ふたりの距離の概算 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003251

作品紹介・あらすじ

奉太郎たちの古典部に新入生・大日向が仮入部する。だが彼女は本入部直前、辞めると告げる。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は走りながら心変わりの真相を推理する! 〈古典部〉シリーズ第5弾。

感想・レビュー・書評

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  • 古典部シリーズ第5作。折木たちが2年生になって、古典部に大日向友子が仮入部してくるのだが、突然入部できないと部室を飛び出していってしまう。折木は、マラソン大会で走っている間に、4月からの数か月を振り返ってみて、何故そういうことになったのかを考えてみる。相手の性格まで踏み込んでしまう、折木の観察力と洞察力は凄いけど、ある意味怖いというか、折木にとっても結構やっかいなものなのかもしれないなあと思う。ただ、人にどう思われようとあんまり気にならない性格は羨ましい。大日向友子さん、思い込みが強すぎる。今回は入部しなかったけど、いつか入部できるといいと思う。が、難しいだろうなあ。

  •  いやはや何ともデリケートな物語だなと感じて、それはこのシリーズの一つの醍醐味でもあるのだが、ここまで他人の事を思う高校生って、大人でも中々いないというか、寧ろそこを狙って大人が読んでも何か思うところを残す意図もあるのかもしれないと思わせながら、やはり現役の高校生に考えて欲しいものも感じさせる、そんな米澤穂信さんのメッセージは、何よりも安易な結末にしていない点によく表れているのだと思う。


     古典部シリーズ第五弾は、二年生に上がった折木奉太郎(ホータロー)、千反田える、福部里志、伊原摩耶花、四人だけのメンバーだった古典部についに仮入部した、一年生の「大日向友子」が本入部直前になって突然辞退した理由を、五月末の入部締切日に開催される星ヶ谷杯(20キロのマラソン大会)で推理するといった、時間制限付き謎解きの面白さがありながら、そこで推理するホータローにとって、どうしても彼女に入部してほしいことよりも彼女の内に秘めた思いを何とかしたい、その気持ちが先に立っていることに私は心を打たれながら改めて感じたことは、ホータローって周りが言うほど、そんなに悪い奴ではないのではということであった。

     その最初のきっかけは摩耶花のひと言、『あんた、人を見ないもんね』だったが、そんなこと言われたら怒る人もいると思われる中で(まして多感な高校生だったら、尚更)、割とホータローは素直に受け入れながら冷静に自分を分析し、そんな姿勢はマラソン大会中にすれ違った元クラスメイトから記憶に無い罵声を浴びせられても、そんなこともあるのかもしれないと様々な可能性に思いを巡らせてと、それは元々面倒なことには関わらない省エネ主義の彼ならではの考え方なのかもしれないが、一作目の『氷菓』から順番に読んできた私からしたら、そうした主義が間違いなく変わりつつあると感じられて、しかもそれが先程の摩耶花の言葉も含めた、周りの人達から影響されたものであることに、改めて人は人と関わることで良い方向に変わることもあるのだという、そんな素晴らしさを実感させてくれるのである。

    『目の前の人間をまともに見てこなかったツケを、走りながら考えることで取り返そうとする。間の抜けたことだ』

     洋題の「It walks by past」が表しているように、大日向はどんな考え方や感じ方をする人なのかということを、数少ない貴重な過去のエピソードを事細かく思い返すことで知ろうとするホータローを見ていると、その人のことを知るための努力って、することができるんだなということを改めて教えてくれて、それは終盤に於ける『そうしようと思う意志があるかどうか』の問題なのだということに集約しており、それを現在進行形のマラソン大会の中で過去に寄り添って歩きながら、その先の未来に待つゴールに思いを馳せるといった、物語としてのまとまりの良さにも繋がっている一方で、この年代特有の友達についてのリアルな視点も感じられた。

     それは章タイトルの、『友達は祝われなきゃいけない』や『離した方が楽』からも感じられるものがあった、「友達って何なのだろう?」ということなのだと思い、例えば、友達だから何を言っても何をしてもいいのかということや、友達であるが故に特別な気持ちに駆られることが、時にその本人自身に思わぬ影響を与えたりといった、そうしたことについて大日向は、ホータローと里志であったり、ホータローと千反田であったりと、それぞれの友情と照らし合わせながら、いったい何を考えていたのだろうと思うと、何とも切なくさせるものがあって、そこにきて初めて『仲のいいひと見てるのが一番幸せ』という言葉が、彼女にとっては決して軽いものでは無かったのだということを思い知るのである。

     そして、タイトルの『ふたりの距離の概算』にはホータロー自身が教えてくれた、『つまり「お前はこういうやつだ」と言い続ける』ことで、『俺は偉いのかと疑問が湧いて足が止まってしまう』といった、相手の中にある『個』を認める敬意の姿勢がそのまま心の距離感に繋がるような、それはたとえ一度誤ってしまったのだとしても取り戻せるかもしれない、そんな素敵な可能性を感じられて、それは物語の中に巧みに含ませた数々の伏線が殺人ミステリの真相とは違い、その人が本当はどのような人なのかという過程を知っていく繊細なものであるが故に、初読では実感しづらくとも再読することでより強く感じられた、そこにはまるで米澤さんがホータローの行動に託したような、人を知るということはそんなに生易しいものではないというメッセージが含まれていたのではないかと、私には思われたのである。

    • たださん
      akikobbさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます(^^)

      私も、少し前にakikobbさんが本棚登録したのを見て、す...
      akikobbさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます(^^)

      私も、少し前にakikobbさんが本棚登録したのを見て、すごい偶然だなと感じておりました。先に投稿されたらレビュー読めないから、どうしようなんて思ったりして(笑)

      本書で初登場した大日向友子について、最初はちょっと発想が飛躍しすぎてるのかもと感じましたが、それが再読してみたら見事に何気ない伏線としての言葉や物腰に、その気持ちが密やかに表れていて、これは真相を知ったからこそ実感できるのだなと思うと、改めて米澤さんの構成力の凄さを思い知りましたし、人に対するここまでの謙虚な姿勢には感服させられました。

      また、ホータローについて、千反田の影響を受けていることは間違いないですよね。
      彼女も彼も同じ心境であのことを伏せていたことに、春休み以降のささやかな進展を見られたことも印象深く、こうしたところも米澤さんって、なんて繊細なんだろうと思ってしまいまして、それは大日向の友達への思いも同様ですよね。

      アニメ観ているのですね。
      画像検索で見た時に、私の思っていたイメージとは多少違いましたが(特に千反田は)、これって、ほぼ小説まんまのストーリーなんですかね? 何が凄いって、割と蔑ろにされがちな地味だと思われる部分の大切さを唱えた作品をアニメ化したことだと思いまして、その中でアニメならではの美化した良さを感じられるのも、夢があっていいですよね。
      2024/10/05
    • akikobbさん
      お返事ありがとうございます。

      さすがに読んだばかりだと、「あのこと、って何だろう…思い出さなきゃ」と悩まずに感想交換できますね(笑)私も、...
      お返事ありがとうございます。

      さすがに読んだばかりだと、「あのこと、って何だろう…思い出さなきゃ」と悩まずに感想交換できますね(笑)私も、二人して秘密にしちゃって、もう、とニヤニヤしちゃいました。

      『遠まわりする雛』までの話を時系列順に並べたり、年代を放送当時に変えたりといった変更はありますが、内容はだいたい原作通りです。ちょっとホータロー→千反田の恋愛っぽさを出しすぎではとか、ただ女の子が可愛いだけのエンディングの映像も、まあ商売だから仕方ないけどでも違うだろと思ったり、(ドラマ化されたらみんな美男美女というのに似た)美化も感じますが、でもそんなネガティブ感想を上回って、原作小説の微妙で繊細な感じをアニメならではの様式で表現している!と嬉しくなりました。
      2024/10/05
    • たださん
      分かります。あるあるですよね。
      私も忘れっぽいので(^_^;)
      あの場面は、もし誰かにバレたらどうなるの? と、初読の時はドキドキしましたし...
      分かります。あるあるですよね。
      私も忘れっぽいので(^_^;)
      あの場面は、もし誰かにバレたらどうなるの? と、初読の時はドキドキしましたし、お姉さんの招き猫のセンスも面白かったです。

      それから、アニメで『遠まわりする雛』の短編を時系列に並べて観られるの、いいですね。その方が四人の感情や距離感の変化が自然と感じられますし、今はアニメを観たいところまでは行きませんが、いつか観てみたいと思いました(^^)
      2024/10/05
  • 二年生になった奉太郎たち〈古典部〉の4人。
    摩耶花は兼部していた漫画研究会を退部。
    そして、仮入部していた一年の大日向友子が入部しないと言ってきた。
    5月の末の「マラソン大会」の日、奉太郎は走りながら考え、過去を思い出し、事の真相を突き止めようとする。

    前作で舞台となった「文化祭」と同様に、「マラソン大会」も高校生らしいイベントだけれど、奉太郎が走りながら推理するという物語の構成が、斬新で面白かった。

    走るという単純作業の様子に加えて、「マラソン大会」の数か月前、奉太郎の誕生日に、大日向を含めた古典部の4人が奉太郎の家を訪ねてきたり、大日向の親戚が新しく開いた喫茶店に、モニター客として呼ばれたり、そこからの発展する奉太郎の推理が実にみごとだった。

    大日向が退部したのは自分のせいだと思っている千反田のことを、奉太郎がどことなくかばって真相を突き止めているという空気が伝わってくるし、省エネ主義と言いつつ、奉太郎を中心に古典部の4人の絆が深まっているような感じがして、いいなぁ、青春だなぁと思ってしまう。

    真相がわかったところで、人の気持ちにどこまで踏み込んでよいものか、このシリーズを読むと、やはりせつなくほろ苦さが残ってしまうけれど、甘さで終わらせないところがまたいいのかもしれない。

  • だんだん好きになっていくシリーズ。
    あの省エネ少年、奉太郎がこんなにも走り回って推理するなんて。ま、マラソン大会に参加しながらなので、走るのは当然なんですけどね。でも、最初の頃の奉太郎より今の方が断然好きです。
    今回は問題が学校の外に出ました。まだまだ高校生の彼には何とも出来ないようです。でも、それは見捨てるのとは違うよって言いたいです。それに全てさらけ出すだけが、解決というわけでも誰かの為になるわけでもないなと。もどかしいし、自分の限界を感じてしまいますね。えるにしても、自分の生まれた環境はどうすることも出来ないものだし、そのことによって誰かを傷つけたり恐れさせたりしてるなんて、理不尽なことだと思います。人との距離のとりかたは難しいです。近すぎても息苦しいし、離れすぎればわからくなってしまうし、それこそお互いに見捨てた、見捨てられたと感じてしまうかもしれません。
    奉太郎が今回の真相にこんなにまでも真剣に取り組んだのは、えるのことをちゃんと理解しはじめたからでしょうね。あいつが他人を傷つけるはずはないと、彼と彼女の距離は少しずつ縮まっているようですね。そうそう、えるが奉太郎の家に行ったこと、他のメンバーにお互いが何となく言いづらかったことかその証拠じゃないかしら。距離が近づくほど、2人だけのヒミツって出来るもんじゃない?うふふ。。。

  • 古典部シリーズ第5弾。
    タイトルのふたりの距離って、恋の進展かな?と期待してたら見事にスルーで、マラソンになぞらえた新キャラ後輩との距離でした。
    このシリーズも5作目ということもあり、古典部員間のお互いをわかりあえてる様子が微笑ましい。
    友だちとかとささいなことですれ違ってしまった時に奉太郎のように絡み合った誤解をやさしくほどいてくれる人がそばにいたらいいのになとうらやましく読んだ。

  • 友達との関係で、相手の間違っていることを自分が正さなければいけないけどそれがなかなか勇気がいることってあるよなあ。自分の学生時代では確かに友人との関係に悩むことが1番多かったような気がする。
    大人になると今回の話の結末が予想もできなかったように、見えなくなるものも多い。
    なんだか切ない気持ちと応援したい気持ちになる青春物語。ホータローの推理力…あっぱれ!

  • 古典部シリーズ第5弾。

    とてもとても平和なミステリー。
    でもそれが読んでいて良い意味で
    楽だなぁと感じます。

    ミステリーなのに、何も考えずに読める!笑

    第6弾も楽しみです。

  • 古典部シリーズ再び。
    長距離走という苦行のさなか、奉太郎は推理する。
    勧誘らしい勧誘もしていないのに仮入部し、上級生にも馴染んでいたように見えた一年生はなぜ、急に本入部をとりやめたのか。

    千反田えると彼女の間に何が起きたのか…

    んもう、そんなの…

    新歓で折木奉太郎先輩に一目惚れ♥→仮入部→高校生活、恋に燃えちゃうゾ♥→あれ、千反田先輩と奉太郎先輩ってもしかして?→思いきって千反田先輩に訊いてみた→「はい」→そっ、そんな…礼儀正しくて顔が広くてお料理だってパパッとできて、野菜や山菜の下処理まで詳しい千反田先輩相手じゃ勝ち目ないよ…→悲しいけど入部取りやめます!くすんくすん…

    これで決まりでしょう!と思ったんだけど、米澤さんがそんなベタ甘展開を許す訳ないのでした…

    今回も奉太郎の姉から目が離せない。目からレーザーを撃てる招き猫…私、気になります!

  •  春。古典部の面々、二年生になっており、なんと一丁前に新入生勧誘なんぞしております。部室に行って、本を読んで、お菓子を食べて、年に一度文集を作る部活。交わされる会話の端々から、文学作品への造詣の深さも窺われる。最高ですね。ただの仲良し四人組だったら仲間に入れてもらうのは難しいけど、新入生なら堂々とここに入っていけるどころか、歓迎されるわけです。いいなあ。
     そんな素敵な古典部に仮入部してくれたただ一人の一年生の大日向さん。ふた月弱を共に過ごした後、「入部しない」と申告してきたのは五月のマラソン大会の前日だった。千反田えるは、彼女が入部をやめた原因は自分にあると、どうも思っているらしい。これに気づいた奉太郎は、考えないわけにはいかない、大日向が入部をやめた本当の理由を。二十キロメートルは、ただ走るには長すぎる。
     ということでこれは、二十キロを走っている間に奉太郎がひとり考えたり思い出したり、そして時折誰かと話したりするだけという、ワンシチュエーション構成の小説になっている。あとがきによるとスティーヴン・キング『死のロングウォーク』とやらが意識されているようだが、なんだかとても怖そうなので今のところ私は読むつもりはない。
     奉太郎がこの謎を解きたがる動機や、マラソン中に考える「ふたりの距離の概算」、計算ずくで千反田を待っていたはずなのに、いつの間にか追いかける羽目になって、距離の詰め方にも戸惑う様など、甘酸っぱさと理屈っぽさと小説としての辻褄合わせとのバランスが絶妙過ぎて、ため息が出るほどだった。一方、笑わせるシーンではきちんと笑わせてくれる軽妙さ、これはなんだかパワーアップしているように感じた(楽しい)。ちょっと前作から間を開けて読んだからそう感じたのかな?
     大日向さんの抱えていた物語も、なかなかビターで胸に迫るものがあった。これを抱えながら、あんな会話をしたら、そんなことにもなるだろう……。
     友達って。仲が良いって。いろんな意味で、十代の頃を思い出してしみじみする読書だった。

    • たださん
      akikobbさん、こちらにもお邪魔します。

      キングの「死のロングウォーク」、確かに怖そうだと思ったのですが、ネットであらすじを見てみると...
      akikobbさん、こちらにもお邪魔します。

      キングの「死のロングウォーク」、確かに怖そうだと思ったのですが、ネットであらすじを見てみると、ちょっと面白そう(?)で、この設定でどういった結末に持っていくのだろうといった疑問が湧いたのと、大多数の人間を巻き込んでいそうなので人間ドラマとしての要素もあるのではと感じ、気になりました。
      2024/10/05
    • akikobbさん
      「怖すぎて本棚に置けない」との米澤さんの言葉にびびってあらすじを調べもしませんでした^^; でも調べてみたら確かに興味をそそるところもありま...
      「怖すぎて本棚に置けない」との米澤さんの言葉にびびってあらすじを調べもしませんでした^^; でも調べてみたら確かに興味をそそるところもありますね…怖そうという印象も変わりませんが。
      なにか啓示を受けたら読むかもしれません。
      2024/10/05
  • 〈古典部〉シリーズ第5弾読破です。実は5冊目が最新作だと思っていたらもう6冊目がある事に気付き、慌ててAmazonでポチリました( ̄▽ ̄;)

    今作は短編集ではなく長編でした。
    だというのに、今作の中で1番驚いたことと言えばポロッと数行でてきただけの、「伊原さんと里志くんがいつの間にか遂に付き合っていた」という事実でした(笑)。

    今回奉太郎たち4人が2年に進学したあとの話ということで、新入生枠で新たに大日向さんが登場しました。個人的にその子結構好きだったので、古典部に結局入らなそうなのが少し残念です(´・ ・`)

    1番警戒すべきだったのは千反田さんではなく、折木奉太郎だったというのは激しく同感です。観察力と推理力は今回もあっぱれでした。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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