城の崎にて・小僧の神様 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003343

作品紹介・あらすじ

秤屋ではたらく小僧の仙吉は、番頭たちの噂話を聞いて、屋台の鮨屋にむかったもののお金が足りず、お鮨は食べられなかった上に恥をかく。ところが数日後。仙吉のお店にやってきた紳士が、お鮨をたらふくご馳走してくれたのだった!はたしてこの紳士の正体は…?小僧の体験をユーモアたっぷりに描く「小僧の神様」、作者自身の経験をもとに綴られた「城の崎にて」など、作者のもっとも実り多き時期に描かれた充実の作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 志賀直哉の短編集。
    思ったより読みやすくて良かった。

    「小僧の神様」
    この作品にちなんで、志賀直哉は〈小説の神様〉といわれているそう…。

    秤屋で奉公している小僧の仙吉は、番頭たちの噂話を聞いて屋台の鮨屋に向かったもののお金が足りず、
    お鮨は食べられなかった上に恥をかく。
    ところが数日後、仙吉のお店にやってきた見ず知らずの紳士が粋なはからいで、お鮨をたらふくご馳走してくれた…。

    小僧の気持ちと、この紳士の気持ちの描写には
    考えさせられたし、この作品はラストの描写が印象的!

    良いことをしたのに、この紳士の方は、変に落ち着かない複雑な気持ちになってしまうのだが、
    純真な子供の心を思いやる優しい人なだけに
    いつの世も格差社会なのだなとも感じて…なにかやるせない思いになった。
    この紳士の奥様は
    「そのお気持ちわかるわ」と言ってくれる素敵な人で、そこは読んでいてホッとした。

    「城(き)の崎にて」
    城崎温泉での旅情溢れる素敵な作品かと思いきや
    生と死を扱ったちょっと重ための作品。

    山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした。
    その後養生に、城崎温泉へ一人で出かけた日々のお話。(背中の傷が脊椎カリウスになれば致命傷になりかねないから要心は肝心だと静養に来た…)

    落ち着いた文章の中にじんわりと暗く心に響いてくるものがある内容だった。
    小さな生き物たちの死の描写は、不気味な雰囲気を漂わせて描かれ、生と死の大変さを自分にも重ねて感じていて、何ともいえない世界観を感じた。

    「転生」
    こんな作品もあるのかとクスリと笑えた

    「雨蛙」
    ちょっと不穏な独特な雰囲気の…作品。
    妻の過ちを感じてしまう…夫。
    昔は今の時代より
    事を荒立てたくないと考える夫もいたかもしれないなという印象……

    あとは「好人物の夫婦」や「真鶴」「清兵衛と瓢箪」
    なども何気ない良さを感じた。

    それにしても、
    山の手線の電車に跳ね飛ばされても
    怪我だけで無事だなんて、すごいな…

  • 角川とてぬぐい店"かまわぬ"のコラボの和柄ブックカバーシリーズ。
    私はてぬぐいコレクターでして家に100枚くらいあるのですが、これと同じ柄も持ってます。

    さて。
    志賀直哉は授業として習ったものと、「暗夜行路」しか読んだことはありませんでした。
    改めて読んでみると実に素晴らしい文章。ただ何ということもない情景が、実直で淀みない言葉で語られる。小説の神様なんて言われるだけある。


    『母の死と新しい母』
    著者の実体験エッセイ。
    妊娠中の実の母が悪阻が酷く寝込みそのまま他界した。
    やがて父に後添いの話が来る。実母が亡くなったときに泣き暮らした著者だが、実母の死と新しい母が来るということは、徐々に事実として受け入れていった。

    『清兵衛と瓢箪』
    瓢箪が好きで小遣いを瓢箪に注ぎ込み暇さえあれば磨いている12歳の清兵衛。
    そんな清兵衛と瓢箪との縁が断れて、その熱中を新たに絵を描くことに注ぐまで。

    『正義派』
    電車に轢き殺された幼い少女。
    目撃した工夫は証言を申し出る。だが雇われ人である彼らも強いことはできない。
    帰りに事故現場を通った。やりきれない、ああただやりきれない。

    『小僧の神様』
    秤屋で奉公する仙吉は、番頭たちの寿司話を聞いて自分も食べてみたくてたまらない。
    使いの帰りに屋台の寿司屋に入るが、彼のなけなしの銭では一貫分にも足りなかった。
    過ごすごと屋台を出るその様子をAという客が見ていた。Aは、この小僧にあまり目立たずに寿司を食べさせてやりたいなあと思うのだった。

    『城の崎にて』
    怪我の療養で城の崎を訪れた著者。
    蜂、鼠、蜥蜴のような小動物の死を目の当たりにする。
    普段は小動物を殺すことのあるし気にも止めないのだが、今はなんだか淋しい嫌な気持ちになってしまう。彼ら橋に自分が生きていることを感謝しなければすまないような気持ちだ。「自分が希っている静かさの前に、ああいう苦しみのあることは恐ろしいことだ、死後の静寂に親しみを待つにしろ、死に到達するまでにああいう動騒は恐ろしいと思った(P53)」
    だから滞在を早めて東京に帰ってきたのだ。

    『好人物の夫婦』
    秋の夜、夫婦の会話。
    夫が気ままに旅行に出るということで浮気を心配する妻。
    翌日妻は親族の病床に呼び出されて二ヶ月の留守をする。
    家にいた夫は、若い女中の妊娠に気がつく。
    妻も気がついたのだろうか、その場合自分が疑われるのだろうか…。

    『雨蛙』
    文学趣味の賛次郎は、妻のせきと行く予定だった知人の講演会に行けなくなり妻だけを送り出す。
    せきは美しく健康的だが、溌剌とした光を持たない自己を持たない女だった。
    翌朝宿にせきを迎えに行った賛次郎は、妻は別の宿に他の男女と泊まっていると聞き驚く。
    せきに聞くべきか、聞いたら多分正直に答えるだろう。
    そして賛次郎は、正直に答えたそのせきを愛おしく思うのだった。

    ===「暗夜行路」に別の結果を与えてみた、というかんじ。

    『焚火』
    山小屋での会話。
    雪道を歩きながら眠りそうになっていた自分を母が「呼んでいる」と迎えを寄越したという話。

    『真鶴』
    少年は幼い弟と下駄を買いに来た。だが海兵に憧れる少年は小遣いを海兵帽に使ってしまい、さらに旅芸人の女に惹かれて跡を着いて行く。どうしようもなく兄に手を引かれて歩く弟。
    遅くなり家に帰った母を見たときに、弟は本来の幼さを取り戻した。

    『山科の記憶』
    「Aという女がある。良妻賢母である。しかしこの女の一生でただ一度、はっきりとは意識せぬ恋を感じ、心をときめかしたことがある。それを良人だけがカンジダ、それと相手の男だけが感じた。しかし何事もなく、そういう機会もなく、そのままにそれは葬られた。Aという女も今はそのことを忘れている、Bという女がある、この女にも同じことがあった。しかしBという女はそのことを自ら意識さえしなかった」この場合、Bが妻だった。(P122)

    『痴情』
    女と分かれるように妻に言われた。
    女がいても妻への気持ちは減らないと言っても納得しなかった。
    女と別れて、最終の電車で家に帰った。

    『些事』
    京都まで仕事だといったが、本当は会いたい女がいたんだ。

    ===夫婦のちょっとした浮気心テーマが続くんだが、志賀直哉夫妻なにかあったのかな。

    『堀端の住まい』
    著者が山陰松山に住んだ時のことを書いたエッセイのようなもの。
    隣の家の雌鳥が猫に殺され、罠にハマったその猫を殺すという出来事について少し考える著者。

    『転生』
    あるところに気の利かない妻を持つ男があった。男は常に妻への不満を持っていたが、だがそれなりに彼ら夫婦は仲良く二世を誓いあった。次の世では、夫婦仲の良い狐になるか、それとも鴛鴦(おしどり)になるか。やはり鴛鴦になって仲睦まじく暮らそうと誓う。
    先に死んだ夫は鴛鴦になり妻を待った。しかし妻は、自分は狐になるべきか、鴛鴦になるべきかを忘れてしまっていたのだった。

    ===笑っていいの?いいよね(笑)

    『プラトニック・ラブ』
    私は昔通っていた芸者がいた。旧友にかけたはずの電話に出たのは彼女だったのだ。
    今更名乗るわけにもゆかず切ったが、なぜ彼女に電話をかけてしまったのか?この十五年ぶりのプラトニックラブに笑ってしまう。次に彼女と触れ合うのはまた十五年後だろうか。

  • 今年5月に初めて城崎温泉に行った。

    翌日帰る間際に、1軒ある小さな書店でこれを見つけて購入。
    ひさしぶりに角川文庫手にしたかも。
    この表紙はとても風情があってかわいい。

    こんなに有名な作家さんなのに、
    実はこれまで読んだことがなく、
    なのであの名作の「暗夜行路」なんかも残念ながら読んだことがなく、
    全くもっていい齢してお恥ずかしい限りですが、
    きっかけはともあれ、この時代の文学に触れ直すきっかけをもらった1冊。

    印象的だったのは「城崎にて」もさることながら、
    「母の死と新しい母」
    「小僧の神様」
    そして「雨蛙」

    追記
    志賀直哉が城崎を訪れてから、今年がちょうど100周年とのこと。わたしにとってもタイムリー。

  • 盆の送りも過ぎたころに城崎温泉へと行く。なぜか「城の崎にて」を梶井基次郎だと思い込んでいた。あの鬱々とした感じが梶井っぽいと思っていた。
    城崎温泉は川沿いに柳並木の情緒ある町並みの温泉街だった。串刺しの鼠もイモリも見つからなかったけど。
    ちょっと外れにある城崎文学館で本文庫を手に入れる。そういえばナオヤってほとんど読んでなかったっけ。

    なかなかよいです。ナオヤ。どうしようもない夫ばかりで。

    「オイ、一月半、旅行に行ってくる!」
    「あなた、浮気はしないでね」
    「じゃあ行かない!」

    という「好人物の夫婦」とか

    「あなた、愛人がいたのね」
    「いいじゃん、本気なんだから」

    という「山科の記憶』とか身勝手な男の言い分が楽しいくらい。これってこのころの「浮気は男の甲斐性」という時代には普通なのだろうか。

    しかも妙に艶っぽい。
    愛人がバレ、喧嘩したあと、

    …興奮に疲れ、疲れながらなお興奮している彼の妻が入って来た。

    で次の日、愛人に別れ話をしにいって

    …女の口は涙で塩からかった。彼は前夜矢張り妻の口の塩からかったこと
    を想い…、

    とほんのりとエロス。

    あと、妻が寝とれたと知り「堪らなく可愛いィ!」という変態な的な夫とかなんだかなぁ~。

    そう、この「なんだかなぁ~」という感じが志賀直哉の小説のテーマ。
    男の感じるこのアンビバレントな感情をはじめ、「小僧の神様」「のいいことをしたのに感じるイヤ~な感じとか「正義派」の空回り感とか、「城の崎にて」の偶然、イモリを殺したあとのやるせなさ、とかの「なんだかなぁ~」という「どうしようもない感情」を書かせたら本当に上手い。

    この感じが誰かに似ていると思ったら、「不貞の季節」とかの団鬼六でした。

  • 城の崎にて
    いたずらに命をうばわれていくねずみ。なにげなく投げた石でイモリの命を奪ってしまった、とりかえしのつかない気持ち。作者が小さな命をみつめながら、自分の命をも見つめ直す繊細な描写がよかった。

  • 有名なだけあって、「小僧の神様」が一番普通に面白かった。

  • 「城の崎にて」。淡々とした筆使いなのに、情景が鮮やかに起ち上がってくる。余計な言葉と感情は削ぎ落とされて、残ったものは表裏一体の生と死の存在。
    自分はまだ死に対して親しみが湧いたことはないが、そんな機会が訪れた時に思い出すかもしれない。生きるも死ぬも必然ではなく偶然であることを。
    普段読書はKindleなのだが、江戸切子のような表紙が美しいとの書評を読んで、角川文庫版を購入。正解だった。

  • 文豪作品強化中もしくは夏フェア本消化中。思いのほか読みやすかった。という言葉を文豪作品を読むたびに使っているのはさておき。昔の人が書いた。というだけで、敬遠していた作品が多くて、本当にもったいないことをしているなと思った。のもさておき。小僧の神様、真鶴は読みやすくて可愛らしい物語だった。一方で痴情や転生のような男女の機微をえがいた物語は、ものすごく大人の物語のように感じる一方で、特殊なフィルターがかかっているような不思議な雰囲気に思えた。

  • 中学?の国語の教科書に載っていた?あやふやな記憶を頼りに読んでみました。
    掲題作「城の崎にて」は圧巻でした。わずか8ページの短編ながら、身近な出来事から死への恐怖を連想させられます。
    本書は短編集ですが、他の作品も、日常のある部分を切り取り、鮮明なイメージを植え付ける「山椒は小粒でも…」的な作品が多いです。
    解説を読むと、この短編を描いた時期は、志賀直哉の私小説的部分と空想小説的部分が曖昧になっているとのこと。その事実を聞いた上で、妻の情事を聞き、がっかりしながらも心の底では興奮を禁じ得ない主人公を描いた「雨蛙」は、ぴりりを飛び越え、若干ぞっとします。
    「小僧の神様」は痛快なヒーロー小説?になっており、作者の幅の広さを再確認できます。
    空いた時間に読めるので、おススメです。

  • 人の心を拾うのがとてもうまいひとだなあと。描写や表現がこのうえないくらい的確なのに、とくべつ凝った書き方をしているようにも見えない。素直に読ませてくれる。それがすごい。

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著者プロフィール

志賀直哉

一八八三(明治一六)- 一九七一(昭和四六)年。学習院高等科卒業、東京帝国大学国文科中退。白樺派を代表する作家。「小説の神様」と称され多くの作家に影響を与えた。四九(昭和二四)年、文化勲章受章。主な作品に『暗夜行路』『城の崎にて』『和解』ほか。

「2021年 『日曜日/蜻蛉 生きものと子どもの小品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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