光圀伝 (下) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
4.14
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本棚登録 : 991
感想 : 92
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041020494

作品紹介・あらすじ

水戸藩主となった水戸光圀。学問、詩歌の魅力に取り憑かれた若き”虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。そして光圀の綴る物語は、「あの男」を殺める日へと近づいていく――。

感想・レビュー・書評

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  • 水戸藩主となった光圀は、理想の仁政をを目指し、次の世代にその理想を託すことを思いながら、あきらめることなく奮闘するが…


    いやぁ、面白かった!
    とにかく光圀の魅力的なこと。
    文武に優れながら驕らず、暗く捻れた心は少年時代に捨て去ったかのような、剛毅でいて柔軟な心。
    愛した者達を見送るたびに流す涙の熱さ。
    こんな主君がいたら、それは心酔するでしょう。

    熱く血がたぎるような物語と、『明窓浄机』のしんとした独白の構成も良かった。

    あれほどに目をかけ、将来を託せる人材として育てていた紋太夫を、手討ちにしなければならなかった苦しさ、切なさ。
    読了して、もう一度冒頭のシーンに戻って読み返すと、“大義”に悩み抜いた光圀が最後に紋太夫にかけた言葉の重みが、さらに沁みる。

    『天地明察』も傑作だったが、こちらも素晴らしかった。
    作中、算哲がちらっと登場するのも、ファンには嬉しいシーンでした。

  • 明暦の大火により、尾張義直公や儒家林羅山が編纂しつつあった貴重な歴史資料が焼失。また、光國の身近な者(妻泰姫、朋友読耕斎、厳父頼房、母久子)に相次ぐ死が訪れる。そして小心の綱吉が将軍を襲名した後は幕府政治が乱れ、豪快な光國へ庶民の人気が集まる分だけ光國と綱吉の間が緊張するなど、下巻では終始重苦しく不穏な空気が漂う。

    そんな中、光國は尾張直義公の遺志を継いだ史書の編纂事業への着手、水戸藩主への就任を期とした兄頼重との子の交換(己の義の貫徹)、朱舜水の教え(治道の要諦)に従った藩政改革、そして全国各地への史料探訪隊の派遣と、縦横無尽に活躍していく。

    本書では、虚実織り混ぜたエンタテインメント系の歴史小説を堪能することができた。なお、上巻の無鉄砲で躍動感ある光國の方が、老成した下巻の光國より楽しめた。なので下巻は星4つ。

  • 義に生きるために、犠牲にしなければならない事。その執着心と覚悟に、どこか人間としての快活さや浪漫を感じる。一生をかけるのだ。そんなモノが自分にはあるか。江戸時代は、生まれながらに身分があり、人生を賭す所業は、今よりもっと明確だった。不自由だったからこそ、迷う自由が無く、義を示しやすかったか。選択肢があるから、私はこれではない、という自分探しに迷う。時代を感じて、やや憧れもして。空想の向きが逸れたが、それも読書の醍醐味。光圀公が義に生きた軌跡とは。エンターテイメント性も保ちながらの秀作である、

  • 水戸光圀公の生涯。いわゆる伝記なのだが、光圀公の一人称で内面まで描かれている。若々しいエネルギーが暴発している青年期を経て、壮年、老年へと、凄みを増していく様子が本当にリアルに描かれており、筆者が膨大な資料を当たりつつ、想像力を膨らませたことが伺える。

    司馬遼太郎の作風を、よりリアルに一人称視点で描いたというとイメージできるのではないか?

    そして、光圀公の魅力的な人物造形がこの物語の最大の魅力である。虎のような猛々しさを露わにする、典型的な武人であり、太平の世に全くそぐわないキャラクター。それでいて、そんな人物が時代に適応しようとして必死に学問にうちこむ様子が滑稽で愛らしい。

    藩主を継承して、肩に力が入りすぎて、つい湯呑み茶碗を粉砕してしまう、花山薫のような肉体を持ちながら、ど天然の正妻に、膝枕されて、ご安心ご安心と撫でられたら、大人しくなる可愛さ。そんな人物が、過去の書物を引きちぎらんに力んで読み込み、ついに詩歌という文学の世界で天下を取る。

    抱きしめたくなるような、ひたむきさと純粋さで駆け抜けた光圀公の生涯は、本作でまばゆいばかりの光を放っていた。

    人の人生は、数百年を経た現在でも、たかだか100年に満たない。その限られた生をどう全うするか?自分に問いかけてくるような良作でした。

  • この作品の大きな主題には、大義と、人の死生観というものが見受けられる。新たに出てきた登場人物たちに対し、読む側としても、徐々に感情を移入していくうちに、次々と世の中を去っていくことに、戸惑いと、寂寞感を打ち付けられる。そのことはこの時代においては、今よりも死が身近で現実的なものであるとともに、生き物、特に人が死ぬという当たり前のことを忘れている現代人に対しての「少しの」警鐘を鳴らしつつ、作品全体としての深みを持たせてくれる。
    そしてその死という絶対的ものは、人によってもたらされるべきものなのか?その死はそうなれば絶対的なものでなくなるのではないかという些かの矛盾を孕みつつ、人による死ならば、その理由を大義に求めなければならないのか、大義と大義の対立なら死という回答しか見出せなかったのかと、泰平の世を築く上での「生」を抉り出している。
    そして最終的に本来の絶対的な死に、主人公の光圀自身が至ることで幾分かの拭えない晦冥さがあるも、史書を通して続いていくであろう人の世、人の生に対しての一筋の光明を見せつつ作品を結んでいることに、絶妙な読後感がある。

  • 20230106再読
    水戸から将軍が出たら…
    200年後への予言かななどと感じた

    光圀の人となりの練り方が強烈で、また周囲の面々も非常に魅力的だった

  • (上下巻合わせてのレビューです。)

    テレビドラマ「水戸黄門」で有名な水戸光圀の伝記小説。
    伝記と言っても、史実を元に著者が空想を加えたフィクションです。
    著者は、冲方丁で、「天地明察」について、読むのは2冊目になります。

    前回の「天地明察」を読んだのがはるか昔(数年前)だったのですが、
    あのころの記憶がよみがえってくるような本でした。
    「天地明察」の主人公同様、光圀が大きな「志」を抱いていく様に
    どんどん引き込まれていきます。」
    上巻最初の100ページほどは本当につまらなくて、
    「あれ、今回は(本選びに)失敗したのかな?」と思っていたのですが、
    いやはや全くの誤解でした。

    フィクションと言っても著者はとても
    史実の元ネタとなっている原著をよく読みこんでいる様子が分かります。
    もともとあるファクトに著者オリジナルの空想を振りかけ、
    大作を紡ぎ出しているのでしょう。
    著者のボキャブラリーの豊富さに圧倒され、
    よく理解できない単語や漢字の読み方、和歌などたくさん出てきますが、
    それでも大きな「志」に向かっていく光圀を見ると、
    彼の生きざまを最後まで見届けたいという気持ちになってきます。

    自分の「志」とは何か?と考えさせられる小説です。

  •  下巻では水戸光圀が魅力的なキャラクターのまま、年を重ねていって藩の、幕府の重鎮となってゆく様子が描かれる。物語の一番最初から、光圀が誰か重要な人物を殺害することがこの物語の重要な場面であることが描かれているが、後半に向けてその真相も明らかになってゆく。最後の最後はやや物語の展開を急ぎすぎているようにも思われたが、そこをあまりくどくどを描いても退屈したのかもしれない。最後まで面白い物語だった。

  • 面白い。夢中で読み続けて、突然涙したりともう忙しいくらいに心を動かされ続ける下巻でした。

    水戸黄門ってこんな人だったのか。

    と。初めて知ったばりの内容。めっちゃ強いんじゃん!しかもイケメンだったの!?っていう。なんかもう旅好きの爺さんのイメージしかわからなかったし、なんかきっと位の高そうな人。みたいな感じだったけど、こんなつながりがあったなんて!!!
    そして、前回読んだ冲方丁の算哲まで出てきて、そういえば!光圀に会いに行ってた!!!!と、思い出して、前回は算哲側から見た光圀、今回は光圀側から見た算哲を読み、さらに面白さ倍増。

    同じ時代にこんなにすごいことを成し遂げた人がいたことがすごいなぁ。と感じながら、今もこんな人がどこかで活躍してるかもしれないなぁ。と、ふと思う。

    面白い。男らしい。素敵。

    光圀。素敵です。

    勉学に励みに励む姿は見習いたくおもいまする。

  • 上は、光圀の若い時代、様々なことを、スポンジのように吸収し、素敵な人達と出会い、親交を深めていく話だとしたら、下は、一転して、様々なことを悟り、出会った人達と別れていく話だと感じた。

    老い。誰にも共通して起こる出来事だが、光圀は、それを静かに受け入れている様子が伝わってきた。そして、成し遂げられなかったことを、次の世代へ託すために、静かに、準備をし、若い世代を見守る。そのあたたかさに、途中まで、上の、冒頭シーンのことを、すっかり忘れてしまっていた。光圀は、いったい、誰を殺めることになるんだろう。。。どきどきしながら読み進めた。「大義」の受け取り方の違いの生んだ悲劇。きっと、光圀も、悲しかっただろうと思う。

    歴史に明るくない私だが、楽しみながら最後まで読むことができた。どこまで、史実に忠実なのか、歴史についても、今後学んでいきたい。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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