詩羽のいる街 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041000199

作品紹介・あらすじ

あなたが幸せじゃないから-マンガ家志望の僕は、公園で出会った女性にいきなり1日デートに誘われた。確かにいっこうに芽が出る気配がない毎日だけど…。彼女の名前は詩羽。他人に親切にするのが仕事、と言う彼女に連れ出された街で僕が見た光景は、まさに奇跡と言えるものだった!詩羽とかかわる人々や街が、次々と笑顔で繋がっていく。まるで魔法のように-幸せを創造する詩羽を巡る奇跡と感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 有川浩さんが解説の第1行に書いた
    「詩羽に手を引かれて444頁を駆け抜けた。」
    との言葉通り、小さな奇跡の連続に胸が躍って
    頁を繰る手が止まらない本です!

    人生に行き詰っている人を見つけてはデートに誘い
    足りない何かを、足りているところから融通して
    (これを詩羽が「ワラシベ」と呼んでいるあたりが好き♪)
    ささやかな幸せのお裾分けをしながら生きる詩羽。

    そのお裾分けの報酬がお金ではなく
    数か月に1回泊めてもらうことだったり、古着であったり
    レストランでのランチや、医院での診察であったりして、
    お財布どころか、家も保険証も持たない彼女が
    今でいう「地域通貨」の解釈を、もっとおおらかに拡げて
    自由に生き生きと暮らしていることに驚きます。

    秘めた可能性や能力に気付かずに空回りしている人たちの歯車を
    築き上げたネットワークを駆使して噛み合わせ
    やがては町おこしのイベントにまで繋げてしまう詩羽ですが、
    彼女の生き方の根底にあるのが「愛」とか「理想」とかの
    絵に描いたようなスローガンではなく
    人が少しでも快適に生きるための「論理」だ!と言い切り、
    奇跡を呼ぶためには、泥棒あがりの住職だの
    元ゴミ屋敷の住人だのの協力も当然のように仰ぎ、
    法律の網もかいくぐって、まったく天使然としていないところが素敵。

    作中に登場する架空の漫画やアニメも
    実際に読んだり見たりしたくなる面白さで、
    カードゲーム好きの小学生のためにカードのトレードを
    詩羽が鮮やかに取り仕切ったシーンで始まった物語が
    街を舞台にしたアニメの「聖地巡礼」を兼ねた
    キャラのカードを集めながらのオリエンテーリングで閉じられるあたりも
    サブカル好きの読者には堪えられない魅力になっています♪

  • 他人に親切にするのが仕事という女性、詩羽。彼女に導かれ変わっていく人々の姿を連作調で描いた作品。

    彼女の仕事の特徴というのは、人と人を結びつけるということ、そしてその際お金を受け取らない、ということ。
    では詩羽自体どうやって生計を立てているかというと、友達の家を渡り歩いたり、お金以外の報酬をもらったり(例えば店の看板を新調したいという飲食店の店主に、絵の巧い人を紹介してその仲介料の代わりにその店で使えるチケットをもらう)

    彼女の手によって結びつけられた人々は、自らの希望を叶えつつ、相手も喜ばせるようになっていきます。この辺は昔の物々交換とちょっと似ているかも。

    そんなにうまくいかないよ、だとか、ちょっと説教臭い、といったところもあるものの、彼女の言動、行動はとても論理的。彼女自身親切にする方が気持ちいいでしょ? という感情論で人を動かすのでなく、こうする方が合理的でしょ? とあくまで論理や合理性を前に打ち出しつつ、その結果としてみんなが幸せになっていくという合理性に裏打ちされた親切で人を動かすというのが、偽善臭くなくて良かったと思います。詩羽自体も人に親切にすることで生計を立てている面もあるので(もちろん人の幸せにするのが好きというのもありますが)、自身の利益や願望も満足させつつ人を幸せにもできるなんて、うらやましいなと思いました。

    サブカルの様々な小ネタを挟んできたり、読む側に希望を与えてくれる伏線の回収もあって詩羽の行動だけでなく、ストーリー自体も十二分に面白かったです。

    作中に『戦場の魔法少女』というマンガが出てくるのですが単なる作中作とは思えないストーリーの濃さがあって実際に読んでみたいなあ、と思いました。作中作がこんなに気になった作品は初めてかも(笑)

  • これは読んで良かった。少なからず私のこれからの生き方に影響していくでしょう。詩羽の論理が世界中に広がったらいいなと思う。きれいごと過ぎず、シリアス過ぎず、軽妙なタッチでさくさく読めるので、ぜひ多くの人に読んでもらいたい作品。

  • こんな荒唐無稽な話があるか!
    と思いつつもどんどん読み進められた。人との繋がりの大切さ考えさせられる内容だった。

    ただ何よりも戦まほ読みたい。

  • 山本弘版ペイ・フォワード、という言い方は、乱暴にして物語の本質を少し見誤りかねない表現ですが、ワシが読了してしっくりきたのはそんな言い方です。善意をまわす、というプロットにそう感じてしまったのかもしれません。

    舞台になっている街、世界は、現代の病理とも言うべき、ネットやメディアが発達したことで発露した人々の「悪意」や「絶望」を極端だが的確に描いており、それに対して善意を軸にしたちょっと不思議な解決法を提示しています。それは、不可能なんだけど、その何パーセントかは自分でも出来そうで、それによって、少し荒みつつある世界を少し変えられる気がしてくるのです。

    その「不可能」のギミックを筆者はSFとしていて、その理由も得心いくものではあるのですが、ワシの中ではSFとしての咀嚼がまだできていなかったりします。

    ただひとつ間違いないのは、とてもステキなドラマが展開されている、ということです。

    相変わらずの緻密な構成で紡ぎ出される四つの物語は、それぞれに展開しつつも繋がりあい、物語を楽しむ喜びを与えてくれます。そしてやはりワシはこの人の書くものが好きで、この人の書く考え方に共鳴してるな、と再認識しました。

    余談ですが、作中で引用されている書名の出ていない小説にピンときたのが、ちょっと嬉しかったりします。しかも、こないだ読んだばかりの「レインツリーの国」はまだしも、何故か読んだことのない「文学少女シリーズ」も分かったのは謎。読みたいと思って少し調べていたのが、記憶に残っていたようです。

  • 単行本も持っているが文庫になっていたので思わず再読。

    この本は本当に好き。
    過度なサブカル擁護とも取れる著者のエゴや説教臭い部分が鼻につくきらいもあるが、それを補って余りあるあまりに魅力的な詩羽の人物像が眩しい。

    テンポ感が小気味よい「恐ろしい「ありがとう」」、
    最終話「今、燃えている炎」あたりが面白いが、個人的にはさよちゃんの話「ジーン・ケリーのように」が一番好き。

    それと悟られず人のために全力を尽くす姿に胸を打たれる。
    なんだか世のミュージシャンがこぞって愛を歌うのもわかる気がしてくる。
    一周してしまうともうそうするしかないのだきっと。届け届けと。

    それをより具体的に、実践的に体現する詩羽の姿に、
    だからこそ心打たれるのだと思う。

  • 有川さんの本の「あとがき」でこの本を知りました。著者も大の有川ファンと言うことで、気になって読んでみた。

    有川作品に似た軽い読み心地です。これもライトノベルなのでしょうか?
    (私が読んだのはハードカバー版でしたが、文庫も出てるらしい)

     ストーリーの背後にある著者の「マンガへの愛」がしっかり感じられます。主軸となる、「詩羽」に巻込まれる人々の物語と、作品の中に出てくる「戦まほ」のプロットが巧みです。


    一人の女性によって「変化を前向きに捉え、根拠の無い意地は捨て、論理的に日常を楽しくしよう」

    と言う表と、

    誰もが心の奥に密かに抱く気持ち。「人は本来、残酷で排他的。攻撃的な生き物であり、善意を持って生活している日常は本来の姿では無い。」

    と言う裏を、

    際立つように並べて表現し、それを分かった上で「それでも善意を信じてる」とお互いの間を飛び回る詩羽と、押され引っ張られる登場人物たちが、生き生きと描写され、私には少し眩しいほど。

     私自信、ほとんどマンガは読まないのですが、この「戦場の魔法少女」は読んでみたい。もしかして実在するのか?と検索しましたが、やはり架空の設定のようです。

    有川ファンである著者は、この本に有川さんの「レインツリーの国」を話の中で「そう言えば、こう言う本があったんだよね。」と登場させています。

    プラスして、SFファンが「ナニナニ?メモしとこ」と思えるプロットもチラホラ見られる。
    この山本弘と言う著者はSFも書くらしいので、この辺りも読んでみたい所です。
    2001年宇宙の旅、私的にこの映画は退屈で見られたものじゃ無かった。何が評価されてるの?と疑問でしたが、小説版はもっと単純で分かりやすいらしい・・・


    ああ、
    こうやって、知らなかった著者や本にめぐり会って行くのも、また楽しいなぁ。ウシシ。。。

  • これは素晴らしい小説。百回生まれ変わってもこういう物語は自分では書けません。お薦めの一冊。

  • おもしろかった!詩羽のいる街に住んで詩羽システムに組み込まれたい。そう思わせるパワーがこの話にはあります。コミュニケーションを活性化することで、CtoCでうまく廻る町が作れる。そんな例を示したお話だと思います。
    それだけだと説教くさいですが、主人公である詩羽のキャラも魅力的なので、楽しくかつ感心できる内容になってます。作中にある、「人は幸せになることよりも、現状を維持することに固執してしまう」っていうのは、なんだかちょっとグサっときました。

  • 他人に親切にする事を仕事にしてお金を一切手にせずに生きる詩羽のお話


    自分の描きたいマンガと編集者が言う売れるマンガへの修正に悩む男
    公園で小学生達のカードゲームの三角トレード、果ては五角トレードまでこなし、すべての子に利益を配る女性 詩羽に出会う
    「デートしよう」と誘われて行った先々で経験する詩羽の生き方
    人に優しくすることで、お金ではない対価を得て生きている詩羽
    人々が何を望み、何を提供できるかという情報を巧みに繋ぎ合わせて相互に利益を得るネットワークを構築している

    世の中の不条理に失望して自殺を試みようとしている少女
    証拠を残さずに自分は捕まらない程度の悪意を振りまくことに愉悦を感じている男
    「詩羽」の噂を知り、アニメの聖地巡礼にあやかったオリエンテーリングに参加する女性



    「人に親切にするのが、あたしの仕事」という詩羽
    親しい友人によると「詩羽はね、触媒なの。彼女自身は変らないんだけど、彼女がいることで周りの人が変わっていくの」

    言い得て妙である
    需要と供給があるにも関わらず、出会ってもその条件が難しい反応
    詩羽が媒介することで反応のきっかけが生まれ、後は自然発生的に展開していく

    解説で有川ひろがこう表現している
    『詩羽は「奇跡」に魔法を使わない』

    確かに、潜在的な常用と供給を繋ぎ合わせるのは魔法を使わない奇跡に見える

    『だが、「奇跡のシステム」を使いこなすには才能が要る。詩羽自身も自分がその才能に優れていることを認めている。
    詩羽のような才能を持ち得ない私たちが、現実に奇跡を持ち帰ることは難しいかもしれない。
    しかし、そのシステムを「知っている」ということは、私たちの人生を大いに豊かにするだろう。』

    物語故のご都合展開が多分に含まれるため、詩羽のような存在は非現実的だとも思う
    でも、世の中の仕組みとして、そんな側面もあると知っているだけで世の中の見え方が変わってくると思う


    ここ数年お金に触ってすらいないという詩羽
    お金とはどんな存在だろうとも考えた

    「誰かに親切にして、お返しにお金を要求する。すると不快な気分になる人が多いわけよ。でも、『今度おごってね』とか『今度泊めてくださいね』とか『要らなくなった服があったらちょうだい』とか、お金以外の報酬を切り出すと、たいていOKしてくれる。あなただってそうでしょ? あたしに携帯電話使わせてくれる。通話料がかかるのに」 「いや、そんなの安いもんだし……」 「あたしが『一〇円ちょうだい』とか言ったらどう? 嫌な気分でしょ?」

    お金は複数の人が同様の価値を認めた数字
    共通の価値で等価交換するためのツール

    詩羽のやっていることは、情報に付加価値を付けて提供するキュレーション
    詩羽の場合、人によっては大した価値がない情報や物を、必要としている人に付加価値を付けて提供する事で、その差分の見返りで生きている
    その見返りは、場合によっては提供した価値以上の対価でもある
    でも、それらは他の人にとっては価値を持たなかったり、詩羽にしか適用されないものだったり

    どんな人にも共通の価値の数字であるお金に比べて不便だけど、価値の差分と言う意味ではもの凄く効率がいい
    でも、前述や作中で自称している通り、他の人が同じようにするには才能がいる

    要は、結びつける情報の収集能力と誰が欲しているかというマッチング能力の規模と精度の問題か

    まぁ、その根本に必要なのは「悪い人はいない」という性善説を信じる心構えなのかもしれない



    作中作としてあらすじが描かれている「戦場の魔法少女」
    略称「戦まほ」
    力だけを与えられてしまった少女の理想と現実のギャップ認識


    戦争なんてどちらの立場に立つかによって正義の意味は変わるし
    平和的な解決を望むのであればお互いの求めているものの把握が必要
    でも、それがお互いに譲れない競合するものだからこそ戦争になってるんだよね
    行為そのものの対処をしたとろで止まるわけがない

    ゾンビ、ポトフ、巨大化
    元ネタがいくつか思いつくけど、それらを合わせてこんな展開にするとは
    えっぐいなぁ……



    悪意に関するところはそんなでもないけど、個人的に身につまされたのは、変化を嫌う精神についてでしょうか

    「今まで通りの生き方を続けること」が人生の目的になってしまっている人

    私はなるべく平穏な生活をしただけなんですけどね
    まぁ、そのためにはそれを維持するための変化を受け入れなければいけないというのは理屈としてはわかる

    人は幸福になるのは目的なのに、そして他はすべてそのための手段なのに、いつの間にか手段が目的になってしまって、目的のために手段を変える=今やっていることを修正するってことができない人
    うーん、耳が痛いなぁ……


    有川ひろが解説を書いている理由は、解説の最後にあるように、「レインツリーの国」が参考文献になっているからだけど
    人の悪意とその対抗策に関して、自著の作品と似たような傾向があるように思われる



    山本弘さんらしく参考文献が多数
    作中で元ネタに気付いたやつは読んでいて「ニヤリ」とする

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著者プロフィール

元神戸大学教授

「2023年 『民事訴訟法〔第4版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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