鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
4.04
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本棚登録 : 4463
レビュー : 581
  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041018897

作品紹介・あらすじ

何者かに攫われたユナを追うヴァン。同じ頃、医術師ホッサルは移住民に広がる謎の病の治療法を探していた。ヴァンとホッサル。ふたりの男たちが愛する人々、この地に生きる人々を守るため、選んだ道は――!?

感想・レビュー・書評

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  • 上下ともに分厚いハードカバーなのに紙が薄く、ページ数が多かった.登場人物も多めで、独特の読み方をさせる固有名詞も多かったので、一時中断したときはコレ誰だっけ(汗と巻頭にある人物の名前一覧を見返した.でも、親切にルビがふってあったので、そこまで混乱せずに読むことができた.
    鹿の王というタイトルから「一番」とか「強い」とか「権力」ということばを想像していたけど、実際はそうではなくて、仲間が生き延びるために勇敢に戦う者、犠牲になるもののことをいうのだということに、深い感動を覚えた.
    いつの時代も為政者は己の国、民族、慾のために動くことが多い.そんな中、民族を超えて、利害を超えて、病に立ち向かおうとする人々の物語だった.
    いろんな奥深さが潜んでいる作品.時間が経ってもう一回読んだらまた違う感想が湧きあがってくるのかもしれない.
    再読したらまたここの感想を変更するかも.

  • 下巻、ぐんっと物語に引っ張られて一気読み。
    読み終えた後、満足感と寂しさが混じった気持ちにじんわり浸りました。

    ヴァンとホッサル、2人の主人公が出会い、語らうシーンが印象的でした。
    若き天才を魅了するヴァンにしびれます!

    上橋菜穂子作品に描かれた壮大な世界にぐわぁっと飲み込まれてしまっていたせいか、感じたことを上手く文章にできないことが悔しいです…ううう…。

    守りたいものができたとき、強くありたいと思うときに、ぐっと背中を押してくれる物語だと思います。
    ぜひ、もう一度読み返したいです。

  • 「父が言っていた。人というのは哀しいもので、なにをやっても、どこかに悔いが残るもんだと」
    下巻で一番印象に残った言葉は、そんなに自分にとって新しい言葉ではなかった。
    新しい考えを教えてくれた言葉は他にもあったし、この物語の広がりにもただただ驚いた。
    今までも自分は混沌の中を生きているのだと感じてきたけれど、「混沌」という言葉に入れて個々を見てこなかったもの(恐ろしいもの、美しいもの、愛おしいもの)のことを受け取りやすい物語にして語ってくれた。
    自分が生きている世界にも、自分の身体の中にも、たくさんの命と心があって、全てが違う存在で。
    途方もなくて何から考えていけばいいのかも分からない。
    でもこの物語の広がりを感じることは必要なことだったと思う。
    そしてその上で最初に引用した言葉にやはりどうしようもなく心動かされてしまう。
    それは自分の行いについても、他人の行いについても、同じなのだ。
    この物語の中で生きている人々は誰も自分の命を捨てていない。
    望みに向かって生きた結果の死はあったけれど、物語の都合で行動していた命はなかった。
    そして全ての行いは善でも悪でもなくて、正しくも間違ってもいないんだと思う。きっと。
    善いことだ。正しいことだ。と信じられる生き方をしても他者を傷つけるし、命を奪ってしまう。
    だから何をされても仕方ないとか、そんなことを言いたいわけではないけど、全ての行いにその命の思いがあるということを知っておきたい。
    その行いを悔いる心を相手も持っているんだということも。
    そう信じられるようになりたい。

  • もうなんと言うか、思いが溢れすぎて言葉がうまくまとめられない。
    それほどまでに壮大で深いテーマの物語だったと思う。
    ファンタジーで架空の世界のお話なのに、現実にまるであるかのような緻密に作られた世界観の凄さは今回も健在。

    まさに上橋ワンダーザワールド!!

    一体上橋さんの頭の中はどうなっているやら・・・
    病・医療・政治・民族同士の争いと繋がり。
    そこに広大な自然に住む獣達が複雑に絡まりあって、正直凄く凄く重いテーマだと思う。
    でも、そんなことも微塵も感じさせないほど一気に物語に引き込まれて最後まで駆け抜けるように読んでしまったというか読まずにはいられなかった程惹きつける魅力を放つ物語にすることのできる上橋さんはやっぱり世界のファンタジー作家だと思う。

  • 好きな終わり方だった。

    「還って行く者」
    ただそれだけの終わりだったら、言葉にしづらい嫌な読後感が残ることになっただろう。

    それだけではない終わりに、(あぁ〜読んでよかった)という読後感がある。

    それぞれの「想い」に突き動かされて「死」を選んでいく。
    「死」を見つめるからこそ生きる覚悟と希望が生まれていくのだなーと噛みしめる。

    面白かったです。

  • 著者の作品ずっと楽しみにしていました
    大人向けです
    「守り人」「獣の奏者」よりもっと大人向けです
    世界観
    すごい
    生きることのすべてが織り込まれている
    だけど 時間がとれなくて一気に読めなかったから
    地名・人名・民族・動物がごちゃごちゃになり、もう一度読まなければと思う
    ラストの余韻がずっと響いている
    《 立ち向かえ 病も支配も もがきつつ 》

  • 一度読んだだけでは、物語が頭の中で消化しきれない!
    正直言って難解。難しい。
    守り人や奏者より大人向けな印象でした。
    もはやファンタジーなのか。

    簡単に言ってしまえば、動物と医術なんだけど。
    何だろうなー、この答えの出ないもどかしさみたいなの。

    謎の病が発生した岩塩鉱から生き延びたヴァンとユナ。
    その治療法を探す天才的医術師ホッサル。
    東乎瑠の移民に故郷を奪われるアカファの人々。
    それぞれの民と深くかかわる固有の動物。

    終わり方が何とも言えない。
    ヴァンとサエとユナで寄り添い合って生きていてほしい。

  • 結末までヴァンのように走り抜けるように読んだ。
    人が自然に加わることで変わっていく生態系。そこで生きていくことのむずかしさ。人の傲慢、人の愛しさ。
    ヴァンが最後に選んだことが正しいのかは、私にはわからない。けれどユナとサエの存在が彼に救いの光を与えてくれる。ホッサルはこれからも、自分のやり方で道を進んでいくのだろうと思う。
    これは誰が何と言おうと希望の物語だ!
    だって、ヴァンにはユナとサエがいる。だから、ユナの一言に笑いながら大丈夫なんだ、そう思った瞬間に涙がこぼれて止まらなかった。

  • 初読みの作家さん。正直、上巻はなかなか読むのが大変だった。特に登場人物の名前が難しく(馴染みのない響き、似てる名前)ストーリーの進行も読めなくて(精神世界の話が出てきたり、医術の解説があったり、何となくちぐはぐな感じ)だが下巻に入りやっと筋書きが読めて、ようやく本の世界に入り込めた。タイトルから予想する内容とは全く別物。ファンタジーという括りは相応しくないような。もっと骨太。

    • kakaneさん
      こんばんはchieさん。
      たしかに従来のファンタジーの括りでは適当でないかもしれないが、この作家の世界観には惹きつけられるものがあります。ま...
      こんばんはchieさん。
      たしかに従来のファンタジーの括りでは適当でないかもしれないが、この作家の世界観には惹きつけられるものがあります。また、この作家を読みたいですね。DVDのアニメでは守り人観ましたが、小説のほうが良さそうです。それにしても読むペースが速いですね。
      2017/12/11
  • ようやく主役の二人が出逢った瞬間、鳥肌が立った。
    そして「鹿の王」の意味を知った時、彼が最終的に選ぶ道が想像できた。

    それはとても悲しく険しい道。
    でも彼らしい潔い決意に拍手を贈ると共に、そんな彼をどこまでも追いかける温かい家族が、きっと彼を見つけ出すと信じる!

    動物も虫も植物も人間も、地球上の全ての生き物が常に持ちつ持たれつで共存して生きていることを改めて教えてくれた作品。
    人と人、人と生き物の深い絆に感動した!

  • 読み終えて心に残った言葉「運命の不公平」「妄執」「神というのは便利な理屈」生きて行くうえで、そして日々の世界のニュースを見る中で いつも心に浮かび 自分なりに考え こうして読む本の中に答えを見つけようとしていた事がすべて この本に書かれていた気がする。心が「囚われる」という事は字が示す通り人を囲い込み自由を奪い幸せを逃がす事だ。執着を捨てれば人の一生は簡素でそれでいて豊かなものになる気がする。最後にサエがヴァンの後を追って行ってくれた事がこの上なく嬉しかった。

  •  さらわれたユナを追うなかでヴァンは、岩塩鉱の事件以降自分に芽生えた不思議な力に興味を持つ民族と出会う。一方でホッサルは”黒狼熱”騒動の裏にあるものに徐々に近づいていく。そしてついに二人が邂逅を果たし……

     上下巻通して、ものすごい読み応えでした! 

     まず描かれるのが、帝国と少数民族の対立。大国による支配や征服で故郷を失ってしまった人々。そうした人々の怨嗟が騒動の背景にあります。

     行き場のない怒りや悲しみ、そして各民族の宗教観が複雑に絡み合い、事件に結びつきます。構成の組み立て方、伏線の回収も見事です。読んでいて点と点がつながっていく感覚は、一流のミステリにも劣らないと思います。

     そうした少数民族の問題は、現実世界にも存在します。そして、それが原因の紛争やテロがあるのもまた事実です。そうした問題に対し、この小説はどう答えを出すのか。

     ヴァンはホッサルから、自身の身体の変化について説明を受けます。ホッサルは身体には病気のウイルスや細菌が入ってきたとき、それと戦う兵士たちが身体の中にいると説きます。

     しかし、ヴァンの場合は、身体の中に入った黒狼熱の菌が、身体の中の兵士たちと共存しているのではないか、とホッサルは仮説を立てます。それを聞いたヴァンは自身の身体と国家に共通点を見出します。

     生きるには身体の機能がしっかりと働いてくれることはもちろんですが、外からも常に栄養、時には菌を取り入れないと生きていけません。抗体を作るためには、一度菌が身体に入らないといけないからです。

     国もそのように、様々な民族を取り込みつつ大きくなります。そして、そうした民族も取り込まれて生きていくうちに、大きい国の保護が必要になってくるのです。こうした持ちつ持たれつで、国は成り立っているのです。

     医療小説の面と歴史ファンタジーの面が、こうした一つの形につなぎ合わされます。その説得力とメッセージ性に不思議な感動を覚えました。

     そして終盤ヴァンは、自身の不思議な力に関する選択を迫られます。力を持つ者の責任として、個人のための選択をするか、集団のための選択をするか迫られるのです。

     寂しい終わり方になることを覚悟したのですが、ラストのユナたちに救われました。厳しい運命に立ち向かえるのは、やはり人の絆の強さだと再認識させられました。

     描写と設定が細かいので、読むのに少し苦労するところもありましたが、終盤はその苦労の甲斐あり夢中になって読み進めてしまいました。

    2015年本屋大賞1位

  • ようやく読み終えました。
    文化人類学者でもある上橋菜穂子さんが描く作品は、ファンタジーとは思えない。
    過去、この地球のどこかに存在していた街や村や山、いや、今もどこかにあるんじゃないかなと思わせられます。

    伝染病に民族紛争、病気とは?生きるとは?自分の役割とは?
    悩みながらもまっとうに突き抜けていく登場人物たちに、救われます。
    どんなときでも、そちら側の人間でいたい。

    上橋さんは児童書のくくりを超えてます。。。

  • 病、医学、人、獣、そして生死。
    様々なことを考えさせられた。独角だったヴァンの変化がとても心に沁みた。

    その中でも、鹿の王のくだり、ヴァンのお父さんの言葉がとても心に残った。

  • (15-48) 上下巻をまとめて

    再読。初読の時は物語の力に圧倒され、茫然としたまま何も書けなかった。今回も圧倒されたが、何とか気持ちを静めている。複雑に絡み合った国の関係は、人々の関係を更にもつれさせている。人間の体の中も同じようなことがおきている。外と中、大きな世界と小さな世界、その対比に魅せられてしまう。
    一度動き出し変化したことは、それが無かったことには出来ない、戻れない、その哀しい現実を受け入れるのかあくまでも逆らって滅びるのか。
    この物語には世界征服の野望を持つ悪の大王など出てこない。
    皆、自分や家族、仲間、所属する国、その存続や利益のために必死に動いている。どの立場で考えるのかその違いでしかない。
    「鹿の王」そう生まれつくものがいる。ヴァンはきっとそうなのだろう。
    実は二度目に読み始めてからも、ラストどうだったのか思い出せなかった。今回読み終わって、ああ、こういう終わり方だった!前は読み終わってから、その後のことをずっと考えてしまい、そのせいで小説のラストが分からなくなってしまったのだ。
    そしてまた私は彼等のことを思い続ける。私の中では彼等の人生は続いているのだから。

  • ユナが絶対的に光だった。

  • 上橋菜穂子さん待望の新作。
    楽しみにしていました。
    最初に登場人物の紹介ページがあるのですが、けっこう多め。
    慣れていない人はちょっと嫌になるかもしれません。
    私はファンタジー好きだし、これまで読んできた上橋作品への絶対的な信頼があるから、物語の世界にすっと入ることができました。

    ヴァンの章、ホッサルの章、どちらも気になる気になる(笑)
    二人の主人公を追いかけて熱中してしまいました。

    期待していた通りの面白さは下巻に入ってからますます加速。
    最後まで緊張しながら読み進めました。
    ファンとしては上下巻でなくもっと長く続くシリーズでもよかった・・・と思うくらい。
    読み終わってからあまり時間が経っていないのにもう再読したい気分になっています。



    心に残る文章がたくさんありました。
    国と国、民族と民族、人と人、人と動物、色々な関係を考えながら読みました。


    >人は、自分の身体の内側をみることはできない。健やかなときは心が身体を動かしているような気がしているが、病めば、身体は、心など無視して動く。それを経験して初めて気づくのだ。―身体と心は別のものなのだと。


    >自分の身体の中で、いま、このときも、目に見えぬ小さな何かが、病と戦っている。そうやって、自分の命を支えてくれている。-そう思うと、何か途方もないものが、我が身をとりまいているような気分になった。

    >「私たちは、ひとりひとり、違うのよ。たしかに祖先から綿々と伝わってきたものはある。でもね、ひとりひとり、まったく違うの。どの命も、これまでこの世に生まれたことのない、ただひとつの、一回きりの個性をもった命なのよ」


    >「私たちはみな、ただひとつの個性なんです。この身体もこの顔も、この心も、一回だけ、この世に現れて、やがて消えていくものなんですよ」


    人の身体は森みたいなのもの、国みたいなものという文章が何度か出てきましたが、言われてみれば納得。
    自分が生かされている不思議を改めて感じました。
    死は終わりではなく、身体の死は変化でしかないような気がするという言葉にも共感しました。

    あきらめないで生きることの大切さ、国や民族の違いを超えてつながることは可能ではないかと思える結末でした。
    辛い気持ちも残りましたが、希望が見えてホッとしました。

    穏やかな気持ちで本を閉じることができました。

    あとがきもよかったです。

  • 図書館より。
    これって本当に児童書?
    大人向けだよな~。

    上巻でそれぞれの立場にあった主人公達が、下巻で出会ってから、物語の色々なものの姿が見えてくる。
    生きるって、なんだろう。生き残ることの意味。そして「鹿の王」。
    しかし、彼はもう「独角」じゃない。こんなこと思うのも変だが、無事に帰ってきて欲しいと思う。

  • 物語の冒頭で黒い犬に噛まれながらも生き残ったヴァン。
    彼は自身の変化にとまどいながらも、それに導かれるように病をめぐる謎に近づいて行く。
    ホッサルも、 懸命に病の謎を解こうとするうちに火馬の民の悲劇を知り、調査に向かう。

    何が病をもたらしているのか?
    病そのものの成り立ちが、民族の違いを浮き彫りにしていく。
    それぞれの土地の違い、耐性、免疫などにとどまらず、病との向き合い方といった哲学的スタンスも違ってくる。
    この違いが諍いの素になるのか?
    それとも互いの持つものを差し出しあって新しい文化をつくるのか?

    次々とおそう困難に立ち向かう物語ではあるが、その向こうに 何が正解とは言い切れない医学の在り方や社会の在り方に悩み考え続ける人々の姿がある。

    上橋さんは、辛さの中でも幼いユナに心癒される大人たちの心情を繰り返し描いている。とりわけ、我が子を失ったヴァンと、子を持つことができなかったサエが、ユナの養い親のようになっていく姿が温かい。
    産めば親なのではない。
    子を育てることでだんだんと親になっていくのだ、そんな励ましを感じる。

    そして、<独り>だったヴァンは身内を持ち、氏族に繋がれていたサエは自らの人生を歩み始める。
    なんとも切ないながらも希望の火のともる温かい物語でした。

    さて、実写化、あるでしょうか?
    ヴァンはのっけからヒュー・ジャックマンのイメージ。
    ホッサルは.... 神木くん?春馬くん?林けんとくん?小池徹平くんはさすがに大人すぎ?
    いろいろと期待できます。
    サエはこれもなぜかのっけから黒木華ちゃん。
    ツォル人ではないのになぁ。

  • 最後の一行を読み終わったとき、ため息をつきつつ思った。
    「あぁ、終わってしまった」と。でも次の瞬間気付いた。
    「違う、これは終わりじゃなくて始まりなのだ。そうだ、彼らの長い長い物語がここから始まるのだ」と。
    いやでもちがう。これは彼らの物語ではなく、私たちのこれまでの、そしてこれからのずっと続く世界の始まりの物語なのだ。
    広くて狭い、大きくてちいさな、この世界の魂の全てがここに宿っている、そんな一冊。

  • 人の命の重さを問うた物語。
    設定は一昔前の中国周辺風。
    主人公ヴァンとホッサルの二次元の展開。
    黒幕が最後まで、取り落としにより全くわからない展開。
    病を武器に反乱を企むのと、それに巻き込まれながら阻止に向かう2人の主人公と取り巻き。人物も多く複雑な話で自分好みではあるが、児童文学にしては難しい。精霊のもりびとの方がわかりやすいけど、時間をかけて読むにはとてもいい。
    ユナもかわいい。サエも魅力的。
    なんだかんだで最後までゴンゴン読み進めてしまう上橋文学に脱帽です。

  • 多くの方が書いているように、一度では把握しきれない情報量がある。しかしその難解さが気にならないほど、特に後半にかけての物語の加速度、二人の主人公の物語が重なった時からの展開は息をつく暇もないものだった。
    物語の原動力は全てが愛に満ちていた。肉親への愛、家族への愛、故郷への愛。この本に悪役は登場しない。愛がどのような形で現れるかが違うだけ。
    愛が憎しみを生み、進むべき道を誤った、そのような者に対してすら作者は哀しい者だと言葉を当てた。
    「知らない」ことは恐怖を生み、その負の感情は人を呑み込む。対して「知る」ことは愛を生み、それもまた人を呑み込む大きな感情となる。この作品の中で大きな役割を果たした病素は特にその「未知性」によって多くの者の恐怖を掻き立てた。
    私たちは病気のように自分のことですらわからないことが山のようにある。他人のことなんて全くわからないと言っても過言ではないだろう。それを知ろうと愛そうともがくか、はたまた全てを神の意志(自分の理解の範疇を超えたもの)として受け入れ続けるか、道は二択。自分は知るためにもがきたい。

  • 生と死、とは。
    それぞれの民族の間で巡らされる想い。
    その想いが社会の均衡を揺るがしていく。
    物語の中に詰まっているたくさんの問いかけに、自分なりに考え、答えを探しながら読み終えた。
    …答えなどないのかもしれないけれども。
    2人の熱き正義を持った主人公の冒険物語。
    最後は、生まれも育ちも違う民族の皆がまるで家族の絆をもって、光ある森に消えていく。
    胸に熱く込み上げるものがありました。

    大人こそ読むべき「ファンタジー」だと思います。

  • 故郷を追われた民の悲哀は根無し草の現代人には理解できないかもしれない。土地と環境に適応した動植物との絆、世界との一体感、そこを断ち切られることの痛み。オタワルは土地を捨て、変化してでも生き延びる道を選んだ。アカファは意識せず同化する。人間社会のせめぎ合い、病原菌の戦略、自滅する命、生と死、全ての事柄が繋がっている。循環する命。生命にとって死は滅びではない、けれども、それはとても切ない。すべてを肯定し、けれどもそこに哀しみを確認する。一言で言い表せない、そんな物語だった。

  • 共に暮らしたトマたちと離れ、犬に噛まれたことによって起きた異変の使い途を教えられたヴァンと黒狼病とその背後の陰謀に巻き込まれるホッサル。
    病にかかるものとかからないものがいるのは、かかっても治るものと治らないものがいるのは何故か。全てではないとしても、一つの森のような、一つの国のような人の体がどうやって病と戦うのか、どうやって変わっていくのか。その説明だけでも面白かった。余韻の残るラストもよかった。ヴァンとその家族がまた幸せに暮らせるといい。

  • 近い将来起こりかねない、あるいはもうすでに闇社会では起こっているかもしれない病原菌を兵器とした戦争をファンタジーとして描いてしまうところがすごい。また多民族からなる国のあり方の難しさや、血のつながりの難しさまで描かれていて、手に収まる本の中で、私の中に収まりきれないほどの世界を作ってしまう著者の生み出す力と多岐にわたる知識には驚かされます。病を患うものと患わないものの間にある違いはなんなのか、命を繋ぐとはどういうことなのか、生と死とは。最近病を身近に感じている私にとっては、とても興味深いテーマでした。

    ひとつ、わからないことがあって。鹿の王は、悲しい才能なのか。鹿の王だと持ち上げる気持ちの裏にあるものがなんなのか。それを何度読んでも理解できないのは、まだまだ私も若い証拠でしょう。ヴァンくらいの年齢になったら、理解できるのかしら?

    ユナちゃんは、おちゃんに会えたかな。会えているといいな。

  • 上巻はなかなか読むのが大変で、、かなりがんばって読みました。
    下巻は散らばっていたパズルのピースがどんどんはまっていく感じでイッキ読み。

    鹿の王の意味が分かり、ラストに向けて物語が加速する中、ヴァンの行動、ユナ、サエ、トマ達の思いに大号泣。
    その後のことは気になるけど、みんなで楽しく穏やかに暮らす姿をー、想像してます。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。何者かに攫われたユナを追うヴァンは、謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。ヴァンとホッサル。ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?

    ファンタジー冒険譚であり、医療小説でもあるという誠に稀有な本です。造語も沢山出てきながらもその世界に完全に入り込んで読んでいるので、異国の物語を読んでいるような違和感の無さで引き込まれます。群雄入り乱れ、その中で一人一人が感じている理不尽や絶望や希望。自分の信じる正義と相手にとっての正義。人間世界を大局から見たときの逃れられない運命や、世界と引き換えにしても守りたい命とのせめぎ合いなど、重厚かつスピード感あふれる物語がこれでもかと展開していきます。
    主人公以外にも魅力あふれる人物が沢山出てくるので、完全に誰かにシンパシーを抱くものではないですが、当然主人公ヴァンと、孤児の幼児ユナとの愛溢れる姿は涙ぐましくも微笑ましいのです。どうにか彼らに幸せになって欲しいと心から思いました。
    エンディングも含め素晴らしい本に巡り合えて感謝!

  • 鹿の王の意味やラストのシーンが味わい深いオトナのファンタジーだった。
    いろんな人が語るので、話を追うのが少し大変だったが、しみじみ2回読んでしまった。

  • 図書館で。上下巻一気読み。
    助けられる人が助ければ良い、という台詞はすごいな。確かに自分の事で手一杯な人間が中途半端に溺れる者に手を出したら被害は増えるんだもんなぁ。そうやって考えると英雄なんて持ち上げる考え方を唾棄する主人公のお父さんはすごい。

    命というものは同じように見えても全てが特別で唯一の存在である、というのは知っていると今後の人生で不思議と何かの折に役に立ちそうな知識だなぁ。
    種族を越えても知識が伝わることにより仲間意識が芽生えるっていうのは素敵なことだなあとしみじみしながら読み終えました。

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著者プロフィール

上橋 菜穂子(うえはし なほこ)
1962年、東京都生まれの児童文学作家、SF作家。
1992年『月の森に、カミよ眠れ』で日本児童文学者協会新人賞、2000年『闇の守り人』で第40回日本児童文学者協会賞、2003年『神の守人 来訪編、帰還編』で 第52回小学館児童出版文化賞、2004年『狐笛のかなた』で 第42回野間児童文芸賞受賞他、2015年『鹿の王』で第12回本屋大賞など、多数の受賞歴がある。
2014年には「小さなノーベル賞」とも呼ばれる世界的な賞、国際アンデルセン賞作家賞を受賞している。

上橋菜穂子の作品

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