氷点(上) (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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レビュー : 76
  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041003404

作品紹介・あらすじ

辻口病院長夫人・夏枝が青年医師・村井と逢い引きしている間に、3歳の娘ルリ子は殺害された。「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えと妻への復讐心から、辻口は極秘に犯人の娘・陽子を養子に迎える。何も知らない夏枝と長男・徹に愛され、すくすくと育つ陽子。やがて、辻口の行いに気づくことになった夏枝は、激しい憎しみと苦しさから、陽子の喉に手をかけた-。愛と罪と赦しをテーマにした著者の代表作であるロングセラー。

感想・レビュー・書評

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  • この話は、いろいろな登場人物の視点から描かれた物語であるため、人間の心の中に潜む妬みや恨みが露わになった一冊だと感じた。
    また、陽子と継母の夏枝の気性は対照的に描かれているとも思った。根が明るく周りまで照らすような雰囲気をもつ陽子に対して、夏枝は自らの美しさに陶酔しているふしがあり、啓造の行動にいちいち怒ったり嫉妬したりする。二人共美人だということにおいては共通しているが。
    私は陽子の兄・徹の心理描写が好きだ。陽子が実の妹ではないとは知りながら恋愛対象としては受け止めきれず、友人の北原を紹介して文通等で二人が親しくなっているということを感じ、陽子への思いが抑えらえなくなるというくだりの徹の心理描写は徹の葛藤が実に巧みに描かれていて、著者のデビュー作だとは思えないほどだった。

  • 半歩遅れの読書術中島岳志 高校時代、心に沈殿した「原罪」 「保守」のあり方考える契機に
    2018/6/2付日本経済新聞 朝刊
     保守思想について研究してきた。タイトルに「保守」がつく本も何冊か書いた。近年は、「リベラル保守」という立場の重要性を論じている。
     保守思想の根本には懐疑主義的人間観がある。近代の人間は、理性に対する過信を抱いてきた。人間の能力によって進歩した理想社会をつくることができるという合理主義が共有されてきた。
     これに対して、保守思想は冷水をかける。人間はどうしても間違いやすい。どれほど頭のいい人でも、世界を完全に掌握することはできず、誤認も生じる。どれほどの人格者でも、嫉妬やエゴイズムなどから自由にはなれない。だから、不完全な人間によって構成される社会は、永遠に不完全なまま推移せざるを得ない。世界は完成しない。
     では、どうすれば安定的な秩序を保つことができるのか。保守は歴史的に蓄積されてきた集合的経験値や良識、伝統などを重視し、時代の変化に応じた漸進的改革をすすめる。そんな保守思想に、20歳の私は深く納得し、これまで保守のあり方を考えて来たのだが、背景には、高校生の時に読んだ三浦綾子『氷点』(上・下、角川文庫)がかかわっている。
     『氷点』が追求したテーマは、キリスト教の「原罪」。全人類が生まれながらに負っている罪のことだ。病院長の夫・辻口啓造と妻・夏枝の間には3歳の娘・ルリ子がいたが、ある日、夏枝は夫が経営する病院の男性医師と密会し、ルリ子に一人で外に行って遊ぶように言う。ルリ子は誘拐され、殺されてしまう。密会に気づいていた啓造は、妻への復(ふく)讐(しゅう)心から犯人の娘とされる子供(陽子)を引き取り、それとは知らせずに夏枝に育てさせる。
     陽子は素直で明るい子供に育つが、夏枝は夫のたくらみを知り、陽子に冷たく当たるようになる。それでも懸命に生きた陽子だったが、ある時、自殺を試みる。陽子が直面したのは、母への失望を超えた「原罪」だった。
     人間には、存在自体に含まれる罪がある。それは陽子のような境遇に限られない。人はいのちを奪わなければ、生きることができない。一切の欲望を断ち切ることなどできない。
     この「原罪」という観念は、私の心の深い所に沈殿した。保守思想の祖とされるエドマンド・バークは、思想の根本に「原罪」の観念を据えている。そのことを知ったとき、私の保守思想への信頼は確立した。
     『氷点』の舞台・旭川を訪れた時、私は人生の原点と直面した思いにとらわれ、しばらく立ち尽くした。
    (政治学者)

  • やり場のない喪失感や悲しみの原因を客観的に見れば不当な形で他の人間に帰して復讐を図る行いと,それが新たな不和を生み出す様というのが,作中人物の言動を通して描かれている.表面的には豊かで良い家庭に見えているものが,実際にはドロドロしているというのが恐ろしい.上巻ではまだ子供たちが幼いこともあって,夫婦とそれを取り巻く人々(主には夫の職場関係)との関わりが中心.目先の,あるいは表面的な事柄に感情を左右されて一喜一憂する人物の姿がリアルに感じる.

  • 人の心の深さ、醜さ、そして美しさが、物語の舞台となっている北海道の情景と
    ともに心に感じられる作品です。中・高生の皆さんなら、きっと主人公の陽子に
    共感できると思います。

  • あー。ダメだー。
    道徳的に読んでも仕方ないと分かっていながら、辻口夫妻の身勝手さに、イライラしっぱなしの上巻。
    陽子と徹が可哀想すぎる。
    むしろ、陽子がダークサイドに陥ってもいいくらい、健気すぎる。

    下巻を読んでないので、何とも言えないけれど。
    体面を気にするだけの夫と妻から、一体どんな結末へ向かうのだろう。
    そして、向かう先に私は共感出来るんだろうか。
    夏枝が化粧水を肌に含ませながら、夫への裏切りを画策している横で、一生懸命に学芸会の話を持ち出す陽子のシーンが……ううう。

    と言いつつ、気になるので下巻へ続く。

  •  危なかった、ブックオフで買ったのは続編だった。続編から読むところだった。必ず、続編から読むことはせず、はじめの氷点から読みましょう。

     さて、私がはじめて著者の本を読んだのは、道ありきだった。それらも含めた著者の自伝3部作の中に、この氷点を書いたきっかけなどが書かれている。本書には、かなりの部分、著者が経験したことなどが散りばめられており、読んでいて、あー、あのころ著者が感じていたことか~、とか思いながら読んでいた。

     この本は、幼い子を殺された両親・兄が、殺人犯の子供を育てていく物語だ。子供を殺された父親・啓造は、犯人を一生憎んで暮らすか、汝の敵を愛せよという言葉を生涯の課題として取り組んで生きていくか、という課題に立ち向かう。憎んで生きるのは惨めだから、その子を愛していきたい、と啓造は思うのであるが、家族関係などが交錯し、なかなかそれが実践できない。

     10円落としたら、本当に10円を無くしたから、損に思うわけだ。その上、損した、損したと思ったら、なお損な事だ。100円落としたら、100円分楽しくするのだ。200円落とさずによかったと思ってもいい。あの100円を拾った人は、もう死ぬほどお腹がすいていて、あの100円のおかげで命が助かったでもいい。100円落とした上に、損したといつまでもくよくよしていたら大損だ。

     人のことなら、返事の無いことでも腹が立つくせに、なぜ自分のことなら許せるのだろう。人間と言うものは何と自己中心的なのだろう。これが罪の元ではないか。たとえ殺人犯の娘でないにしても、父方の親、又その親、母方の親、その又親、と手繰っていけば、悪いことをした人が一人は二人は必ずいるだろう。人間は存在していると、お互いに思いがけないほど深く、かかわりあい、傷つけあっている。

     この本は、著者は懸賞金を得るために応募した作品だが、その募集時の出版社から与えられたお題目は、原罪、だったという。人が生まれながらにして持っている罪か。生まれることは罪であり、それは決して償うことは出来ない。自分よりも素晴らしい人、いや、素晴らしい存在に許してもらうしかない。それが神であり、キリストなのだろう。

     本書では、様々な誤解が誤解を生みながら話が進んでいくが、誤解、というのが結局は、自己中心的な物の考え方から生まれることであり、それが罪なのではないか、と考えさせられた。

     多くの登場人物が出てくるが、この誰かを責めたり、悪く言ったり、非難したり(全部同じ様な意味か。。)するのは簡単だと思う。だが、陽子も含め、全ての登場人物に罪があるのだと思う。陽子の存在が、陽子自身に罪は無いとは言え、やはり、父親、母親にとっては、憎らしく思うことも、またありうるのだと思う。それを言葉に表さないにしても、やはり、心のどこかでは、あの子の父親が自分の娘を殺した、と思ってしまうのではないか。この本を読んでいる自分も、他人事のように、誰かを心で批判し、陽子がかわいそうだ、と善人ズラをしている。それもまた、罪なのだろう。

     まだまだ、著者の本を読んでいこう。

     全2巻。続編へ続く。陽子が死なないでよかった。

  • 誰にも共感できない。

  • 一言で言うと「登場する大人がもれなくクズ」ということに尽きる。
    その筆頭が夏枝だが、自分の美貌に自信満々な上に「皆に愛される私」が当然のことであるという態度や思考が凄まじく、この自己愛ゆえの不倫ごっこをしたために実の娘を悲劇に追い込んだのかと思うと恐ろしい。
    実の娘・ルリ子が殺害されたというのに数ヶ月もたたずに「可愛い女の子の赤ちゃんが欲しいわ」などと言い出し、不可抗力で引き取った娘・陽子の実親の正体を知ったあと陽子に対して陰湿ないじめを始め、挙句の果てにそんな仕打ちをした夫に当てつけるようにかつての不倫ごっこの相手・村井が療養から帰ってくると知るやいなや村井の気を再び引こうとし始め、結局この人は自分以外は好きじゃないんだなと感じた。
    夏枝以外にも夏枝の夫も村井もどうしようもないクズ。
    自分たちの都合で子どもを振り回すことを何とも思わないクズ。
    しかしそんなクズっぷりが凄まじいからか、下巻が早く読みたくて仕方がない。
    この本が支持される理由が少し理解できた。

  • 初読みは中二の頃。凄い作家がいるもんだと衝撃を受けました。純粋さの追究の極み。なかなか三浦綾子並みや主人公の陽子並みには達することは出来ないですが、お手本にはしてきましたよ。

  • 一つの疑惑から生まれた嫉妬と憎しみ、そこから初めた密かな復讐劇。これらは連鎖し、当人と周りの人々をより醜い方向へ導き変えてゆく。この描写に一気に引き込まれた。『汝の敵を愛せよ』そんな崇高な行動は出来ずとも、せめて、隣人との関係は正しく保たねばと振り返る。ゲーテの言葉とされる『不機嫌は最大の悪である』を反芻しながら。

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プロフィール

三浦 綾子(みうら あやこ)
1922年4月25日 - 1999年10月12日
北海道旭川市出身。終戦まで小学校教員を努めたが、国家と教育に対する懐疑から退職。1961年『主婦の友』募集の第1回「婦人の書いた実話」に『太陽は再び没せず』を投稿し入選。
1963年朝日新聞社による投稿した小説『氷点』が入選し、朝日新聞に同作を連載開始。1965年、同作で単行本デビュー。刊行直後にベストセラーとなり、映画化・ラジオドラマ化される代表作となる。ほか、映画化された『塩狩峠』が著名。様々な病苦と闘いながら、キリスト者として執筆を続けた。

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