おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • / ISBN・EAN: 9784041002810

作品紹介・あらすじ

17歳のおちかは、川崎宿で旅籠を営む実家で起きたある事件をきっかけに、他人に心を閉ざした。いまは、江戸・神田三島町に叔父・伊兵衛が構える袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働く日々を過ごしている。ある日伊兵衛は、いつも碁敵を迎える「黒白の間」におちかを呼ぶと、そこへ訪ねてくる人たちから「変わり百物語」を聞くように言いつけて出かけてしまう。そして彼らの不思議な話は、おちかの心を少しずつ、溶かし始めていく・・・。おちかを襲った事件とは? 

連作長編時代小説「三島屋」シリーズ第1弾、ついに文庫化。
第一話「曼珠沙華」、第二話「凶宅」、第三話「邪恋」、第四話「魔鏡」、最終話「家鳴り」

感想・レビュー・書評

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  • 17歳のおちかは叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ働くことになる。ある日、叔父の伊兵衛より「これから訪ねてくるという客の応対を任せる」とお願いを受ける。過去のある事件が他人へ心を閉ざしていたおちかだが、次々に訪れる客の話をキッカケに心境の変化が綴られた5話の連作短編集。

    宮部みゆき2作品目。
    前読『火車』で宮部みゆきデビューを果たした私へ、ブク友の土瓶さんに本作をお薦めいただき早々に入手。更にブク友のmegmilk999さんからも本作をお薦めいただいたこともあり、これは今こそ読みごろだと手に取った。

    時代小説は初体験で時代に応じた設定・物語・セリフ回し、登場人物の多さにはじめは馴染めず何度も読み戻したが、ようやくおちかの姿見が脳内で映像化された途端、一気に魅き込まれた。

    時代小説、面白いではないか。

    本作は短編でありながら総じて『人の心に潜む感情(業)』が怪談テイストで描かれている。
    形容するならば「怖い、でも切なく悲しい、そして愛おしい」物語だ。
    一人ひとりの登場人物が丁寧に描かれており個性があるので必然と愛着が湧く。

    はじめの2話は来客の話が主体、3話目からおちかの過去が明かされるのだがこれがもう兎角切ない。そしてこの時点で私はもはや江戸にいて、ここから一気読みで読了。最終話の『家鳴り』が1番面白かったのだが、これは前編4話あってこその印象だ。

    私が本作で江戸に行って感じたことは、過去も現代も人情や生きる知恵がある一方で、人間とは欲深くこの世で一番怖いのは人間だということ。そして人の心の弱さから生まれた愚かさこそ【おそろし】なのだと腑に落ちた。

    しかし宮部みゆきの多彩多才に感服。ファンが多いことに納得。

    本作はシリーズ第1作とのこと。
    また折を見てつづきに触れたいと思う。

    どんちゃん、megmilk999さん、私を江戸へと誘ってくださりありがとうございました。

    • 土瓶さん
      akodamさん。こんばんは~^^
      ●万円はとても魅力的なんですが、談義を成立させれるほどには詳しくないんですよね。宮部みゆきさん。
      た...
      akodamさん。こんばんは~^^
      ●万円はとても魅力的なんですが、談義を成立させれるほどには詳しくないんですよね。宮部みゆきさん。
      ただ私なんか、よくこんなにいろいろな話を思いつくもんだなぁ、なんて感心するんですが、宮部さんはどこかで「話を思いつくのはわりとかんたん」みたいなことをおっしゃっていたそうです。
      恐ろしくもあり頼もしくもあり、凄いですね。作家さんて。
       
      これで●万円はムリでもジュース代ほどのpaypayを……!
      しまった! paypay未加入だったわ(笑)
      2022/06/24
    • akodamさん
      どんちゃん、おはようございます〜^ ^

      私に宮部みゆきの魅力を伝播いただいた第一人者であるどんちゃん。
      そしていつぞや、ブク友さんのレビュ...
      どんちゃん、おはようございます〜^ ^

      私に宮部みゆきの魅力を伝播いただいた第一人者であるどんちゃん。
      そしていつぞや、ブク友さんのレビューコメントで「本はおもしろく読める人が最強」と語られていたどんちゃんを、私は頼もしくもあり凄いと思っておるのです。

      これからもよろしく頼もおー!
      2022/06/24
    • 土瓶さん
      こちらこそ、「たのもぉ!」返し(笑)
      こちらこそ、「たのもぉ!」返し(笑)
      2022/06/24
  • 宮部みゆきは単なるミステリ作家ではない。当代きっての天才作家だ。どんなジャンルでも質が高くて面白い。その中でも時代物のファンは割と多いのではないだろうか。
    私は特に「ぼんくら」シリーズが好きだ。ミステリと人情、江戸の庶民の暮らしを生き生きと描いた細かい描写。かなり江戸文化についても研究しているのだなと感じる。
    今回の作品は「三島屋変調百物語」シリーズの第一作である。相変わらず江戸時代の空気感が伝わる精緻な描写は「ぼんくら」シリーズと同じだが、本シリーズの最大の特徴はこれが怪談という事だ。宮部みゆき自身が「怪談を書きたかった」と言っており、また百物語の体裁をとっていることから作者の並々ならぬ意気込みを感じる。
    本作では「亡者」とか「怨念」といったスピリチュアルな表現がたくさん出てくるし、物語の重要な部分にもなっている。これはこの作品が怪談だからではない。当時の江戸時代の人々にとってはこのスピリチュアルな概念や現象が当たり前であり常識であった。当時の空気感や人々の思考を忠実に再現しようとすれば何の違和感もなく、それがまたこの作品の恐ろしさや面白さを高めている。
    本当にこのシリーズが99話まで続くのかは分からないが、宮部みゆきのライフワークでもあるので次回作も楽しみにしている。

  • 宮部みゆきさんのホラー時代小説
    すでに8巻まで出版済みの三島屋シリーズ
    初めて、「事始」の1巻を読んだ。

    怪異を描いているけれど、関係する人々の心情、
    事情を深いところまで、掘って掘って、掘り下げて描く。
    人間の気持ちそのものが怪異なのか!

    宮部みゆきさんの文章は読みやすくて奥深く、そして美しい。
    400ページ超、あっという間だった。

  • 7作目の新作「魂手形」を読み終えたところで、もう一度おちかちゃんについて読みたく、再読。痺れる。

    私もおちかちゃんの苦悩に自分を重ね、自分で自分を許す作業の途中にあるのかもしれない。

    背負ってきた荷は決して下ろしきることはできないもので、思い出したくないにも関わらず忘れられない。
    ふとした時に蘇ってくる、どこかで縛られていることは認めつつも…。

    本文より

    ●1つ悪いことがあっても、それがどんな悪いことでも、だからってみんな駄目になるわけじゃございません。

    ●世の中には、恐ろしいことも割り切れないことも、たんとある。答えの出ないこともあれば、出口の見つからないこともある。

    ●必ずしも白が白、黒が黒ではなく、見方を変えれば色も変わり、間ハザマの色もあるという___うむ、そうだね

    ●何が白で何が黒かということは、実はとても曖昧なのだよ

    世の中には、どうしようもないことがたくさんある。
    単純化できないことも多い。
    成仏できない亡者たちの来し方と行く末の描写によって、私自身も浄化された心地よさを受け取る。

  • 再読。
    三島屋変調百物語の第一期の完結である「あやかし草子」まで読み終えて、どうしても、この百物語の第一巻である「おそろし」が読みたくなってしまった。
    こんなにすごかったかと驚いた。
    第一期の全五巻。
    「おそろし」
    「あんじゅう」
    「泣き童子」
    「三鬼」
    「あやかし草子」
    と、続くのだが、この「おそろし」の出来が素晴らしく良い。おもしろくて、怖い。
    「あんじゅう」以降は連作短編の形をとっているが、「おそろし」は短編集というよりは五話構成の長編と呼んだ方がいいだろう。主人公である「おちか」の物語だ。
    以降「おちか」は百物語の聞き手となる。
    さすがは宮部みゆきさん。良く出来ている。
    宮部みゆきさんの<江戸もの>は、そもそも評価が高い。この百物語シリーズはその最たるものだと思う。「あかんべえ」も良かったが。
    ただ、非常に非常に残念なのは、これ以降の第二期の主人公は「おちか」から、小旦那こと「富次郎」にバトンタッチされてしまう。
    あまりに残念過ぎて、第二期は読んでいない。好きなシリーズだったのに。
    「おそろし」を読み返してわかるとおり、「おちか」には背景があり、ストーリーがあった。そう、せざるを得なかった。
    が、小旦那には何もない。ただの興味本位に見える。申し訳ないが、なんの魅力も感じない。
    なぜ小旦那に変えてしまったのか。分からない。たしかに「あやかし草子」で人生の転機を迎えた「おちか」だったが、それでも百物語の聞き手を務めることは可能だったし、なんの齟齬も起きない。そのままでいいのに……。
     
    それと、本のレビューとは直接無関係な話ですが、作家の性別と、作品の主人公の性別は、できるだけ同じの方が良いように思えます。
    本を読んでいて、女性作家の書く男性主人公に違和感を感じることはよくあります。
    逆に、女性からしたら、男性作家の書いた女性主人公に違和感を感じることもあるのではないのでしょうか。その内面や考え方を深く表す主人公クラスでなければ、それほど問題ないでしょうが。
    天才的な作家と言えども、異性の考えや、その内面を、同性の作家のように理解して表すのは難しいのでしょうね。と、思いました。

  • 人を取り込んでしまう屋敷「凶宅」と
    おちかの過去「邪恋」で
    百物語の意味もわかると
    訳アリで悩む人の話を聞くだけが
    段々しっくりくるようになります
    1話から5話までが
    本当に見事につながっていて
    基本は終わった話を語るというだけなのに
    どっぷりはまり込んで
    楽しませてくれます
    さすが 宮部先生だなぁ

  • 闇の深淵に沈み込んでいるおちかの心を何とか助け出そうと、三島屋の主人・伊兵衛は世の中にある不可思議な話を聞き取る・・・という仕事をおちかに与える。
    凶事があったとき、事件を起こした人が悪いのは誰もがわかっている。
    けれども、加害者だけにすべての原因があるのか?と考えると、そうではない場合もある。
    あのときこうしていれば。
    あのときこう言っていれば。
    どんなに悔やんだとしても、過去が変わるわけではない。
    それでも悔やまずにはいられないのが、人というものである。
    おちかも、三島屋の黒白の間を訪れる客たちも、後悔という感情に押しつぶされ、自分を責めることでようやく生きているようにみえる。

    その物語も、不思議な出来事が語られている。
    原因があって結果がある。
    それだけではない何か・・・一筋縄ではいかないものが、物語の中に潜んでいる。
    面白いけれど不気味な、怖いけれどどこかあたたかい。
    そんな不思議な物語だった。

  • 三島屋シリーズの第一弾。
    黒白の間という部屋で聞き手のおちかが客人の話し手から怪談話を聞くと言った内容でした。
    怪談話と言っても実際に話し手が経験した話で、ホラー的な怖さはないですが人間の醜さというか弱さというか違う意味では怖いと思いました。
    最後の方はファンタジーのような展開になっていき、別々の話が合わさっていくんですが、ちょっと強引に感じてしまいました。

  • 百物語なりに身の毛もよだつおそろしさはあるものの、そのおそろしさをも上回る哀しみ、切なさに圧倒されました。
    最後は冒険ファンタジーみたいで、物語はまだまだこれからだよと言われているような終わり方に、身震いと、これからの物語への期待が高まりました。

  • 久しぶりの宮部さん。さすが!世界に引き込むのがお上手。百物語、私も全部聞いたら何か起こるの!?って考えてしまったりして。怖くなったら99話でやめておこう。何も考えずにシリーズものに色々手を出してしまっており、若干迷子ですが、事続、また夏の季節に読みたいな。

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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