誰もいない夜に咲く (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041006528

作品紹介・あらすじ

親から継いだ牧場で黙々と牛の世話をする秀一は、三十歳になるまで女を抱いたことがない。そんな彼が、嫁来い運動で中国から迎え入れた花海とかよわす、言葉にならない想いとは-(「波に咲く」)。寄せては返す波のような欲望にいっとき身を任せ、どうしようもない淋しさを封じ込めようとする男と女。安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありようを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる、傑作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 自分が住む田舎町の身近な日常のすぐ隣に
    男と女の様々なドラマがひっそりと存在する
    田舎の狭いコミュニティで噂されながらも
    その土地を生きる「近所の人たち」が脳裏に浮かぶ

  • 北海道のイメージはこんな感じなのだろうか。
    いや、いいかえるなら、こんなに貧しくて暗いのだろうか。
    周りをみてもそこまでお金に困っているイメージはないけれど、実際には違うのかもしれない。パチンコに通っているひとも多そうだし、知らない世界が身近にははやっぱりあるのかもしれない。
    自分の知らない薄闇を覗いた感じになりました。
    寂しいです。そして悲しくて寒い。

  • 「あ、北海道だ」と思った。カラッと乾いた寒さと眠たくなるようなどこか呑気な空を感じた。そして「きかない」女たちがたくさん描かれていた。「きかない」というのは「きかん坊」というのとは少し違って、なにくそと歯を食いしばる、根性のある性質のこと。北海道弁。

    「波に咲く」以外どの作品も、そんな「きかない」女たちが人生の昏いトンネルをくぐるときの一場面を描いている。昏いのにどこかあっけらかんとしていて、それは厳しい冬をあたりまえのように乗り越える道産子そのもので愛おしい。いずれの作品も、終わりかたは読者の想像の羽を広げるものばかり。

  • 壮絶なのに醒めている。不思議な印象が残る作品群。
    全て北海道の街が舞台の短編集。
    雄大で美しい風景…ではなくて、過疎が進んだ雪深い田舎や、寂れた漁師町、うらぶれた夜の街、などが主な舞台で、だからこそ寒々しくてリアル。

    桜木紫乃さんて直木賞をとった時に実家がラブホテルだったって言ってて気になってたけれど、その環境が、男女の肉欲をこんな風に醒めた感じで描くきっかけになったのだろうかと考えたりした。
    言ってしまえばどうしようもないダメ男とずるずる付き合ってしまう女が何人か出てくるのだけど、そのわりに溺れてるような雰囲気はなくて、醒めた諦めみたいなものに包まれてるから。

    それぞれ印象に残ったからひとつを選びにくい。挙げるとすれば「海へ」と「根無草」かな。
    切ない。胸が痛い。そして女は強い。

    北海道、男女の肉欲、貧しさ、というワードから、佐藤泰志の小説と雰囲気が共通するような気がする。
    暗部がひとつもない人生を歩んでる人はほとんどいない。
    ふわっとしててどこか現実離れしている物語も好きだけど、同じくらいこういう胸が軋むような生々しい物語も好き。

  • 女と男の物語を綴った短編集。
    みっともなかったり情けなかったり堕ちてしまったりする女たちは、でもどこか生き生きとしている。

  • 桜木紫乃さんの小説は、これまであまり読んでこなかった部類の小説なので、こういう世界もあるかと夢中になった。
    でも何冊か読んでいくと、決まったシチュエーションが繰り返され、物語の小道具となって語られることに気づいた。

    物語の背景には既視感が否めないが、それでも、最後の「根無草」では思いがけぬ結末が待っていて、物語の面白さは変わらなかった。

    人はここまで落ちてしまうのかという「プリズム」はいたたまれなかったが、酪農家に嫁いだ中国人の娘、「海に咲く」の海花や、「絹日和」の奈々子が、静かに自立していく姿は鮮やかだった。

  • 北の大地に生きる強く逞しい女達の浮き沈みある人生模様を描く桜木紫乃さんの傑作短編集。桜木さんの描くヒロイン達はみんな迷いがなくきっぱりとしていますよね。自らの下した決断に責任を取り後悔せずに今を懸命に生きている男以上の力強さを感じます。みんな十分に聡明で賢いのにどうして自堕落な甲斐性の無い男達に惚れるのかは謎ですが、まあ生まれついての性分なのでしょうね。本書を読んで心に思い浮かんだ2つの歌詞を書きますね。前川清「そして神戸」誰かうまい嘘のつける相手捜すのよ、さだまさし「向い風」倖せの形くらい私に決めさせて

    『波に咲く』我愛爾、愛してる、国だけで性格を一括りにすべきではないと思います。『海へ』健次郎は自由への手切れ金と考えよう。加藤さんは少し気の毒ですね。『プリズム』やがて記憶が戻り現実が重く圧し掛かってくるでしょう。『フィナーレ』勇気を出せば二人の復縁も有り得るかも知れませんね。『風の女』自らの運命を悟った姉は妹の幸せを願って全てを仕組んだのかも知れませんね。『絹日和』最低の男と死の一歩手前で別れられてよかった。彼の潔さだけは褒めてあげるべきでしょう。『根無草』嘘も方便。古賀の遺した金で母娘二人お幸せにね。

  • 初めて読む桜木紫乃。7編を収録した短編集。収録作にない書題がついている短編集は珍しい。
    7編の舞台はいずれも北海道。主人公は女性、ちょっと不幸だったり迷ってたり人生がうまくいってなかったり。最後にはちょっとそんな日常がいい方向に変わるような予感を誘う。でもそれはささやかなもの。きっと彼女たちはこの後も、何ども不幸に見舞われたり迷ったりすることだろう。でも、普通の人の人生もそういうことの繰り返しだ。そんな当たり前だけど、あまり小説読んでは思わなかったことを感じた。
    自分が住んでいないせいか、北海道はこういう物語の舞台になるなあ。

  • 北海道を舞台にした短編集
    それぞれの登場人物に諦めがあり少しだけ希望があるような
    生きているからこそしたたかに明日をどうにkして生きていくという力強さを感じる
    どの女性にも言えるのだけど今日より明日はきっといい日だとどこかで信じているのかなと思っている

  • それぞれが独立した短編集。
    北海道の風土と物悲しさしくもあるけど強い女性が一貫したテーマで描かれる。
    一時はこの裏悲しさや暗さが苦手で気持ちが滅入ってしまうこともあったが
    今回はまた違った目線で読めた。ひとりで生きる女性のやるせなさとある意味の諦めにフォーカスをあてると男たちが悲しい生き物にみえてくる(笑)
    やはり女性は強い。

    ただ、それぞれの物語の設定が良すぎてここでお話がおわってしまうことがすごく残念。それぞれの続編もあればいいのにと。

  • またお話しの数だけ、哀しいがたくましく強い女性たちが居た。自分は北海道ではないが、生まれ育った土地が厳しい季節を乗り越えなくてはならない所だから?私はこんなにも彼女たちに惹かれるのだろうか。力をもらっているのだと思う。だから読みたくなるのだ。

  • 桜木紫乃シリーズもこれで一旦休憩にしようと思う。『ホテルローヤル』よりはこちらが好みかも。
    「誰に何を言われても構わないと思ったら、怖いことなんかなくなる。人は逃げてもいいんだって、」風の女より
    「石のような頑固さが敵を作り、あくの強さは根強い支持者を生んだ」絹日和より

  • 静かに豊かに鮮やかな情景と、
    強かに内に叫びを抱え生きる女たち。
    その融和と対比が浸透する短編集。

  • 私は寒い土地を描いた物語が物凄く好きです。

    母が北海道出身で、小さい頃に冬の北海道の幻想的な話を良くしてくれていました。
    そのイメージが頭にこびり付いていて、冬は母を思い浮かべる季節。

    本書は北海道を舞台にした短編集。
    北海道の情景が頭に浮かび、懐かしい気持ちになりました。
    淡々と男女のアレコレを描いているのに
    何だか生々しくて、実にウマいなぁと。

    一番初めの、波に咲くがお気に入り。

  • 北海道の女の物語。淡々と進む話がこの物語の深いところに届く。
    ホテルローヤルよりも僕は好き。

  • 北海道を舞台に描かれる男女の短篇集。
    桜木紫乃の作品には性に関する描写が多いように感じる。
    ただ、登場する女性たちは強い心を持っている。
    好きだったのは、「フィナーレ」と「根無草」。

    2016.10.28

  • 女の強さ、脆さ、儚さ、アホさ。
    「良くも悪くも女」という生きものについて書かれ、それにダメ男が絡んだり、ときに頑張る男も書かれてた。
    珠玉の短編集。話の並び順も良かった。

    小説書くの上手い(直木賞作家だから当たり前かもしれないけど…)必要なことしか書いていない(これがなかなか難しいし、だいじ)

    淡々としているのに、生きる人の妙な生々しさがある。生活感が漂う。ときに驚くほどきれいな言葉や情景もある。

    「波に咲く」鬱屈した村の空気とささやかな愛。

    「海へ」女の強さと弱さとまぬけさ。未来に希望を感じたい。

    「プリズム」暴力的。ラウドロック。こういう展開になるのはすこし意外だった。

    「フィナーレ」ドラマティック。明るい終わり方でよかった。

    「風の女」メメントモリ。死を絡めながらも静かで凛としたお話。

    「絹日和」前向き。

    「根無草」きっぱりと毅然と進む女。古賀さんの贈り物。

  • 北海道を舞台にした7編の短編を集めた作品。デビュー作を含む単行本『氷平線』と通じる設定のものが多く、いい意味でトーンも似ていた。

    静かに運命を受け入れる諦めと、ひっそりと生きながらも芯の強さをもつ女性。対する男性は、女性に寄生しすることしかできない意気地なしがしばしば登場する。

    タイトルは演歌のようで、これにはちょっと苦笑い。桜木紫乃じゃなかったら買わないな。でも、不幸を乗り越えてさらりと進んでいく女性の底力に支えられて、中身には演歌ほどの湿り気はない。
    耐え忍ぶ姿を、涙ながらにじくじく描いていたら、自分とは考え方も生き方も異なる人たちの登場する作品に、こんなにも強くひきつけられることはないだろう。
    一歩退くことによって生まれる距離感が絶妙で、重い内容を引き立てているのだと改めて感じた。

  • 等身大の、生活に追われる庶民が未来も見えないような暗澹たる生活の中、一筋の光明を見つけるといった感じの短編集。「一緒にいればいるだけ、いい記憶も悪い記憶も増えて行くというのは思い違いだった。いい思い出は今を過ごすための貯金でしかなく、ふたりは記憶を引き出しては食いつぶす、夢みる貘だった。」(p53 海へ)、「後悔でも傷でも、いいんです。色鮮やかな記憶がないと、自分が死んだことにも気づかない一生になってしまう」(p164 風の女)

  • 寂寥を北海道の風景に重ねて暗くもからっと描いた作品。寂しさに胸を締め付けられつつ、女たちの強さと欠落に引き込まれた。

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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