舞姫・うたかたの記 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041008430

作品紹介・あらすじ

エリート官僚の太田豊太郎は、留学先で孤独に苦しむ中、美貌の舞姫エリスと恋に落ちた。世紀末のベルリンを舞台に繰り広げられる激しくも悲しい青春を描いた「舞姫」など5編を収録。文字が読みやすい改版。

感想・レビュー・書評

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  • 無垢な坊ちゃんエリートが。
    水商売の踊り子の少女と、ずぶずぶの関係になっちゃった。
    堅気な出世街道に戻るには、今、このときに、すがりつく少女を、残酷に捨てるしかありません。
    無い夢を追わせた。
    希望を与えて奪った。
    絶望の倍返し、に突き落とすことになります。
    つまり、そういうお話です。
    これがほぼほぼ実話だそうです。
    うーん、スキャンダラス。

    #######

    「うたかたの記」
    「ふた夜」
    「舞姫」
    「文づかい」
    「普請中」

    という5編が入っています。
    表題作の「舞姫」を読んでみたかったので購入。

    結果、「うたかたの記」「ふた夜」「文づかい」の3編は、正直、飛ばし読み。
    3つとも、文筆家・森鴎外さんとしては、超・初期のものらしいです。
    どれもバリバリの文語体で、それ自体は僕自身はキライじゃないのですが、内容はロマンチックな西欧冒険奇譚、恋愛奇譚を「文語体に訳した」というくらいにしか味わえないものばかり。
    率直に言うと面白く無かったです。。。

    ######

    「舞姫」。
    これは面白かったです。

    遠藤周作さんの衝撃作に、「私が棄てた女」という小説がありますが、それの明治版。国際恋愛版です。
    明治社会のトップエリートである主人公が、ドイツに留学。
    だが、役割を嬉々とこなすだけではなく、どこかしら文学的な憂鬱というか。俗世間に馴染めない純粋な青年。
    きっかけがあれば、左翼運動に没頭しかねない若者な訳です。そして彼は、貧しい踊り子と恋に落ちちゃいます。

    偶然の出会いから、可哀そうなは惚れたってことよ、という万国古今共通の流れ。

    青年は明治政府に帰れば出世コースが当たり前のスーパーエリートなんです。
    この時代に、ドイツに留学するというのは、今でいうと宇宙に行くレベルのことなんですから(あまり適切な例えではありませんが)。

    当然、周囲は皆、反対します。
    反対されれば、恋は燃えます。
    あれよあれよと同棲生活。踊り子の母の面倒まで含めて、経済的にひっかぶります。
    エリートコースから外れて、隙間産業の翻訳業のような身に落ちぶれます。

    さてそこに。

    旧友から救いの手が差し伸べられます。
    とある大使?の随行で、官の仕事に復帰します。
    そのまま誘われるがままに乗って行けば、帰国してエリートコースに戻れます。
    でもそのためには、踊り子を、棄てなければなりません。
    どうする、どうなる。

    で、主人公は、どろどろした気持ちの果てに。
    棄てちゃうんですね。
    ここのところの気まずさ、自己嫌悪、罪悪感、言い訳、淋しさ。
    そこらへんが文語体のリズムの中、むくむくと湧き上がってきます。

    幸せだった若い恋愛が、泥にまみれて汚れて。
    ガラスに爪を立てるような音を立てて。
    ぐっちゃぐちゃに壊滅していく…そんな手ざわりが、野島伸司さんなんか、目じゃありません。
    実に何と言うか、小説的な快感に満ち溢れています。

    どこまでが実話なんだか、ということでいうと興味は尽きませんが、そういうことを外しても十分な歯ごたえと味わい。
    苦い。旨い。パチパチ。



    そして、「普請中」。
    これは、相当に後年、書かれた小説のようです。
    文語体ではなく、口語体です。読み易いですね。
    ただ内容が、露骨に「舞姫」の続編、後日譚なので、この本に収録されているのでしょう。

    これがまた…大人な「えぐみ」に満ちた短編でした。
    つまり、「舞姫」から恐らく10年以上…15年?とかが経過している訳です。
    主人公は青年ではなくなり、立派な明治政府の官員になっています。大人な男性の感じです。
    明治国家の運営という事業の中に、小なりと言えども役割と責任を自覚していそうな落ち着き具合です。

    はるばるドイツから、「舞姫」の踊り子がやってくるのです。東京に。

    そして、ふたりはホテルのレストランのようなところで会います。

    しかし、やけぼっくいだとか、色っぽい感じではないんですね。
    「舞姫」は大人の女になり。
    芸人としてアジアも回る途中で来たんです。偉大なるドサ廻りです。
    そして、男がいます。夫がいます。芸人仲間です。精錬純白な感じではなく、それなりにすれちゃってるんです。
    夫は居るけれど、愛だとか純潔だとかじゃないかんじなんです。生活の為。人生の成り行き。

    夫はまあ夫でいるけれど、一人で会いに来てるんです。
    そして、主人公と「元・舞姫」は、気まずい会話を実にグレーな味わいで応酬します。

    そして小説はブツンと終わります。

    こ、これは…なんとも。
    美しかった思い出が。甘く酸っぱい記憶が。
    「過去と地続きの現在」によって、えづくような苦みになります。
    主人公は、致し方なく淡々とそれを受け止めます。

    寒い日の、やるせないため息のような、哀しい湿り気。
    なんともひんやりと、あくまでグレーに濁った東京の空。

    そんな感じの1篇でした。

  • 先日『鷗外の怪談』という舞台を観劇し、森鷗外の作品に興味を持った為、拝読した。
    収録されているのは独逸三部作と言われている『舞姫』『うたかたの記』『文づかい』と、舞姫と関連の深い『普請中』、そして翻訳『ふた夜』。今回は鷗外の作品が読みたかっただけなので『ふた夜』はとばしてしまった。
    独逸三部作は文語体の為多少の読みづらさはあるが、ストーリーは至ってシンプルなので、理解はしやすく、また描写も丁寧なので想像がしやすい。思ったより読みやすくて安心した。注釈も細かく丁寧に書かれているので、注釈ページと往復しながらじっくり当時のドイツを味わうことが出来てとても有難い。
    森鷗外が日本のロマン主義文学の発端らしいが、その名の通りどの作品もとてもロマンチックだ。哀愁が漂い、どこか非現実的で、一昔前の少女漫画みたいな印象を受ける。男性が夢見るよりも女性が夢見そうな物語だと感じた。特に『うたかたの記』の冒頭、Cafeでヒロインが主人公の額にキスをするシーンなんかは、その大胆な行動に憧れる女性も少なくないのではなかろうか。現に私も「かっけぇ」という感想が口から漏れ出た。ロマンチックな描写が丁寧に書かれているからこそ、映像が色鮮やかに脳内で流れる。この時代からロマンを感じるものに変化はないのだなという感想を抱きかけたが、私たちがロマンだと思う物の礎を築いたのが森鷗外だと考え改めるとやはり偉大である。
    巻末の解説によると、森鷗外は非常に勤勉・優秀で、軍医や大学講師も勤めながら小説を書き翻訳までしていたらしいので本当に凄い。睡眠も一気に取らずこまめに取る分割睡眠法だったとか。人間やろうと思えばなんでもやれるのだと勇気づけられるが、日々の忙しさから逃げる為にロマンチックな妄想を繰り広げていたのかもしれないとも考えた。
    個人的にはとても楽しめた上に、森鷗外の生き方に勇気づけられたので、次は舞姫から約20年後に書かれた『雁』を読んでみる事にする。

  • 「舞姫」
    高校の授業で取り上げられたけれど、ちゃんと読みたくて読んでみた。話が森鷗外の実体験というのがスゴいですね。

  • 人とのめぐり逢いは大切です。。。

  • 男性が、男性視点でものを書いているのにも関わらず、男性から見た女性よりもむしろ、女性から見た女性を不思議に感じ取った。
    読み手の性がそう読ませた可能性もあるが、「うたかたの記」「ふた夜」「舞姫」「文づかい」「普請中」と終わりに向かうほどにその傾向は強まったように感じる。
    現代口語的な文章ではないため、読みづらさはあるが、特に「うたかたの記」と「舞姫」は、そうであるからこそ、よりロマンティックとも言えるかもしれない。

  • 文豪の、名作。と呼ばれるものは授業でふれたきり。夏の文庫フェアはよくできた仕組みかもしらん。はさておき。

    旧仮名使い。で、ニュアンスで物語を読み切ったが、解釈はあっているのか甚だ疑問。留学した経験をどこまでベースにしているかは不明だが、ドイツ三部作。と称される三作が入ってる短編集。重厚かつ陰惨とした空気感は感じ取った。

    美術、演劇、音楽をモチーフに、展開する物語。というのは、理解できたが…。細やかな機微というやつをくみ取れない己の読解力のなさにがっかり。これはちと現代語訳を読んでからトライアゲインだぞなもし。

  • よみづらい・・・。

  • これも青空文庫にて。いろいろなレビューやらなんやら、豊太郎は酷い酷いと言われていたけど、私は豊太郎を酷い奴だと一言では言えないなと。豊太郎の気持ち、わからなくもない。エリスが好きだからこそ、言えなかった。家族も仕事も大切だから、悩む。でも、相沢の口から真実を知らされるエリスにとって拷問に等しい程の苦痛だったろうに…。エリスの愛は本当に愛で、私は慈愛溢れる愛に見えた。短いながら一言で表せない作品であり、誰も責める事が出来ないと感じた。

  • 悲恋の少し切ないお話でした。でも、読んだ後に暗くなることはなく、しんみりする感じでした。

  • 主人公最低やん

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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