スローカーブを、もう一球 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 290
レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003275

作品紹介・あらすじ

たったの一球が、一瞬が、人生を変えてしまうことはあるのだろうか。一度だけ打ったホームラン、九回裏の封じ込め。「ゲーム」-なんと面白い言葉だろう。人生がゲームのようなものなのか、ゲームが人生の縮図なのか。駆け引きと疲労の中、ドラマは突然始まり、時間は濃密に急回転する。勝つ者がいれば、負ける者がいる。競技だけに邁進し、限界を超えようとするアスリートたちを活写した、不朽のスポーツ・ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • この本を手にしたのは、『「考える人」は本を読む』(河野通和)のなかで紹介されていたのが直接のきっかけだったけど、この本のなかに収めらている『江夏の21球』で話題になってテレビでも盛んにとりあげられていた大学生時代、読んでみたいと思いながら、そのまま忘れていた作品でもある。

    この本のカバーの裏にある山際淳司さんの写真をじっと見つめていると、かつてNHKのサンデースポーツのキャスターをしていた姿が思い出されてくる。この眼鏡の下の鋭い眼差しが、ゲストにきたスポーツ選手から微熱を帯びた秘話を引き出していたのを思い出す。そして、その眼差しが、スポーツをする特定の人物を徹底的に掘り下げて、描写してくれたものを収録したのがこの一冊。

    山際淳司の言葉は、スポーツを観る者の勝手な想像や、感傷で語られていない。それは、彼のその人物が身につけてきたすべてを見透してやろうという視線で、徹底的に取材した材料が勝手に語りかけてくるものを、拾い上げているような作業に感じられる。
    だから、今語られてるシーンを軸に、いくつもの回想シーンが重なってその人物をより立体的なものとして、よりリアルなものとして感じてもらおうとして、語られる。

    ドラマを観ているように読むことができる。

    この短編の集まりのなかで、個人的にわたしが一番気に入ったのは『ザ・シティー・ボクサー』。この中でのいくつかの言葉を引用しながら、山際淳司の眼差しを感じてもらいたい
    〜〜「いつものパンチとどこが違ったのか。スローモーション・フィルムを見るように思い返した。あのときはひらめきがあった。今、打てばいいと思うようより先に吸い込まれるようにパンチが炸裂した。インスピレーション。パンチを出した。手ごたえがあった。そして倒れた」〜〜

    スポーツをした経験を振り返ると誰にでもあるこの感覚。“脳の反応を身体の反応が追い越してしまう”瞬間、でも、それってこうやって言葉にされてみて始めてその存在を確認できる。こういった掬い取りは随所にある。だから、キャスターとして、ルポライターとして、選手は山際の言葉に誘われて、奥へ奥へ、深く自分との葛藤の記憶を語りはじめてしまうのだろう。

    〜〜「ものごとや世間が見えすぎてしまうことは、結局のところ、遠回りすることになってしまうのかもしれない。」〜〜
    これも、山際の特徴的なところで、瞬間的に人生を語る言葉を挟んでくる。

    〜〜「ぼくは何者かになろうと思っていた。サラリーマンをやっていると、それがだんだん見えなくなるんだ。子供が大きくなる。家庭ができてくる。あ、このままいったらヤバイな、と思ったり。何の刺激もない。面白くもない。」〜〜

    こうやって、男たちの誰もが時折紛れ込む迷路の風景を差し込む。

    〜〜自分は、格好をつけていないと生きてる気がしないんだなと納得した。いつもそうだった。あれはまだ小学校に通っていたときだろうか。新しくできた友達に、オレ、ボクシングやってんだというと、友達は目を輝かせた。その瞬間、友達の目が春日井にとっての鏡になった。鏡の中の自分は完璧でありたいと思った。人はいる、他者との関係のなかでしか、自分を支えられないときがあるし、たいていの人間はそんな風に生きている。

    四年間のブランクと同じようにして残りの20分を費やしてしまうのが、彼にしてみれば不愉快だった。〜〜

    ここはもう山際は主人公のボクサー春日井健の人生を一緒に歩んでいて見えている世界を描いている。

    この本のなかに、誰でもお気に入りのドラマはきっと見つけられる。

  • 山際淳司は、1948年神奈川県生まれのノンフィクション作家。
    1980年に、本作品集に収められた『江夏の21球』を、文藝春秋の『Sports Graphic Number』の創刊号に発表して注目され、以後、さまざまなスポーツをテーマにした作品などを発表。本作品集は、1981年に角川書店日本ノンフィクション賞を受賞した。
    その後、NHKの「サンデースポーツ」のメインキャスターなども務めたが、1995年に46歳で急逝。
    私は、ノンフィクションやエッセイが好きで、沢木耕太郎はじめ、多数のノンフィクション作家、エッセイストの作品を読んできたが、遅ればせながら手にしたこの作品集は、山際氏の比類ない、主題を見つける鋭い選球眼、それを安打にする高い技術力、そして、相手への徹底した取材という豊富な練習量の存在を改めて知らしめてくれる。
    デビュー作にして代表作の『江夏の21球』は、1979年の日本シリーズ・広島カープ対近鉄バッファローズ第7戦の9回裏という、プロ野球史でも有名なシーンを取り上げた作品であるが(尤も、この作品があったために、よりドラマ性を増して有名になったと言えるのかもしれないが)、その他の7作品は、必ずしも一般の人々の記憶に強く残っている選手、シーンを取り上げたものではない。それでも、それぞれのストーリーには間違いなく必然と偶然が絡み合った綾があり、結果としての成功と失敗があり、それはまさに人生を凝縮したものであることを、山際氏は淡々としたタッチでさりげなく描いているのだ。
    最後の作品『ポール・ヴォルター』はこうして結ばれている。
    「ふと思い出した台詞がある。ヘミングウェイが、ある短編小説のなかでこんな風にいっているのだ。「スポーツは公明正大に勝つことを教えてくれるし、またスポーツは威厳をもって負けることも教えてくれるのだ。要するに・・・」といって、彼は続けていう。「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」悪くはない台詞だ。」
    (2018年8月了)

  • スポーツに人生の一部をささげてしまった人たちを、ユーモアや皮肉も交えながら、冷静に綴っている短編集。夏の文庫フェアでよく紹介されていて、ずっと気になっていた本だ。わかりやすい輝かしい瞬間だけではない、彼らの人生がこれからも続いていくと思わせる構成が好きだった。

  • 登場人物が愛おしくてたまらない。スポーツ=スター選手はもちろん大事だし、期待しちゃうが、だって人間だもの。選手一人一人に人生があり、物語がある。著者の暖かい眼差しがいい。

  • 再読。
    なぜか、表題作、すごくよかった。正面から菖蒲できなくても搦め手から攻めて勝つことができる、という勇気を出しもらった。
    自分も、スローカーブを投げるような生き方をしたい。速いストレートを持っていないので。
    シティー・ボクサーもよかった。
    天才が一旦は挫折するもののまたリングへと戻ってくるという大枠が劇的だし。
    ポスター、音楽、ヘアスタイルにこだわるというのは、自分と少し似ている。
    ボクシングというスポーツの崇高さを感じた。

  • 甲子園球児の夏、江夏の21球、バッティングピッチャーの悲哀など スポーツ感動シーンのノンフィクション短編集。この本の命題は「スポーツは 勝つことも 負けることも 含めた人生を教えてくれる」

    特に バッティングピッチャーの悲哀を取り上げた「背番号94」の言葉に 心打たれた
    「(自分の)部屋は〜ひそかに練習をするトレーニングルーム〜そんなこと誰も教えてくれない」
    「シラけた人間から敗れていく」

    学生時代に経験した 緊張感、高揚感、挫折感、倦怠感など、いろいろな感情を思い出した。それらを経験して、今があるので、確かに スポーツは 人生を教えてくれるかもしれない

  • 20161029/

  • スポーツノンフィクションの傑作。どの短編もすっきりとした読後感。

    工学域 4年生

  • 短編集で、どれも面白かった。スポーツものでここまで面白い短編は数少ないのでは。

  • ボクシング、ハイジャンプ、レガッタ、スカッシュ、そして野球
    山際淳司が描くスポーツノンフィクション

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著者プロフィール

作家。1948年神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業後、ライターとして活動。80年「Sports Graphic Number」(文藝春秋)創刊号に掲載された短編ノンフィクション「江夏の21球」で注目を集める。81年同作が収録された『スローカーブを、もう一球』(角川書店)で第8回日本ノンフィクション賞を受賞。NHKのスポーツキャスターとしても活躍。95年5月29日没。著書多数。2017年7月に野球短編だけを集めた傑作選『江夏の21球』が角川新書より刊行。

「2018年 『衣笠祥雄 最後のシーズン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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