道徳という名の少年 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 879
感想 : 65
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  • Amazon.co.jp ・本 (166ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041007501

作品紹介・あらすじ

愛するその「手」に抱かれてわたしは天国を見る−−エロスと魔法と音楽に溢れたファンタジック連作集。榎本正樹によるインタヴュー集大成「桜庭一樹クロニクル2006−2012」も同時収録!!

感想・レビュー・書評

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  • 少女趣味な文章に秘められた甘美な猛毒。めずらしい雪の降る夜、朝まで鳴り止まない教会の鐘、1、2、3、悠久と名付けられた姉妹……色々な要素が不思議で可愛らしくて、桜庭一樹先生の生み出す世界感を改めて愛おしく感じた。
    「道徳という名の少年」というタイトルでいて内容は不道徳の極みであり、しかし全くいやらしさや気持ち悪さを感じないのはまるで御伽噺のような語り口だからだろうか。
    『ジャングリン・パパの愛撫の手』が特にお気に入り。息子夫婦の夜の営みを補助する父親という不道徳の極みであるのに、いやらしさや不快感を感じないのは少女が見つめているのはジャングリンでもジャングリンパパでも無く、『ジャングリンパパの腕』というピンポイントな身体のパーツだからだろうか。腕というパーツには不思議な温かさや愛着があるように思う。父親の大きな手、母の温かい腕の中……その手の描写は時に安全や安心の象徴として使われる。『隣家のパパの腕に心奪われる少女』。童女がキラキラとした瞳で乾いた男の腕を欲し、その心を大人になっても持ち続けている、そこにロマンチックさを感じる。深く考えると結構気持ち悪い。しかし、その響きだけで人を酩酊させるような蠱惑的な魅力が確かにあるように感じた。
    インタビューの部分は流し読み。まだ桜庭一樹先生の作品をコンプリートしていないので。読み終わり次第、再読したい。

  • これきっとハードカバー時の装丁が可愛かったんでしょうね、文庫もそのデザインを踏襲していて中のレイアウトとか結構凝ってます。しかしページ数は少なく、短編連作形式の本編はイラスト等のぞけば70ページに満たず、1冊の半分以上は作者のインタビュー集。お徳といえばお徳。分けてほしいといえば分けてほしい。でもインタビューは他の作品についてのものも多くて、なかなか読みごたえがありました。

    本編のほうは、一見連作形式ですが、もとはバラバラの雑誌にバラバラのテーマで発表されたものだったそうで。美しくも不道徳な母親から生まれた父親の違う4人の姉妹と弟、その弟と末の姉の近親相姦から生まれた男の子につけられた名前が「道徳(ジャングリン)」。さらにその道徳の子供が・・・と1作ごとに家系図は発展。この不道徳な一族の最後の一人の死までが描かれます。

    個人的に面白かったのは「ジャングリン・パパの愛撫の手」。戦争で両腕を失った息子(道徳)をサポートするパパが、息子とその嫁との夜の営みもサポートしちゃうというとんでもない話ですが、その官能性や残酷さも含めて童話的テイストで淡々と物語が進むこともあり、本当はパパのほうを愛していた嫁の切なさ、自分の姉を愛してしまった過去をもつパパの切なさ、もろもろ桜庭一樹的テーマが集約されていたと思います。

  • 異形への切望。異端への憧憬。それをつなぐ糸が「道徳」というねじれ。5つの寓話、最果ての愛。
    後半は6年分のインタビュークロニクル。

  • 前半、道徳という名の少年
    後半、インタビュー集
    桜庭さんのお話が好きなので、インタビューも興味深く読めた。
    同じ作家の作風の変化が分かりやすく見えた。

  • インタビューも本編も素敵でした。僕の代わりに歌ってくれ、がとても好きです。

  • 『赤朽葉家の伝説』や、『青年のための読書クラブ』等、南米文学を思わせる作品が今までありましたが、これは、一際濃厚に南米の雰囲気を感じます。
    物語の舞台も、明言されてはいないものの、どうやら、南米そのもののようです。

    後半は、2006年から2012年にかけての、桜庭一樹さんへのインタヴューが掲載されています。
    どの作品についてのインタヴューも興味深かったのですが、「山にいる死者は善き死者で、海にいる死者はおそろしい死者」というイメージが、すごくよくわかりました。
    山陰のDNAなのかしら。

  • 一家系の官能的で甘美な愛の物語集 心に残る作品です

    戦地へ赴くジャンの物語「ぼくの代わりに歌ってくれ」がとてつもなく好きです
    桜庭一樹クロニクル(インタビュー集)も必読

  • 前半は小説、後半はインタビューです。小説は戯曲のような内容でした。世代が変わりながら短い話が続いています。
    全体を通して、作者に「道徳とは」を問いかけられているのかもしれない。
    父のない子を産むこと、血の繋がった姉弟で結婚すること、夫の父と3人で愛を共有すること、殺すように歌うこと、自分の作品を世に示すことなく死ぬこと。桜庭一樹の思う不道徳てんこ盛り、なのかな。
    わかりやすいストーリーを楽しみたい方にはオススメしないです。

  • 本の前半分が小説で、後ろ半分がインタビューという構成で、小説部分の短さに驚きました。
    「道徳という名の少年」はいくつもの時代にまたがる昔話のようで面白かったです。代々の一族は美しいかんばせを持っていても、晩年凄く太るのも興味深いです。道徳には打ち勝てずとも、楔は打ち込めた気がします。
    インタビューも面白かったです。既読の作品も、未読の作品もわくわくしました。「私の男」の構成は『ペパーミントキャンディー』なんだ、ソル・ギョング観ねば。
    桜庭さん、小説もかなり読まれると思っていましたが、映画やドラマもかなりご覧になられてて範囲が広いな…すてき。未読の作品を読みたくなりました。

  • 再読。前半は表題の連作短編集。後半はインタビュー集。不思議な短編を不思議なまま読むもよし。不思議なままだと納得がいかなければ、最後の榎本正樹氏の解説を読むとよい。深い分析に圧倒される。そのインタビュー集は、桜庭さんの思考や作品が生まれた経緯などが率直に語られている。時系列で読んでいくと作品同士の関わりがわかって面白い。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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