インドクリスタル

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 83
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  • Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041013526

作品紹介・あらすじ

人工水晶開発の為、マザークリスタルの買い付けを行う山峡ドルジェ社長・藤岡。インドの村の宿泊先で使用人兼売春婦をしていた少女ロサを救い出し、村人と交渉・試掘を重ねる中で思いがけない困難に次々と直面する。

感想・レビュー・書評

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  • エンタメ小説のくくりに入るのだろうが、質量ともにかなりの重厚さである。
    500ページ強の2段組。舞台は水晶を巡るビジネス。
    だが吸引力は相当だ。

    水晶を原料に精密機器を製造する中小企業の社長、藤岡は、インドのある鉱山から出た原石に興味を惹かれる。透明度の高い美しさ。だが彼が価値を見いだしたのは見た目の美しさではなかった。結晶の規則正しさだ。最先端技術にも使用されうる精密な人工水晶の製造には、核となる良質の天然水晶が欠かせない。
    その原石の結晶は非常に規則的で、また使用に耐えうる部分の割合も他の産地のものとは比べものにならないくらい高かった。
    藤岡はこの鉱山を突き止め、原石の輸入を試みることにする。
    通常、宝石としては比較的軽視されている水晶に、実はどれだけの潜在的な価値があるのかを伏せつつ、海千山千のインド人たちを相手に、原石を無事に日本に送り出すことが出来るのか。
    これが物語の1つの軸である。

    もう1つの軸は、「ロサ」という1人の少女である。
    藤岡は取り引き相手の家で働く彼女に出会う。下働きのようなことをしながら、少女売春もさせられているらしい。彼女はいわゆる部族の出身で、「生き神」として祀られた過去があった。初潮前の少女を「神」として崇拝する独特の信仰だ。少女たちは生き神である間はかしずかれ、隔離されて生き、初潮がくるとお払い箱となる。「生き神」となった女と結婚すると災いが起こるとする迷信もあり、役目を終えた後、社会に上手く溶け込めない例もままあるという。
    憤慨する藤岡。接するうちに彼女には並外れた知性が備わっていることもわかってくる。何とかゴミためのような環境から救い出し、高等教育を受けさせることは出来ないのか。
    だが彼女の雇い主は、藤岡を冷たい目で眺めつつ、「あれは邪な種を秘めている」という。その意味するところは何か?
    藤岡は彼女の過去を知り、行動をともにするうち、彼女の持つ異様な力にも気づいていく。

    おそらく相当の取材を重ねた背景は説得力に富み、ノンフィクション仕立てにも出来うる題材であっただろう。
    そこを小説に仕立てたのはもちろん、著者が小説家であるからだが、そのことにより、まるでプリズムを通したかのような、さまざまな色彩が見えてくる。
    日本人社長藤岡の視点から、ビジネスにおけるインド人のしたたかさ、NGOの「偽善」、部族と呼ばれる先住民の感性、崩せない階級社会、日本人も含む外国人のずるさが立体的に浮かび上がってくるのである。
    中でもやはり印象が強いのは、苛酷な運命をたどったのロサの姿だろう。あるときは美しく純真な少女、あるときは迷信の犠牲者、あるときは暴力の被害者、あるときは邪な力を秘めた謎の女。藤岡同様、読者もまたあるときは彼女に惹かれ、あるときは彼女に怯える。その真の姿は聖なのか邪なのか。水晶を巡る顛末と絡みつつ、彼女の動向もまた物語を牽引する大きな力となっている。

    藤岡は、インドの洞窟に潜む水晶を、そしてロサという謎の少女を、掌中に収めることが出来るのか。
    怒濤のラストまで目が離せない。

    篠田節子にはこれまでも何度か驚かされてきた。
    本作は中でも、最大級の最上の驚きをくれる1冊だ。

  • 水晶ビジネスとNGOと部族と共産主義とダリット、後ろ盾のない女性。インドに存在する有象無象のすべてを詰め込んだ本だ。外国人がそこの文化も知らずに、自分たちの「人間らしい」生活を押し付けているのかもしれない、近代化って。
    富があればそこに対立が生まれ、紛争が生まれる。私的自治の真ん中で警察は袖の下を要求する。

  • 2015.10.4.宇宙関連機器に使用する高純度の水晶を求めてインド奥地に赴く人口水晶製造会社社長の主人公藤岡。ビジネスを通じて関わることになった有力者の使用人の少女の類いまれない知的能力に気づき、その少女の才能を開花し、成長させたいところですね願う。しかし、主人はその少女を悪の種と呼ぶ。謎に満ちた、少女との関わり、そしてインド奥地の部族との鉱物ビジネスを通じ、インドの闇深く進んでいく主人公とそのビジネスの顛末が骨太に描かれていく。上下二段組541ページの大作だったが面白くて、ほぼ一気読みだった。底知れない大国インドの文化の奥深さ、恐ろしさが詳しく描かれていった。正義感のみで語ることの愚かしさなど、篠田さんらしい見方が随所に示され非常に読み応えがある一作で、読書の楽しさを堪能てきた。

  • あまりの長編に読もうと思うまでに時間がかかり読み始めても最初のうちはなかなかページが進まなかった。が超常的な能力を持つ女子が登場したあたりから面白くなった。インド未開の地で高品質な水晶が埋もれている村を知り、その水晶を掘らせ日本の自社に送ってもらう契約をした藤岡。取引を始めるも海千山千の外国人が登場し詐欺まがいのトラブルばかり発生する。儲け話に群がる者、村を守ろうとする者。誘拐殺戮に発展していく。この話に登場する外国人は皆、善人だか悪人だかわからない。ラーエンジェラは本当は善人悪人のどちらだったのだろう。

  • いやあ、面白かった。イッキ読み…と言いたいが、一介の主婦の身で、浮世の義理にそうも行かず。
    縦軸に、インドクリスタルを巡る中小先端企業の社長の奔走、横軸に一風変わったファム・ファタル、ロサとの交流。ロサの話だけでも一つの物語になりそうなのに、勿体無い、とは普段骨子の貧しい話を読まされている反動か。
    「弥勒」のパスキム、「ゴサインタン」のネパールを思い出す。
    ペン一本で世界を構築する、こういう作家はとって貴重。

  • 久しぶりに、ずっしりと読み応えのある1冊でした。(ページ数が多いだけでなく、2段で書かれています)最初はどうなることかと思いましたが、一気に読んでしまいました。

    日本でのほほ~んと暮らしている私には、格差、貧困、階級制度、虐待(というか日常的な暴力)、宗教などなど、すべてにおいて理解しがたい。だからこそ、こういうずっしりとした物語で読ませてくれる作者に感謝します。

  • 『インドクリスタル』 篠田 節子 角川書店

    インドを舞台に、水晶の採掘を巡って繰り広げられる社会派冒険エンタテイメント。水晶と言っても、装飾品の為の物では無い。惑星探査機につける超高性能水晶振動子の核となる、マザークリスタルになる高品質水晶。

    人工デバイス製造会社社長・藤岡が、社運をかけた人工水晶の研究に必要な水晶を追って、インドの辺境に赴く。そこで、使用人兼性接待をさせられていた少女ロサとの出会いをきっかけに、彼はインドの闇へと足を踏み入れて行く。奥地の部族との商取引で次々に起こる困難は、石を扱う特殊な取引で世界を相手にして来た藤岡にさえ、想像も出来ないものだった。

    過酷な生い立ちのもと、特殊な能力を持つ部族出身のロサの、ある種不気味な神秘性と、日本人ビジネスマン藤岡の目に映る現在のインドの姿には、読んでいて眩暈を覚えるほど。フィクションであるとわかっていても、ノンフィクションを読んでいるような気にさせられる。

    グローバル、グローバルとあちこちで叫ばれる昨今だが、グローバルビジネスの先に、どの様な現実が待ち構えているのか、表面的で無い国際理解の必要性を感じずには居られなかった。

    また、因習と差別構造の特殊な社会に翻弄されて来たロサの、普通なら諦観の内に現世を過ごすだけの状況を良しとしない自我とプライドに、衝撃を受けた。

    久々に手にした長編。二段組541頁で、「構想10年、怒涛の1250枚!」と言う触れ込みに、最近軽い本や短編集を楽しんでいたのでちょっと身構える自分が情けなかったが…読み出したら面白くて止められない。壮大かつ多様なテーマを内包している作品だが、時間があったら一気読み必至。

  • 荒々しさ。インドの魅力。

  • 壮絶だったが面白かった。
    良い悪いではなく「文化が違う」
    そう割り切ってはいけないのかもしれないけれど、土地土地の文化というのは一朝一夕に作られたものではなく長い時間をかけてつくられてきている。
    それを上辺だけで批判したり知ったつもりになるのは違うなと感じが。
    土地土地の言い伝えなども必ずそこには理由があるが年月とともに少しずつ変化してきたり風化してしまっているものもありのだろう。
    でも先人達の知恵は軽視してはいけないなと。

  • 3.88/446
    内容(「BOOK」データベースより)
    『人工水晶の製造開発会社の社長・藤岡は、惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴く。宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた謎めいた少女ロサとの出会いを機に、インドの闇の奥へと足を踏み入れてゆく。商業倫理や契約概念のない部族相手のビジネスに悪戦苦闘しながら直面するのは、貧富の格差、男尊女卑、中央と地方の隔たり、資本と搾取の構造―まさに世界の縮図というべき過酷な現実だった。そして採掘に関わる人々に次々と災いが起こり始める。果たしてこれは現地民の言う通り、森の神の祟りなのか?古き因習と最先端ビジネスの狭間でうごめく巨大国家を、綿密な取材と圧倒的筆力で描きだした社会派エンタメ大作。構想10年、怒涛の1250枚!』


    『インドクリスタル』
    著者:篠田 節子(しのだ せつこ)
    出版社 ‏: ‎KADOKAWA
    単行本 ‏: ‎541ページ
    受賞:中央公論文芸賞

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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