グランド・ミステリー (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.82
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本棚登録 : 186
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (960ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041008256

作品紹介・あらすじ

昭和16年12月、真珠湾攻撃の直後、空母「蒼龍」に着艦したパイロット榊原大尉が不可解な死を遂げた。彼の友人である加多瀬大尉は、未亡人となった志津子の依頼を受け、榊原の死の真相を追い始めるが−−

感想・レビュー・書評

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  • 入り組んだ構造で、くらくら目眩がするような小節。
    一度読んだだけではよくわからないところもあるが、面白くて一気読み。

  • 3.83/161
    内容(「BOOK」データベースより)
    『昭和16年12月8日、真珠湾攻撃の直後、空母「蒼龍」上に着艦したパイロットの榊原大尉が不可解な服毒死を遂げた。榊原の友人、加多瀬大尉は未亡人となった志津子の依頼を受け、彼の死の真相を探り始める。しかし錯綜する謎の糸は更なる迷宮へと加多瀬を導いてゆくのだった―カオスとロマンス、あふれる奇想と謎。ミステリの歴史にその名を刻む傑作が新装版で登場!』


    『グランド・ミステリー』
    著者:奥泉 光(おくいずみ ひかる)
    出版社 ‏: ‎KADOKAWA
    文庫 ‏: ‎960ページ

  • 昭和16年12月8日、真珠湾攻撃の日。先任将校(水雷長)の加多瀬の乗る潜水艦「伊二四潜(伊号第二十四潜水艦)」で不可解な事件がいくつか起こる。魚雷を積んだ特殊潜航艇甲標的の乗組員の一人である森下が、出撃後に開封してくれと艦長に遺書のようなものを預け、艦長はそれを金庫に仕舞うが、その金庫が紛失する。やがて捜索により、こじ開けられた状態の金庫が発見されるが、機密書類こそ無事だったものの、森下の遺書のみが紛失。当の森下は特殊潜航艇で出撃、のち戦死。

    同じ頃、整備兵曹長の顔振(こうぶり)の乗る空母「蒼龍」でもまた、不可解な事件が相次いでいた。まずは川崎という下級兵士の自殺と思しき失踪(殺害疑惑)。さらに出撃した七号機が戻ってきた際に、搭乗員の榊原が服毒自殺を遂げる。同乗していた操縦士の水上は負傷により死亡。人望厚く優秀だった榊原が自殺する理由はみつからないまま、極秘のうちに戦死として処理される。七号機の整備を担当した関は、事件後ストレスから喀血、軍を退く。

    翌年初春、東京の実家に戻った加多瀬は、海兵学校時代の同期で親友だった榊原の戦死を知り、その未亡人を弔問するが、榊原の妻・志津子は夫の死因は自殺だと言う。密かに志津子に惹かれていた加多瀬は、榊原の死について調べるうちに、古田厳風という奇妙な男に案内されて、国粋主義者で有名な紅頭(べにず)中将が所長を務める「海軍国際問題研究所」という謎の組織に行きつく。古田いわく、そこでは超能力について研究しているという。予言能力を持ち、柳峰導師と呼ばれる男に加多瀬は面会するが、その男は実は加多瀬も知っているある人物だった…。


    とにかく分厚い!950頁越えで、自宅で読んでいても腱鞘炎になりそう(苦笑)しかし頁数に見合った素晴らしい読み応えで大満足!

    出だしは、戦争中のどさくさに紛れて起こった殺人事件の謎を追うミステリーのような印象だったのだが、中盤以降で急に未来を予言する=人生2巡目だという男が出現し、歴史改変SFじみてくる。いわゆるリプレイとかループものに近い設定ではありつつ別にタイムスリップするわけではなく、パラレルワールド的な部分もあるが並行世界というわけではなく、超能力というわけでもない、やっぱり2巡目としか言いようがないそれを「第一の書物」「第二の書物」と表現しているのが新しい。日常的に感じるデジャブが予言レベルにまで拡大し、つまりそれは一度読んだ本をもう一度読み直すようなものだと。

    さらにこの、人生2巡目の人間が一人だけではなく複数いるうえ、その能力を利用しようとする人間も現れる。ある人物は、真珠湾攻撃=日米開戦をなんとか阻止しようとしたりもするが、どうあがいても思い通りに変えられない部分もあり、逆に日常的な細部は、第一の書物と第二の書物で全く違ってきたりもする。それらが錯綜して、なんともめくるめく読書体験となりました。解説で大森望が書いていたけれど、あえて誰かの作品との類似を上げるならスティーブ・エリクソンに近い世界観かもしれない。

    SFやミステリーの部分を除いても戦争文学として読み応えがある。戦場にいる加多瀬のパートと、加多瀬の妹・範子の日常&恋愛パートの対比(範子の部分は大森望によると金井美恵子の目白ものパスティーシュらしい)、軍人である貴藤大佐と、範子の働く弁護士事務所の本多弁護士がそれぞれ開陳する戦争論、日本人論などとても興味深い。たまたま今のタイミングで読んだせいか、戦時中の日本の姿がコロナ禍の現在の日本と妙に重なったりもしました。隣組制度なんてまさに現在の自粛警察に通じるものがある。

    さて物語は、真珠湾に始まり、ミッドウェー、ソロモン、最終的には硫黄島まで転戦してゆく加多瀬を軸に、真珠湾に先立つ昭和9年に沈没した船「夕鶴」にまつわる事件を発端とした、榊原の死の真相を無事解明し、しかしそれ以外のことは妄想か、現実か、はたまた夢か、洗脳か、幻覚か、読者にゆだねたまま終局を迎える。しかしエピローグにひとつだけハッピーエンディングのエピソードが付け加えられていて微笑ましい。第二の書物で上書きされて唯一、良かったと思えるエピソードだ。

    三浦しをんさんのほうの解説にもあったように、登場人物が皆、魅力的なのも良かった。しをんさんお気に入りの友部(範子の義兄)の憎めない俗物ぶりもだけど、一種の悪役である範子の婚約者・彦坂とそのボディガードの梶木は、悪漢ならではの魅力があり、範子が彦坂に惹かれてしまうのもよくわかる。梶木は最後にひとつだけ良いことをするのがいい。反して、範子の読書会仲間で新聞記者の佐々木だけは最初から最後まで虫唾が走るほど嫌いだった。一番好きだったのは加多瀬の部下で髭もじゃの木谷。こう見えてシェークスピアやコナン・ドイルを原書で読む文学青年なのがいい。だからラストは嬉しかった。

    本の表紙になっているアングル『グランド・オダリスク』は、榊原の好きだった絵で、その未亡人・志津子はこの絵の女性に似ているという設定。

    解説:大森望/三浦しをん

  • 奥泉光『グランド・ミステリー』読了。

    感想、レビューが非常に難しい。初めてその手の記録を一切残さないという選択肢も頭を過ぎった程だった。
    しかしそれは否定的な意味ではなく、内容があまりに語り切れないからだ。
    いろんな事情があって約半年かけて読了した950ページの大作なのだが、半年も携帯し続けたので喪失感は大きい。読みにくいところも多いし、とにかく内容が眩暈のするような構造で、酩酊と混沌の世界だったのだが、それでも僕はこれを望んでいた。こういう小説を読みたかった、と最後には思える。

    解説の大森望を引用する。

    どのような小説であるかについては、たぶん読者によって無数の見方がある。たとえば……。
    日本海軍の潜水艦と空母を舞台に、不可能状況での毒死事件と「盗まれた手紙」事件を扱う歴史ミステリ。
    迫真のリアリティで一個人の視点から太平洋戦争の裏面を活写する大岡昇平ばりの戦記文学。
    戦争論と日本論を徹底的に突き詰める思想小説。
    スティーブ・エリクソンの向こうを張る、魔術的リアリズムを駆使した現代文学。
    謎の武器商人や怪しい予言者や謎めいた研究所が登場する、一大通俗伝奇ロマン。
    戦時中の文学サロンに集う浮世離れした人々の人間模様を描く恋愛小説。
    戦争のどさくさにまぎれてのし上がっていく天才的実業家と、汚れ仕事を一定に引き受ける忠実な部下とのコンビを軸にした痛快ピカレスク。
    ふたつの現実を巧妙に重ね合わせる歴史改変SF……。
    (中略)
    本格ミステリーのモチーフと戦記文学の背景とSFの設定を借り、現代文学の方法論を使って書かれた一大エンターテインメント

    本当に驚くべきことだが、この表現が全て合致する。そんなことがあるだろうか、それで物語になるのだろうか、これが一冊の小説になっていること自体が離れ業すぎる。京極夏彦を初めて読んだ時に受けた衝撃に近い。天才と認めざるを得ない作者だ。
    人物描写が巧みで、クスリとさせるような愉快な人物も何人か登場する。会話も面白い、主義主張がまた考えさせられる。だがそんな人物描写も構造の歪みに呑み込まれていく。
    あらゆる謎は解決を唯一の帰結とせずに歪んだ時空と構造に呑まれ、世界が徐々に捻れ、大きな畝りとなって最後には凪が訪れる。
    この衝撃と神秘的とも言える読後感は何度か経験している。
    『匣の中の失楽』『匣の中』『奇偶』『眩暈を愛して夢を見よ』『修羅の終わり』など。中でもおそらく一番近い読後感は『匣の中の失楽』『奇偶』『眩暈を愛して夢を見よ』あたりだろうか。ちなみにこれらは僕のオールタイムベスト上位作品だ。すなわち、本作もまたそこに名を連ねることになる。
    同時にこれらは僕の中で「奇書」という分類をしている作品だ。では本作は奇書か? これは非常に悩んだ。
    暫定的に奇書の定義を「構造的な酩酊感」「衒学趣味」「オカルト的不気味さ」「アンチミステリ」の4つを満たす、あるいは限りなく近い条件を満たす、あるいはいずれかを極端に満たすもの。というような形で選定していたのだが、本作はこれらを満たしている。しかし、奇書と言えるのかいまいち判断がつかない。
    混沌さが故にこれらを満たしてしまったという感が否めないが、いずれせよ満たしている以上奇書であるとは思う。しかし奇書であると同時に、それを超える大きな枠組みを全て飲み込んでいる気がしてならない。
    ある意味、奇書を超える奇書に成り得るのはこういう作品なのかもしれない。

  • 「グランドミステリー」は、僕がはじめて読んだ奥泉作品だ。相当前に読んだもので、ストーリー云々はまるで記憶になかったが、時間を迷宮的に超越した、軍艦とベニスと加多瀬と志津子の物語、というふうに記憶していた。
    実に何年振りか(何十年ぶり?)かの再読だったが、記憶していた以上に辛辣な日本、日本人への批評的文学だったように思えた。ただしそこは奥泉さんなので、あくまでもエンターテイメント要素が前面に押し出され、むしろそちら方面に傾きすぎて重心が散らばってしまっているところが本作の弱点でもあるように感じた。夕鶴事件の真相、と銘打たれてスタートした物語だが、結局のところその真相などはたいした真相ではなく、手紙の紛失事件もその真相はたいした真相ではなく、川崎整備兵の失踪もまたたいした真相ではなかった。重心の散逸は、もしかしたらわざとなのかもしれないが、奥泉さんの小説を常に蝕んでいる。どた馬、豆だいふく、貧乏神などのエピソードに見られる悪ふざけも気に入らない。
    でも、それでもなおかつ魅了されてしまうのが奥泉さんの凄いところだ。なにを置いても絶賛されるべきは圧倒的なその表現力、描写力、文章力だ。ほぼすべての文に感嘆してしまう。連続ドラマの終わり方のような、章の締めくくりの一文も素敵だ。そして毎度の迷宮感。僕が奥泉さんの小説を読むのは、この迷宮感を味わいたいからに他ならない。グランドミステリーは、その名の通り、ミステリーチックな迷宮感を味わうには最適な作品です。

    今回文庫版を読んだのですが、ラストシーンが記憶と違っていました。単行本と変えてますか??それともただの記憶違いかな。

  • 文庫本で960P、440gという分量ですが、思った以上に面白くなく途中で断念しました。
    そしてこの本も、大森望氏推薦でした。

  • どんどんおもしろくなった。おもしろかった。(ダメな感想。)

  • 単純なミステリーとは到底言えない小説。戦記物であり、SFであり、それよりも物語として、久々に面白いと思った。個人的には、アービングの小説を読んだ時の満足感と良く似ている。持つのも大変なくらいの分厚い文庫本だったが、まったく気にならないくらいの読後感だった。

  • 久々の、得体の知れない面白さ。川越高校~ICU出身の芥川賞作家による、文庫で940ページ、1,300円の小説。解説で二人の作家が実に優れた紹介文を書いているので引用。

    ・「この人、まじで天才や…」(三浦しをん)
    ・「本格ミステリのモチーフと戦記文学の背景とSFの設定を借り、現代文学の方法論を使って書かれた一大エンターテインメント」(大森望)

    まさにこんな感じ。話の訳が分からないのではなくて(分かります)、なんでこんなものが出来上がったのか、そこが分からない。今まで未読ですみません、だけど残り全部未読かと思うととても嬉しい。

  • ここ数年で一番面白いと思った本。一度読んだだけでは筋が追えないが、二度目に読むとその仕掛けが実に秀逸であることが分かる。文庫の解説者は四度読んだそうだ。それだけ読んでも新たな発見がある本だと思う。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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