天地明察(上) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003183

作品紹介・あらすじ

四代将軍家綱の治世、ある事業が立ちあがる。それは日本独自の暦を作ること。当時使われていた暦は正確さを失いずれが生じ始めていた--。日本文化を変えた大計画を個の成長物語として瑞々しく重厚に描く時代小説

第7回本屋大賞受賞作、待望の文庫化!
監督:滝田洋二郎、主演:岡田准一で映画化も決定!2012年9月公開

感想・レビュー・書評

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  • つまるところ暦とは、絶対的な必需品であると同時に、それ以上のものとして、毎年決まった季節に、人々の間に広まる「何か」なのであろう。
     それはまず単純にいって娯楽だった。(略)さらにそれは教養でもあった。信仰の結晶でもあった。吉凶の列挙であり、様々な日取りの選択基準だった。それは万人の生活を写す鏡であり、尺度であり、天体の運行という巨大な事象がもたらしてくれる、「昨日が今日へ、今日が明日へ、ずっと続いてゆく」という、人間にとってはなくてはならない確信の賜物だった。そしてそれゆえに、頒暦は発行する者にとっての権威だった。(第三章「北極出地」より)

    ‥‥という難しい学問を説明した小説ではありません。
    冒頭は、神社の絵馬に現れたる「算額奉納」(公開算数問題)を軽々と明察(正解)とした御仁は誰かというお話。面白い。なかなか良い掴みでした。

    安井算哲。あ、いや渋川春海はお抱え囲碁打ちの世界に飽きがきていた。そういう時、彼の周りには様々な「才能」が集まってゆく。どうやらそれは一つの大プロジェクトの序章のようだ。そのプロジェクトとは暦作りである。でも、それは下巻で展開されるみたい。

    渋川春海、関孝和、山崎闇斎、水戸光圀、保科正之などの歴史教科書上の人物が生き生きと動き、語っているのを見るのは楽しい。「カムイ伝」では憎々しい敵役だった大老・酒井雅楽頭忠清でさえも、好人物のように描かれる。それは作者・冲方丁の性格なのかもしれない。春海は当然好人物である。

    時は寛文年間、17世紀後半である。コペルニクス前夜(15世紀)のように、地動説(科学的真実)のために多くの血が流れた(cf.マンガ「チ。ー地球の運動についてー」)のは、今は昔になりつつある、らしい。それでも、おそらく後進国・日本ではそれなりの「知」への戦いが展開された筈だ。

    本屋大賞コンプリートプロジェクトの一環。10年前の映画「天地明察」は映画館で観た。推し女優の宮崎あおい(後に春海の妻になる役)が可愛かったなぁ。あおいちゃんが岡田准一を見る目が、なんか真剣だったんで、嫌な予感がしたんだよね。‥‥それはともかく、本文冒頭で引用したように暦作りは「権威」なわけだから、
    何事も
    科学VS宗教
    新興VS権威
    革新VS保守
    の対立はあるわけで、飄々とした青年春海が宗教、権威、保守と戦います。

    因みに、
    あくまで「娯楽」として捉えて欲しいのですが、
    暦で2023年を占えばwebでは、

    2023年は大きな変革が起こる年
    “改革の星”水瓶座と、“破壊と再構築の星”五黄土星の影響が増す

    と何処かに書いていました(^^;)。
    今年も宜しくお願いします。



  • 人は情熱を注ぐ対象があることで、幸せを感じ、挫折を味わい、感動するのだろう。

    良い小説。描写の細やかさが、私の好みにぴったり。
    主人公の若さゆえ、どこか青臭さを感じさせる部分も、すごく上手に表現されている。馴染みの無い言葉も出てくるが、漢字から意味を汲み取って読んでおけば特に差し支えない。

    江戸時代。碁打ちの名家に生まれた春海。
    お偉方の相手をし、碁を教え、どこか退屈な日々を送っている。
    奇しくも碁への精通が、彼を思いもよらぬ、出会いや機会へといざなってゆく。
    自分の生き方への疑問を抱いた春海。
    そして敷かれたレールから外れ、自らの情熱に従い、算術いわゆる数学に傾倒して行く。
    関孝和という男の影が、春海を生涯、算術の坩堝へと、引き摺り込む。

    江戸時代に行われた星の測量事業に参加したこときっかけに、優秀で老齢な技術者の野心に触れた春海。
    意思を受け継ぎ、いつか日本の暦の改革を誓う。

    活力溢れる若き青年が、偉大な功績を残すであろう物語や如何に。ワクワク。

    上巻読了。下巻へ。

  • 江戸時代、神社の絵馬に出題者が作成した算術問題に対して、興味ある者がそれを解き、正解だったら「ご明察(はっきりと真相や事態を見抜く)」と出題者が記載。このような古き良き日本の姿が誇らしく思う。江戸城内でお偉方に囲碁を教える主人公・渋川春海。あまりにも平凡でつまらない日々に飽き、算術問題に熱中する。さらに、お偉方から日本中を訪れ、北極星の位置を基に、日本独自の暦(こよみ)を作る壮大なプロジェクトを拝命する。同道する老人2人の熱い想いに触れ、新知見を得たいという欲求を追い求める姿に感銘した。下巻も楽しみ。

  • 冲方丁を読むのは「十二人の死にたい子どもたち」に続き、これで二冊目。

    天地明察については、名前を知っていた程度。なんとなく、タイトルとあらすじから難解な印象を持っていた。

    実際には、やはり角川文庫だけあって読みやすい。全年齢向けと言った印象。語り口はポップで、感情移入も容易い。キャラクターも分かりやすいものが多い。少年マンガ誌で漫画化されてもおかしくない感じ。

    上巻では、江戸城の碁打ちである主人公が、算術士として北極星の測量の旅に出るところまでを描く。

    個人的には、日本史に明るくないので、江戸の社会感というか雰囲気を改めて学べた想い。家柄や職業が今よりも固定化されていた時代。江戸城でどうやって生き残っていくか、という観点には池井戸潤のような、会社小説・立身出世小説のテイストを感じた。

    それから、碁打ちであり算術士である主人公の、好きなものに没入する感じも良い。三浦しをんの「舟を編む」のような、独特の世界にのめり込んでいく様が読んでいて気分がいい。囲碁と算術に関して、その道のライバルや大先輩が登場するのも良い。才能や好奇心を扱う小説は、やはり自分の好みのジャンルだと再確認。

    SF小説好きとしては、暦がズレていることによって「今日があさってになっている」という現象に、SF的要素を感じてしまった。暦が正確であることが当たり前の現代だからこそ、それがズレているという可能性は新鮮に読めた。

    文量は多くなく非常に読みやすいので、1日もあれば読めてしまうと思う。娯楽小説としては、文句ない仕上がり。

    大きな思惑に巻き込まれた主人公がどうなっていくのか。暦改変プロジェクトがどうなっていくのか。下巻を読むのが楽しみ。

    (より詳細な感想などは、書評ブログの方を宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E3%81%AE%E7%AE%97%E8%A1%93%E5%A3%AB%E3%82%92%E6%8F%8F%E3%81%8F_%E5%A4%A9%E5%9C%B0%E6%98%8E%E5%AF%9F%E4%B8%8A_%E5%86%B2%E6%96%B9%E4%B8%81

  • 上巻を読み終えた段階で「これは良い小説だなあ」と感じ入る小説でした。それだけ登場人物たちの魅力が溢れ返っている。

    碁打ちの名門の家に生まれ、上覧碁という過去の棋譜を暗記したものを将軍の前で披露し、それを将軍に解説する、そんな御城碁を打つことを勤めとする渋川春海。

    そうした決まり切った碁を打つことに退屈を覚えていた春海が熱中するのは、算術と暦術。
    春海はある日、江戸には算額という算術の問題が記された絵馬が多数奉納されている神社があることを知り、早速見に行くのだがそこで衝撃的な出会いをする。

    鳥居に刀をぶつけたり、絵馬の下に刀を忘れてきたりと、ドジというか、算術のことになると周りがみえなくなる春海。そんな春海の性格や物腰、言葉遣いはどこかユーモラスで穏やか。
    そのため親しみやすいキャラクターなのですが、彼の内に秘めたる葛藤が明らかになるにつれ、その葛藤の熾烈さにまた驚きます。

    退屈な城での勤め、義兄や名門の家との関係性。渋川春海というのも本名ではなく、春海自身が勝手に名乗っているのですが、そこに秘めた思い。そして算術や暦術に熱中する理由も、そんな退屈さや窮屈さから逃れたいため。

    穏やかでユーモラスなのに、満たされない忸怩たる思いを抱えている。そのギャップが春海をより魅力的に映し、読者を引き込みます。

    算額を見に訪れた神社で、衝撃を受けた春海は幻の算術の名人を求め、江戸を歩き回り遂に一つの塾へたどり着く。そこにいたのは、神社でも出会った、ハキハキした性格と言葉遣いの娘のえんと、塾の師範である村瀬。

    えんの性格やはっきりと物事を言う性分であったり、村瀬の気さくに、そして真摯に春海と向き合ってくれる感じであったりと、脇を彩る登場人物たちもそれぞれに魅力が光る。
    そして村瀬は春海にある算術書を貸し出し、春海はそこでもまた衝撃を受けて……

    春海に絵馬のことを教えた安藤は、渋川と名乗る春海の思いをおもんばかり、律儀と筋を通しつつ、共に算術を楽しみ、上巻中盤では春海に重大なことを気づかせてくれる。そして春海と同じく御城碁を打つ道作は、若い才能を持て余し上覧碁に退屈を覚え、春海をライバル視し、真剣勝負の場を望む。その青さと熱さ、そして春海との対比もまた読ませる。

    春海の元に訪れた転機。日本各地で北極星の位置を観測する“北極出地”の命が春海に下されます。旅立ちの直前春海は大きな挫折を抱え、この北極出地の旅に出るのですが、そこで、共に旅する二人の老人、建部と伊藤がこれまた魅力的。

    二人とももはや隠居してもおかしくない年でありながら、全国をめぐり星を観測し、そして見果てぬ夢を、どれだけ手を伸ばしても届かないように思える天と星へ挑み続ける。

    その飽くなき探究心や、好奇心も読んでいて清々しく、この旅と、二人との出会いも春海に大きな影響を与えます。そして春海が二人と結んだ約束。上巻の一つのピークともいうべき感動的な場面です。

    まだ上巻ながら、印象的な登場人物、そして場面が数多くあり、下巻が楽しみなのはもちろんなのだけれど、読み終えるのが既に勿体なくも感じ始めています。

    第31回吉川英治文学新人賞
    第7回本屋大賞1位

  • 登場人物全員が素敵な人たち!
    主人公の春海を筆頭に、真っ直ぐに生きる人達がキラキラして眩しいくらい。
    好きなことに没頭する春海たちが爽やかで優しい気持ちにさせてくれる。
    上巻は改暦の前段階のお話だけど、春海の想いが強く印象づけられた。
    下巻ではいよいよ改暦の事業を拝命されるのかと思うと、続きが楽しみでしょうがない!

  • 若かりし春海の真っ直ぐなところや、それを見守る建部と伊藤の大きさが読んでいて心地よかったです。下巻も楽しみです。

  • 誰からも愛される性分の春海なので、とても応援したくなります。理系男子とでもいいましょうか、春海と安藤の2人が算術についてキラキラと嬉しそうに話している姿は好感が持てました。
    観測隊の建部、伊藤両名にあっても若い春海にさまざまな良い影響を与えてくれる大人たちでした。建部とは永遠の別れになってしまいましたが、きっと腕に天を抱きながらこれから天と壮絶な勝負が始まるであろう春海を見守っていることでしょう。
    えんも春海のもとから去ってしまったのが心残りになってしまいました。再度挑んだ関孝和への設問は命が宿っているようでした。
    ここまで読んで清々しい気持ちになりました。下巻も楽しみです。

  • 記録用

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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