排出権商人 (角川文庫 く 22-8)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041000243

作品紹介・あらすじ

大手エンジニアリング会社の地球環境室長・松川冴子は、排出権市場開拓のため世界各地を飛び回る。そこは国連、各国政府、企業、金融機関が利害をかけて激突する温暖化ビジネスの戦場だった。一方、同社の次期社長の座を狙う専務の仙波は収益目標達成のため粉飾決算に手を染め、それを嗅ぎつけたニューヨークのカラ売り屋「パンゲア」の北川が、猛然と株を売り浴びせる。知られざる排出権ビジネスの実態を徹底解明した衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • ESGがリベラルアーツになりつつある昨今、排出権取引あたりもちょっと勉強できると良いなぁと思っていたら図書館の棚で発見。ちょっと古いけど黎明期の話を勉強するのも良いかなと思って読んでみました。
    著者の本に触れるのは4作品目。ビジネス小説が読みやすいと思うお年頃になってきてしまいました…(苦笑

    さて本著、京都議定書が発効した2005年から少し経った頃の話のようなので、ざっくり15年前の話。
    「実は、地球は温暖化していなかったなんてことになったら、この会社はつぶれるんだろうな」なんて論調のフレーズは、まぁ15年後の今では全くなくなった…とまでは言わないものの、かなりのマイノリティになってますね。
    しかし、結局ヨーロッパ主導で本当に地球のためになってるのかわからないという点は変わらず。(足元では石炭火力やエンジン自動車が過剰に冷遇されてるよなぁ…)

    あと、著者の『獅子のごとく』では比較的知っていた業界なのでどの会社がモデルになっていて…というのが推測できたんですが、本著は馴染みのない業界だったので主人公の「新日本エンジニアリング」のモデルの推測がつかず…。JFE?ストーリー展開を鑑みると明確なモデルは設定してないのかもしれませんが。
    「やまとパワー」はJPOWERなんだろうなぁと当たりをつけてみたんですが、こういうのがわからないとちょっと自分に対してモヤッとします(笑

    本著、ストーリー展開としてはそこまで手に汗握るとまではいかず、ただ元々がこの分野を軽く勉強したいという目的だったので、学習マンガ的な位置づけでほどほどに楽しく読了しました。
    後は、足元の状況をアップデートしないと…。

  • 国家間、先進国と発展途上国、排出権の供給者と需要家などの思惑の描写が生々しく描かれており面白い。そこに投資家、空売り屋が介在して誰のための制度なのか、利益の再配分が適切にされているのか、というような問題提起がされる。
    一般向けでなくなるかもしれないが、個々をもっと深く厚く描写して、上下巻くらいにしてもよかったかも。

  • 再読。

    これまでの黒木氏の作品でほぼ唯一の、女性が主人公となった作品(他には、『国家とハイエナ』ぐらい)。

    所謂”ガラスの天井”と、排出権ビジネスを、身に迫るストーリーで体験できる本作。

    女性総合職の扱いに困る企業とか、私の周りでもよく聞くので、このように取り上げられて問題意識を持ってもらうということだけでも意味があると思う。
    また、地球温暖化が進んだ今だからこそ、排出権ビジネスの虚像はしっかりと学べたのも、再読した価値があった。

    テーマを上述の2つだとすると、欲をいえば文庫版で上下巻になるぐらいのヴォリュームで書いてほしかったな。

  • 何でも売れるんだなぁ。
    実体が無いものが売れる、
    それはそれで怖いものです。

  • 脱炭素の流れが時代の趨勢となった今となってはやや隔世の感があるが、色々な人の立場から案件を描いているのは興味深いと感じた。

  • はじめ、排出権の仕組みを理解するのが疲れた。ほんと、こういったことはルールを決めたもん勝ちだと思う。日本はこういうのは苦手なのかな?空売りファンドとどう繋がってくるのかを期待しながら、楽しんで読めた。

  • 前半はかなり専門外で難しい内容だったが後半の急展開はなかなか読み応えあり

  • 【Business】排出権商人/黒木亮/201700201/(13/609) <470/69456>
    ◆きっかけ
    ・仕事の関わりありそうな小説と思いだして。組合図書室より借りる。

    ◆感想
    ・排出権の売り手と買い手を仲介ビジネスを開始したエンジニアリング会社(プラントの設計・建設会社)の女性担当者の奮闘を描くビジネス小説。幅広い取材をベースにしていることから、ビジネスの交渉といった小説の根幹の部分から、食事・文化などの細部に至るまで臨場感があり、まさに主人公と体験を共有している感覚で読み進めることができる。
    ・ただ、排出権ビジネスの教科書的な意味合いが強く出ている分、登場人物の心の葛藤や奥行に限りがあって、小説としては物足りなさも感じた。
    ・排出権をめぐっては、京都議定書において、世界の中で日本が大きくビハインドさせられた現実が色濃く反映されている。また、欧米の立場(自国の企業が仲介で儲けさせる/日本にばばを引かせる)・中国の立場(排出カットの義務は負わないが、排出権の売り手として儲けたい)・ブラジルの立場(排出権の売り手として、価格が下がらないようにしたい)がCDM理事会の理事の主張の中で説明されており、今更ながら勉強になった。

    ◆引用
    ・中国、今から省エネやったり産業を効率化したりすると日本の二の舞にある。そんあことやらずに、CO2だしっぱなしにして、それをペースに削減目標を受け入れたらいい、
    ・国民の金1.2兆円で条約のネーミングライト(命名権)買ったようなもの。
    ・原油高=>石炭へシフトー>CO2排出量が多いから、排出権需要増、排出権価格高
    ・国際的な話し合いの場ではノーをすぐにいって流れを止めないと、相手のペースで議論が運ばれてしまう。
    ・UNFCCCは、発行される排出権料に応じて、登録料をピンハネしているので、国連機関の中では例外的に財政が豊か。そのため、職員を増員したり、方法論を複雑化して、マフィア化している。
    ★温暖化問題は、冷戦が終了し、仕事がなくなった科学者たちを大量にかかえた欧米諸国が、国際的影響力の拡大、新たな商売ネタ、中東へのエネルギー依存度の低減を狙ってでっちあげた「世紀のペテン」である。そこに、クリーンエネルギーであるLGNや原子力関係者、国連官僚、認証機関、コンサルタント、金融機関などが乗っかった。
    ・日本が3.11でぐちゃぐちゃな状態になっている事態を追い風に利用して、再生可能エネルギーを大大的に普及させようという環境マフィアが台頭し、イニシアティブをとろうとしはじめた。その武器が、太陽光と風力。
    ・日本の再エネはNPOが推進していることが多く、まるでボランティア活動。原発が悪玉なら、再エネは善玉、という国民認識。
    ・管政権は支持したくないけど、退陣の条件として付けた再エネ法案成立は立派。
    ・私財を投じて再生エネルギー普及に命をかける、と語った孫氏同様。
    ★本作品は、美しい理念で語られてきた環境問題がうんざりするほど金儲けに結び付けられている現状と、環境ビジネスこそは、虎視眈々と狙いを定めていた新しいエネルギービジネスだったことを教えてくれている。

  • えっ、というところで終わってしまい、微妙に物足りなかった

  • 主人公の冴子みたいだな、と言われて読んだ本。
    なるほど…と納得する部分もあり(マッサージ好きなところとか、すぐ感情移入するところとか)、そうでもない部分もあり。でもなんとなく重ねて読んでしまった。
    あと、国際的な会談の場の描写などが個人的に面白かった。平常心を装いつつも心の中で「こいつ…!(ギリギリ)」みたいな場面もあるんだろうな〜と。

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著者プロフィール

黒木 亮:1957年、北海道生まれ。カイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。都市銀行、証券会社、総合商社を経て2000年、大型シンジケートローンを巡る攻防を描いた『トップ・レフト』でデビュー。著書に『巨大投資銀行』『エネルギー』『鉄のあけぼの』『法服の王国』『冬の喝采』『貸し込み』『カラ売り屋』など。英国在住。

「2021年 『カラ売り屋vs仮想通貨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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