- Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041001981
作品紹介・あらすじ
名うてのリストラ屋・蛭田明は、米系投資ファンドによって極東スポーツの社長として送り込まれ、苛酷な大リストラを敢行。社員の首を次々と切る一方、短期間で株価をつり上げて私腹を肥やす。そのカラクリを見抜いたカラ売り屋「パンゲア」の北川靖が、ニューヨーク・ハーレムの子どもたちのあと押しを受け、全面対決を挑む。現代の資本市場を舞台に、強欲に踊る人々の栄華と末路を描いた問題作。
感想・レビュー・書評
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黒木さん最新の文庫本。
「カラ売り屋」(黒木さんの昔の著者)で活躍した
パンゲアの北川さんが主人公。
今回はコストカッターの異名を取る悪役との対決です。
何でもかんでもコスト削減、リストラを進め、
会計操作を行い、株価上昇を狙う悪役に対して、
主人公の北川さんがそれを見抜いて、
カラ売りを仕掛けるというストーリー。
話が単純なので、読んでいてわかりやすいし、
最後の結論も何となく想像できるんだけど、
それでもその後の展開が気になってしまう…という小説です。
久々に読んだ小説ですが、
やっぱり黒木さんの小説は面白い!と改めて思わされました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
カラ売り屋「パンゲア」の北川と、リストラ屋「極東スポーツ 社長」の蛭田の対決。
ワンマン経営の不正を暴いていく北川の姿が、まるでミステリーの謎を紐解いていくようで、とても面白かった。
アメリカ、日本、メキシコなど多くの都市が舞台として登場し、その都市の歴史や特徴などを詳細に記述しており、多くの知識を得ることができる。
また、実在の企業や人物なども登場し、その記述も興味深い。
企業の「再建王」坪内寿夫、「再建の神様」大山梅雄にも大きな関心を持つことができた。
最後に、経済・金融用語集がまとめられており、小説の内容の理解を深めることができる。 -
再読。
蛭田=悪というわかりやすいストーリーだったものの、もろもろを踏まえて悪だけでかたずけ切らないのが著者の良いところだとおもう。
また、空売り屋対名うての経営者というメインストーリーに、米国の黒人社会の一端を絡めてくるのも乙。 -
日本の会社の一部では企業価値を高めるために海外投資ファンドから厳しい提案を示されるケースが見られるものの、海外の会社のほうが手厚い処遇で従業員に優しいことも多くなった昨今、時代背景は変わってきたように思えるものの、一方、日本の企業の生産性の向上は待ったなしということは間違いないのではと感じる。その実行には優れたリーダーが必要と考えるが、本作では私利私欲にまみれたステークホルダーにより会社が破壊されていく様子が描かれている。リストラ屋社長の生い立ちやハーレムの子どもたちに語られる作品最終部は、社会問題意識が喚起される読後感を残した。
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展開が早くて、一気に読めた。空売りファンドというとなんか変なことをやってそうなイメージだけど、財務諸表から経営状況を読み取ったり地道に市場調査したり、これが実態に近いのであれば、結構コツコツやってるんだなと思った。
コストカッターの経営者が典型的な短期利益追求型。その堕落した行動や没落がコミカルに描かれていて、正義と悪みたいなものが分かりやすい構図だった。実際にはコストカッターだって単純な悪ではないだろうし、ファンドは悪いこともするのだろう。 -
・空売り屋とコストカッターの対決。
双方に背景があり、コストカッターの蛭田には
ブランドビルダーとして復活して欲しい。
・コストに見合う製品が作られ、市場で売れるのか。
財務諸表は粉飾できても、エンドユーザーを
ごまかすことはできない。
・工場を閉鎖して外部委託したらどうですか?
そんな問いに示唆を与えてくれる。
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最初のタイトルは「リストラ屋」だった。
この作品にも「カラ売り屋」のパンゲアが登場します。 -
コストカッターvs空売り屋のお話。10年近く前の出版のはずだが日産のカルロスゴーン事件を彷彿とさせる内容である。テクニカルな部分は相変わらずのディテールで読み応え抜群。
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過酷で極端なリストラを仕掛けることで株価を引き上げ利益を得る落下傘経営者と、会社の計算書類を丹念に読み解くことで、見せかけの利益を作るため禁じ手に手を出す経営者の不正を暴くファンド経営者の攻防の物語です。
投資で利益を上げるという仕事。資本主義経済の中でとても大切なことなんだろうとは思うものの、私にはなんだかバーチャルな数字遊びのような気がして、ピンとこないところがあったのですが、この本に登場する「カラ売り屋」さんは、自分たちが動かす株の数字の背後にある、会社で働く人たちの生活や人生を見ていました。そんな登場人物たちの姿勢に共感を覚え、先入観から来る根拠のない苦手意識を強めずに読み終えられました。
株や投資の仕組みに疎いものだから、この小説の面白さをおそらく完全には受け止められていないはずだけれど、そこを置いておくとしても、なかなかスリリングで興味深かったです。
物語の中には、金融や投資に関わるプロの人たちがそれぞれの立場でたくさん登場します。同じ数字を見ている筈なのに、表面的な株価の動きや「改革」という言葉のみに捉われていくプロもいれば、数字が示す意味にアンテナを張り巡らせ、地道なフィールドワークも厭わず、経営実態の把握に注力するプロもいる。仕事ってこういうことなんだろうなぁとも思いました。
私は、後者の姿勢で自分の仕事に向き合う人間でありたい。難しいことだけれど。