高野聖 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041008492

作品紹介・あらすじ

飛騨から信州へと向かう僧が、危険な旧道を経てようやくたどり着いた山中の一軒家。家の婦人に一夜の宿を請うが、彼女には恐ろしい秘密が。耽美な魅力に溢れる表題作など5編を収録。文字が読みやすい改版。

感想・レビュー・書評

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  • 全体に歯切れ良くリズミカルな文章。擬音語の差し込み方が印象的で好き。最後までぐいぐい読まされてしまう。

    初めの収録作品は、まず怒涛のように押し寄せる見慣れない漢字や古い文法に面食らったけれど、分かり易い展開と心情描写のお陰で、慣れてしまえばすいすい読めた。高野聖、眉かくしの霊になると、大仰な表現は鳴りをひそめ、華美な装飾を削ぐことでさらにリズムの良さ、品の良さが際立っている。美しい情景描写を堪能し、楽しい読書時間を過ごせた。
    以下ネタバレ含む、各話感想。

    義血俠血
    勢いの良い若々しい文章。義理人情が主題のためか、熱っぽくドラマチックな展開が続き、まるで舞台を観ているよう。
    特に多く割かれた前半の競争シーンや、白糸の殺人を犯す場面は圧巻の臨場感!

    夜行巡査
    抑揚がなくやや退屈。伯父と八田の極端ぶりには心底驚き。最後に皮肉っている辺り、揶揄の対象を考えさせられる。
    時代を考えると社会派な一面もある作品?色々な読み解き方がありそう。

    外科室
    まさに病院の中のような白っぽい文章。
    道ならぬ恋、ひた隠していた想いが情熱を育み、それを解き放つとき。
    非常に奥ゆかしい恋だと感じつつも、夫人はなんと剛毅な人かと。読んでいて血の気が引いた。

    高野聖
    ぐんと文が洗練されている。これまでの小話よりも話の奥行きも増したように思う。
    色っぽい場面があるけれども、艶かしさよりも、妖しさや神秘性が際立つ。
    蛭の森や水辺の描き方など、異形の世界のようでありながら、神話的な荘厳さも感じる。
    読解力不足で大事なところを見逃したみたい。「高野聖」に呼び名を変えたところを気付かなかった。
    忘れた頃に再読しよう。

    眉隠しの霊
    これもまた舞台にできそうな美しさ。
    お化けものながら、こちらもやっぱり高貴な雰囲気漂う。
    残念ながら物語それ自体については、理解が及ばなかったのか、良さがわからなかった。
    自分の旦那を救うのに、旦那の情婦に協力してもらう…?当時では不思議でなかったの?あとがきでもなんじゃそりゃ扱いされてたので、なんとも。。
    しかし綺麗だった。幽霊の登場シーン。

  • 古い文体だけど読みやすかった。
    文章のリズムも良く言葉も美しい。
    何よりストーリーが面白い。特に前半の3つの恋物語はいずれも成就しないで終わっている。その秘めたる想いが何とも哀しく美しい。

  • 目次
    ・義血侠血
    ・夜行巡査
    ・外科室
    ・高野聖
    ・眉かくしの霊

    泉鏡花の代表的な作品が収録されていますが、どれも初読みです。
    泉鏡花といえば耽美的な作品(「高野聖」「眉かくしの霊」が有名ですが、どちらかというと私は思いがけない純情がほとばしる「義血侠血」や「外科室」が好みでした。
    永井荷風が好きそう。

    「外科室」は読んだことがなくてもどんな作品か、ということは知っていました。
    手術の麻酔で朦朧としたまま秘密を口走ることを恐れて、麻酔を拒否する貴族の女性。
    この設定で想像していたのは、医師や看護師の白衣や、手術台の上に灯されている無影灯、血の気の失せた青白い患者の顔など、白く冷たい光景。
    そして、秘密の漏洩を怖れる貴族のプライド。

    ところが、熱いんですよ、彼女の心情が。
    夫がいようと子どもがいようと止めることのできない思いにずっと蓋をしてきたのでしょう。
    そして最後まで蓋をすることを決めていたのでしょう。
    そのきっかけが、そんな些細なところにあったなんて。

    ストーリーを知っていても、読まないかぎりは作品を知ったことにはならない。
    あらすじで知る名作なんて、くそくらえ、だ。

    そして、この本を読むまで全く知らなかった「義血侠血」が良かった。とても。
    父の死で学校を諦めざるを得なかった、法学士志望の乗合馬車の御者の青年。
    美貌と気っ風のよさで人気の女芸人(お笑いではない)。
    ひょんなことから知り合ったふたり。

    彼女は彼に夢を託す。
    平凡な幸せという夢を。
    そのため、彼の学生生活を援助し、彼の母親の面倒を見る。

    ところがそんな生活もあと一年、という時に事件が起こる。
    そうなつもりはまったくなかったのに、坂道を転がり落ちるように罪を重ねてしまう彼女。
    とはいえ証拠のないことで、しらを切りとおす。
    そんな時、彼女が支援してきた彼が、彼女の目の前に現れる。

    ああ、何でこんなことになってしまったんだろう。
    自分のできる範囲で、精一杯生きてきたのに。
    彼と彼女は出逢わないほうが良かったのだろうか。
    いや、不幸ではないが幸せでもない人生より、一瞬でも幸せだった方が良かったのだろう。
    彼女は彼に感謝しながら本当のことを告げたのではないだろうか。

    川上音二郎が「滝の白糸」として舞台化。

  • 明治に書かれた作品だけあって、ふりがなが付いていても読むのはなかなか難解。でも、それ以上にストーリーの面白さと、テンポの良さが勝っていて、気づいたらあっという間に読んでいた。

    どの話にも、艶めかしく妖しげな女性と、ちょっと不器用な男が出てきて、絡みもつれる情緒のやり取りが良い。

    人間の脆さ、危うさが摩訶不思議なストーリーに組み込まれた鏡花ワールドには、独特の読了感がある。

  • すぐ死のうとする。
    この時代は命に対する感覚が違ったのだろうな。
    表題作の高野聖より、冒頭の義血俠血でやられちゃった。
    そんなんアリ?という感覚。

  • 鏡花の文は普段読みなれているものとは少し違うので、とにかく最初は戸惑った。だが少し読み進めるとこのリズムがとても心地よく、無駄のない美しい文章が紡ぎだす情景に虜になった。「義血侠血」の叫び出したいほどのやるせなさ、「外科室」のラスト一行を理解してじわじわと噛み締める余韻。「高野聖」「眉かくしの霊」この世とこの世ならざるものとの境界が艶やかな女性とともに表現される薄ら寒さ。耽美的美しさは内容だけでなくこの文章からも匂い立つのだろう。気づくと三度目の再読をしていた。鏡花の世界から戻れなくなったかと思った。

  • 角川の夏フェア本。かわまぬカバーにひかれて。泉鏡花賞は存じ上げていたが大元の泉鏡花作品は初。世間は不条理にあふれているが、その不条理の中で生きるのが人の業というもので。人には様々な事情がつきまとうものだが、どこかに肩入れするでもなく、フェアネスにあふれた描写がよかった。漫画「秘密」で青木が言ってた外科室が収録されていて、読んで納得。確かに青木の言わんとすることは言い得て妙であった。

  • 「義血侠血」の御者が荷車を捨てて、美女を連れ、馬で真一文字に疾走するところ。なんてかっこいいシーンなんだろうと思った。

  • これは……なんで今まで読まずにいたのだろう。
    こんな幻想的な小説を書く人が、ずっと昔に存在していたんだ。
    素晴らしすぎて、言葉にならない。
    美しい文章に流れるようなペースで読んでしまった。

  • 文体が当時のものなので、正直なところ物語に引き込まれる様なペースを作れなかったのが悔しい。
    その様な訳で、面白かったとかつまらなかったとか、語ることはできない。

    『高野聖』や『眉かくしの霊』などは言ってしまえばホラーだし、『外科室』なんかは大正浪漫って感じだ。
    ホラーなんて特に、あらすじを言って価値のあるものでもない。

    外国語の文学に置いて行かれるのも、こんな感じなのかなぁ。
    無念。

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著者プロフィール

1873(明治6)年〜1939(昭和14)年)、小説家。石川県金沢市下新町出身。
15歳のとき、尾崎紅葉『二人比丘尼色懺悔』に衝撃を受け、17歳で師事。
1893年、京都日出新聞にてデビュー作『冠弥左衛門』を連載。
1894年、父が逝去したことで経済的援助がなくなり、文筆一本で生計を立てる決意をし、『予備兵』『義血侠血』などを執筆。1895年に『夜行巡査』と『外科室』を発表。
脚気を患いながらも精力的に執筆を続け、小説『高野聖』(1900年)、『草迷宮』(1908年)、『由縁の女』(1919年)や戯曲『夜叉ヶ池』(1913年)、『天守物語』(1917年)など、数々の名作を残す。1939年9月、癌性肺腫瘍のため逝去。

「2023年 『処方秘箋  泉 鏡花 幻妖美譚傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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