鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
4.04
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本棚登録 : 4515
レビュー : 590
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041018897

感想・レビュー・書評

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  • 「父が言っていた。人というのは哀しいもので、なにをやっても、どこかに悔いが残るもんだと」
    下巻で一番印象に残った言葉は、そんなに自分にとって新しい言葉ではなかった。
    新しい考えを教えてくれた言葉は他にもあったし、この物語の広がりにもただただ驚いた。
    今までも自分は混沌の中を生きているのだと感じてきたけれど、「混沌」という言葉に入れて個々を見てこなかったもの(恐ろしいもの、美しいもの、愛おしいもの)のことを受け取りやすい物語にして語ってくれた。
    自分が生きている世界にも、自分の身体の中にも、たくさんの命と心があって、全てが違う存在で。
    途方もなくて何から考えていけばいいのかも分からない。
    でもこの物語の広がりを感じることは必要なことだったと思う。
    そしてその上で最初に引用した言葉にやはりどうしようもなく心動かされてしまう。
    それは自分の行いについても、他人の行いについても、同じなのだ。
    この物語の中で生きている人々は誰も自分の命を捨てていない。
    望みに向かって生きた結果の死はあったけれど、物語の都合で行動していた命はなかった。
    そして全ての行いは善でも悪でもなくて、正しくも間違ってもいないんだと思う。きっと。
    善いことだ。正しいことだ。と信じられる生き方をしても他者を傷つけるし、命を奪ってしまう。
    だから何をされても仕方ないとか、そんなことを言いたいわけではないけど、全ての行いにその命の思いがあるということを知っておきたい。
    その行いを悔いる心を相手も持っているんだということも。
    そう信じられるようになりたい。

  • もうなんと言うか、思いが溢れすぎて言葉がうまくまとめられない。
    それほどまでに壮大で深いテーマの物語だったと思う。
    ファンタジーで架空の世界のお話なのに、現実にまるであるかのような緻密に作られた世界観の凄さは今回も健在。

    まさに上橋ワンダーザワールド!!

    一体上橋さんの頭の中はどうなっているやら・・・
    病・医療・政治・民族同士の争いと繋がり。
    そこに広大な自然に住む獣達が複雑に絡まりあって、正直凄く凄く重いテーマだと思う。
    でも、そんなことも微塵も感じさせないほど一気に物語に引き込まれて最後まで駆け抜けるように読んでしまったというか読まずにはいられなかった程惹きつける魅力を放つ物語にすることのできる上橋さんはやっぱり世界のファンタジー作家だと思う。

  • 結末までヴァンのように走り抜けるように読んだ。
    人が自然に加わることで変わっていく生態系。そこで生きていくことのむずかしさ。人の傲慢、人の愛しさ。
    ヴァンが最後に選んだことが正しいのかは、私にはわからない。けれどユナとサエの存在が彼に救いの光を与えてくれる。ホッサルはこれからも、自分のやり方で道を進んでいくのだろうと思う。
    これは誰が何と言おうと希望の物語だ!
    だって、ヴァンにはユナとサエがいる。だから、ユナの一言に笑いながら大丈夫なんだ、そう思った瞬間に涙がこぼれて止まらなかった。

  • ようやく主役の二人が出逢った瞬間、鳥肌が立った。
    そして「鹿の王」の意味を知った時、彼が最終的に選ぶ道が想像できた。

    それはとても悲しく険しい道。
    でも彼らしい潔い決意に拍手を贈ると共に、そんな彼をどこまでも追いかける温かい家族が、きっと彼を見つけ出すと信じる!

    動物も虫も植物も人間も、地球上の全ての生き物が常に持ちつ持たれつで共存して生きていることを改めて教えてくれた作品。
    人と人、人と生き物の深い絆に感動した!

  • 著者の作品ずっと楽しみにしていました
    大人向けです
    「守り人」「獣の奏者」よりもっと大人向けです
    世界観
    すごい
    生きることのすべてが織り込まれている
    だけど 時間がとれなくて一気に読めなかったから
    地名・人名・民族・動物がごちゃごちゃになり、もう一度読まなければと思う
    ラストの余韻がずっと響いている
    《 立ち向かえ 病も支配も もがきつつ 》

  • 読み終えて心に残った言葉「運命の不公平」「妄執」「神というのは便利な理屈」生きて行くうえで、そして日々の世界のニュースを見る中で いつも心に浮かび 自分なりに考え こうして読む本の中に答えを見つけようとしていた事がすべて この本に書かれていた気がする。心が「囚われる」という事は字が示す通り人を囲い込み自由を奪い幸せを逃がす事だ。執着を捨てれば人の一生は簡素でそれでいて豊かなものになる気がする。最後にサエがヴァンの後を追って行ってくれた事がこの上なく嬉しかった。

  •  さらわれたユナを追うなかでヴァンは、岩塩鉱の事件以降自分に芽生えた不思議な力に興味を持つ民族と出会う。一方でホッサルは”黒狼熱”騒動の裏にあるものに徐々に近づいていく。そしてついに二人が邂逅を果たし……

     上下巻通して、ものすごい読み応えでした! 

     まず描かれるのが、帝国と少数民族の対立。大国による支配や征服で故郷を失ってしまった人々。そうした人々の怨嗟が騒動の背景にあります。

     行き場のない怒りや悲しみ、そして各民族の宗教観が複雑に絡み合い、事件に結びつきます。構成の組み立て方、伏線の回収も見事です。読んでいて点と点がつながっていく感覚は、一流のミステリにも劣らないと思います。

     そうした少数民族の問題は、現実世界にも存在します。そして、それが原因の紛争やテロがあるのもまた事実です。そうした問題に対し、この小説はどう答えを出すのか。

     ヴァンはホッサルから、自身の身体の変化について説明を受けます。ホッサルは身体には病気のウイルスや細菌が入ってきたとき、それと戦う兵士たちが身体の中にいると説きます。

     しかし、ヴァンの場合は、身体の中に入った黒狼熱の菌が、身体の中の兵士たちと共存しているのではないか、とホッサルは仮説を立てます。それを聞いたヴァンは自身の身体と国家に共通点を見出します。

     生きるには身体の機能がしっかりと働いてくれることはもちろんですが、外からも常に栄養、時には菌を取り入れないと生きていけません。抗体を作るためには、一度菌が身体に入らないといけないからです。

     国もそのように、様々な民族を取り込みつつ大きくなります。そして、そうした民族も取り込まれて生きていくうちに、大きい国の保護が必要になってくるのです。こうした持ちつ持たれつで、国は成り立っているのです。

     医療小説の面と歴史ファンタジーの面が、こうした一つの形につなぎ合わされます。その説得力とメッセージ性に不思議な感動を覚えました。

     そして終盤ヴァンは、自身の不思議な力に関する選択を迫られます。力を持つ者の責任として、個人のための選択をするか、集団のための選択をするか迫られるのです。

     寂しい終わり方になることを覚悟したのですが、ラストのユナたちに救われました。厳しい運命に立ち向かえるのは、やはり人の絆の強さだと再認識させられました。

     描写と設定が細かいので、読むのに少し苦労するところもありましたが、終盤はその苦労の甲斐あり夢中になって読み進めてしまいました。

    2015年本屋大賞1位

  • ようやく読み終えました。
    文化人類学者でもある上橋菜穂子さんが描く作品は、ファンタジーとは思えない。
    過去、この地球のどこかに存在していた街や村や山、いや、今もどこかにあるんじゃないかなと思わせられます。

    伝染病に民族紛争、病気とは?生きるとは?自分の役割とは?
    悩みながらもまっとうに突き抜けていく登場人物たちに、救われます。
    どんなときでも、そちら側の人間でいたい。

    上橋さんは児童書のくくりを超えてます。。。

  • (15-48) 上下巻をまとめて

    再読。初読の時は物語の力に圧倒され、茫然としたまま何も書けなかった。今回も圧倒されたが、何とか気持ちを静めている。複雑に絡み合った国の関係は、人々の関係を更にもつれさせている。人間の体の中も同じようなことがおきている。外と中、大きな世界と小さな世界、その対比に魅せられてしまう。
    一度動き出し変化したことは、それが無かったことには出来ない、戻れない、その哀しい現実を受け入れるのかあくまでも逆らって滅びるのか。
    この物語には世界征服の野望を持つ悪の大王など出てこない。
    皆、自分や家族、仲間、所属する国、その存続や利益のために必死に動いている。どの立場で考えるのかその違いでしかない。
    「鹿の王」そう生まれつくものがいる。ヴァンはきっとそうなのだろう。
    実は二度目に読み始めてからも、ラストどうだったのか思い出せなかった。今回読み終わって、ああ、こういう終わり方だった!前は読み終わってから、その後のことをずっと考えてしまい、そのせいで小説のラストが分からなくなってしまったのだ。
    そしてまた私は彼等のことを思い続ける。私の中では彼等の人生は続いているのだから。

  • ユナが絶対的に光だった。

著者プロフィール

上橋 菜穂子(うえはし なほこ)
1962年、東京都生まれの児童文学作家、SF作家。
1992年『月の森に、カミよ眠れ』で日本児童文学者協会新人賞、2000年『闇の守り人』で第40回日本児童文学者協会賞、2003年『神の守人 来訪編、帰還編』で 第52回小学館児童出版文化賞、2004年『狐笛のかなた』で 第42回野間児童文芸賞受賞他、2015年『鹿の王』で第12回本屋大賞など、多数の受賞歴がある。
2014年には「小さなノーベル賞」とも呼ばれる世界的な賞、国際アンデルセン賞作家賞を受賞している。

上橋菜穂子の作品

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