雪国 (角川文庫)

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  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041008461

作品紹介・あらすじ

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。「無為の孤独」を非情に守る青年・島村と、雪国の芸者・駒子の純情。魂が触れあう様を具に描き、人生の哀しさ美しさをうたったノーベル文学賞作家の名作。

感想・レビュー・書評

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  • ちょっとドロっとした人間模様。どこか郷愁を誘う綺麗な文章。次は、雪を見ながら温泉宿で再読したい。

  • 「こんな話」を、ここまで叙情的に、あはれに、虚しく、美しく綴れてしまうところが、何を書いても清涼な世界観を構築できた川端の文体マジック極まれりと感激する作品。決して悪口ではなく。

    ストーリーに明確な展開があるわけではなく。
    現代的に言えば、都会に妻子を置いて、地方に遊びに来る準ニートクズ男と、性産業に身をおく地元のちょっとメンヘラ気味だけど健気な少女の関わりを描写した、わりと負の面を綴ったともいえる小説なのに、実にあはれで美しい世界観となっている。

    もう少し本文の内容に即して言うと、カタチばかりの芸術の仕事をし、その実、親の遺産でのうのうと生きる妻子持ちの男・島村が、定期的に訪れる旅先の雪国にて、肉体関係を持ち馴染みとなった芸者の少女・駒子の自分に寄せる一途な愛情を「徒労で哀れなもの」と思い、そう思う自分自身までも哀れと思い、かといって、責任を取る気なんてさらさらなく。しかも、駒子と近しく何やら複雑や関係にあると思われるのにその関係がはっきりしない別の美しい少女・葉子にも心を惹かれていて…。

    …という、わりと最低なあらすじのお話。

    物語は始終、島村視点で進むのだけど、「なにぬかしとんねん、このオッサン」って何度も思った私は、悪くないと思う。

    その反面、芸者にまで身を堕とした(間接的な表現ではあるけれど体を売っていることを示唆する描写が複数ある)駒子をはじめとして、不遇の環境の中でも何かを選択し、時に自分自身の激しい感情を持て余しながらも生活のために必死に生きる女性たちの描写は胸を打つものがある。
    きっと、生活の心配などなく全てを他人事として眺める島村の視点だからこそ、対比的に、彼女たちの純真さや生命力とも言える必死さが際立つのだと思う。

    また、作品のあちらこちらで綴られる、土地の細やかな情景描写は、まさに瞼の裏にその風景が思い浮かぶほどの繊細な見事さ。
    その情景の中に、濃深縹色、檜皮色、桑染色など、単純な原色ではなく自然に由来する和名の、濃淡を強く意識させる色を記しているのも、目に映る世界をより鮮明なものにしている効果があるようで、心惹かれる。

    面白くわかりやすい作品では全くないけれど、川端の清涼で緻密な文体美を堪能できる作品はありますね。

  • 無為徒食の男・島村は、駒子に会うために雪国の温泉を再訪した。駒子は許嫁と噂される男の療養費のために芸者となっていた。島村に情熱を注ぐ駒子だったが、島村は汽車で会った女・葉子に心を奪われ始めていて──。

    「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」
    有名すぎる開幕の一文。なんとなくその美しさに引き寄せられて、大人になって初めて読むことに。とにかく雪国の描写が研ぎ澄まされている。ぼんやりと眺めても読めるし、どこまでも読み込める底知れなさも感じられる。

    心理描写については半分も読み解けていない気がする。退廃的で現実を浮遊する男・島村と、一途さは伝わるものの破滅的で機嫌がころころ変わる駒子。繋がろうとするほど遠いその関係性は、まさに徒労のようにも思えるが、人生とは徒労が降り積もる雪国ではないか。そう考えると、これも美しさの形なのかもしれない。

    『こころ』や『人間失格』は感情移入して読めたものの、『雪国』はよくわからなかった。というか、わざと会話や場面を飛ばして書いているのでは?という噛み合わなさを感じた。あと、島村が「左手の人差指だけが女をなまなましく覚えている」とか、「匂いを嗅いでみたりしていた」とか考え始めて、いやいやそういう意味じゃないよな、ぼくの心が汚れているんだ…そういう意味かい!ってなってびっくりした。

    p.73,74
    いつも山峡の大きい自然を、自らは知らぬながら相手として孤独に稽古するのが、彼女の習わしであったゆえ、撥の強くなるは自然である。その孤独は哀愁を踏み破って、野性の意力を宿していた。幾分下地があるとは言え、複雑な曲を音譜で独習し、譜を離れて弾きこなせるまでには、強い意志の努力が重なっているにちがいない。
    島村には虚しい徒労とも思われる、遠い憧憬とも哀れまれる、駒子の生き方が、彼女自身への価値で、凛と撥の音に溢れ出るのであろう。

    p.131
    「ううん、いいのよ。私達はどこへ行ったって働けるから」
    その素直な実感の籠った調子は、親譲りの財産で徒食する島村にはひどく意外だった。
    「ほんとうよ。どこで稼ぐのもおんなじよ。くよくよすることない」

  • 難しい。大筋は単純な話ではあるけれど、何度か読み込まないと、理解できないな。ただ描写は本当に綺麗。風景描写が美しい。

  • 純文学。妻子がいながら、雪国の温泉宿で芸者の駒子と過ごす主人公。さらに葉子にまで興味を持つ。色に乱れたシーンは無いが、内容はエロに近い。うーん、よくわからない。

  • 純文学の好きなところは
    感情を説明しすぎないところで
    今この人物はどんなことを考えているんだろう
    どうしてこういう行動をとったんだろうって
    自分で想像してみるところだと思っています。

    「君はいい女だね」
    たったその一言が、
    別れを代弁する言葉になったり
    感情を説明しないことが
    一番忠実に伝わる説明になることを
    雪国をよみながらしみじみと感じました。

    なんといっても雪国は文章や、
    登場人物のセリフが美しいです。

    最後、別れの予感が二人の頭によぎりながら
    その真上に輝く天の川。
    風景はその時見る人の気持ちや
    誰と見るかでその美しさをかえる。
    あの天の川は二人にとってもう二度と見ることのできない刹那の美しさ。
    はじまりがあって、必ず終わりがくる。
    終わりがあるから一瞬一瞬が輝いて
    なんとも言えぬ気持ちになりました。

  • すべてを文にして語らない、それが川端康成の作風だと思うし『雪国』ではそれが特に顕著だと思う。

    寒々とした風景の描写はひたすら美しい。
    星空の描写が特に好きです。

    自分にとっては意味の内容なことが他人からすると生きていく理由になるというのは今でも通じるテーマ。
    小説なのに、文豪なのに『書かないこと』を徹底して必要最低限な言葉で構成された作品なので、一から十まで説明してほしい人からすれば読み取るのが難しい。
    文章からいかに『察する』かが求められる。

    すべてを咀嚼できているとは思えないのでまた時間を空けて読んでみます。
    駒子は一生懸命で哀れでかわいい。

  • 大傑作
    鏡を使うなどの視覚描写の巧みさは言わずもがな、
    台詞における引き算の美学も大好き。

    さながら極寒で無機質な雪国が魅せる自然の美しさのよう、過酷な状況で逞しく生きる女たち。

    男に熱があまりないのが、よい比較になっている。

    主要な4名の具体的な描写があるわけではないが、関係性や台詞や行動で、感情が浮かび上がってくる。
    このように余白が私たちに妄想を促してくれるので、読むのが楽しくなる。

  • 非現実と現実の狭間のような世界を持っていて好き。駒子の言葉には強い生命力とか弱い女の部分とが入り交じっていて、何とも人間臭くて惹かれた。

  • 1回目は全く理解できなくて数年ぶりにこの本をとって読んでみました。日本語ってこんなに綺麗なんだなと思わせてくれる文章でした。どうやって生きたらこのように描写や感情を美しく言語化できるのでしょうか。

    ただ相変わらずストーリーが面白いかと言われるとよく分からなくて、何がオチなのかなと疑問です。

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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