怖い絵 死と乙女篇 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 1216
感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041004395

作品紹介・あらすじ

全身にみなぎる憤怒と威厳、「皇女ソフィア」-凄絶な姉弟喧嘩の末に、権力を握ったのは?甘やかな香りが漂う、ボッティチェリの最高傑作、「ヴィーナスの誕生」-美の背後に秘められた、血なまぐさい出生の物語とは?自らを死神になぞらえた、「死と乙女」-実際に画家とモデルを襲ったその後の運命は?名画に秘められた人間心理の深層を鋭く読み解く22の物語。文庫書き下ろしも収録したシリーズ第2弾。

感想・レビュー・書評

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  • 絵画の背景に蠢く歴史の闇を深さを覗き見るような、中野京子女史の<怖い絵>シリ-ズの一冊。 ひと目見ただけで身震いするルーベンスの『メドゥ-サの首』、ホガ-スの『ジン横町』、レーピンの『皇女ソフィア』。 長閑な田園風景、厳かなたたずまいの中の人物描写など、一見どこが怖いのか判らない絵画、その秘められた怖さを教えられるゲインズバラの『アンドリュ-ズ夫妻』、レッドグレイヴの『かわいそうな先生』、ブリュ-ゲルの『イカロスの墜落』など、いつもながら興味の泉の波紋が津々と湧き立つ。

  • 出版順 3作目
    表紙絵の「皇女ソフィア」に恐ろしさを感じて
    その背景を知って、その表情の意味を知る。
    他の作品も、その背景を知って恐ろしさの意味を知る。

    毎回思うのですが、絵画の背景を知ることによって
    人間の残酷さ、愚かさ、おぞましさに震えがきます。
    絵が怖いというよりも、中野さんの解説が怖いのです。
    色んな事を知ることが恐ろしいのです。
    絵画展では、是非とも中野さんの解説を聞きながら
    絵を観て回りたいです。

  • 表紙にもなっているレーピン『皇女ソフィア』はタイトルからイメージする嫋やかな王女様のイメージを覆す、仁王立ちで腕組み、目を血走らせた大柄な皇女の姿、見るからに恐ろしい。朝帰りした旦那さんが玄関開けた瞬間に奥さんにこんな姿で睨みつけられたら即土下座だろうな(苦笑)

    レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』は後世のフロイト先生の分析が相変わらずぶっ飛んでるのだけど、意外とこれは的を得ている気がして面白い。ボッティチェリ、カパネルそれぞれの『ヴィーナスの誕生』どちらもいいなあ。ボッティチェリが現代人だったら「ヴォーグ」で仕事してたかもっていうのなんか納得。オシャレですよね。ファッションセンスがいい。カパネルのほうは、絵画におけるヘア解禁問題について言及さていて興味深かった。確かに基本ツルツル。こういう絵しか見たことのなかったある男性が、結婚して初めて本物の女性の裸を見てビックリ、何もしないまま離婚したという話を、笑っていいのか悩む(苦笑)

    個人的にセガンティーニ『悪しき母たち』のインパクトが強烈。このシリーズに収録されている作品はやはり有名作が多いのでほとんどの画家の名前、あるいは画家について知らなくてもその絵は知っているという感じでしたが、セガンティーニのことはよく知らなかったので、こんな画家がいたのか、と。もっと他の作品も観てみたい。

    最近は日本でも1月になるとパン屋さんやケーキ屋さんで売り出すガレットデロワというお菓子がありますが、ヨルダーンス『豆の王様』の由来を知ると、もともとはあんな贅沢なお菓子の話じゃなかったんだなとわかる。ホガース『ジン横丁』なども合わせ、庶民の暮らしを描いた絵は、王侯貴族の肖像画や宗教神話モチーフの絵よりも知る機会が少ないので貴重かも。そしてゴヤの噴出する怒り。

    映画『カストラート』を観たのはもう20年以上前だけれど、アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』に描かれたファリネッリは、映画で受けたイメージよりは幸せそうだった。もちろんカストラート自体の歴史はとても怖い。伝ブリューゲル『イカロスの墜落』は2006年のベルギー王立美術館展(国立西洋美術館)で実物を観ましたが、そのときもやはり、イカロスが墜落しているのに誰も気づいておらず無関心、無視してる感じがとても怖いと思ったっけ。

    ※収録作品
    レーピン『皇女ソフィア』/ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』/カパネル『ヴィーナスの誕生』/ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』/ヨルダーンス『豆の王様』/レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』/ミケランジェロ『聖家族』/セガンティーニ『悪しき母たち』/伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』/ルーベンス『メドゥーサの首』/アンソール『仮面にかこまれた自画像』/フュースリ『夢魔』/ドラクロワ『怒れるメディア』/伝ブリューゲル『イカロスの墜落』/レッドグレイヴ『かわいそうな先生』/フーケ『ムーランの聖母子』/ベックリン『ケンタウロスの闘い』/アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』/ホガース『ジン横丁』/ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』/ゴヤ『マドリッド、一八〇八年五月三日』/シーレ『死と乙女』

  • 絵画への理解を深めるのに良かった。文章は少し読みにくかったが、美術館の絵画の説明よりよっぽど面白かった。

  • バックグラウンドを知ることで、絵の見方が変わる。怖い、というか、薄ら寒い感じがする。
    イギリスの「ガヴァネス」という立場の人について、初めて知ることができた。『シャーロック・ホームズ』シリーズは読んでたのに、ワトソンの妻メアリがガヴァネスだったことは記憶に無かった。
    イタリアの「カストラート」が非人道的で寒気がする。日本では宦官制度すら採用しなかったのに、美声を聞きたいという理由だけで去勢するなんて残酷すぎる。しかも教会が始めたなんて。 

    勉強になったので、シリーズのほかの本も読みたい。できれば Unlimited になってほしい。

  • レオナルド・ダ・ヴィンチの絵はミステリーを見ているみたいで、パーツが符号していく瞬間に快感を覚えずにはいられない。まだ色々な謎や秘密が隠されているのではないかと前のめりになってしまう魅力がある。
    アンソールの絵にはグッとくるものがある。描かれた仮面には表情がある。その仮面こそ人間らしいのかもしれない。敵意と自己陶酔と自虐性が複雑に入れ替わる感情があらわされた作品のように感じる。
    ゴヤの絵は、見て感じた思いを上手く言葉にできない。実物を見たら離れられなくなるかもしれない。
    この本を読んでいくうちに、絵画の楽しみ方の、自分なりのコツが分かってきた。時折、画家の意図に射抜かれるような感覚にハッとする。
    知らなかった歴史の裏側を身近に感じさせてくれるような知識が随所に埋め込まれている。人間の一生は思ったより劇的かもしれない。

  • 表紙絵のレーピン作「皇女ソフィア」がとても印象的。
    その他、ボッティチェリ作「ヴィーナスの誕生」など3篇目にも関わらずまだまだ読み応えある文章を読んでいると続編も期待したいところである。著者の絵画に対する見識の深さと一般人としての見方の両刃を備え持っているところにただただ脱帽。

  • 中野京子が名画の背景を主観と批評を交え読み解いていくシリーズ第三弾。
    正直絵画にはそこまで興味がなかったのだが、時にユーモアたっぷりに、時にエスプリを効かせ、時に辛辣な観察眼を発揮し綴られていく文章は名人芸の域。当時の時代背景や風俗と巧みに絡め、作者の人生や心情をも投影させるような文章は読みやすく面白い。
    絵画そのものの迫力もさることながら、その絵が描かれるに至った背景を知る事によって、人間性の深淵をも抉り出すような凄みと深みが増す。
    今巻で特に印象的だったのは「悪しき母たち」。
    某翻訳恐怖小説短編集の表紙にも採用された有名な絵だが、不勉強な自分は恥ずかしながらこの本を読むまで作者はおろかタイトルさえ知らなかった。しかしまさか堕胎の罪を犯した女(娼婦)の罪と罰をテーマにした絵だったとは……
    章立てが短いので集中力を途切れさせずに好きな所から読むことができるのも親切。

  • なんの問題も感じない絵が、細部に言及された途端恐ろしさを増すのも、元から恐ろしさしかないものも、どちらも良い。
    女性、子供、殺される平民。まだまだ抑圧は続くものの、命なぞボロ布よりひどい時代だったと実感する。西洋史をもっと勉強したくなった。
    好きなのは「ベアートリーチェ・チェンチ」と「王女メディア」。ベアートリーチェはどんな時代も美しい物語を求めてしまう警鐘に思えるし、メディアは元から好きな話だったものが、よりおぞましさ悲しさを持って肉迫してくる。
    「かわいそうな先生」もいい。ガヴァネスとして働かざるを得なくなった女性と、その未来を予感しているような右の少女、そして何も悩まず縄跳びに興じる少女。怖い。
    今年開催される展覧会、是非とも訪ねたい。

    この村上隆さんの解説必要だったかね。美形の青少年だったら作者に囲われたかったって失礼極まりない。

  • わかりやすいし、絵の中の時代背景とか詳しく書いてあって勉強になる。面白い。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      このシリーズって、人の心の奥底を見るようで、ドキドキしながら読めて、割と好きです。。。
      このシリーズって、人の心の奥底を見るようで、ドキドキしながら読めて、割と好きです。。。
      2013/09/19
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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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