三秒間の死角 下 (角川文庫)

  • 角川マガジンズ
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041010747

作品紹介・あらすじ

政府上層部は保身のためにパウラを切り捨て、彼の正体を刑務所内に暴露した。裏切者に対する激しい攻撃を受けたパウラは、入所前に準備した計画を実行に移す。その行動は誰にも予想のつかない大胆不敵なものだった!

感想・レビュー・書評

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  • エーヴェルト・グレーンス警部
    シリーズは、毎回「社会の闇」と翻弄されるは犯人、被害者の視点と事件を追うグレーンスのパートで構成される。

    今回は、元犯罪者で警察と秘密裏に繋がり犯罪組織の潜入捜査おこなうパウラが主人公。
    薬の取引中に別の潜入捜査官に出会し、そいつが死ぬかバレて自分が死ぬかの選択を迫られ、相手を殺してしまう。
    警察としては表沙汰にできないが、巨悪である犯罪組織の中枢に潜り込むためには、その犯罪を無かったことにする必要があった。
    警察上層部に管理官と共に掛け合い、罪を揉み消し、刑務所に売人として潜り込むパウラ。そして外では「諦めの悪い男」であるグレーンスが事件の違和感に喰らいついていく。
    バレることを恐れた上層部はパウラに対して非情な決断を下す…

    だいたいがあらすじに書いてあり、悲しい話になるんだろうな…とある程度想像してました。
    ですが、パウラの潜入捜査官としての緊張感があり予想裏切って(悲しいは悲しいが)下巻はほぼ一気読みでした。グレーンスのパートも今までの事件に関わることが出てきたり、なかなかの熱量でした。
    続編があるのですが、まだ余韻があるので、ちょっと楽しみに取っておきます、

  • うん。面白かった。
    仕掛けも伏線もきれいに回収してスッキリ。
    最後に来てやっとタイトルの意味がわかった。終わり方も良かった。

  •  本書は、『制裁』『ボックス21』『死刑囚』『地下道の女』に続くエーヴェルト・グレーンス警部シリーズの5作目であり、ある種の到達点となる作品である。それぞれの作品はそれぞれに異なる事件を扱っているものの、シリーズ全体がグレーンス警部を中心とした人生ヒストリーとなっているため、物語を動かす人間たちにも重点を置いて読みたい方は、どうか最初から順にお読み頂きたい。

     かつてランダムハウス社から出されていた三作は同社倒産による長い絶版の後、『熊と踊れ』が大好評を得たことから同ハヤカワ文庫よりシリーズとして順次再刊された。角川文庫で本書が発売された当時から6年もの間未完であった待望の『地下道の少女』は、この2月に新訳で上記ハヤカワ文庫のシリーズに加わったため、今であれば、誰もが正当な順番で読み進めることができる。ぼくもその種の幸福な読者の一人であった。

     そのことをここで強調しているのは、これまでの作品の経緯が本書の物語中各所で語られたり、過去作品の登場人物が再登場したりすることに加え、グレーンス警部にとって『地下道の少女』の巻末近くで大きな転機となる出来事が起こり、本書はそれを受けて、その影響から未だ逃れられず、元来の奇矯な行動にもさらなる変化や迷いが生じ、それが周囲のレギュラー・キャラクターとの関係性にも大きく影響を与えてゆき、それは大きなサブ・ストーリーとして本書の事件にも大きく関わってくるからだ。作品毎のストーリーに、シリーズ全体の流れを読み加えると、一冊一冊の物語に相当の奥行と深みが加わるので、大変重要なことだと思う。

     さて、この作品のことに移ろう。

     そう。この作品は、シリーズとしても単発作品としても、最初から不穏な爆発物だった。本作の前半部(上巻)は、導火線だった。その長い導火線は、実は最初から点火された危険な状態で読者に渡されていたのだが、その事実にぼくらが気づくのは、ずっと後、上巻の最終行に至る頃だ。

     そして下巻では、行頭から凄まじい火力の爆発が待っている。爆発後には、収拾の着きそうにない、絶望的な状況が残る。しかし、ここにグレーンス警部シリーズが関わってゆくことで、この難事件の解決に向けて強力な化学反応が生まれる。その構成だけで、十分にすべてが成功している。読後の今だから言える。最後の最後まで、物語の真実はわからない。タイトルの意味も。

     今回、作品が扱っているテーマは、犯罪者を警察の協力者に仕立て上げ組織に入り込ませる不法な国家レベルの機密となる潜入捜査である。この潜入捜査を強いられ日々を消耗する主人公は、ピート・ホフマンこと暗号名パウラ。警察機構の極々上部の者しか関わらず、極秘裡の超法規的捜査活動に携わる者たちの心にも大なり小なりの悪の濃淡が感じられ、自らの人間性に向き合う者は、過酷なストレスに曝される。

     パウラたちのようなスパイは、正体が割れた途端に組織から追われる身となるが、警察機構にとってはその瞬間から彼らは使い捨ての存在となる。そうした一つの駒に過ぎないパウラは、ある刑務所内での薬物流通を乗っ取り、組織を壊滅させるという重い任務を背負い込む。物語は、深く組織に潜入した主人公パウラを主体に、緊迫した時間と、彼の綿密な準備活動と、その後の作戦の経緯と、そして文字通り爆発的な転換によって静から動へと変わる。

     パウラの受ける運命の過酷。切り抜ける意志と、閉じる罠。下巻の疾走感は素晴らしい。この作者ならではのものであるストーリーテリング。パウラの起こした大爆発。そして収拾を運命的に引き受けることになるエーヴェルト・グレーンス警部。彼の心の救いを求める物語と同時進行し、収斂してゆくこの巨大な物語に、握り拳で快哉を叫びたくなる。傑作としか言いようがない。

     『制裁』『死刑囚』に続いてシリーズ三本目の舞台となる刑務所内部であるが、そもそも元ジャーナリストであるルースルンドと、共著者であり自らが服役囚でもあったトゥンベリのコンビなので、事実とフィクションをミックスさせて創ってきた本シリーズに重みがあるのである。しかし超法規的捜査活動による捨て駒の存在や彼らに関わる人物履歴データの違法改竄などは現実のものであり、この物語のように収集が着いてはいないらしい。エーヴェルト・グレーンス警部はフィクションなのである。常に現実とフィクションを混ぜ合わせて社会の現実にある矛盾を告発する立場での文学活動を基とするこのシリーズは数々の文学賞に輝いている。当作品は英国でのインターナショナルダガー賞、日本でも翻訳ミステリー読者賞受賞と高く評価されている。

  • 潜入捜査員パウラの使命は、犯罪組織がスウェーデンの刑務所に麻薬販売ネットワークを作ろうとするのを阻止すること。
    組織の中枢に潜り込み、刑務所内で活動を始めた彼を待っていたのはスウェーデン政府上層部の裏切りだった。

    犯罪小説めいた上巻から引き続いての下巻はハラハラのサスペンス。
    パウラの生き延びるための策略から目が離せず一気読み。
    警察小説でありながら、主人公のグレースンでなく犯罪者(一応)のパウラを中心に据えていて、なんとも重い話になっている。
    できれば政府中枢の人物たちのパワーゲームがもう少しあれば良かったかな。
    でも、まあラストはかっこ良かったし、読後感も悪くなかった。
    そしてタイトルの意味がわかった時のやられた感はすごいよ。

  • 途切れない緊迫感、入り乱れる善意と悪意、一文一文が重い。半端じゃない衝撃度。

  • グレーンス警部シリーズ。続編が発売になったため再読。殺人事件が起き現場に残るもの、証拠への疑問。警察が進める計画。それを実行する人物の背景、行動に多くのページが割かれているけれどそれがすごく面白い。刑務所内での薬物の蔓延、権力者たちの欲、身勝手さが描かれる。事件から予定通りに動く計画のなかでプライベートなことへの思いと揺れる心情と非情になろうとするところの狭間がいい。信頼、裏切り、復讐とさまざまな展開を見せる。下巻に入らとさらに張り詰めた空気になって面白さが増す。グレーンスの心境の変化のようなものが見えたりもして続編が楽しみ。以前読んだ時以上に面白く感じたしやっぱりすごい作品。

  • 政府上層部がとったパウラ切り捨て策は、彼が潜入捜査員であることを刑務所内に暴露することだった。たちまち裏切り者に対する容赦ない攻撃が始まる。とっさに刑務所長を殴打して、みずから完全隔離区画へ収容されたパウラだったが、そこも安全ではなかった。ここに至り、パウラは入所前に準備した計画を発動させることを決意する。生き延びるために彼がとった行動は、誰にも想像さえつかない緻密、かつ大胆なものだった!英国推理作家協会(CWA)賞受賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞受賞。

    主役はやっぱりパウラだった。冒険小説ののりもある、とても贅沢な上下巻。グレーンス警部のシリーズをもっと読んでみたい。早川書房様、よろしく!

  • ものすごくハラハラして、落ち着いて読めなかった。
    グレーンス警部のシリーズ物の五作目らしいけど、パウラのキャラクターがすごく良かったので、他の本のイメージが掴めない。

  • 潜入捜査員の話で、警察小説ってどれも似たようなものでは? と思う人にぜひ。本作には冒険小説的な興奮もある。ルースルンド&ヘルストレムの続きが読めて嬉しい。シリーズもので登場人物の周辺は前後関係あるけれど、本書から読んでも大丈夫。

  • 2023/8/18読了。潜入捜査や情報提供者は所詮は現代のアウトロー。利用し切り捨て組織犯罪を暴いて行こうとする警察組織。今後この拡大は止まらない?その為には権力サイドは法治社会に欠かせない要素であるはずの情報を、改竄、偽装すると言うことが、仕事の一部として平然と行われている。なるほど。最後のどんでん返しこそが題名の意味かと納得。まあ面白かった。

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著者プロフィール

アンデシュ・ルースルンド 1961年生まれ。作家・ジャーナリスト。ヘルストレムとの共著『制裁』で最優秀北欧犯罪小説賞を受賞。

「2013年 『三秒間の死角 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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