怖い絵 死と乙女篇 (角川文庫)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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レビュー : 44
  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041004395

感想・レビュー・書評

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  • 表紙にもなっているレーピン『皇女ソフィア』はタイトルからイメージする嫋やかな王女様のイメージを覆す、仁王立ちで腕組み、目を血走らせた大柄な皇女の姿、見るからに恐ろしい。朝帰りした旦那さんが玄関開けた瞬間に奥さんにこんな姿で睨みつけられたら即土下座だろうな(苦笑)

    レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』は後世のフロイト先生の分析が相変わらずぶっ飛んでるのだけど、意外とこれは的を得ている気がして面白い。ボッティチェリ、カパネルそれぞれの『ヴィーナスの誕生』どちらもいいなあ。ボッティチェリが現代人だったら「ヴォーグ」で仕事してたかもっていうのなんか納得。オシャレですよね。ファッションセンスがいい。カパネルのほうは、絵画におけるヘア解禁問題について言及さていて興味深かった。確かに基本ツルツル。こういう絵しか見たことのなかったある男性が、結婚して初めて本物の女性の裸を見てビックリ、何もしないまま離婚したという話を、笑っていいのか悩む(苦笑)

    個人的にセガンティーニ『悪しき母たち』のインパクトが強烈。このシリーズに収録されている作品はやはり有名作が多いのでほとんどの画家の名前、あるいは画家について知らなくてもその絵は知っているという感じでしたが、セガンティーニのことはよく知らなかったので、こんな画家がいたのか、と。もっと他の作品も観てみたい。

    最近は日本でも1月になるとパン屋さんやケーキ屋さんで売り出すガレットデロワというお菓子がありますが、ヨルダーンス『豆の王様』の由来を知ると、もともとはあんな贅沢なお菓子の話じゃなかったんだなとわかる。ホガース『ジン横丁』なども合わせ、庶民の暮らしを描いた絵は、王侯貴族の肖像画や宗教神話モチーフの絵よりも知る機会が少ないので貴重かも。そしてゴヤの噴出する怒り。

    映画『カストラート』を観たのはもう20年以上前だけれど、アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』に描かれたファリネッリは、映画で受けたイメージよりは幸せそうだった。もちろんカストラート自体の歴史はとても怖い。伝ブリューゲル『イカロスの墜落』は2006年のベルギー王立美術館展(国立西洋美術館)で実物を観ましたが、そのときもやはり、イカロスが墜落しているのに誰も気づいておらず無関心、無視してる感じがとても怖いと思ったっけ。

    ※収録作品
    レーピン『皇女ソフィア』/ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』/カパネル『ヴィーナスの誕生』/ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』/ヨルダーンス『豆の王様』/レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』/ミケランジェロ『聖家族』/セガンティーニ『悪しき母たち』/伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』/ルーベンス『メドゥーサの首』/アンソール『仮面にかこまれた自画像』/フュースリ『夢魔』/ドラクロワ『怒れるメディア』/伝ブリューゲル『イカロスの墜落』/レッドグレイヴ『かわいそうな先生』/フーケ『ムーランの聖母子』/ベックリン『ケンタウロスの闘い』/アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』/ホガース『ジン横丁』/ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』/ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』/シーレ『死と乙女』

  • レオナルド・ダ・ヴィンチの絵はミステリーを見ているみたいで、パーツが符号していく瞬間に快感を覚えずにはいられない。まだ色々な謎や秘密が隠されているのではないかと前のめりになってしまう魅力がある。
    アンソールの絵にはグッとくるものがある。描かれた仮面には表情がある。その仮面こそ人間らしいのかもしれない。敵意と自己陶酔と自虐性が複雑に入れ替わる感情があらわされた作品のように感じる。
    ゴヤの絵は、見て感じた思いを上手く言葉にできない。実物を見たら離れられなくなるかもしれない。
    この本を読んでいくうちに、絵画の楽しみ方の、自分なりのコツが分かってきた。時折、画家の意図に射抜かれるような感覚にハッとする。
    知らなかった歴史の裏側を身近に感じさせてくれるような知識が随所に埋め込まれている。人間の一生は思ったより劇的かもしれない。

  • 表紙絵のレーピン作「皇女ソフィア」がとても印象的。
    その他、ボッティチェリ作「ヴィーナスの誕生」など3篇目にも関わらずまだまだ読み応えある文章を読んでいると続編も期待したいところである。著者の絵画に対する見識の深さと一般人としての見方の両刃を備え持っているところにただただ脱帽。

  • 中野京子が名画の背景を主観と批評を交え読み解いていくシリーズ第三弾。
    正直絵画にはそこまで興味がなかったのだが、時にユーモアたっぷりに、時にエスプリを効かせ、時に辛辣な観察眼を発揮し綴られていく文章は名人芸の域。当時の時代背景や風俗と巧みに絡め、作者の人生や心情をも投影させるような文章は読みやすく面白い。
    絵画そのものの迫力もさることながら、その絵が描かれるに至った背景を知る事によって、人間性の深淵をも抉り出すような凄みと深みが増す。
    今巻で特に印象的だったのは「悪しき母たち」。
    某翻訳恐怖小説短編集の表紙にも採用された有名な絵だが、不勉強な自分は恥ずかしながらこの本を読むまで作者はおろかタイトルさえ知らなかった。しかしまさか堕胎の罪を犯した女(娼婦)の罪と罰をテーマにした絵だったとは……
    章立てが短いので集中力を途切れさせずに好きな所から読むことができるのも親切。

  • なんの問題も感じない絵が、細部に言及された途端恐ろしさを増すのも、元から恐ろしさしかないものも、どちらも良い。
    女性、子供、殺される平民。まだまだ抑圧は続くものの、命なぞボロ布よりひどい時代だったと実感する。西洋史をもっと勉強したくなった。
    好きなのは「ベアートリーチェ・チェンチ」と「王女メディア」。ベアートリーチェはどんな時代も美しい物語を求めてしまう警鐘に思えるし、メディアは元から好きな話だったものが、よりおぞましさ悲しさを持って肉迫してくる。
    「かわいそうな先生」もいい。ガヴァネスとして働かざるを得なくなった女性と、その未来を予感しているような右の少女、そして何も悩まず縄跳びに興じる少女。怖い。
    今年開催される展覧会、是非とも訪ねたい。

    この村上隆さんの解説必要だったかね。美形の青少年だったら作者に囲われたかったって失礼極まりない。

  • わかりやすいし、絵の中の時代背景とか詳しく書いてあって勉強になる。面白い。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      このシリーズって、人の心の奥底を見るようで、ドキドキしながら読めて、割と好きです。。。
      このシリーズって、人の心の奥底を見るようで、ドキドキしながら読めて、割と好きです。。。
      2013/09/19
  • 単行本版『怖い絵』3巻に2編追加して文庫化したもの
    (たぶん追加されたのは2つ目の「ヴィーナスの誕生」と「悪しき母たち」)。
    見ただけで怖さが分る絵、中野さんの解説によりなぜ怖いのか分り、改めてぞっとする絵など。
    やはりその絵が描かれた背景を知らないと、より深く絵画鑑賞できないのだなあと痛感させられた。

    怖い絵だというのに強く惹きつけられるのは「悪しき母たち」「ベアトリーチェ・チェンチ」「夢魔」「怒れるメディア」「ムーランの聖母子」「死と乙女」など。
    第3弾はまだかしらー。
    それにしても表紙の皇女ソフィア、強烈すぎ

    • 黒百合お七さん
      コメントありがとうございます。

      早く1巻を文庫化していただいて、安心させて欲しいですねー

      今レーピン展が来てるんでしたっけ?
      この本を読...
      コメントありがとうございます。

      早く1巻を文庫化していただいて、安心させて欲しいですねー

      今レーピン展が来てるんでしたっけ?
      この本を読んでから行ったのとそうでなかったのとでは
      「皇女ソフィア」を見た時の印象はまったく違ってくるんじゃないかと思います。
      いいタイミングでの文庫化でしたよね!
      2012/09/09
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「今レーピン展が来てるんでしたっけ?」
      Bunkamuraザ・ミュージアムで10/8まで、、、その後、浜松・姫路・神奈川(葉山)に巡回するら...
      「今レーピン展が来てるんでしたっけ?」
      Bunkamuraザ・ミュージアムで10/8まで、、、その後、浜松・姫路・神奈川(葉山)に巡回するらしです。
      2012/09/12
    • 黒百合お七さん
      10月8日まで、ですか。
      行けたら見に行きたいんですが、秋は運動会シーズンで
      土日が潰れるんですよね(涙)。
      もし見に行かれるんでしたら、印...
      10月8日まで、ですか。
      行けたら見に行きたいんですが、秋は運動会シーズンで
      土日が潰れるんですよね(涙)。
      もし見に行かれるんでしたら、印象を教えてください~
      2012/09/15
  • 祝文庫化
    文庫一冊目の「怖い絵 泣く女篇」は、「怖い絵2」(朝日出版社)。じゃぁ文庫2は、どれの文庫化?

    角川書店のPR
    「ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」、シーレ「死と乙女」、ベラスケス「フェリペ・プロスペロ王子」、ミケランジェロ「聖家族」――名画に秘められた恐怖を読み解く「怖い絵」シリーズ、待望の文庫化第2弾!」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「『赤ちゃんと僕』ですかね」
      そうですか!有難うございます。
      ・・・続きは、はたけ次郎さんの「ましろのおと」の方に、、、
      「『赤ちゃんと僕』ですかね」
      そうですか!有難うございます。
      ・・・続きは、はたけ次郎さんの「ましろのおと」の方に、、、
      2012/08/31
    • jyunko6822さん
      中野京子さんの「怖い絵」シリーズには変な思い入れがあって買わずにいられなかったのですが、また新しいのが出たんですね。「死と乙女」
      いつも情報...
      中野京子さんの「怖い絵」シリーズには変な思い入れがあって買わずにいられなかったのですが、また新しいのが出たんですね。「死と乙女」
      いつも情報をありがとうございます。
      このごろ、ミステリーの友達に引きずられまくっていて、軌道修正しなくては・・・
      でもしかし、濫読乱読の私、どこへ行き着くものやら。
      2012/09/05
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      > jyunko6822さん
      「また新しいのが出たんですね」
      読まれた方のレビューによると、単行本3に二篇追加されたヴァージョンだそうです。...
      > jyunko6822さん
      「また新しいのが出たんですね」
      読まれた方のレビューによると、単行本3に二篇追加されたヴァージョンだそうです。
      「濫読乱読の私、どこへ行き着くものやら」
      どんどん読んで、お薦めを示す”灯台”となってください。。。私は読みたいが増えるばかりで読み進まない嗚呼(ダメダメです)
      2012/09/06
  • 相変わらずの面白さで2日足らずで読み終わりました。
    一番印象に残ったのは、ヨルダーンスの『豆の王様』。現代を生きる私たちはハレとケの境目が曖昧になっている、という著者の見解を読んでからこの絵を見ると、確かにここまで我を忘れて酒を飲むこともないな、と感じます。
    表紙を飾るレーピンの『皇女ソフィア』もインパクトが大きい。まさかここまで壮絶な兄弟喧嘩が過去にあったなんて、と驚きました。
    解説で村上さんも書かれてましたが、本当に一作品一作品、映画を見ているような気持ちになります。絵が書かれた背景を知れば知るほど怖くなる。このシリーズ、もっと読みたいです。

  • 3巻目にして失速するのではなく、飛び抜けてきたと思う。村上隆のあとがきが素晴らしい。

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著者プロフィール

ドイツ文学者、西洋文化史家

「2018年 『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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