光圀伝 下 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2015年6月20日発売)
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本 ・本 (512ページ) / ISBN・EAN: 9784041020494

作品紹介・あらすじ

水戸藩主となった水戸光圀。学問、詩歌の魅力に取り憑かれた若き”虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。そして光圀の綴る物語は、「あの男」を殺める日へと近づいていく――。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻を読み終えてから下巻を読み終えるまでに少々時間を要しましたが、迷わず☆5つ!

    実は本書の読了までに違う本を何冊か読み終えていますが、やっぱり上下巻を並べておきたいので、読了済みの他の本はこの後でアップします^^;

    やっぱり冲方丁の時代物は面白い(=^▽^=)

    水戸黄門として知られる徳川光圀の波乱万丈な生涯と同時に人間の義や信念について新たな視点と解釈で描いた歴史小説です。

    徳川光圀といえば「この紋所が目に入らぬか」の水戸黄門として、勧善懲悪のヒーロー、あるいは隠居して諸国を漫遊する悠々自適の人物としてのイメージを持つのは私だけではないでしょう。
    しかし、『光圀伝』では、そんなイメージを覆し、若き日の光圀は、向学心と好奇心に溢れ、儒学や歴史に深く傾倒する一方で、自身の出自や藩主としての責務に葛藤します。
    また、明晰な頭脳と卓越した行動力を持つ反面、時に冷徹とも言える決断を下し、周囲との軋轢を生むこともあります。
    本書では、光圀の人間味溢れる内面と葛藤、そして壮大な「大日本史」編纂事業にかけた情熱を、圧倒的な筆致で余すことなく描き出し、新たな光圀像を提示してくれていました。

    従来の光圀像とは一線を画し、徳川光圀の人生を描いた歴史小説であり、この物語を読んで得た感想を述べると、まず第一に、その筆致の見事さに感嘆しました。
    冲方丁の文章は、歴史という壮大な舞台を背景にしながらも、人間の感情や葛藤を緻密に表現しており、まるで当時の世界に引き込まれるような感覚を覚えました。

    幼少期から晩年に至るまで、彼の成長や苦悩が丹念に描写されており、特に「義」というテーマが光圀の生き方を通じて問われる点が印象的でした。彼が藩主として抱える責任の重さや、大日本史編纂という壮大なプロジェクトへの挑戦は、単なる偉業としてではなく、光圀自身の内面的な葛藤を伴ったものとして描かれています。

    物語は、光圀の幼少期から晩年までを、時系列に沿って描かれています。
    各章は、光圀の人生における重要な出来事や転機を中心に構成されており、読者は光圀の成長と変化を追体験することができます。
    また、光圀を取り巻く登場人物たちも、個性豊かに描かれていました。
    光圀の盟友である佐々宗淳、学問の師である朱舜水、そして光圀の側近である安積澹泊など、それぞれの人物が独自の役割を担い、物語に深みを与えている。
    特に、光圀と佐々宗淳との友情は、本書の大きな見どころの一つ。
    二人は、互いを尊重し、時には激しく議論しながらも、生涯を通じて固い絆で結ばれていました。
    二人の関係を通して、読者は光圀の人間性をより深く理解することができます。

    また本書で光圀が愛する人々との別れを経て、より深い人間性を獲得していく姿はまさに圧巻。
    これらの別れは、彼にとって大きな試練であると同時に、彼の義への信念を揺るがすことはありませんでした。
    この点において、光圀の人物像は極めて人間らしく、感情移入せずにはいられませんでした。
    また、盟友たちとの関わりや葛藤を通じて、彼が人々に与えた影響も深く感じました。

    そして、光圀の生涯を語る上で欠かせないのが、「大日本史」の編纂事業です。
    本書では、この壮大な事業に光圀がいかに情熱を注ぎ込んだかを、詳細な描写と迫力ある筆致で描き出しています。
    資料収集、考証、執筆など、気の遠くなるような作業を、光圀は自ら陣頭指揮を執り、多くの学者や文化人を巻き込みながら、着実に進めていきます。
    その過程で、様々な困難や障害に直面するが、光圀は決して諦めることなく、自身の理想とする歴史書の完成を目指します。
    「大日本史」編纂にかけた光圀の情熱は、単なる歴史研究に留まらず、日本の国家や文化の礎を築こうとする強い意志の表れであり、本書を読むことで、光圀が後世に残した功績の大きさを改めて認識させられました。

    『光圀伝』は、従来の光圀像を覆し、その人間像を物語の進行に合わせて「人間」として徹底的に描き切った歴史小説です。

    しかしながら、歴史を知るだけでなく、人間の普遍的なテーマである「義とは何か」「何をもって人生を全うするか」という問いを投げかけてくれる作品でもあります。
    読み終えた後、その壮大なスケール感と同時に、光圀という一人の人間が持つ深い魅力に改めて感動しました。

    無知故に、どこまでが史実で、どこからがフィクションなのかはわかりません。
    σ(・ω・`)

    でも、そんな事すら関係ない程に冲方丁の圧倒的な筆致と緻密な時代考証、そして現代的な視点と解釈は、読者を魅了し、新たな歴史の扉を開きます。

    本書は、歴史小説ファンのみならず、人間ドラマやエンターテイメント作品を求める読者にも、強くお勧めできる一冊でした♪



    <あらすじ>
    この巻では、光圀が水戸藩主としての責務を果たしながら、大日本史編纂という壮大な事業に取り組む姿が描かれています。彼の人生には多くの別れがあり、盟友や愛する人々との死別を通じて、彼の義や大義への信念が試されます。

    また、光圀の思想や行動が、後の日本の歴史にどのような影響を与えたのかも描かれており、彼の生涯を通じて「義とは何か」という問いが読者に投げかけられます。物語のクライマックスでは、光圀が自らの手で大きな決断を下す場面が印象的です。

    この作品は、史実に基づきながらも、冲方丁の創造力によって光圀の人間性が深く掘り下げられています。歴史好きの方にはもちろん、人生や義について考えたい方にもおすすめの一冊です。

    本の概要
    第3回山田風太郎賞受賞!
    尋常ならざる熱量で、その鮮烈な生涯を活写した
    魂震わす渾身の1500枚! 解説=筒井康隆


    「我が大義、必ずや成就せん」――老齢の光圀が書き綴る人生は、“あの男”を殺めた日へと近づく。
    義をともに歩める伴侶・泰姫と結ばれ、心穏やかな幸せを掴む光圀。盟友や心の拠り所との死別を経て、やがて水戸藩主となった若き“虎”は、大日本史編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。光圀のもとには同志が集い、その栄誉は絶頂を迎えるが――。
    “人の生”を真っ向から描く、至高の大河エンタテインメント!

    著者について
    冲方丁

    1977年岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の1996年に『黒い季節』で第1回スニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。2003年、第24回日本SF大賞 を受賞した『マルドゥック・スクランブル』などの作品を経て、2009年、天文暦学者・渋川春海の生涯を描いた初の時代小説『天地明察』で第31回吉川英 治文学新人賞、第7回本屋大賞を受賞し、第143回直木賞の候補となる(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『マルドゥック・スクランブル』(ISBN-10:4152091533)が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 水戸藩主となった光圀は、理想の仁政をを目指し、次の世代にその理想を託すことを思いながら、あきらめることなく奮闘するが…


    いやぁ、面白かった!
    とにかく光圀の魅力的なこと。
    文武に優れながら驕らず、暗く捻れた心は少年時代に捨て去ったかのような、剛毅でいて柔軟な心。
    愛した者達を見送るたびに流す涙の熱さ。
    こんな主君がいたら、それは心酔するでしょう。

    熱く血がたぎるような物語と、『明窓浄机』のしんとした独白の構成も良かった。

    あれほどに目をかけ、将来を託せる人材として育てていた紋太夫を、手討ちにしなければならなかった苦しさ、切なさ。
    読了して、もう一度冒頭のシーンに戻って読み返すと、“大義”に悩み抜いた光圀が最後に紋太夫にかけた言葉の重みが、さらに沁みる。

    『天地明察』も傑作だったが、こちらも素晴らしかった。
    作中、算哲がちらっと登場するのも、ファンには嬉しいシーンでした。

  • 水戸光圀公の生涯。いわゆる伝記なのだが、光圀公の一人称で内面まで描かれている。若々しいエネルギーが暴発している青年期を経て、壮年、老年へと、凄みを増していく様子が本当にリアルに描かれており、筆者が膨大な資料を当たりつつ、想像力を膨らませたことが伺える。

    司馬遼太郎の作風を、よりリアルに一人称視点で描いたというとイメージできるのではないか?

    そして、光圀公の魅力的な人物造形がこの物語の最大の魅力である。虎のような猛々しさを露わにする、典型的な武人であり、太平の世に全くそぐわないキャラクター。それでいて、そんな人物が時代に適応しようとして必死に学問にうちこむ様子が滑稽で愛らしい。

    藩主を継承して、肩に力が入りすぎて、つい湯呑み茶碗を粉砕してしまう、花山薫のような肉体を持ちながら、ど天然の正妻に、膝枕されて、ご安心ご安心と撫でられたら、大人しくなる可愛さ。そんな人物が、過去の書物を引きちぎらんに力んで読み込み、ついに詩歌という文学の世界で天下を取る。

    抱きしめたくなるような、ひたむきさと純粋さで駆け抜けた光圀公の生涯は、本作でまばゆいばかりの光を放っていた。

    人の人生は、数百年を経た現在でも、たかだか100年に満たない。その限られた生をどう全うするか?自分に問いかけてくるような良作でした。

  • 明暦の大火により、尾張義直公や儒家林羅山が編纂しつつあった貴重な歴史資料が焼失。また、光國の身近な者(妻泰姫、朋友読耕斎、厳父頼房、母久子)に相次ぐ死が訪れる。そして小心の綱吉が将軍を襲名した後は幕府政治が乱れ、豪快な光國へ庶民の人気が集まる分だけ光國と綱吉の間が緊張するなど、下巻では終始重苦しく不穏な空気が漂う。

    そんな中、光國は尾張直義公の遺志を継いだ史書の編纂事業への着手、水戸藩主への就任を期とした兄頼重との子の交換(己の義の貫徹)、朱舜水の教え(治道の要諦)に従った藩政改革、そして全国各地への史料探訪隊の派遣と、縦横無尽に活躍していく。

    本書では、虚実織り混ぜたエンタテインメント系の歴史小説を堪能することができた。なお、上巻の無鉄砲で躍動感ある光國の方が、老成した下巻の光國より楽しめた。なので下巻は星4つ。

  • 義に生きるために、犠牲にしなければならない事。その執着心と覚悟に、どこか人間としての快活さや浪漫を感じる。一生をかけるのだ。そんなモノが自分にはあるか。江戸時代は、生まれながらに身分があり、人生を賭す所業は、今よりもっと明確だった。不自由だったからこそ、迷う自由が無く、義を示しやすかったか。選択肢があるから、私はこれではない、という自分探しに迷う。時代を感じて、やや憧れもして。空想の向きが逸れたが、それも読書の醍醐味。光圀公が義に生きた軌跡とは。エンターテイメント性も保ちながらの秀作である、

  • この作品の大きな主題には、大義と、人の死生観というものが見受けられる。新たに出てきた登場人物たちに対し、読む側としても、徐々に感情を移入していくうちに、次々と世の中を去っていくことに、戸惑いと、寂寞感を打ち付けられる。そのことはこの時代においては、今よりも死が身近で現実的なものであるとともに、生き物、特に人が死ぬという当たり前のことを忘れている現代人に対しての「少しの」警鐘を鳴らしつつ、作品全体としての深みを持たせてくれる。
    そしてその死という絶対的ものは、人によってもたらされるべきものなのか?その死はそうなれば絶対的なものでなくなるのではないかという些かの矛盾を孕みつつ、人による死ならば、その理由を大義に求めなければならないのか、大義と大義の対立なら死という回答しか見出せなかったのかと、泰平の世を築く上での「生」を抉り出している。
    そして最終的に本来の絶対的な死に、主人公の光圀自身が至ることで幾分かの拭えない晦冥さがあるも、史書を通して続いていくであろう人の世、人の生に対しての一筋の光明を見せつつ作品を結んでいることに、絶妙な読後感がある。

  • 漫遊しない、史実に近い水戸徳川光圀の物語

    以下、下巻の公式のあらすじ
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    第3回山田風太郎賞受賞!
    尋常ならざる熱量で、その鮮烈な生涯を活写した
    魂震わす渾身の1500枚! 解説=筒井康隆


    「我が大義、必ずや成就せん」――老齢の光圀が書き綴る人生は、“あの男”を殺めた日へと近づく。
    義をともに歩める伴侶・泰姫と結ばれ、心穏やかな幸せを掴む光圀。盟友や心の拠り所との死別を経て、やがて水戸藩主となった若き“虎”は、大日本史編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。光圀のもとには同志が集い、その栄誉は絶頂を迎えるが――。
    “人の生”を真っ向から描く、至高の大河エンタテインメント!
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    改暦の物語である天地明察の安井算哲も登場して嬉しい
    あっちでもちらっと光圀が出てきてたので、そりゃぁクロスオーバーするよな
    保科正之も両方で深謀遠慮の人して描かれてるし

    水戸光圀が諸国漫遊をしていないというのは知ってたけど
    実はこんな破天荒な人生だったとは知らなかった

    三男でありながら跡取りになったという負い目と疑問

    徳川体制維持のため、太平の世を築く使命
    そんな世の中で天下を取るには、武ではなく詩作においてという決意

    そして、叔父の大願である日本独自の歴史書編纂という事業

    読んでいて胸が熱くなるな


    三男なのに世子となった不義を覆す企み
    兄に打ち明けた際には、不孝だ不忠だと言われるが
    でも、大義ではある

    政治に限らず、人の意思決定には何を重視するかでそれぞれの正義が変わってくる

    そして、同じ「義」という基準でも
    方法論で何が義なのかも変わってくる

    大老を誅殺した理由
    後の世では行われているけど、確かにこの時点でそれはない
    ないのだけれども、よくよく考えれば義ではあるのかもしれない
    ただ、そこに民草の安寧は考慮されていない

    誰にとっての大義なのか


    そう言えば、近年では徳川綱吉の評価も変わってきているというけど
    冷静に考えれば、生類憐みの令は悪法だと思うんだけどね
    それでいてその令を徹底しないあたりに弱腰な政治姿勢が伺える

    まぁ、後ろ盾が盤石ではない指導者なんてそんなものなのは現代も変わらないなぁ

  • 20230106再読
    水戸から将軍が出たら…
    200年後への予言かななどと感じた

    光圀の人となりの練り方が強烈で、また周囲の面々も非常に魅力的だった

  • (上下巻合わせてのレビューです。)

    テレビドラマ「水戸黄門」で有名な水戸光圀の伝記小説。
    伝記と言っても、史実を元に著者が空想を加えたフィクションです。
    著者は、冲方丁で、「天地明察」について、読むのは2冊目になります。

    前回の「天地明察」を読んだのがはるか昔(数年前)だったのですが、
    あのころの記憶がよみがえってくるような本でした。
    「天地明察」の主人公同様、光圀が大きな「志」を抱いていく様に
    どんどん引き込まれていきます。」
    上巻最初の100ページほどは本当につまらなくて、
    「あれ、今回は(本選びに)失敗したのかな?」と思っていたのですが、
    いやはや全くの誤解でした。

    フィクションと言っても著者はとても
    史実の元ネタとなっている原著をよく読みこんでいる様子が分かります。
    もともとあるファクトに著者オリジナルの空想を振りかけ、
    大作を紡ぎ出しているのでしょう。
    著者のボキャブラリーの豊富さに圧倒され、
    よく理解できない単語や漢字の読み方、和歌などたくさん出てきますが、
    それでも大きな「志」に向かっていく光圀を見ると、
    彼の生きざまを最後まで見届けたいという気持ちになってきます。

    自分の「志」とは何か?と考えさせられる小説です。

  •  下巻では水戸光圀が魅力的なキャラクターのまま、年を重ねていって藩の、幕府の重鎮となってゆく様子が描かれる。物語の一番最初から、光圀が誰か重要な人物を殺害することがこの物語の重要な場面であることが描かれているが、後半に向けてその真相も明らかになってゆく。最後の最後はやや物語の展開を急ぎすぎているようにも思われたが、そこをあまりくどくどを描いても退屈したのかもしれない。最後まで面白い物語だった。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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