神々の山嶺 (上) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041017760

作品紹介・あらすじ

天賦の才を持つ岩壁登攀者、羽生丈二。第一人者となった彼は、世界初、グランドジョラス冬期単独登攀に挑む。しかし登攀中に滑落、負傷。使えるものは右手と右足、そして――歯。羽生の決死の登攀が始まる。

感想・レビュー・書評

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  • 田部井淳子さんをモデルにした小説「淳子のてっぺん」からエベレストづいた流れで読むことに

    アクの強すぎる伝説の男が、登山家としては既に峠を越した年齢でありながら、前人未到の「エベレスト南西壁冬期無酸素単独登頂」に挑む(わかりやすく言うと、南西壁はエベレストの超難関登山ルート、かつ冬に酸素ボンベを持たず、さらにはシェルパなしの単独での登頂…あり得ない…)
    ひとことで言うとこんなストーリだ

    主人公のカメラマン
    40歳、独身、カメラで食っていけるのか…という生活
    恋人との不幸な別れをし、エベレストへカメラマンとして挑戦するも、仲間の死という不運に見舞われる
    何もかも捨ててしまいたいほどの脱力状態であった
    そんな時に世間から忘れかけられていた登山家、羽生と出会う

    羽生は天才クライマーと言われるほどの実力を持ちながら、危険と分かっても前にしか進めない不器用で面倒くさい男である
    家族もおらず、定職にもつかず(つけず)、生活は荒んでおり、無口だが、自己主張は強く、協調性に欠けるため人付き合いもまともにできないような男
    そう、この男にはただただ「山」しかないのだ
    そんな不器用だが、情熱の暗い炎が消えない羽生の人生を追い求めることで、なんとか生きていく時間を埋めようとしているカメラマン

    羽生は本当に人に好かれにくい男だ
    近くにこんな奴がいたら関わりたくないと思う
    自分の山へのキャリア更新のためなら手段を問わないくらい、イノシシのように突進するのみの姿勢
    振り返ったり、回り道をするなんていう選択肢があることすら知らないのではないだろうか…
    まともな社会生活も送れず、人に対する思いやりにも欠ける
    だが山に対する情熱は凄まじい
    恐らくすべてを捨ててでも山に賭けることができる男だ
    何をするのか、目が離せなくなる
    カメラマンが追いかけたらやめられなくなるのもわからないでもない
    自分の夢の代弁者のような気がするのかもしれない
    そして無口な羽生の心の葛藤や、後悔の念、心の叫びが見え隠れし始める

    エベレストの拠点、ネパール、首都カトマンドゥ
    猥雑な喧騒と埃っぽさ、湿度や動物な香辛料などのあらゆる匂いを含んだ空気、人込みと騒音、素朴と混沌が渦巻く
    ヒンドゥー教の宗教儀式(ダイサンというお祭り 動物を供物とする儀式)や、人びとの生活をうかがい知ることができる
    正直、行きたいとは思わないが、この地域の描写はなかなか興味深い
    狡猾に、ある意味懸命に生きる人々の熱量を剥き出しの大地に感じる
    ここを舞台にミステリー要素も加わり、男たちのロマンや野心が広く展開していく
    登山小説ではあるが、生きるというのはどういうことなのかを問うような、男のロマン小説という方が良いのかもしれない

    そしてとうとう、二人はエベレストへ…
    どこまでも男臭く、暑苦しく、暗い希望を持って後半へ続くのだ

  • 熱くて不器用すぎる、けどそれがまたカッコいい山男たちの物語。
    カメラの謎も気になって、下巻の展開が楽しみ。

  • 男による男のための、実に男くさい小説。
    エヴェレスト南西壁、極限に挑んだ羽生や山男達の物語のようで、実はカメラマン深町がただひたすら、もんもんとする、実に青臭い男の物語でもある。
    「なぜ登るのか」は「なぜ生きるのか」に通じる問いかけ。
    登場する男たちは、山頂に到達した時の達成感、高揚感、清々しさとは無縁で、その高嶺にある幻影を求め、悩み、うめき、歯を食いしばり、這うように歩き、まるで胃袋のものを吐き出すように言葉を絞り出していく。
    深町も言っているけど、あの場所、あの濃い時間を一度体験してしまったら、もう日常と言う、ぬるま湯の世界では生きられないんだな。取りつかれた者たちの物語。

  • 山にかける男たち、山しかない男たちの生きざまにハラハラしながら読めました。

  • ※上下巻共通のレビューです

    実写とアニメの映画を鑑賞した後に読みました。上下巻通してかなり引き込まれました。物語の骨組みがしっかりしているし、細かい所もかなり考えられています。

    上巻は下巻のために舞台設定をした感じですが、ミステリー小説のように楽しめました。これからどうなる?と言う期待感を持ちながら、また情景を感じつつ読みました。

    万を期した下巻は、精神的哲学的な要素が強く、一言一言に考えさせられました。上巻は登録フレーズ0でしたが、下巻は11登録しました。「薄い時間」と「濃い時間」の考え方、そして「何故、山にゆくのか。何故、山に登るのか。それには答えがない。それは、何故、人は生きるのかという問いと同じであるからだ。」とか、「登れるのがはっきりわかっているルートなんか、地面を歩くのと同じじゃないか。それだったら、岩なんかやらずに、通常の登山道を歩いてればいい」とか身に沁みます。

    ラストも最高の締めくくりでした。

  • 事実を織り交ぜながら物語が構築されている。上巻が終わったがまだ種まき中。山の本はいいな。

  • 漫画から入ったので、大まかなストーリーは知っていた
    でも、やはり文章にするとその重みが違うなと感じた

    一人の男の、孤独で意地で、夢が詰まっていた

  • 最高

  • これは面白い
    長さがあまり気にならない

  • 深町がカトマンドゥで見つけた古いカメラ。
    フィルムが見つかれば山岳史上大変な発見となるかもしれず、それを追う深町と、行方知れずの日本人クライマー羽生の実人生が重なるまでが上巻。

    ちょっと長い…。
    エンタメ小説だし高峰登山の描写や羽生の半生は少し削っても良かったように思います。
    実在の、しかも突出した才能をモデルにする加減の難しさは痛く感じました。
    羽生がK2を下山したエピソードや羽生についてクライマー達が寄せた(どこかで読んだ)コメントの部分もちょっとやりすぎな印象でした。

    実在の登山家をモデルにするのはそこそこにして、思い切りエンタメ方向に舵を切れば良かったのじゃないかな。

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著者プロフィール

1951年、神奈川県出身。第10回日本SF大賞、第21回星雲賞(日本長編部門)、第11回柴田錬三郎賞、第46回吉川英治賞など格調高い文芸賞を多数受賞。主な著作として『陰陽師』『闇狩り師』『餓狼伝』などのシリーズがあり、圧倒的人気を博す。

「2016年 『陰陽師―瀧夜叉姫― ⑧』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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