死刑 (角川文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041008812

作品紹介・あらすじ

賛成か反対かという二者択一ばかりが語られ、知っているようでほとんどの人が知らない制度、「死刑」。生きていてはいけない人っているのだろうか?論理だけでなく情緒の領域にまで踏み込んだ類書なきルポ。

感想・レビュー・書評

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  • エッセイに分類していいのか?著者が「死刑」について考え、悩み、いろんな人に会って話を聞き、自分は死刑制度を存置すべきと考えるのか、廃止すべきと考えるのか、結論を出そうとする(最後にちゃんと出します)、そういうロードムービーです。
    実は…熊谷達也さんと勘違いして、他の方のブログで文庫の表紙をちらっと目にして「へー、あの作家さん、こんなのも描くんだ」と思って即購入。別人やないかい!(笑)。
    とはいえ、この頃平野敬一郎さんの「死刑について」など、死刑に関する本をかなり読んで、いろんな方向から考えたかったのでとても参考になり、興味深かった。実際に死刑に携わった元刑務官や、死刑囚の人や、存置派の人、廃止派の人、いろんな人から話を聞いている。ただそのインタビューをつづったものというよりは、そのたびに揺れ動く自分の気持ちや、矛盾を突き詰めて考えていて、死刑制度の難しさがより切迫した感じで伝わってくる。
    強調しているというよりは、自然と強調されるようになっているのが、存置派であろうが廃止派であろうが、何もせずに日本の現状を維持している以上は、私たち国民一人一人が、死刑制度を存続させているシステムの一部になっているということだ。
    受け止め方は人それぞれだと思うが、私の印象としては、3分の2くらいまで、死刑廃止派になりそうな方向に気持ちが持っていかれるのだが、そのあと、2歳の孫を殺され、そのために孫の母親(自分の娘)家族がめちゃくちゃにされてしまった老人が出てきて、迷いなく「犯人を許せない、命をもってつぐなってほしい、同じ空気を吸っているだけで嫌なんだ」とストレートに語るところで、多くの読者がやはり存置派に引き戻されそうになる。と思う。
    そうなのだ、冷静に考えたら死刑制度は国家による殺人であり、成熟した社会においてはなくすべきだと多くの人が思うのだが、廃止できないのはやはり、「もし自分の大切な人が殺されたら、犯人を死刑にしたいと思うだろう」と考えてしまうからなのだ。
    この部分はやはり、涙なくして読めないし、こころがねじれそうになる。
    最後はきちんと、著者は自分の結論を出す。
    そのシンプルな根拠は、シンプルゆえに説得力があると私は思った。その思いは、切なかった。私も理解したいと思った。

  • 『U相模原に現れた世界の憂鬱な断面』、『A』に続いて森達也の本は3冊目である。
    死刑に関しては青木理著『絞首刑』を読んだことから問題意識を持っていたが、本書はそれを深めてくれる良書であった。
    「分からない」ところから始めて取材を通して思索を重ねる。その間の揺れ動く気持ちをも書き付けることで思索の旅に読者を引き摺り込むのが森達也の手法だが、本書はそれが存分に発揮されている。
    テーマは死刑存廃問題。存置派は被害者の応報感情を、廃止派は論理的矛盾を主張するが、これはいわば感情と論理の戦いであり、交わることはない。森達也はそれを止揚して「殺したくない」「救いたい」という「本能」を結論とする。
    しかし、思う。存置派の応報感情も同根ではないか。被害者は犯人を殺したいと思うが、手をかけるのは本能的に抵抗がある。ゆえに被害者に代わって国が死刑を執行する。つまり人を殺めることへの本能的忌避感から、被害者は存置、第三者は廃止と主張するというのが死刑存廃問題の構造ではないか。
    ここまで考えてくると、死刑制度の核にあるのは被害者の応報感情であることが分かる。つまり、制度の核に感情を置くという歪さが問題の本質なのだ。
    釈尊は「いかなる動物なら殺しても良いか」との弟子からの問いに「殺す心を殺せば良いのだ」と答えた。この言葉は詭弁でも逃避でもない。「いかなる犯罪者なら殺しても良いのか」と問われても同じことを言ったに違いない。

  • 作者の視点が私と同じ、何も考えていなかったところから始まっているのがいい。
    私は本を読みながら、作者はいろいろ取材しながら少しずつ知っていく。
    何を知っていくのかは問題だけど、とりあえず死刑という字面だけで、知ったような気になっていた自分を知った。

    どんな犯罪人でも、国が殺してはならないと思った。
    被害者遺族の思いは決して否定しない。
    ただ殺してならないと感じている。

  • 「死刑」について、一般の人は深く考えたことはないだろう。もちろん、私もその一人。
    この一冊を読んだところで、死刑に賛成だの、反対だの、自分なりの判断さえも下せないが、とにかくいま日本で私たちがさして考えない中で存在している死刑制度について、少し知っても、そして考えても、議論してもいいのでは。

  • 森さんは答えを出す
    あらゆることを考え、見て(少なくとも見ようとして)答えを出す
    でもそれは森さんの答え
    この本を読んで僕はどう考えるか?
    それをこの本は突きつけてくる

  • 友だちと死刑についての話題で意見が食い違い、そもそも死刑について私はそんなに知らないぞ、と気づき、森さんが書いてるじゃん!と読んでみた。もちろん、賛成反対のどっちに思いを寄せてる人が書いてるかで、言葉の強さやニュアンス、受け取り方は変わるんだろうけど、できるだけ、どちらの立場だからってゆうだけじゃない見方で書いてあって、とってもいろんな人への誠意を感じます。
    ものすごい犯罪を犯した人が死刑を受けるべきか、という問いには、絶対に賛成/反対の意見はもちあわせいていないけど、日本のずっと変わらない警察や政治の闇みたいので、冤罪が一件でもあるかもしれないと思うと、死刑反対の立場です。
    大切な誰かが被害者であっても、大切な誰かが容疑者であっても。

  • 2010年8月27日。法務省は時の法相の意向を受けて、小菅の
    東京拘置所の刑場をマスコミに公開した。

    日本で初めての公開と報道されたので、私もそうなんだろうと
    思っていたが本書によると以前にも刑場の様子は公開されて
    いたそうだ。

    2010年の公開にしても、勿論、取材出来たのは大手メディア
    だけ。公開されたのは一部分だけなので完全公開とはならな
    かった。

    日本での極刑である死刑制度。賛成か反対か。それぞれが
    意見を持っているであろうことなのに、詳細については厚い
    ベールに包まれていて、あまりにも知らないことが多い。

    本書は3年の月日を費やした死刑を巡る旅である。処罰なのか、
    それとも国が代行する復讐なのか。

    元死刑囚、執行に立ち会ったことある元刑務官、死刑囚と一時を
    過ごす教誨師、被害者遺族、元検察官、死刑制度廃止を訴える
    国会議員、そして死刑確定囚。

    存置か廃止か。取材を続ける著者はさまよう。同じ被害者遺族でも
    加害者の極刑を強く望む人もいれば、減刑を求める人もいる。

    何故、死刑が必要なのか。死刑には犯罪抑止力があるからとは
    長年言われ続けているが、そんなのは方便。抑止力があるのなら、
    死刑判決を受けるような犯罪は既に起きないはずだもの。

    法務省が隠したいからなのだろう。私たちは死刑があることは
    知っているが、死刑についてはあまりにも知らない。本書では
    執行に立ち会った元刑務官の話等で、少しはその実態を知り、
    考えることが出来る。

    存置か、廃止か。多分、明解な答えは出ないのだと思う。だが、
    本書を読んで考えることは出来る。

    単行本刊行当時、本書には長い副題がついていた。

    人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う。

    奪われていい命はない。命の重さに区別はない。しかし、それは
    理想論だ。分かっている。でもやはり、命は命なのだと思う。それ
    は他の命で購えるものではないし、ましてや金銭に置き換える
    ことなんて出来ない。

    裁判員制度が導入されて、死刑判決が増えている。被害者感情
    への共鳴の表れなのかもしれない。自分がいつ裁判員になるか
    分からぬ今、死刑制度についても考えなくちゃいけないね。

  • 罪とは罰とは命とは。
    死刑の議論は、いつも「賛成か」「反対か」の二項対立ばかり。
    しかも、ほとんどの人はその実態を知らない制度。
    多くの当事者の声を聞き、論理だけではなく、情緒の問題にまで踏み込んで考えます。
    確定死刑囚の元少年との面会も描かれます。
    死刑制度の本質に迫ります。

  • 重い
    冤罪がいちばん怖い

    リアルタイムで読むべきだな

    このてのテーマに関わらないでのほほんと暮らしたい

  • 「死刑は不要なのか。あるいは必要なのか。人が人を殺すことの意味は何なのか。罪と罰、そして償いとは何なのか。」
    答えをだすのがとても難しい問題に挑んだルポ。森氏の心の動きも素直に綴られている。
    私自身は死刑制度には反対だけれど、そのうえでもとても深く深く考えることが多かった。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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