八月の六日間

著者 :
制作 : 謡口 早苗  大武 尚貴 
  • KADOKAWA/角川書店
3.66
  • (97)
  • (264)
  • (228)
  • (33)
  • (6)
本棚登録 : 1575
レビュー : 262
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041015544

感想・レビュー・書評

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  • ブログでもTVでも紹介されていた本でしたが、なぜか食指が動かず。先日本屋のポップに誘われ何気なく開き、表題の八月の六日間をぱらりとめくり、挿画に思わずあっ、となりました。
    富山駅からバスで薬師岳の登山口に達し、北アルプスの山懐、黒部川源流の雲ノ平に至る山行。何十年前に辿った登山と同じルートではないか。

    アプローチが長く、歩く人も少ないので、山渓では天上の楽園と紹介されていました。そのまま即購入、単独山行の静かな雰囲気と、時折少しだけ不安になるあの感覚を再度味わうことになりました。

    会社生活を始め、週末になるとあちこちの山を巡っていた時代が懐かしい。私も主人公と同じく、人のペースに合わせるのが苦手で単独行を好んでいました。山に入りひたすら歩き続け、深い森で迷い、急峻な岩場に緊張したり、全身の感覚が鋭くなり、幾分ハイな気持ちで山歩きを楽しんでいた、あの頃と主人公の気持ちが重なります。

    雲ノ平に至る太郎小屋でも午後の2時ごろ天候が悪化、ゴロゴロと稲妻が鳴り出し、慌てて小屋に駆け込んだところ激しい雷雨が襲ってきた経験も今は懐かしい。黒部川の源流は斜面に残る雪渓の雪解けの雫。ポツンと溶けて滴り落ちる一滴が集まり、やがて大きな黒部川となっていく。
    むろん、雫をカップにあつめて生まれたての黒部の水を堪能しました。

    雲ノ平以外にも、八ヶ岳連邦の天狗岳、高見石小屋、白駒池など、自分と同じ山行ルートがいくつも出てきました。はしご場、ザレ場、鮮やかな高山植物、ガスって見通しの効かない行く手、雨に打たれ気持ちが萎えかけるが、やっと着いた山小屋でのビールの旨いこと、全く同じ感覚です。

    読後、押入れに保管していた古い40リットルのザックを出し、本棚に飾られた雲ノ平から撮影した薬師岳の写真を眺めながら、はるか昔?の山行を思い出す。山好きには大変面白い一冊でした。

    むろん、地上に戻った主人公、独身アラフォー、女性編集長の思いも聴いてあげねば。

    • カレンさん
      8minaさんも山、されていたんですね。
      私は遅がけから始めまして、ただいま夢中です(^o^)
      ですので山を題材にした本には飛びついてし...
      8minaさんも山、されていたんですね。
      私は遅がけから始めまして、ただいま夢中です(^o^)
      ですので山を題材にした本には飛びついてしまいます。
      雲ノ平にも行かれたんですね~
      水晶とセットで行きたいと思っているのですが、中々日程が・・・
      また是非、山再開してくださいね。
      2015/03/02
    • 8minaさん
      カレンさん、こんにちは。
      今日は家の用事でお休みですが、午後はゆっくりと読書できそうです。
      独身時代の山行も、結婚し、子供ができてからは...
      カレンさん、こんにちは。
      今日は家の用事でお休みですが、午後はゆっくりと読書できそうです。
      独身時代の山行も、結婚し、子供ができてからは遠のいてしまいました。車いっぱいの道具を積んだキャンプも、そんなに喜ばなくなるほど子供も大きくなり、そろそろまた単独行の山歩きの時期かもしれません。
      2015/03/02
  • ここ最近、平日は池袋・ジュンク堂に日参しています。
    その中に設置されているカフェで出会ったのがこちら。

    といっても、本そのものが置いてあるわけではなく、
    とある雑誌での、著者の北村さんと華恵さんの対談にて。

    “年を経ていくごとに繰り返して読みたい”、
    そんな風に語っておられたのがなんとも印象的で。

    主人公はアラフォーの編集女子、副編集長からそろそろ長に。
    役を持たない若いころは男性上司を、文字通り泣かしたことも。

    基本的には不器用で、ただひたむきに仕事を積み重ねてきた、
    それが故に“恋”もうまくこなせずに、未だに一人。

    そんな“強い”主人公が、日常から逃れるためにいくのが“山”。
    その山登りの様子が、5編からなる連作短編としてまとまっています。

    徐々に責任のある立場になっていくことで、
    若いころのように“自由”に仕事ができなくなるジレンマ。

    それ以上に自分の思い通りになることが無い自然の中で、
    その自然の美しさや一期一会の奇跡に魅入られていく主人公。

    なお、山歩きの際に必ず“文庫本”を持参するとの設定が、
    個人的には何とも素敵だなぁ、、と感じてしまいます。

    主人公の職業柄、“本”からは離れられないのでしょうが、
    ある意味そんな“仕事道具”を、非日常でどう昇華するのか。

     “ずっと本と一緒だった”

    そんな風に本への想いを綴っているのは、華恵さん。
    そのエッセイ集、『本を読むわたし』の中にて。

    これを狙っての対談であったとすれば、私は見事にやられました。

    日常と非日常をつないでくれるのが“本”、
    ケでもハレでも、自身の軸を思い出させてくれる、

    私にとっての本とはそんな存在なんだなと、あらためて。

    久々に人生唯一のトラウマに囚われつつあった自分を、
    現実に引き戻してくれた、そんな一冊でもあります、なんて。

  • 生活している間に身にまとってしまう鎧は重い。
    気負いも、何かを背負っているから
    かなり重いんだと思います。

    山を登るって、自然の中に入らせてもらうっていうのは
    きっとそんなものをそのまま持ち込むと
    命にかかわることになるから、

    そぎ取ってそぎ取って、
    動くのに、生きるのに、
    一番適正なところまでシンプルな自分になっていく。

    あんな大変な思いをして、怖い思いもして
    どうして山に行くのかは…山登りをしたことがない私は
    やっぱり本で読んだだけではわからないのですが。

    羨ましいことが3つ。

    そこでひっそり咲く花や山野草が見られること。
    頑張って辿りついた人だけが入れる高所の温泉に入れること。

    …そして、同じ山小屋にひっそりと佇んでいる本に
    また再会できること。
    こんな楽しみ方もあるんですね。山って。

    本を開くと清々しい風が吹いてくる
    熱帯夜に読むのもいい一冊です。

    主人公の持ち物の準備のくだりも楽しいです。
    北村薫さん、女性の好きな食べ物(お菓子)
    わかってらっしゃいますね~。

  • 一言で表現すると「40代の女性編集者の登山日誌」なんですが、
    読んでいて、とても楽しく清々しい気持ちになりました。

    気力も体力もないから登山なんてとてもじゃないけど無理。
    (それも一人でなんて!)
    でも、この本のおかげで彼女に同行して登山を楽しむことができました。

    遠足の準備をするように、リュックの中身をチェックして~。(これが妙に楽しい♪)
    一番のポイントは、もちろんおやつ(笑)

    ”手の届くところに活字がないと不安になる”と言って
    持っていく本も気になるところでした。
    わりあい渋めなチョイスでしたね。
    『作家のおやつ』は今度絶対読みます。

    実際に登山する方がどうなのかは知りませんが、
    こんなにたくさん持って重くないのかなぁ…と。
    (さすがに後悔する場面も…。)

    ”羊羹の丸かじり”
    あぁ、これ人生のうちで一度はやってみたいことの一つです♪
    下界では少々罪悪感があってなかなか…。

    ただひたすら頂上を目指し、そして下山する。
    その達成感とともに、日常生活の中で知らず溜まった澱のようなものも”浄化”される。

    山に登るって、そういうことなのかなって思いました。
    「そこに山があるから」の言葉のように、
    そこに理屈はいらないんですね。

    本好きな自分が本を見ると、吸い寄せられるように手にしてしまう。
    それと似ているんだと思います。

    • 杜のうさこさん
      けいたんさん、こちらにも~ありがとう!

      これはね、年末恒例うさこの積読山お片付けの一冊(笑)
      だから『八月の六日間』を12月に読むと...
      けいたんさん、こちらにも~ありがとう!

      これはね、年末恒例うさこの積読山お片付けの一冊(笑)
      だから『八月の六日間』を12月に読むという羽目に。あはは~
      でも雪山の章もあったからいいんだけどね。
      この本も面白かったよ♪

      あ~わかる!
      私もできる限り本屋さんで買いたいから。
      探し歩くのも本好きの楽しみのひとつだもんね。

      あ、それとさっき忠臣蔵コメントに書き忘れちゃったけど、
      昨日の私の大失敗に関するコメント
      けいたんさんの本棚の邪魔になるといけないから消しちゃってかまわないからね~。

      では、またね(*^-^*)


      2015/12/22
    • けいたんさん
      こちらにもまたまた失礼(〃∀〃)ゞ

      私も積んでる、積んでる(笑)
      本探すの楽しいよね〜♪
      そして、違う本買ったり。

      杜のうさ...
      こちらにもまたまた失礼(〃∀〃)ゞ

      私も積んでる、積んでる(笑)
      本探すの楽しいよね〜♪
      そして、違う本買ったり。

      杜のうさこさんのコメントは、本の事が書いてあるので取っておきたいです。

      私の火花は消させてくださいね。
      私たちがけんかしてると思われたら寂しいので(*≧艸≦)

      では、またね〜
      2015/12/23
    • けいたんさん
      こんばんは(^-^)/

      今日は年賀状を印刷してました。
      失敗した年賀状の数々…=͟͟͞͞( •̀д•́)))

      コメントの件O...
      こんばんは(^-^)/

      今日は年賀状を印刷してました。
      失敗した年賀状の数々…=͟͟͞͞( •̀д•́)))

      コメントの件OKで〜す!
      これからもたくさんゆかいな思い出ができますように(*^^*)♪

      杜のうさこさん、ハッピーメリークリスマス(⁎˃ᴗ˂⁎)
      2015/12/24
  • 好きな北村薫さんが帰ってきた気がした。

    わたしと北村薫さんとに出会いは「時の三部作シリーズ」から。
    今回も時にまつわるフレーズが出てくる。
    (あーやっぱり時に対する心持ちがいいなー)ってなる。

    今回の題材は山。
    あまり気にもとめずに繰り返している日常への感謝や、圧倒的な自然への畏怖や感動を体感したくなる。
    一人で旅をするのは海よりも山の方がいいのかな?と感じ入る。

    元彼氏 原田への棘を残したまま最後へ。
    最後に交わす言葉と表情に北村薫さんらしさを感じて読み終わり。

  • 人はなぜ山に登るのだろうか?
    「そこに山があるから」という、有名すぎる、哲学的な言葉ではなく、ひとりの「私」が、山に登る理由…
    自然に触れてストレス解消?
    体にいいから?
    同じ趣味の仲間を作りたい?
    登りきったら達成感?
    頂上を極めたら征服感?

    四十路を迎えたベテラン編集者の「わたし」は、責任ある仕事に誇りを持ちつつも、ストレスや重圧で体調が思わしくない。
    実は、数年前に別れた男の事も胸の奥底に滓のように沈んでいる。
    「明日。山、行きませんか」
    同僚の藤原ちゃんにある日突然誘われて、「わたし」の山人生が始まった。

    いつもの北村さんの女性キャラは、セリフ回しが独特でちょっとクセがあると感じるのだが、この作品はまるで、リアルに「わたし」が書いているよう。
    昔のままに覆面作家を続けていたら、この作品を持って読者の多くが、「ほらね、絶対に女のひとだってば!」と断定するのではないかと思った。


    『九月の五日間』
    槍ヶ岳。
    羊羹一本持ち歩く「香嚢鹿」さんとの出会い。

    『二月の三日間』
    ストレスで円形脱毛症に…
    裏磐梯。
    亡き友を思ったり、童心に帰ったり。
    ガイドさんやインストラクターもいろいろなタイプの人がいる。

    『十月の五日間』
    「副」が取れて「編集長」に昇進。
    現場から遠ざかるようで少し寂しい。
    昔の男の風聞にも心乱れる。
    上高地。
    おぼろに通り過ぎた風景を味わい直したい。
    山のベテランの忠告にへそを曲げるが、結局は彼の言うとおりだった。
    岡田さんが繋ぐ、香嚢鹿さんとの縁。

    『五月の三日間』
    天狗岳。
    五月の雪と雷、賽の河原。
    ゴールデンウィーク明けにご注意。
    特急「あずさ」は歌の時代とは変り、今は上りが偶数番号である。

    『八月の六日間』
    ロングビーチと山の稜線。
    避けられない一本道での男と女。

    ーーーーーーーーーーーーーーー
    「わたし」は、山歩き中、よく、体力の限界を感じたり、具合が悪くなったり、命の危険にさらされたりする。
    体も心も極限まで追いつめられる。
    そこまで体をいじめて、なぜ山に登るのだろう…
    『解脱』…かな。

  • 私が山に登り始めたのは、4年前からです。
    体力も運動神経もない私が、富士山に登ってみたいというミーハー心で始めた山登り。
    年に2、3回のペースですが、ゆるくゆるく登っています。

    今回泊まりで山に行くにあたり(結局は、雨の都合で日帰りの山に変更になりましたが)、ずっと気になっていた本書を読みました。
    3分の2は登山前に、残りは帰ってきてから。
    羊羹やカステラ等を詰めて山への準備をするところにわくわく。今回初めて山に羊羹持って行きましたが、すごくいいですね!体力が回復します。

    さて、本書は主人公が40歳目前の女性。
    バリバリ仕事をしている女性ですが、恋人や親友との別れを経験して、苦味も喪失感も十分に味わった人生。
    ただ、そこをクローズアップするのではなく、長い人生の一部分と捉え、時間が流れ続けます。連作長編集になっていて、章ごとに様々な季節の山に登りながら、時間があっという間に経過します。

    冬山に登ることも、1人で登山することも今の私には全く考えられないですが、きっとそんな登山も魅力的なのでしょうね、と感じさせてくれます。
    体力のない私は毎回登り始めて30分もすると来たことを後悔し始めるのですが、それでも山に行くのはきっと、非日常が味わえるから。
    そして、「あーしんどいなあ」と思っても、いつかそれには終わりがある。途中、心癒されることがある。そんなことを、大げさに言えば人生に重ねて励まされているのかもしれません。

    何かが劇的に解決したり、大きなことが起こるわけではない本書。それでも厳しくも美しい自然が人に与えるパワーを感じられる気がしました。

  • 距離を絶妙に計りながら…社会や組織の中で働き、恋愛をし、交友を保つ都会での日常。閉じ込めるモノは多いながらも、私として、個として、一人としてのON・OFFの切り替えは、山歩きあり、書籍ありの"命の洗濯"感…満載。終章のくるめ方がまた良いなぁ♪。澄んだ素の息づかいと時の刻みが心地好く、読む側にもフゥーッと元気を与えてくれる山女通信!?。

  • 良本!OLさんが休暇に山歩きをする、ただそれだけの物語。大事件もなく教訓めいた記述もなく。なのに自分の人生に思いを馳せ、日々の悩みをちょっと手放して一息つける、清々しい読後感を味わえる文章。登山未経験者でもちょっと山に出かけてみたくなる。登山に限らず、ちょっと日常じゃないことにチャレンジしてみたくなる、かも。

  •  山ガールという言葉を聞くようになったのはいつごろだろう。北村薫さんの3年ぶりの小説作品は、帯によれば“働く山女子”小説だという。

     出版社で多忙な日々を送る主人公は、同僚に誘われたのをきっかけに登山に目覚める。仕事が一段落し、長い休みが取れると、計画を練って山に向かう。各編扉にルートのイラストが載っているが、巻末によれば本格的なルートであるという。

     軽装で実力に見合わない難しい山を目指し、遭難する登山者が後を絶たないが、彼女は実力に見合った山で3年間経験を積んでから、これらのルートに挑んでいる。それでも何度もひやっとするのだから、ずぶの初心者ならどうなるか、推して知るべし。

     ひたすら山の描写が続くのかと思ったら、半分くらいは彼女の仕事やプライベートの話であり、山の描写はそっけない。それもそのはず、彼女は写真をほとんど撮らない。記録を残すことより、山に身を委ねる今この瞬間を大事にしているようだ。

     小説というよりは日記に近いかもしれない。その日の出来事を時系列順に、ありのままに綴る。正直、山の素晴らしさが伝わってきたとは言えない。だが逆に、変に脚色されていない分、想像の余地があるとも言えるのではないか。

     単独登山を好む彼女だが、山には出会いがあるし、人との交流を何が何でも避けているわけではない。プライベートの独白から察するに、むしろ人恋しいように察せられる。本作中最も印象的なシーンは、実は山ではないとだけ書いておく。

     気軽な気持ちで登りに行くことがないよう、くれぐれもご注意ください─と、巻末で読者に釘を刺しているが、できれば経験を積み、その目で確かめてほしいというメッセージとも受け取れる。背伸びをせず、自分のペースを守ること。人生においても然り。

     彼女は今日も忙しく働きつつ、次の計画を練っているのだろう。

  • 山と本。真逆と思われるこの二つの親和性に驚きつつ堪能。
    一人で山に登るなんて、なにが楽しいだ。一人じゃなくても登山自体ストイックで苦しいだけの趣味じゃないか、と思っていたのだけど、なんだろう、読後無性に山に登ってみたくなる。
    登山は自分が自分であることの恐怖との戦い、だという。そうかそうか。だから多くの人が惹かれるのか。
    大自然の中で、自分の小ささと無力さを思い知らされる。そして結局自分は自分であるしかない、という至極当たり前のことを「体感」する。
    いいねぇ、登山、いつか行きたいねぇ。
    雪山をきゃあきゃあ言いながら滑り落ちるツアーに行ってみたいねぇ。

  • ちょうど仕事超多忙に疲れて退職した後に読んだ。
    本屋で物色していたところ、王様のブランチ推薦と帯があり購入。
    最近は殆ど図書館で借りていたので、ひさびさの購入でした。

    主人公は自分と同じ年代の女性で感情移入してしまいました。
    山登りしたくなります。

    主人と蓼科山に登りました。
    脚力弱っていたからキツかったんですが、久々にトレッキングしたいと思っていたけど、なかなか腰が立たなかった所をチャレンジさせてくれました。

  • 九月の五日間は表銀座から槍ヶ岳へ。二月の三日間は雪の裏磐梯へ。十月の五日間は上高地から常念岳へ。五月の三日間は残雪の天狗岳へ。そして八月の六日間は高天原から双六岳へ。山での出会いと想いを綴った連作短編集。

    思うに登山を趣味とする人というのは皆少なからずナルシストなのだと思います。大自然に囲まれている自分が好きだったり、登頂という偉業を達成した自分が好きだったり、ひとりでゆっくり見つめ直したいほど自分が好きだったり。そんな登山家の愛おしさがつまった一冊です。

  • 八月の6日間に何が起こったのか?北村薫と聞くとこんな風に思ってしまいますが、いえ特に事件が起こるわけではないのです。
    帯の説明文を読むとどうやら山行の話らしいのです。
    ですから今回初めて北村薫を読んでみました。
    この年にして、まだまだお初!はあるものです。
    編集者である主人公(四〇歳前後女性)は仕事の合間を縫って山に出かけます。
    季節ごとにまとまった休みを作ると山に出かけていきます。二月の三日間、十月の五日間というふうに好きな山域を選んで縦走します。
    時には仕事が押して前夜遅くなり、ほとんど睡眠がとれなくて寝不足で体調が悪くて(どこかで聞いたような・・・)ふらふらしながら歩いたり、風邪で熱が出て予定を変更したり、それでも山に出かけていきます。
    女子が単独で山を歩いていると、必ずと言っていいほど声をかけられますね。私でさえ(まだ女子の端くれ)誰彼と声をかけてくださいます。よっぽど心細げに頼りなげに見えるのでしょう。
    「どちらまで?」「どこから?」山で声を掛け合うというのは、決して興味本位ではなく情報を交換したり、何かあったときの後々の参考のために、あるいはそのときの状況のアドバイスであったり、とても大切なことなんですよ。とある山で出会った人はおっしゃっていました。
    この主人公もほとんど単独なので例外なくあちこちで声をかけられ、時にはうっとうしいななどと思いながらも、体調の悪いときに出会った人のアドバイスに従い、賢明な判断で救われたりします。
    挨拶だけですれ違う人もいれば、意気投合して一緒に歩き出す人もいれば、下界に降りてからもお付き合いが続く人もいます。
    山って本当に最初から垣根が無くて、誰とでもすっと話が始まってしまう、とてもよくわかります。
    まあ、下界の日常では主人公も仕事、プライベートとそれなりに苦労があって、それだからこそやりくりして作った時間を山で満喫するのです。
    うんうん、とってもわかるわぁ。
    私もいつか、山から山を縦走して、疲れたところの山小屋で、休憩、宿泊、といった山歩きをしてみたいものです。時間や日にちを気にしないで。

  • 7月21日
    予約をして二ヶ月待った。まだその時はこの公共施設は購入に至っていなかったので、早々に手配して配給は二番目のチケットを手に入れていたにもかかわらず、ここまで待つことになったのである。図書館のお姉さんが「これですね」と持ってきてくれた。そうそう、これこれ。ネットではみていたけど、実物の表紙の艶々した手触りに、女性のような細やかさを感じた。

    実は私は一つのミッションを抱えていた。以下の新刊本の紹介を読んで「!!あの本の続編が始まった」と思ったのである。

     40歳目前、文芸雑誌の副編集長をしている“わたし”。
     元来負けず嫌いで、若い頃は曲がったことには否、とかみついた性格だ。
     だがもちろん肩書がついてからはそうもいかず、上司と部下の調整役で
     心を擦り減らすことも多い。
     一緒に住んでいた男とは、……3年前に別れた。
     忙しいとは《心》が《亡びる》と書くのだ。
    そんな人生の不調が重なったときに山歩きの魅力に出逢った。
     山は、わたしの心を開いてくれる。四季折々の山の美しさ、恐ろしさ、様々な人との一期一会。
     いくつもの偶然の巡り会いを経て、心は次第にほどけていく。
     だが少しずつ、しかし確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしはある思いもよらない報せを耳にして……。 (以上引用終わり)

    私はこの「わたし」という一人称の主人公に読み覚えがある。北村薫のデビュー作「空飛ぶ馬」から始まる《円紫さんと私》シリーズの日常の謎を解く傑作の数々。その第五作「朝霧」において、「わたし」は編集者に成って終わった。あれから十数年しか経ってないから40歳目前というのは勘定が合わないけれど、「空飛ぶ馬」の大学一年生が89年刊行だったことを考えると、勘定が合う。《円紫さんと私》シリーズがまた始まるのか!と考えたのであった。処が、本の書評やAmazonの書評を読んでもその気配がない。ただ、北村さんのことだから、何処かに謎が隠されているかもしれない。私はその謎に挑むことにしたのである。

    しかし、35頁目で「高校時代、演劇部にいたことまでしゃべってしまった」と読んで、早々に「…違うかも」と思ってしまった。《円紫さんと私》シリーズで彼女は高校時代演劇部には在籍していなかったのである!(後で確かめると、高校3年間生徒会の役員をしていた)

    7月22日
    「わたし」は35歳で男と別れ、38歳で槍ヶ岳に登り、39歳で小学校からの親友と死に別れている。で、その年はどうやら大震災のあった年になっているようだ。「わたし」にとって、原田という男と名もなき親友との別れは、とてつもなく大きなことのように思えた。事件になるほどは大袈裟ではないけれど、日常に潜む深い傷を、北村さんはどのようにして癒すことが出来るのか。

    7月23日
    やっとまとまった読書する時間がもてる。まだ三章分が残っているけど、最後まで行きつける。登山も読書も何処かに「これがヤマだった」という箇所がある。そこを過ぎると、どんなに傾斜がキツくても勢いがつくのである。

    「わたし」は山の上や仕事の中で、いい出会いを重ねながら、次第次第と自分を取り戻してゆく。
    もしかしたら、あの《円紫さんと私》シリーズの「わたし」は、この主人公が落ち込んでいる時に絶妙なタイミングで助け舟を出す同じ編集者の「藤原ちゃん」なのではないか、などと想像してみる。だとすると歳もあっている!いやいや、ちょっとあり得ない。名前を明かしてしまうのもルール違反だし、結婚もして子どもも出来て、あまりにも完結し過ぎる。

    登山初心者には、とてつもなく魅力的な山女小説なのかもしれないが、私はこれで登山に目覚めることはないだろうと思う。けれども「既視感有りあり」だったことを告白せざるにはおられない。

    私はかつて当ての無い20日以上の外国旅行(韓国)をしたことが二回ある。一週間ほどは10数回。其処でとんでもないトラブルで参ったこともあるが、素晴らしい出会いと景色や経験に、やはり止められなくなるのである。

    「八月の六日間」を読む三日間が終わり、私はまた日常に戻った。
    2014年7月23日読了

  • 山は、異世界だ。

    山を登ることで、現実から離れる。それは想像がつく。 でも、北村薫先生の筆で書かれた山の世界は、想像していた以上に異世界だ。 別に、妖怪の類が出てくるわけでもなければ、タイムスリップするわけでもない。 冒頭の、雨天から連想させる霧のかかった連峰とそのモヤモヤした情景。山に登る過程で出会う、現実にいそうでいな い、でも確実にいるちょっと変わった人たち。その人たちとの出会いを、ゆっくりゆっくり咀嚼する主人公。 風景が、人物が、浮世離れしているから、一緒に異世界へ連れて行ってくれるのだ。

    ほら、もう気分はファンタジー小説を読んでいるよう。話に酔い、山に酔い、世界に酔い、酩酊気分である。

  • 淡々と読み進めるうちに、自分も山に登ってみたくなる。ゆえに巻末に添えられた「未経験者の方は気軽な気持ちで登りに行くことがないよう、くれぐれもご注意ください。」の注意書きに吹く。ワシのことか。

  • 文学

  • ちょうど今こんなのが読みたかったという本だった。
    疲れているのに死んでしまってない主人公。前向きに山に登ろうする主人公。でも無理しないで、たまには登らないで引き返したりする主人公。
    いちいち山に登るのに本を持ってかないと気がすまないというところもいいし、結局読めなくてもよいところもいい。

    山に登って元気になる人の気持がわかる。
    レベルが違って恥ずかしいけど、最近のわたしにとっての山は仕事の合間にちょっとだけする散歩で、図書館まで歩いていったり、猫をみに公園にいったり、ポケモンGOのジムにジムを破りにいったり、コースは毎日違うけど歩きながらいろいろ考えたり考えなかったりするのが気晴らしになってたり、田舎すぎて4kmくらい歩いても誰にも会わないこともよくあるのに、たまにお地蔵さんを参ってる人がいてこんにちはってゆってみたりするのもいい。
    でも昨日の散歩では、いつもの靴なのに靴ずれして、わたしのジャックパーセルと友達にもらった二重になってるあったかい靴下に血がついてしまって、気分が大幅に下がった。帰ってすぐ漂白剤使って洗って、今まだ干してるところ。

    インタビューを読んでたら、北村先生ご自身は山に登ったことがないのって。「こたつ登山」、いいね。わたしもその路線で、山登りの経験を読書を通して積みたい。

  • 山の本としては読みやすく
    余韻の残る本だ

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。高校教師を務めるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で作家デビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、09年『鷺と雪』で第141回直木賞、15年には第19回日本ミステリー文学大賞を受賞した。エッセイや評論、編集の分野でも活躍している。近著に『八月の六日間』『太宰治の辞書』『中野のお父さん』など。

「2019年 『覆面作家の夢の家 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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