散り椿 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041023112

作品紹介・あらすじ

最愛の人を失ったとき、人は何ができるのか――

かつて一刀流道場の四天王と謳われた勘定方の瓜生新兵衛は、上役の不正を訴え藩を追われた。
18年後、妻・篠と死に別れて帰藩した新兵衛が目の当たりにしたのは、藩主代替わりに伴う側用人と家老の対立と藩内に隠された秘密だった。
散る椿は、残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるもの――たとえこの世を去ろうとも、ひとの想いは深く生き続ける。
秘めた想いを胸に、誠実に生きようと葛藤する人々を描いた感動の時代長編!

≪熱き信念が胸を打つ、扇野藩シリーズ≫

感想・レビュー・書評

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  • こまやかな情愛のこもった中に激しい想いが…。
    散り椿
    2021.08発行。字の大きさは…大活字。2022.05.25~06.04音読で読了。★★★★★
    亡き妻・篠の情愛が、静かに、そして激しく夫・瓜生新兵衛を動かす物語です。

    篠は、死に際して、私が死んだら夫はどうするだろうかと考えると、もしやして、夫は私が死んだら後を追って死ぬのではないかと。そこで一計を案じます。手元に持っていた祝言前に榊原采女から貰った三通の恋文を使って。
    私が死んだら国元に帰って散り椿を見てほしいと、そして榊原采女を助けてほしいと願います。新兵衛は、篠に「この願いをかなえたら褒めてくれるか」と。篠は、「お褒めしますとも」と。

    新兵衛は、篠の願いをかなえるために18年ぶりに国元に帰ります。そうすると、18年前に新兵衛が勘定方の不正を訴えたために国を出なければならなくなった事件が、再び蒸し返され、大きな御家騒動へと発展していきます。その中で四天王といわれた新兵衛の秘剣雷斬りが冴え渡ります。

    【読後】
    かつて二人で見た散り椿を見ながら新兵衛は、散る椿は、残る椿があるからこそ散って行けるのですと…篠のことを想います。新兵衛を心の底から愛する篠は、ただただ新兵衛に生きていて…ほしかったのです。
    多くのページは、御家騒動に費やされながら、その中で新兵衛の揺れる心、篠への想いが感じられ、とても良く、大変心に残る作品でした。音読しながら時々涙がとめどなく流れて来るのを止めることが出来ませんでした。

    「散り椿」。椿は、花がぽたりと落ちます。このため武士には首が落ちるとして嫌われますが。散り椿は、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていきます。

    【音読】
    2022年5月25日から6月4日まで、大活字本を音読で読みました。この大活字本の底本は、2014年12月に角川文庫から発行された「散り椿」です。本の登録は、角川文庫で行います。社会福祉法人埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。

  • 瓜生新兵衛が、かつての上司の不正を訴えたが認められずに、藩を追われる。そして妻の篠とともに故郷を離れることとなる。それから18年後、亡き妻の願いを叶えるために新兵衛は故郷へ戻ってきた。

    新兵衛と藤吾との育まれていく絆、平山道場の四天王と呼ばれた仲間たちとの友情、采女と篠との複雑な想い、新兵衛と篠との夫婦愛、様々な人間模様が誠実さを含めて描かれている。

    『散る椿は残る椿があると思えばこそ見事に散っていけるのだ』切ないながらも、武士として生きた天晴れな物語である。

  • 扇野藩に、昔、一刀流道場の四天王と謳われた男達がいた。

    瓜生新兵衛は、上役の不正を訴え、藩を追われ、愛妻・篠と二人で、故郷を後にした。

    榊原采女は、側用人で、「いずれ家老にまで昇り詰めるのは、間違いがない 」とみられている。
    父、平蔵は、不正が見つかり、何者かに、惨殺されていた。

    坂下源之進は、使途不明金を糾問され、無実を訴えながら、自害。
    息子の藤吾は、減石されたお家を元に戻す為、出世だけを目指し、日夜、励んでいる。

    篠原三右衛門は、馬廻役で、娘の美鈴と、新兵衛の甥藤吾とは、許嫁の間柄。

    瓜生新兵衛は、妻を亡くし、18年後に、ぶらりと、故郷に戻ってきた。
    妻が、死際に、「故郷の椿を、自分の代わりに見てきて欲しい」と言った為だった。

    そんな新兵衛が見たものは、藩主の代替わりに伴う、家老と側用人の対立であった。

    藩主・親家の嫡男、政家が、跡を継いだら、親政をすると言う。
    親家の庶兄、刑部家成と与している家老は、不正が暴かれるのを、阻止するため、政家の命を狙う。

    家老の陰謀に立ち向かう、新兵衛と藤吾。

    繰り広げられる事件を解決していくうちに、坂下源之進の自決の理由、榊原采女の父親を惨殺した犯人が暴き出される。

    初めは、反発していた、甥の藤吾が、だんだん新兵衛に傾倒していく様子や、
    采女が見せた、武士魂。
    泣きどころ満載。

    夫婦愛。家族愛。友情。侍である矜持。
    どれも、描写が、素晴らしい。
    流石、葉室麟と、言うしかない。

  • 時代小説で定番ともいえるお家騒動が背景。
    さらに、男同士の友情と、彼らが想いを寄せる一人の女性。これもよくあるパターンだけれども、著者は、叙情豊かに美しく一編の詩の如くに、物語を紡ぎだした。
    人が人を想う気持ちと、それが相手に伝わらず、それでもそれぞれが誠実に生きようと葛藤する人々。
    現代を舞台にしたら、陳腐となってしまいかねない設定も、時代小説では、切なく美しい物語となる。
    やっぱり、時代小説って、いいですねえ。

  • 久しぶりに最初からぐいぐい引き込まれる文章とあらすじに出会い、1日で読んでしまいました。
    登場人物のキャラクターもきちんと描かれていて、しかもみんな魅力的で(私は采女が好きでした)
    お話もしっかり作り込まれていて、最後まであっという間に読んでしまいました。
    でも、この間の瀬尾まいこさんの「幸福な食卓」といい
    全てがハッピーエンドではない本は読んでいてちょっと辛いです。今回も采女も亡くなり、新兵衛もまた何処かへ行ってしまい、とても寂しい気持ちが残りました。
    采女とお義母さんの和解させてあげて、できれば里美さんと采女を取り持ってあげて欲しかったなぁ。
    この先、藤吾がメキメキ政治手腕を発揮して、お殿様の片腕となり、良い国を作ってくれることを願っています。
    そのための散り椿、でもありますよね…

  • これは素晴らしい!
    心揺さぶられました!
    映画も見たい!!

    背景はお家騒動ですが、その中で描かれる男同士の友情、一人の女性。その時代を生きる人たちの清々しく、誠実な生き様。切なく心打たれます。

    ストーリとしては、
    かつて一刀流道場の四天王と謳われた勘定方の瓜生新兵衛は、上役の不正を訴え藩を追われます。18年後、妻・篠と死に別れて帰藩した新兵衛が目の当りにしたのは、藩主台替わりに伴う側用人と家老の対立と藩内に隠された秘密といった展開です。

    篠の最期の願いを叶えるため、一人故郷に戻ってきた新兵衛。そして、その旧友采女との決着。
    過去の事件の真相は?
    藩内に隠された秘密とは?
    そして、篠の願いの奥に秘めた本当の想いに心揺さぶられます。

    また、新兵衛の帰藩に伴い、大きく影響を受けるのが、新兵衛の甥の坂下藤吾。
    藤吾の父・源之進は使途不明金を糾問され、無実を主張したものの聞き入れられず自害することに。結果、家録を減らされ、藤吾はその家録を取り戻すべく、出世しようと励んでいます。
    新兵衛の振る舞い、生き方が、藤吾の生き方に大きく影響を与え、藤吾が成長していく様を感じます。

    「散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるもの」

    切なく、そして強い

    とってもお勧め。

  • #読書記録 2023.8

    #散り椿
    #葉室麟

    扇野藩で続く不審死の真相を追うミステリ要素を縦糸に、新兵衛のただまっすぐな妻への思いや剣術仲間の男たちの友情、若者の成長等の人間模様を横糸に。
    葉室さんの描く夫婦愛は本当に心に沁みるので、定期的に補充したくなるよ。

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読了

  • とても美しい物語だった。
    最初亡き妻の真意が分からず好きじゃなかったんだけれど、読み進めていくと段々と様々な事の裏側が見えてくる。
    彼女の、そして彼らの一途な愛が痛いほど伝わってくる。
    過去の事件の真相が徐々に分かってくるにつれて、彼らへの心情が二転三転していく。
    誰が敵かと疑心暗鬼になったり、卑劣な手段に出る相手方にハラハラの展開もあって、始終面白く読めた。

  • 最初からぐいぐい引き込まれる物語で、一気に読み進めることができた。
    ひとがひとを深く思う気持ちを強く感じられる作品で、それぞれのひとを思う気持ちに深く胸を打たれ、熱くなります。
    「時代小説いいなぁ」って思える、素敵な作品です。

  • どこまでも不器用でどこまでも誠実な男達の切ない物語。
    最愛の妻の最期の願いを叶えるため、男は一人故郷に戻ってきた。
    妻に褒められたい一心で。
    そして因縁深い幼馴染みと決着をつけるために。

    過去に起こった事件の真相を解き明かすにつれ、浮かび上がる亡き妻の想い。
    妻が願いの奥に潜めた想いは実に切ないものだった。
    散る椿は残る椿があると思えばこそ見事に散っていける…潔くて儚いセリフに泣きそうになる。

    葉室さんは男同士の友情を描くことが本当にお上手な作家さんだったのだと改めて思った。
    岡田准一さん主演の映画も楽しみ。
    葉室さんも楽しみにされていたんだろうな…。
    本当に残念。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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