どうして僕はこんなところに (角川文庫)

制作 : 池 央耿 
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年6月22日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (521ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041000298

作品紹介

天才紀行作家の自選短編集、待望の文庫化。

どうして僕はこんなところに (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 先日文庫化されたとき、「角川文庫、何を思ってチャトウィンを!」と、即買ってしまった1冊。単行本版と同じポートレイトの装丁。版元さんにはこれを変える勇気はなかったと見えるが、それは賢明な選択だと思う。この超絶イケメンなポートレイトがないと、この本を読む意味がない…わけではないけど、まあ、それも大事な要素!

    原題は“What am I doing here”。字面だけ考えれば、どことなくすっとぼけた感覚の邦題も悪くないし、ジャーナリストであり、きわめて有能な美術鑑定人のキャリアも持っていたチャトウィンの諸国漫遊記ととれば、この原題もイギリス人らしい軽みを加えたタイトルかもしれない。でも、収められたストーリーはどれも、ストロングで刺激的。西アフリカの動乱のただ中にいると思えば、パリ16区のアパルトマンで、モード界の誇り高き老嬢・ヴィオネにインタビューを試みる。かと思えば、美術界の大物を騙ってソ連時代のロシアへ。そのフットワークと作風は、日本の作家でいえば、沢木耕太郎さんの明晰でどことなく甘やかかつ詩的な雰囲気に、開高健さんの大胆さを加えたような感じだと思う。それと、若いころに何かをみっちり蓄えた人間に顕著な、ことばの深さと切れのよさ。世界のあちこちに材を採ってつづられた魅力的な文章を飽きずに読み進むことができるし、各章の構成も、硬軟の流れがよく練られていて素晴らしいと思う。

    個人的には、『お父さんの目はこんなに青かったのねえ』が、母親の術後の第一声から書き起こされた、淡々とした大人の思い出話ではあるものの、海外の児童文学などでよく見られる、「ぼくのお父さんって、こんなに格好よくってすごいんだよ!」という、男の子のきらきらしたレスペクト感に満ちあふれていて素敵だった。香港の有名なビルに関わった風水師へのインタビューも面白かったし、マリア・ライヘも人選が意外な感じ。全体的に厚みがあって面白かったのは、『人々』『さらに二人の人々』とまとめられた章。取材対象に近づきすぎる危うさを少々感じながらも、一筋縄でいかない人物や問題に密着した緊迫感のインパクトが大きかった。

    「この人、何が専門なんだろうなー」と、守備範囲の広さに驚嘆しつつ、その緩みのない文章にぐいぐい引っぱられて読了。イッキ読みもいいと思うし、一度読み終えても、気に入った部分を繰り返し楽しめる本だと思う。翻訳も破たんなく的確で見事だし、そのうえ、池内紀さんの文庫版解説がこの作品の成り立ちについて、非常に的確かつ情緒的で素晴らしい。ただ、こちらを先に読んでしまうと、旅行記あるいは著名人と行動を共にしたエピソードを集めた作品として読めばよかったはずのこの本に、チャトウィンの残りの人生を見てしまい、やりきれない思いがつのるばかりではあるけれど…と、夏風邪でぼんやりした頭で、ちょいセンチメンタルになってしまった本でもありました。

  • 「パタゴニア」「ソングライン」(いずれも未読)の著者の自選による作品集。ロシアと中国のことは自分の中にとっかかりがあまり無くて読むのに苦労したものの遊牧民の話やインディラ・ガンディーの話、美術界の話はおもしろかった。特に遊牧民にっいて書かれていたところは人生観が表れているようで読み応えがありました。いずれ「パタゴニア」「ソングライン」ともに読んでみたい。

  • 待望の文庫化。

    数ヶ月前に、銀座教文館書店で年配の女性が「パラグアイという本を出している作家、えーと作家名が思い出せないんだけど」と店員に相談していて、どうやら作者がテレビで紹介されてそれで興味を持ってという話が聞こえてきて、こっそりと側で聞き耳を立てていたところ、「ご希望の本は絶版なんですよ、いまここで手にはいる本はこれなんです」と、店員は池澤夏樹全集のオレンジ色の本、チャトウィンの『パタゴニア』を女性に紹介しながら、謝っていた。さすが教文館の店員さん、パラグアイからちゃんとパタゴニアまでたどり着いた。
    たぶんその女性のガッカリ感からすると、おそらくこの本の表紙をイメージしていたに違いない。表紙の写真が素敵すぎてズルい印象ですよ。みんなきっとこの表紙で買ってしまうのだ。たとえバッグパッカーじゃなくても。

    ようやく文庫で再販されましたよ。
    あの女性は手にすることができただろうか。

  • チャトウィンといえば紀行文の名著「ソングライン」、「パタゴニア」の著者だ・・・といっても両方大昔に読んだので、覚えていない。ただ「良かった」という記憶だけが残っているのでソングラインの新訳まで買った(未読)。40代の若さで亡くなったことも今回知った。
    彼のエッセイ集があったこと、それが文庫になっていることを知って購入。非常に博識な人で、歴史、美術、社会・文化と、驚くほど多岐にわたる内容について、プロフェッショナルな観点で語り尽くす。旅ライターの類ではまったくないが、あてどのない旅の空気に包まれている。文章は余分なサービス精神はなくミニマルにして、硬質で簡素だ。この文章を読んでいると、内容の面白さはあるのだがそれ以上にチャトウィンという人物が浮かび上がってくるようだ。
    その人物像を端的に表現するのが表紙の写真。こんなすばらしい遺影を残してみたいものだ。彼の父親の目はこのうえなく美しい青だった、という一文があるが、彼の瞳もまたとない青、旅で出会う海の青空の青ではなかったかと想像する。

  • 大崎Lib

  • "信じる神を聞かれて、「僕の神様は歩く人の神様なんです。」と答えた旅人チャトウィンの自選作品集です。有能な美術鑑定士として活躍するも旅への情熱を抑えきれず退職、考古学を学びなおした後は、『パタゴニア』『ソングライン』といた紀行文学で名を挙げ、48歳で夭折してしまう・・・いろんなものの間を歩き続けた歩く人の代表選手です。
    恐怖の映画監督ヘルツォークを「歩くことの持つ神聖な面について、まともな会話のできる唯一の相手であった」とする一編「ヴェルナー・ヘルツォーク・イン・ガーナ」など、事実に即した架空の物語の中で、楽しく歩き回りましょう。
    "

  • すごく昔にパタゴニアを読んで以来のチャトウィン。とても美しい紀行文といった印象だった。が、今作の自選短編集を読んで、ただ美しいばかりでなく歴史を熟知した思想性に満ちた文章であることに驚いている。深い造詣があるからこそ、旅先での景色や人物の描写に煌めきと憂いが深く、静かに美しく響いてくるのだろう。文明の行きつく先に何も見えなくなってしまった今だからこそ心に訴えかけてくるものも大きい。幸いパタゴニアは私の手許に残っている。もう一度読んでみよう。

  • 【選書者コメント】どうしてでしょうね。

  • 子どもの頃の僕の夢は、冒険家になることだった。
    スティーブンソンの『宝島』やマーク・トゥエインの『トムソーヤの冒険』はテレビアニメも本も好きだった。
    日本の作品では、斎藤惇夫の『冒険者たち』を何度も読んだ。
    街のネズミのガンバが大冒険をする物語。
    こんなことしたいなあ。
    いや、 海賊やイタチと闘いたかったわけじやない。
    どこか遠くへ行きたかったのだ。

    ブルース・チャトウィンの『どうして僕はこんなところに』は、イギリス人の紀行作家の自選作品集だ。
    旅をして書いた文章だが、普通の紀行文ではない。
    エッセイ、コラム、ルポルタージュ。様々な方法で様々な旅や人を書き分けている。
    アフリカでのクーデター、ソビエト時代のヴォルガ川の船旅、インドでガンデイー夫人の選挙遊説など、取材というか興味の対象が広く、よって書き方も多用。
    才能のある人なんだ。文章も行動も。
    経歴がまた非凡。
    「英国シェフィールド生まれ。モールバラ・カレッジ卒業後、サザビーズに就職。有能な美術鑑定士として8年間勤務するが、旅への情熱を抑えきれず退職。エジンバラ大学で考古学を学んだ後、3年間「サンデー・タイムズ」の記者を務める」
    徒手空拳で世界を渡り歩き、美術の鑑定のプロフェッショナル。まるで『ギャラリーフェイク』のフジタのよう。いや、画家の藤田嗣治のよう?
    恰好いいなあ。
    残念ながら、48歳でなくなっている。
    私はその彼の歳を過ぎ、生まれた所と同じ所に今も住み、旅、冒険とは縁遠い生活をしている。
    「どうして僕はこんなふうに」
    読み終わったあと、そう思わずにはいられない、感情を波立たせる秀作。

  • 一回では読みきれない。何回も読んで、やっと感じられる。
    無駄を排した文章は、冷たく感じもする。でも、作者が1番伝えたいことがまっすぐぶつかってきて、いいと思う。

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