悪党 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041004715

作品紹介・あらすじ

探偵事務所で働いている佐伯修一は、老夫婦から「息子を殺し、少年院を出て社会復帰した男を追跡調査してほしい」という依頼を受ける。依頼に後ろ向きだった佐伯だが、所長の木暮の命令で調査を開始する。実は佐伯も姉を殺された犯罪被害者遺族だった。その後、「犯罪加害者の追跡調査」を幾つも手がけることに。加害者と被害者遺族に対面する中で、佐伯は姉を殺した犯人を追うことを決意し…。衝撃と感動の社会派ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 被害者遺族の依頼により犯罪加害者のその後を調査する探偵・佐伯修一。自身も15歳の時に姉が当時未成年だった3名の犯人に凌辱の末、殺されたという被害者遺族でもあった。主人公をはじめ被害者とその遺族は加害者を赦すことなどできるのか。連作短編集の社会派ミステリ。

    薬丸岳6作品目。
    被害と加害にフォーカスを当て、それぞれの立場の苦悩、死生観との向き合い方を読者へ投げかけてくる著者の作品にはいつも惹きつけられる。誰しもが当事者、ないし家族だったらどうあるべきかの問いかけに対して読むたびに、己の純と不純を見せつけられる。

    今作は「被害者遺族」が大きなテーマだ。
    被害者遺族は【その日】から時間が止まった生活を送る一方、加害者は刑期を終え社会に復帰し新たな生活を送り始める。被害者は被害を受けた側なのに過去と未来に何度も何度も傷つけられる。

    本作では、各短編で登場する被害者遺族それぞれにドラマがあり、依頼を受け調査を重ねていくうちに、主人公の修一自身も遺族として姉を奪った加害者達への復讐心がふつふつと高まっていく。

    冒頭に戻って、もしも大切な人を他人に殺められたなら、加害者の何かをもって赦すことが出来るか。懺悔し悔い改める姿勢をもって更生を信じ、罪を贖い生きていくなら赦すことが出来るのだろうか。

    きっと読者は明確な答えを持っている。その答えが正解か不正解かは別として。『理性』という簡単な言葉で補えないだろう。『本性』という飾りのない言葉が相応しいと思う。

    1話目で登場する加害者の坂上が修一に問う場面がある。「社会復帰してどんな風になっていれば被害者たちは赦してくれるのか?」

    皆さんは如何だろうか。もしも私が遺族で加害当事者に問われたなら、きっと即答する。『何があっても一生絶対に赦さん。生涯誰からも赦されずしていずれ死すその寸前まで悔いて悔いて苦しんで生きろ。』

    7話目で10年ぶりに再開した父が修一に解く場面がある。「いつでも笑っていいんだぞ。いや、笑えるようにならなきゃいけないんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」

    とても難しいことは重々承知しつつ、被害者遺族まで罪に殺されてはいけないことを教わった。

    読了後「悪党」と言う表題名にも納得。毎度の如く読後の余韻に引きずられる作品であった。

  • 自分の身内が事件に巻き込まれ亡くなり、その犯人は捕まったが少年犯罪法で守られ、罪を見つめる間もなく社会に復帰していたとしたら貴方はどうしますか。

    その人物を追う手立てを持っており、同じ境遇の人物達の行動を意志とは関係なく自身が左右し、様々なエンディングを見届けた上で、果たして自分ならどうするのだろう。

    許すとして何を持って「許す」事が出来るのか。更生していたら?どんなに今が素晴らしい人間でも最愛を殺した人物に変わりはないのに?
    人を殺すのが「悪党」の定義としたら、復讐は自らを「悪党」に陥れる行為となるのだろうか。

    .... さて、自身に置き換えても答えが見えない複雑な道を彷徨いしかし確実に進んで行く佐伯の行く末を
    本来なら実行できるはずのない「他の人だったらどうするのだろう」を盗み見するような後ろめたさとずるい心で読み進め、完全に物語に感情を取り込まれた私の目の下には可愛い可愛い熊さんが二匹。

    何とも答えの無い難問だ。「入れ物」を壊すにしても「心」を壊すにしてもそれには物凄いエネルギーと執念が必要であり、その材料が完全に整っている状態でも苦悩する。つまり「理性」が働くのだろう。愛を奪われ それを恨み そして復讐に繋がる心に理性が働く定義がそもそもおかしいとも感じるし、
    だからといって自分がその舞台に立ったらおそらく悩み 苦しみ 佐伯と同じ心境になるのかとも思う。

    この作品はたくさんのゴールがあるのだろう。彼がどの道を進んでも結局私には答えは見つからないだろうし、これは私の物語ではなく佐伯修一の物語だ。他人事みたいでなんだか嫌だけど、彼が選んで進んだ道は「幸せ」もしくは「安心」であると良いなぁ。

  • 探偵事務所で働いている佐伯修一は、老夫婦から「息子を殺し、少年院を出て社会復帰した男を追跡調査してほしい」という依頼を受ける。
    依頼に後ろ向きだった佐伯だが、所長の木暮の命令で調査を開始する。実は佐伯も姉を殺された犯罪被害者遺族だった。その後、「犯罪加害者の追跡調査」を幾つも手がけることに。
    加害者と被害者遺族に対面する中で、佐伯は姉を殺した犯人を追うことを決意する。


    薬丸先生は、犯罪被害者や、犯罪加害者の心理を描写させたら右に出るものは居ないんじゃないか??ってくらい、リアリティを感じる。

    被害者も加害者も、どちらの苦しみもひしひしと伝わってくる。

    短編で繋がる物語。物語の先に大きな幸せなどあり得ないはずなのに、それでもちゃんと細やかな幸せに辿り着くところが、薬丸先生の優しさなのかなぁ。。。

    読みやすく、没頭してしまう作品だった。

  • 悪党っていうから、もっと強烈な内容なんかと思ってたけど…
    でも、これ面白い!イッキ読み!
    この作者の他の作品も読んでみよ!
    酷い人殺しでも、少年法とかに守られて、軽い刑で出所してきた加害者を被害者家族が現状の調査を依頼。しかも、自身も姉を殺された探偵に。
    自身も加害者を探しながら…
    被害者からしたら、加害者が更生してたって…
    ( *`ω´)
    でも、加害者に復讐したって、殺された人が帰ってくる訳でもないし…
    自身は、幸いにも経験ないから、正直どうするか分からんけど、多分…法に触れても…
    人それぞれの答えはあるんやろうな。
    色々考えさせられるものがあるなぁ〜

    最近は、少年法も重罪には、あんまり減刑されん傾向みたいなんで、そんな事件が減る事を願いたい!

  • 初読みの作家さん、薬丸岳。
    読んでいてどれだけ心が苦しくなろうが、本当の痛みや悔しさや憎しみは当事者にならない限り計り知れないのだろう。
    弁護士のエピソードが印象的でした。悪党を弁護することにも「誰かがやらなければ、」と信念を持っていたが、家族が殺され、被害者側になった時その信念が崩れ落ちる。
    現実や小説で加害者側の弁護をしている弁護士に時々感じていた「どういう気持ちで弁護しているのだろう?」と言う疑問にスポットが当てられていて興味深かった。

    そして被害者側はもちろん、加害者側の苦しみもひしひしと感じさせるのだが、もしも自分が当事者になってしまったら、赦せるのか?自分はどうやって生きていくのだろうとじっくり考えさせられる作品でした。


    「いつでも笑っていいんだぞ。いや、笑えるようにならなきゃいけないんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」

    「悪党は自分が奪った分だけ大切な何かを失ってしまうこともちゃんとわかっている。それでも悪いことをしてしまうのが悪党なんだよ」
    「それがお前の生きかたか?」
    「ああ…死に際にでも、自分が奪ってきたものと失ってきたものを天秤にかけてみるさ」

    • しんさん
      コメント立派です(^o^)
      コメント立派です(^o^)
      2022/08/01
  • 薬丸さん連続で3冊目完読。
    面白すぎたー!!
    自分も一緒に探偵になってる気分を味わえる。

    犯罪の被害者側、加害者側の家族の生活と未来と心などに一生関わってくるというのを具合的に感じることができ、すごい深い3冊でした。

    序盤から最後まで飽きさせない引き込み感が本当にすごいなあと。

    次は何にしようかな、、薬丸さんー!!

  • 佐伯が15歳の時、17歳の姉が同級生3人にレイプされ殺された。彼はその復讐のため警察官になった。レイプ犯を目の当たりにし、姉のトラウマによりレイプ犯の口の中に拳銃を突き付ける。警官を辞し、探偵になった佐伯は3人のレイプ犯のその後を追いかける。被害者家族としては、罪を償った加害者が更生・出所後、当然真っ当な生活を送っていることを期待する。被害者家族は加害者を赦せるのか?。あるいは、加害者がどうなっていたら赦せるのか?これがこの本の一番問うていることだ。加害者が臨終の際の1粒の涙。この涙で復讐を終えたのか?

  • なんだろう。
    読んでいる時、ずっとドロドロの苦い何かを飲んでいるような気分で、喉のあたりを掻き毟りたくなる感じがしていた。でも、各章の最後に少し切なくなる感情もあって。

    犯罪者側と被害者側の立場、それは身内だけではなく色々な人も巻き込み巻き込まれ、人生がめちゃくちゃになってしまうこと。それは死ぬまで続く。
    主人公の佐伯を通して、それらの葛藤や鬱屈した気持ち、佐伯の勤める探偵事務所にやってくる人間たちもまた、佐伯と同じような気持ちを抱えていたり、その逆だったり。。。そういったものを上手く表現された小説だと思った。


  • 15年前に姉を殺された主人公(佐伯)が、
    探偵として働きながら加害者たちを探し出し、
    犯人に姉が感じた以上の絶望と苦しみを
    味合わせて復讐を遂げようとする。

    大切な人を失った瞬間から、心が死んだように
    変わってしまった遺族たちはどんなふうに
    犯人が変われば赦すことができるのか。

    そもそも大事な人の命や尊厳を奪い、その後、
    生き続ける相手を赦すことはできるのか。

    憎しみと悲しさを抱え続ける主人公や被害者
    家族たちが、救われるまでの心の葛藤の物語。











  • 探偵事務所で働いている佐伯には姉を殺された過去がある。
    ある時、事務所を訪れた老夫婦から、息子を殺した男が少年院を出たので調査して欲しいという依頼を受ける。
    そして、その後は所長の木暮が犯罪加害者の追跡調査を売りにし始める。
    佐伯は自然と姉を殺した犯人を探し始める。
    家族を殺された遺族は、その犯人を赦すことは出来るのだろうか。
    そして、加害者たちの反省はどういうことで示されるのか…難しいテーマだと思う。

    2024.3.25

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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