的誤りを犯してしまう。
    結局、政略・戦略的な才能が無い分、逆の意味の運命に翻弄されたのでしょうか。
    (今もそんな人が結構いますが、その運命は・・・!?)

    「砂漠の狐」の実像ということで、結構面白かったです。
    ヒトラーが指示した戦争犯罪行為には加担しなかったということなので、それなりに気骨もある人物だったのかもしれません。
    やっぱり後世に名を残す「将軍」ということでいいんでないかな。

  • 『独ソ戦』で第二次世界大戦におけるドイツ軍の東方戦線の惨状を描いた大木毅氏が、主にアフリカ戦線で活躍したドイツ軍の将軍ロンメルについて詳細な資料分析を元にその人物像とともに描き切った力作。順序としては本書が先で、『独ソ戦』が後に書かれたものであり、ロンメルの研究はまあさに著者の専門とするところであり、記述もまるで見てきたかのように細部から臨場感が感じられる。

    本書は、ロンメルがヒトラー暗殺計画に加担をしたとして処刑か自死の選択を迫られて服毒自殺をするところから始まる。読者は、その結論を知った上で果たしてロンメルは本当にヒトラー暗殺に加担をしたのかという謎を持ちながら読み進めるという仕掛けになっている。どこか映画的な手法で、戦場における勇猛果敢な戦いとともに、そこで描写される人物像に引き込まれざるを得ない。何よりロンメルはヒトラーに心酔し、ヒトラーはロンメルを信頼していたのだ。

    ロンメルが軍事参謀としての十分な教育を受ける機会がなかったことが、大局観を持てず、行動力・決断力を含めた戦術面での優秀さに比して、戦略次元での考慮の不足が結果としてアフリカ戦線においても最終的な敗北につながったと指摘する。そこにもヒトラーによる独裁の軍事面での(独ソ戦ではさらに顕著であった)弊害を見ることができる。また、ロンメル自身の病的な功名心からくる組織内での軋轢や戦略上の失敗につながる判断があったことも事実だ。

    そういった欠点を持ちながらも、ロンメルがあの状況においても戦時国際法を踏み外すことなく、軍人としてのフェアネスに忠実であったことを高く評価する。その事実が著者にがロンメルを研究対象として選んだ理由であり、本書が持つ熱量の源になっているのだろう。

    果たして、ロンメルがヒトラー暗殺に加担をしていたのかは、ここでは書かない。まだ読まれていない場合には、楽しみに読み進めてほしい。その謎解きも含めて大変に面白く満足できる本。

    ----
    『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4004317851

  •  「砂漠の狐」として名をはせたエルヴィン・ロンメルは良くも悪くも脚色された物語を持つ英雄だと思います。

     プロイセン軍人が幅を利かせた帝政時代にあってはそこから外れたアウトローからキャリアをスタートさせ、第1次大戦では大胆な戦術を駆使して次々と戦果を挙げ、ついにドイツ軍最高の勲章(ブルーマックス勲章)を獲得。
     第2次大戦のフランス戦線において、彼が指揮した師団はその神出鬼没ぶりから「幽霊師団」と恐れられ、アフリカ戦線では常に劣勢な物量下で英国軍と互角以上にわたりあい、ついに元帥に上り詰める。
     戦局が悪化するにつれて何とか講和による戦争終結を目指すものの受け入れられず、最後はロンメルにスポットライトをあてた当人であるヒトラーからの命により自ら毒をあおぐという悲劇によって人生の幕を下ろす・・・。まさに映画や小説のような筋書きです。

     しかし逆に、どこまでが脚色でどこまでが真実なのかがはなはだわかりにくい人物でもあります。
     本書を読むとわかりますが、ロンメルを題材にした著作物は様々な思惑によって彼を持ち上げ、またこき下ろしていることから事実が非常にわかりづらくなっている。
     そんな中にあって本書は「真実のロンメル」を明らかにせんとして書かれた一冊なので大変参考になります(ただし、それがゆえに「夢から覚めてしまう」不安も付きまといます)。

     読み終えての感想ですが、本書は非常に親切な構成でとても分かりやすいです。
     文章は簡潔にして明快です。
     章立てとしては、ロンメルの生い立ちから軍人としてキャリアを築いていく流れを時系列で説明しています。
     その中で意外な事実も多々記されています(まさかあのロンメルがルチー(後の婦人)に黙って愛人との間に子をもうけ、しかもその子を公然と養っていたとは・・・!)
     また各所で説明されるロンメルの人物評ですが、実際に彼と関わりを持った人物たちの証言が公平に取り上げられ、そこか浮かび上がる人物像として説明されているのでとても客観性が高いと感じます(当然証言者の思惑やバックボーンについても言及されています)。
     それと同時に、巷のロンメル戦記の中では邪魔者として彼の足を引っ張ったかのように描かれている人物たちや、ロンメルに苦も無く蹴散らされたかのように描かれる将領たちの実際の姿も客観性を持って補足されているので、読んでいて感心します。
     くわえて具体的な戦闘状況の文章描写とともに戦局図や地図が挿絵として豊富に掲載されているのも助かります。

     本書を読んで浮かび上がってくるロンメル像は、大胆かつ勇敢な天才戦術家としての(馴染みのある)姿とともに、実際以上に自分を大きく見せたがる自惚れ屋、そして大きな戦略的見地を欠き、己が戦術の完遂のためには部下の命を顧みない非情な姿、です。
     本書を読むとわかりますが、彼の指揮下で幾人もの師団長レベルの将領が戦死し、また捕虜になっています。この人数ははっきり言って異常です。あの血みどろの独ソ戦にあっても初期の時点ではアフリカ戦線よりましだったのではないか、と思わせるレベルです(師団長レベルがそうなのですから、下士官レベルは言わずもがな、です)。これだけを見ても、ロンメルの指揮には重大な問題をはらんでいたことが見て取れます。
     個人的に彼の行動は、第1次大戦でのルーデンドルフや、もっとさかのぼって北伐における魏延の行動とかぶって見えました。

     ちょっぴり夢から覚めて、真実のロンメル像を垣間見たい方におすすめの一冊だと思います。

  • 「独ソ戦」著者によるロンメル評。
    最近hoi4 にハマりww2を勉強し始めたため購入。
    サクサク読めたし入門本として最適だと思う。

    ロンメルがドイツ国防軍の中でもアウトロー的経歴の持ち主だった事を重視し、故に勇猛大胆、独断専行な戦術家として大成し、上級将官としての教育を受けなかったことから補給軽視、戦略的視野が弱い指揮官であったと分析している。

    またアウトサイダーであったため、軍部で昇進するためにも功名心とその誇示には病的であったとも。


    そんなロンメルの評価は現代に至るまで未だ定まらない。
    ロンメルの活躍はナチスにより過度に喧伝されており、また彼が最後までヒトラーへの忠誠心を持ち続けたかも曖昧なこともあり、ナチスの忠実な一員かドイツ国防軍の良心の一人か、今日まで上振れと下振れを繰り返しているからだ。


    ただしロンメルが度々戦場で見せた騎士道精神だけはいつの時代も変わらず評価されていると、この本は締めている。

  • 砂漠の狐、ロンメルの伝記です。
    新たに世に出た多くの資料を取り入れ、英雄としてでなく人間としての姿が浮かび上がります。
    記録が少ない故の伝説や神話ではなく、真実を求める研究に今後も期待します。

  • 第二次世界大戦時、ドイツの陸軍軍人として活躍し、悲劇的な最期を遂げたロンメルについて、最新の研究を元に毀誉褒貶を余すところなく描いた一冊。

  • 「アフリカ戦線を戦った名将」という印象しかなかったロンメルの人生について詳細に書かれている。

    そのような印象は、主に下記の理由によるとのこと。
    ・ゲッペルスによる士気高揚のためのプロパガンダ
    ・本人も自己宣伝に努める傾向があった

    2番目については、本人の性格もあるが、ロンメルがドイツ軍のエリートコースに入れなかったことにも由来するという理由は興味深かった。
    (①「将校適正階級」以外の出世ルートである砲兵科・工兵科ではなく歩兵科、②プロイセン軍ではなくヴュルテンベルク軍出身、③陸軍幼年学校・士官学校を経ずに将校に任官した)
    また第一次世界大戦敗戦後に将校の数が大幅に制限されたため、必要以上にアピールしないと軍に残れないという理由もあったようだ。

    戦略的視野や高級統帥能力には欠けるが、作戦・戦術次元では勇敢で有能な指揮官という評価が、現在では等身大の評価らしい。
    更に最近ではロンメルの評価は政治的な色彩を帯びてくるようになったという。
    ([「砂漠のキツネ」ロンメル将軍を追悼、 独国防省高官のツイートが波紋 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News](https://www.afpbb.com/articles/-/3194083)など)

    また、日本のアカデミアでは軍事史の研究は行われないこと、また旧日本軍・自衛隊でドイツ語がわかる人材がいなくなったことにより、未だに1980年代の研究が通説とされている点には驚いた。

    文章中に何度も書かれている、優秀な野戦指揮官ではあるが、戦略次元では能力に欠けるという評価の他に特筆すべき美点が一つあった。
    それはロンメルは非人道的な命令であれば、総統命令であろうと無視するような騎士道精神も持ち合わせていたという点だということである。
    それが今もなおロンメルが人々の記憶に残っている理由の一つかもしれない。
    (ただし「絶滅戦争」である東部戦線に参加しなかったという偶然の幸運もあったかもしれない、とも書かれている。)

    トップ(ヒトラー)の誤った命令や、軍の権力争いなど、現代にも通じるような組織の悪い面が、当時のドイツ軍にも表れていた点は興味深かった。
    (ヒトラーについてはノルマンディー上陸作戦など正しい判断もあったようだが。)

    難点は、地図が見づらく戦闘の推移がわかりづらかった点。

  • ロンメル将軍といえばー、というはっきりとしたイメージは持っていなかったが、なんとなくすごい人、と思っていた。
    「ロンメルは勇猛果敢、戦術的センスに富み、下級指揮官としては申し分なかった。さりながら、昇進し、作戦的・戦略的な知識や経験が要求されるにつれ、その能力は限界を示しはじめた」とある。その原因は本人にはどうしようもなかった点と本人が選んだ点があった、と。

  • ロンメル将軍についてはアフリカ戦線で活躍した名将というレベルの知識しかなかったが、いわゆる出世コースではない生まれ、学歴でありながら功績をあげたこと、そのことが逆に能力の限界に突き当たってしまったことなど知見を得られた。欧州でのロンメル像の移り変わりやヒトラー暗殺計画を知っていたか?など興味深く読んだ

  • 過去から何度も読んできたロンメル将軍の物語だが、こうした評伝は初めて。
    こうした歴史上の人物は、近世の人と言えども様々な文献により評価が異なるのか。評価者の想いで意図的に曲げられもするのか。
    そういう意味では読んでよかった。こうした軍人の再評価は中々行われない、と書かれてあったが、なるほど敗戦国ならなおさらだ。
    ロンメルに関しては特に戦いのロマンチシズムの中で作り上げられたイメージが強くあったわけで、私のイメージもそうだった。
    元帥まで昇進しながら「よく出来た師団長」程度との評価は正しかったのかも知れないが、それでも「戦いにフェアネスを重んじた」ところは、彼の面目躍如であろう。ちょっと嬉しかった。

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著者プロフィール

現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(以上、角川新書)、『ドイツ軍事史』(作品社)、訳書に『戦車に注目せよ』『「砂漠の狐」回想録』『マンシュタイン元帥自伝』『ドイツ国防軍冬季戦必携教本』(以上、作品社)など多数。

「2022年 『ブランデンブルク隊員の手記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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