天地明察(下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041002926

作品紹介・あらすじ

改暦の総大将として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が幕開く。渋川春海の二十年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!

文庫版「天地明察」の下巻です。

感想・レビュー・書評

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  • 今年の初日の出を皆さん拝んだでしょうか?太平洋地域はなんとか拝むことができたようです。ところで、どうして拝むのでしょうか?

    別にイスラムのように、毎日数度神さんに向かってお祈りする人はいないのですが、時々日本人の頭ん中に具体的に太陽神が浮かぶようです。日本人でここまでみんなして具体的な神様を拝むのは、太陽神(天照大神)ぐらいなものかもしれません。暦が初日の出時刻を教えてくれるとすれば、やはり「権威」を持ちますよね。

    ところで、北海道から沖縄まで、日の出時刻は30分近い誤差があります。尚且つ、(本書で初めて気がついたのであるが)「秋分から春分までおよそ179日弱なのに、春分から秋分までは、およそ186日余である」のだそう。これは単に緯度経度だけからはわからない。地球が太陽の周りを円で回っていると考えると、決してそうはならない。

    渋川春海は「算術」を駆使して導き出す。「地球は楕円に回っている」。おお凄い!もはや理系オンチの私には未知の世界です(この辺り映画では省略されました)。

    下巻は理系でつかんだ暦の「理(ことわり)」を、権謀術数に優れる京都公方の人たちに如何に認めさせたか「社会への術」が、クライマックスになります。そこで、一回は敗れた「囲碁侍」の春海の面目躍如たる活躍があります。

    (上手いな)
    春海はそれこそ率直に感心した。相手の布石を切ることは碁の基本である。(第六章「天地明察」より)

    路上での公開討論、世論形成、土御門家への朱印状、関白の確約、販売網の掌握。一旦負けたと見せかけての怒涛の布石返し。まるで藤井五冠が渡辺棋王へ奇跡的な「王手返し」したようなものである(と、正月番組を見ながら思いました)。

    この辺りは、映画では省略された。映像的に難しいから。小説家冲方丁の勝利である。そうやって、渋川春海の日本独特の暦つくりは完成する。

    新分野を描くという試みは、やはり成功すれば強いですね。今迄誰も描かなかった算術と天文分野の出来事を、生き生きと明るく描いたということで、納得の本屋大賞でした。

  • 北極星の位置から各地の緯度を測定した渋川春海。春海の人柄なのか、重要人物が春海を助ける。水戸光圀、加賀藩主、関孝和、保科、酒井、そして、えん。全員が日本独自の大和暦への改暦に向け動く。確実だと思われた計算が外れ、途方に暮れたが、関孝和から「この盗人が!」と一喝され目を覚ます。外れた原因は、月の動きは円軌道ではなく、楕円軌道だったことだった。天地明察、春海の人生を賭けた改暦、彼の周りのサポートにより「士気凛然、勇気百倍」となる。春海と後妻・えんが果たした使命は羨ましく、自分への戒めと思えてならない。

  • まずは著者である冲方丁さん。良い小説をありがとう。
    良い小説を読むと、とても気持ちが良い。
    そして言わせてくれ。
    何故、主人公にいつも「正体不明の干魚」を買わせるのか(笑)

    グッとくる時代小説。この感覚は久しぶりだ。
    読んでいて何度も、視界が曇った。喜びも、悲しみも、ゆっくりと噛み締めながら読んだ。
    志とは正にこのこと。脱帽である。

    自らの集大成でさえも斬り捨て、新たな集大成へ進む技術者たちを描く。

    絶望に沈み、支えられ、立ち上がる春海。
    何度も情熱の灯は消える。しかし、思い掛けないことに、また火が灯る。春海の情熱は、信頼できる支援者を惹きつけ、信頼できる支援者は、幾度となく春海の背中を押した。

    関孝和という人物の存在は、春海の中で何よりも大きかった。それが最後まで変わらなかったことが感慨深い。

    道半ばにして、一生を終えた者。
    最後まで、添い遂げた者。
    情熱を抱き、事を成した彼らに敬意を表す。

    また読もう。
    読了。

  • 途中何度も別の本に走ってしまい、長い時間をかけてようやく読み終えました。こういう時代ものは映像化された方がいいかもしれません。
    説明や言い回しが堅苦しくて、漢字も多すぎて読むのにすごく時間がかかりました。馬鹿みたいな感想ですが、本音です。また、前半はとても丁寧に時間をかけて物語が描かれていますが、後半は怒涛の展開です。ほとんどエピローグです。

    改暦。日本史として学ぶと「ふーん」という感想しかありませんでしたが、その事業がどれほど大きな影響を人々に与えるのかがこの作品でよく分かりました。
    機会があれば岡田准一主演の映画も観てみたいと思いました。

  • 本をそこそこ読んでいると、年に数冊ほど、ただ単に面白い、興奮した、感動した、という言葉だけでは書き表せない読後感になる物語に、出会うことがあります。

    便宜上、他の作品と同じように☆5をつけているけど、その中でも年に数冊出会うことができるかどうかの、☆5の中でも特に別格の作品。今年の二作品目はこの『天地明察』でした。

    上巻で日本各地で北極星の位置を観測する“北極出地”の旅を終え頭脳も、そして精神的にも大きな成長を遂げた春海に託された命。それはこれまで国の天理を司った暦を作り替える「改暦事業」だった。

    下巻の序盤で、改暦事業の責任者に春海を推挙してくれた人たちの名前を、江戸時代の土台を作るほどの実力者で、今回改暦の命を下した保科正之が、挙げていく場面があるのだけど、そこでもう涙腺にきそうになる。
    上巻での素晴らしい人たちとの出会いがあり、春海がここにたどり着いた。そう考えるだけで、感極まるものがありました。

    そして信頼できる仲間達と共に、新たな暦を創ることに邁進していく春海。これまでの暦を重んじる朝廷からの反対で、事業が凍結されてもその熱意は衰えません。

    そして碁打ちのライバルである道策のさらなる成長と、春海に対して燃やす対抗意識。改暦の命を下した保科政之が、改暦に込めた意味。北極出地の恩人、伊藤への贈り物。妻との死別。そしてえんとの再会。

    様々な出来事が春海の周りで起こり語られます。そうした場面の一つ一つが、春海の人生に意味を持たせ、物語を彩り、テーマを際立たせ、物語を盛り上げて行きます。

    そして遂に高まった改暦への機運。春海たちは万全の準備をし、朝廷と幕府に改暦の請願を出しますが……

    最終章の第六章で遂にここまで名前しかでていなかったものの、春海に最も大きな影響を与えたと言っても過言ではない算術家の関孝和が登場。

    春海と関の初対面の場面はいきなり荒れに荒れて、どうなることかと思いながら読み進めたのですが、ここでまた涙腺にくる場面がやってくる。そして改めて、春海が挑むものの大きさと、春海に夢を託した人たちの想いが思い返されます。

    挫折を乗り越え、歩み始めた春海の元に再び訪れた改暦のチャンス。春海はこの機会をものにすべく、これまでの調査や研究結果をまとめ、そしてさらに万全の策を練ります。
    しかし改暦をもくろむ勢力は春海たち以外にも存在し、そして遂に朝廷が新しい暦を選ぶ瞬間がやって来て、春海の生涯を賭けた「天」との勝負に遂に決着の瞬間が訪れる。

    歴史小説は史実に基づいたものなので、どうしても展開に制約があると思うのだけど、それを最後の最後まで気の抜けない展開に持って行った、冲方丁さんの構成力にただただ脱帽。

    そして春海の人物描写と内面の変化の描き方も、素晴らしいの一言に尽きます。

    上巻で自らの境遇や碁打ちという役目に辟易し、本当の勝負がしたいと、表面的な穏やかさや物腰、言動からはうかがい知れない乾きを抱えていた春海。
    そんな彼が算術、北極出地、そして改暦と自分の生きがいと託されたものを見出し、人生を賭けた勝負に一心不乱に向き合う様。

    瑞々しく爽やかな描写に加え、春海自身の熱意とワクワク感が読んでいるこちらにも伝わってくるようで、ページをめくる手が途中から止まらなくなる。

    そして、春海の脇を支える登場人物たちの存在も大きかった。作中で描かれる全ての出会いに意味があるのは、小説だから当然といえば当然なのだけど、その出会いの意味がどれもこれも、大きくて。

    だからこそ物語がより生き生きしてくるし、脇役達にも魅力を感じる。そしてそんな魅力的な登場人物達が春海に夢と想いを託すからこそ、春海をさらに応援したくなるのです。

    ただただ本当に素晴らしい小説でした! 

    第31回吉川英治文学新人賞
    第7回本屋大賞1位

  • 天地明察の上巻は、春海の成長ストーリーの様相を呈した。下巻はどちらかと言えば、暦の制定プロジェクトがメインになってくる。

    暦の制定プロジェクトはその実、会津藩の思惑だった。藩主の正之は民生を重んじる。そんな彼が綿密に進めてきたのが、この暦の制定プロジェクトだった。

    しかしそれは、古来より天皇の仕事であった星見を幕府が行うということ。「時」と「方位」を奪うこととなる。

    たかが暦、されど暦。暦を制定するということは、宗教、政治、文化、経済を統べるということ。

    ここに来て読者は、このプロジェクトがいかに大きな意味を持つか理解する。

    幕府と朝廷という2つの勢力の狭間で、春海は1個人としてプロジェクトを推し進めていくことになる。なるほど、上巻の伏線が回収される想い。

    だけど朝廷を首肯させることは容易ではない。ああ、こういう保守的な勢力に立ち向かっていくストーリー…。ベタだけどちょっと燃えるね。

    それから、「えん」や「関」が再び登場。春海の強力な助太刀となり、プロジェクトは大きく前進していく。一方で、人の死は少なくない。当時の平均寿命を考えれば当たり前なのだけど。江戸時代の人々は、現代の人々よりもずっと多くの死に触れていたはず。そのことが人生に及ぼす影響を考えたときに、改めて新鮮な想いがした

    総括として面白かった。江戸、暦、碁打ち、当時の学問…自分の知らないことをふんだんに盛り込んだ1作。面白く読んだ。けれど1歩物足りない感じ。良作ではあるんだけど、傑作まで至らなかった感じ。事前の期待が高すぎたのかもしれないけど。

    (書評ブログの方も宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E6%9A%A6%E7%A2%81%E6%89%93%E3%81%A1%E7%AE%97%E8%A1%93_%E5%A4%A9%E5%9C%B0%E6%98%8E%E5%AF%9F%E4%B8%8B_%E5%86%B2%E6%96%B9%E4%B8%81

  • のめり込んで読んだ!
    上巻同様読みやすく、また登場人物も優しく暖かな人ばかり。
    上巻は改暦への布石。
    下巻ではそれを下地にして壁にぶつかりながらも辛抱強く頑張る春海の強さが胸にくる。

    暦とはこんなにも難解で大事なものだったのかとしみじみ思った。
    今まで当たり前に教えられていた常識も、当時の人達が心血注いで作り上げてきた術理の結晶なんだなぁ。
    数字だけで地球が丸いことや星々の周期軌道が分かるなんて…

    みんな最後の最後まですてきな生き様だった。

  • 渋川春海は800年続いた日本の暦を改暦した人物。私は存じ上げてませんでしたが、この時代でこの事業を挫折しながらやり遂げたのだから、シンプルに偉業だと思う。コトバンクでは恣意的な説明になっているのが残念。現在のグレゴリオ暦まで何回か改暦があったようだ。先人の功績が積み重なり今があるのだから讃えようではないか。小説としては先妻の「こと」との絡みがもっと欲しかったかな。

  • H29.3.31 読了。
    映画も観てみたい。

  • 上巻との困難度合いの違いが、対峙する物の大きさを物語っているようです。
    天地明察、重い言葉ですね。

    とてつもない偉業です。
    いくら称えても足りない位です。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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