魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)

  • KADOKAWA (2013年12月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784041011478

作品紹介・あらすじ

ある日へんてこなステッキを拾った縁で、キュートな魔女と友達になった小学生の夏子。だが2人が良かれと思ってしたことが、次々血みどろ事件に発展していき──。ホラー界の鬼才が放つ、世紀の問題作!

感想・レビュー・書評

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  • 一見児童向けの表紙と表題だが、かなり邪悪な奇書。
    連作短編の形を取り、前半はB級映画のようなシュールなスプラッタ物だが、4話以降は胸焼けするようなダークな内容が大量展開される。
    子供が使う魔法など到底太刀打ちできない人間の深淵と無力感に戦慄する。
    読みにくい悪文は健在だが、ホラー作品として“黒光り”を放つ魔本だった。

  • すごい。
    エグさキュートさ不条理と切なさが最高のリズム感で絶妙なバランス。
    グロさが取り上げられるけど本質はそこではない。めちゃくちゃな文章ですごく大事なことが書いてある。
    誰にでも勧められる本ではないけど傑作。

  • グロテスクでスプラッタな描写が微に入り細を穿ち続くので好みはきっぱり分かれるが、それと同じ位イノセンスな描写が飛び出してくるのが癖になる、謎の依存性のある小説。

    一話目がある種壮絶なネタバレなのだが、これを最後におくだけで印象ががらりと変わる。
    夏子が肝心な記憶を忘れている(忘れさせられている)ので、読者と作者の間に共犯関係が成立する巧みな構成。

    登場人物の価値観もめいめいぶっとんでおり、まずそこで受け付けるか受け付けられないかふるいにかけられるが、痒いのを掻くのが気持ちいいビルマ君よろしく、その生理的な不愉快さも慣れると快感に裏返る。

    そして折々にとびだす比喩が感動するほど斬新。
    たとえば主人公の夏子・淡い初恋の心情。

    「私も夜小倉くんのことを考えることがよくありました。二人で話す機会は多くありませんでしたが、教室や登下校、近くで呼吸に触れるにつれ、目に入る彼をため込む抽斗を隠し持つようになっていたのでした。
    聞いた声や重ねた会話が夜開けて星に見えるように、喉の奥の内臓辺りに並べて飾ってあるのでした」

    この感覚、わかる……!
    一見支離滅裂意味不明だが、手垢に塗れた比喩では到底表せない微妙な琴線を弾いて共感の嵐。
    「バインダーぽい手触りの曇り空」などの情景描写をはじめ、あくまで女子小学生の知識の範囲から逸脱せずに、「あーわかる」となるオリジナリティあふれる比喩を駆使するのは凄い才能。

    グロ描写は活字では耐性あるので然程気にならなかったが、どちらかというと「雨を降らせば」での葬式会場での暴走など、無関係な弔問者への行き過ぎた仕打ちのほうが苦味が勝った。
    読み手の感性の問題なので、ブラックユーモアとして流せる人もいるのだろうが……

    収録作の中では「魔法少女帰れない家」が白眉。
    いい人だと思ってたひとが実は……な、お約束の展開なのだが、二重三重のどんでん返しに突き落とされる。
    いい話だなあで一件落着しかけたのにけっしていい話で終わらせてくれない、これぞサイコホラーの真骨頂。
    奥さんと夏子たちの交流を象徴する、微笑ましかったお面のエピソードが、ラストの数行で完膚なくぶち壊される。
    同じエピソードで同じセリフを扱いながら、こんなに印象が違うんだと衝撃。
    消された記憶の範囲は謎だが、お面をもらった時点まで遡らないなら、本当にただ興味がなくて貰ったことすら忘れていた可能性があり、暴かれた温度差がうそ寒い。

    最終話はダイジェスト版で夏子の人生もとい余生が描かれるが、ブルースとの関係性の変化に驚き半分納得半分。
    一話ごとに赤ん坊から幼児へ、幼児から反抗期へ、反抗期から思春期へ……と成長していく過程を見ていたので、最期の言葉は切なかった。

    ぬりえの願いの持論、「ただ巻き戻せばただ繰り返すよね」「私の願いじゃないから上手に線を引きかねる」、地球先生の雨のたとえ話など、含蓄みで考えさせられることも多い。
    一話目の惨劇が頭に焼き付いてる読者ほど、「なんでも願いが叶うって素晴らしい!」「困ってる人の願いを叶えてあげるのはいいことだ!」と無邪気に称えられないのではなかろうか。

    小学生の友人同士や家庭内での会話も、単語を投げ合ってる感じが等身大でリアル。

    胸を張って人に薦められるかといえば首を縦に振れまいが、ハマる人はとことんハマるだろうよそに類を見ない作風で、そっと評価されるべき怪作。

    「地獄は歩いてこない。自分から落ちていく」

    この言葉がいつまでも心に残る。

  • 感想が章を追うごとに変化します。
    なんだこれぶっ飛んでんなぁ
    →退屈。もう読むのやめたい。なにこれ。意味わかんない。
    →ふおおおおおこれだよこれ!こわいこわい。
    →えっそうなるの?あっはい
    →それでまとめるの?!嘘だろおい泣けるわけないじゃんふざけんなよ
    ホラーなのにエンターテイメント性は抜群。一章で気持ち悪くなってもその後の冗長な感じにも耐えられたらあとはぞくぞくする話が待っています。ラストはねぇ。仕方ないのかなーもう少し上手いオチなら胸を張って薦められるのに。
    結構好きでした。ナポリタン好きじゃないし。

  • ポップでグロテスクで、どうしようもなくシュールなホラー。こんな魔法少女ものは前代未聞です。一気に読むと頭がぐるぐるしてくる心地。独特の文体も、読みやすくはないのだけれどどこかしら中毒を引き起こしそうな印象。
    一見楽しそうな日常が、どうしようもなく混沌。何から何までぶっ飛びすぎ。だけどキーワードともなる「地獄は来ない」という言葉の意味が、ラストになると切なさを感じます。
    「魔法少女帰れない家」が秀逸。オチの邪悪さが何とも言えない!

  • 2025.5.28 読了

    私の体調の兼ね合いもあって読むのに時間かかってしまった…(*_*)
    いやぁー、クセが強い文章で読みにくい笑
    だけどそれが唯一無二で面白い!
    独特の世界観と読み心地で、どっぷり入り込めた話しと入り込めない話しと波があった。1話目と最後の話が好みだった❤︎

  • あんまり気持ち悪くも痛そうでもない余分なグロって感じ。これいるか?みたいなタイミングの。でも最終章にはじんわりして切なくなった。あと『魔法少女帰れない家』はめちゃくちゃ好き。子供の魔法をものともしない、本物の邪悪の凄味を見た。

  • 暗黒系ガールミーツガールの怪作。

    第1話:ああなるほどねー
    第2話:幻想的な作風
    第3話:趣味悪いな

    第4話:目が醒める。ここからが本番。
    第5話:単話としての完成度はこれがピカイチ

    第6話:何この名作!

    人間の少女である主人公が、魔女の少女に出会って、運命が変わっていくお話。

    魔女は人の願いをかなえてくれる。でもその願いは思ったとおりに成就するとは限らない。

    小学生的な視野の狭さと、「猿の手」的なコテコテの悪意とが混然一体となって、事態を悪化させて流れがとにかく悪趣味で好き。

    グロ描写もキモ描写も盛りだくさんで、倫理的にもいろいろ踏み越えてしまっているので、読み手はものすごく選ぶ作品。

    ただこれらの属性が許容できる方であれば、間違いなく至福の物語。グロキモの中から醸し出される仄かな抒情が堪らん

    矢部嵩作品、探して読んでみようかと思います。素晴らしかった

    将来的には角川つばさ文庫入りを目指して欲しい!

  • 矢部嵩は狂っている。あまりにも鬼才。グロテスクで、趣味が悪い、ここまで読者を不快にさせる描写の旨さは感服する。それでいて謎の読後の清涼感! 絶対読むべきです。

  • ※殆ど自分語りになります。

    知人に渡された本の中で、約8670日生きてきて、これ程までに自分の価値観形成に至るに語る本に近しい書物はありませんでした。私の今迄の人生が何かの設問だとして、間違いなくこの一冊は参考書となり得るものです。また、今後の私の人生の参考書にもなりそうです。

    作中で書かれている「よくなる明日を探しておれはもう二度と地獄への道をさ迷わない」「余生だから私」「どこにも帰れない」という言葉は、まさに全て自分が今までの人生で心から口にした言葉の要約乃至は一語一句変わらないものでした。
    そこら辺の安い「価値観の変わる作品」だとか、上っ面の感動や、掃いて捨てる程に転がった出会い別れ運命などの現実や物語とは、明らかに一線を画する作品です。

    最後に、これを勧めてくれた方には伝えにくいですが、まともな人なら、人に勧める作品に選ばないでしょう。

  • 全部読み終わってから、もう一度読み返したくなる構成だった。
    色々よく読んでいくと、フラグとか伏線があったのね。
    あと、メタ発言多すぎてワロタwww
    矢部崇さんのこの雰囲気狂おしいほど好き。

  • ある女の子が主人公(一人称)として書かれている。
    あらすじにあるように、魔女の家を訪ねることになり、主人公の友達はあっさりと殺害。そこから子供ならではの、しかし人間ならではの揉め事により怒涛の展開を遂げ…
    その後、主人公は魔女と共に色々な依頼者の願いを叶えるようになる。
    初めから最後まで、殆どが気持ちの悪い描写をちりばめられているが、やけにあっさりでコミカルな展開に思える時もあります。(苦手な人は苦手でしょう)
    虫が身体を這うような気味の悪さのある話、一つの家族の、何処にでもありそうで、しかし心の置き場に困る話、と短編が続く。
    子供の会話の描写として、口語をそのまま文章にしたのだろうというところが多々見られるので、読みづらい人は読みづらいかと。
    また、たまに各キャラの台詞がぶっ飛んでいたり、背景がぶっ飛んでいたりで、あれいまどういう状況なんだっけ?と置いてけぼりにされるときがたまにあるが、それも一興。
    魔女や魔法というとファンタジーなものをイメージするが、要所要所に、死とは、願いとは、嘘とは、と哲学が散りばめられている。
    ファンタジーやホラーと言うより、人間模様を描く、サスペンスといった枠組みが近いかと思う。

  • 誤って不思議空間に足を踏み入れてしまいやってしまった感…
    かわいらしい表紙のイラストからは想像もつかない、
    グロさ、きもさ、かゆさ満載短編連作のファンタジーホラー。
    読んだあとは食欲もなくなり、かなりげんなりやられてしまします。
    ちょっと読みづらい作品かもしれませんが
    星新一的ブラックユーモアな作品や想像絶するファンタジー表現など
    怖いもの見たさで読み進めていくと意外な結末がまっていました…

  • 今まで読んだことのないジャンルと作品すぎる。こんなものがこの世界で出版することが認められているなんて!意外と世界は寛容であった。
    この人にしか作り出せないワールド、突飛すぎて意味わかんねぇ文章(そのくせ時々賢くなる)、初手友だちみんな死ぬグロさと気持ち悪さ、なんでか心に残る読後感。いい意味でも悪い意味でも唯一無二なんじゃないでしょうか?
    表紙とタイトルでポップな感じを予想して読み始めたので驚きましたが結局最後まで読んでしまいました。痒みの章の乱暴すぎる手術と、奥さんの最低最悪で完璧なアリバイはあまりにも記憶に残りました。こんな最悪な終わり方あるんやね!!!でも主人公とぬりえちゃんの2人の少女の終わり方はハッピーエンドだったので良かったです。物語は主人公が終わり良ければ全て良しなので。色んな意味で面白い読書体験でした。こんな作品はなかなか読めないでしょう(なぜってこんな読みにくい文体を今さらデビューする人が許されるわけないので)

  • 「一こ目の願いは多分上手に叶えてあげられないんだ。二番目に浮かぶようなのも私にはきっと難しいと思う。三番目くらいならあるいは力になれるかも知れない。もしあったら教えてよ。こんな日あなたに願うことが三つもあるのなら、私にだってやれることがあるかも知れないんだ。お願いみたいな言い草だけどさ。私は他人で、万能じゃないし、叶えられないことなら山程思いつくんだけど、それでも出来ることはある筈なんだ」


    「文字のない町は綺麗だけれど、景色は変わってしまうから。言葉にしないと伝わらないから、言葉で願うことを書いてるんだよ」

  • 最初は怖いし気持ち悪かったけど小学生がバトルロワイヤルを始めた所から悪ふざけしてるなと思い斜め読みできるようになった。5章から急に面白くなり終わりまで一息に読んだ。想定していた最悪エンドが「友達と思ってたのは夏子だけでぬりえちゃんとの間に友情なんてありませんでした!」ってやつだったのでちゃんと友情エンドを迎えてよかった。もはやハッピーエンドに感じる。

  •  小学生の主人公と魔女を名乗る少女の邂逅から始まる心暖まる童話…とは全く違い序盤で級友五人が死に、その後も歪んだ視点で綴られる日常とそれを越える人間の醜さが強烈でまさに「吐くほどキュートな暗黒系童話」だった反面、最終話では切なさも感じられた。

  • 過去一カオスで汚い矢部劇場。只でさえ目の滑るクセ強文体に加え会話も展開も突飛で頭バグるのに、突然パラグラフが入れ替わったりしてもう宇宙。読者のこと嫌いなん? ティッキャッティー(=trick or treat)など崩しすぎな口語も多い。最終章だけは良い話で好き。

  • 「魔女の子供はやってこない」 書評:言葉と構造で織り成す異次元の物語

    矢部嵩の『魔女の子供はやってこない』は、読む者を深く引き込み、現実と虚構の境界を曖昧にする圧倒的な表現力と構造の妙が光る作品だ。物語を追うごとに、狂気と奇妙な美しさが交錯する世界観が広がり、読む者の感覚を揺さぶり続ける。

    まずこの本の表現力は圧巻だ。文章に添えられた「ぼりぼりぼりぼり」というルビが、その場の壮絶さや不気味さを直感的に伝える。さらに、モンタージュ風の描写では文章に番号を振り、視点の断片化を鮮やかに再現している。極めつけは、家の1階と2階での声を文章の配置で表現した部分だ。この手法によって、文字そのものが物語の一部となり、視覚と空間を同時に描き出している。読む者はまるでその場にいるかのような臨場感を味わうことができる。

    物語全体が放つ不気味さと不条理さも、忘れられないインパクトを与える。人の死を「いいハンバーグ」に例える描写や、登場人物たちが次々と倫理観を逸脱していく場面には、読者としての常識が根底から揺さぶられる。「しんでいいほどきらいなひといるかな」「誰も救われない」といった感情が自然と湧き上がり、同時にそれぞれの行動や欲望の裏にある切実な理由に心が引き寄せられる。狂気の中に潜む人間らしさに気づいたとき、この物語の異質さがさらに胸に刻み込まれる。

    一方で、この作品の核心には「友情」と「成長」というテーマもある。主人公は異常な出来事を経験しながら、友人との関わりや喪失を通じて変化し、自分自身を見つめ直していく。「ぬりえちゃんをたいせつにしたい」と願う主人公の気持ちは、物語が単なる不気味さだけでは語れないことを象徴している。友情を通じて成長する主人公の姿が、作品全体に温かさと深みを与えている。

    また、矢部嵩の文章表現は、他にはないユニークさを持っている。「人の死を食べ物で例える」「日常の出来事のように描写する」といった手法は、不気味さをただのグロテスクに留めず、詩的で読者を引き込む力を持つ。たとえば、人の皮膚の裂け目を「いいハンバーグ」と例える描写は、その不気味さと同時に、どこか日常的なリアリティを感じさせる。奇抜な表現と予測不能な展開が織り成す独特の世界観は、読み進めるごとに新たな驚きを提供する。

    この本を手に取ったきっかけが、職場の先輩の紹介だったというのも印象的だ。日常からはみ出したような読書体験をプレゼントしてくれたその勧めには感謝したい。本書は、文章表現、構造、そして感情において極限を追求した作品だ。読む人を選ぶかもしれないが、それでもこの物語は言葉と構造の力を信じさせてくれる。『魔女の子供はやってこない』は、倫理観や感性に挑戦しつつ、人生の循環や人間らしい感情を見つめ直させる、不思議で壮絶な読書体験を提供してくれる一冊である。

  • だいすきこれ

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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