幾千の夜、昨日の月 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041023860

作品紹介・あらすじ

友と語り明かした林間学校、初めて足を踏み入れた異国の日暮れ、終電後恋人にひと目逢おうと飛ばすタクシー、消灯後の母の病室…夜は私に思い出させる。自分が何も持っていなくてひとりぼっちであることを。

感想・レビュー・書評

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  • 僕は夜や月というモチーフに弱い。
    秀逸なタイトルがまた 
    おいでおいでと僕を惹きつける。

    冒頭を飾る『かつて私に夜はなかった』がいいなぁ~。
    角田さんが子供時代に初めて家族で夜の銭湯に行き、夜の匂いや空気を肌で感じた思い出。

    角田さんは言う。
    『夜はときとして、私たちがひとりであることを思い出させる』と。

    そしてひとりであると気づいた夜には
    人はいろんなことを思う。
    未来には悪いことしか待ち受けてないような漠然とした不安だったり、
    あるときは、たったひとりでどこまでも歩いていけるような、根拠のない自信だったり、
    そしてあるときは、いつも傍にいた人が心から大切だと痛いほど分からせてくれる「気付き」だったり。

    夜は自分の心と対話する、
    そんな孤独を与えてくれるのだ。


    深夜の異国で不審なベンツに追いかけられたり、
    特に用もないのにコンビニ探して深夜の町を徘徊したり、
    モロッコの砂漠ツアーで
    UFOかと見間違うほど巨大な月に圧倒されたり、
    気弱な金髪青年を守らなきゃと 
    モロッコの強引な客引きと喧嘩したり、
    帰りのタクシー代も考えずに夜通し異国のディスコで踊ったり、
    コワいコワいと言いながら角田さん、
    夜に出歩き過ぎやし(笑)
    勇敢過ぎるでしょ~!

    それにしても走る豪華ホテルと言われるオリエント・エクスプレスに乗った話はホンマ羨ましい限り( >_<)
    知らない乗客同士で自己紹介した後は美しい景色を窓越しに見ながら、
    思い思いのアルコールを手に、
    ピアノ演奏に聴き入るバー・カーでのひとときの描写に
    僕の中の妄想列車もブレーキの壊れた暴走列車と化したのでした…(笑)
    (かたや車内をネズミが走り回り、開け放たれた窓からあらゆる虫たちがびゅんびゅん入り込んでくる(笑)
    ミャンマーで乗った地獄列車の話には笑った!)

    そして思いは届かなくとも
    好きな人といた間はすべてがきれいに見えたという、
    角田さんが過ごした夜をめぐる20代の切ない恋の話。


    施設で育った僕は怖がりのくせに、
    なぜか子供の頃から夜が好きだった。

    大人たちが寝静まった後に繰り出す深夜の散歩。
    昼とは違う神秘的な夜の町の顔。
    音も光も薄れて
    声をあげるとどこまでも響く感じに心ワクワクして、
    ただただ夜を歩くことに好奇心旺盛だったあの頃。

    月の下で食べる夜店の綿あめや、銭湯の帰りに食べる冷たいアイスはホント美味しくて、
    月の灯りの下では普段言えないコソコソ話や、
    隠してた本音がポロリと出たり、
    誰もがほんの少しおしゃべりになったりして。

    誰かと腹を割って話して
    「本当のその人」と出会えるのも
    圧倒的に夜で、
    夜だからこその力によるものが大きい。


    たっぷりした満月と凍えた夜空に、いくつもの星たち。
    色とりどりのキャンディーを散らかしたみたいな街や車の灯り。

    しんしんと降る雪の中を
    泣きながら両親を探した夜。

    エロ本を求め町を探検した(笑)、
    中学生男子だけの夜のピクニック。

    汗だくで駆け回った
    甲子園球場のナイター戦でのビール売りのバイト。

    家出して、飛び乗った電車の窓から見た
    冷たく尖った夜の月。

    凍てつくような寒さだった
    阪神淡路大震災直後の燃えさかる神戸の夜。

    ボクシングのデビュー戦でボコボコに殴られた夜に泣きながら食べ
    た屋台の夜鳴きそば。

    自分を作る様々な夜の記憶。

    そんないくつもの忘れがたい夜を思い出させてくれたエッセイです。

  • 夜をテーマにした旅エッセイ。
    角田さんはあらゆる土地を旅されてて凄い。一人でタイやエジプト、モンゴルなどを旅する勇気。それだけで尊敬に値する。
    子供の頃は夜がなく、恋をしたら夜が怖くなくなるという件…わかるなぁ。この本には様々な夜が描かれていて、ただ毎日巡ってくる暗い時間という訳ではないんだと実感させてくれる。夜は怖くて、魅力的だ。

  • うん、うん、と頷きながら読み終わった。
    私は一人旅は二回しか行ったことがないけれど、その夜はどこか特別だったような気がする。
    そして、旅先で見るものは何故か、同じものでも違って見える。本当に不思議だ。

  • こんな夜あったな、そういえば夜ってこういう気持ちになるなと個々人が抱く夜がどういったものなのか文書に触れて思い出すという経験が出来る貴重な本だと思う。夜のしんとして一人を感じる経験は誰でもしているんだなとすとんと分かった気がする。

  • 去年6月くらい、かもめブックスの特集棚(テーマ:レイニーメトロノームブックス)にあった本が全部良さそうでうんうん悩んでこの一冊を買った。

    正しい選択だった!(多分どの本を選んでも同じことを言ってそう)夜のえもいわれないあの感じ(複数種類あり)が明晰に切り取られている。モヤがかかった、上手く取れていないけれど絶妙にその場の雰囲気が一枚になったポラロイドみたい。

    人と孤独はシェアできないかもしれないけど、この本があれば夜も寂しくない。

  • 手元に置いておきたい1冊。角田さんの夜のエッセイだけど、旅先の話も多くて、旅に出られない今、少しだけ旅したい欲を解消してくれた気もするし、逆にとても羨ましくて行きたくなった気もする。ふとしたときにまた読み返したい。

  • 夜に関しての、著者の様々な角度で切り取った実感を書くエッセイ。

    「ガラスを砕いたような夜空」など、相変わらず表現が直接的でキレイ。

    場所やその時々の気持ち、付き合いごとに色んな夜があるのだなと思った。

    表現だけでなく、文章の書き方も読みやすく工夫してあって、その点でも勉強になった。

  • エッセイ?
    夜の捉え方としてはおもしろかったけど、本としてはつまらなかった。
    途中だ読むのやめてしまった。

  • これまでの人生の中で、自分の人生に影響を与えた夜にどのようなものがあったのか。けっして無視できないできごと、そう、他人にはどうでもいいことかもしれない。でも本人にとっては人生を変えるほど大きな意味を持っていた。

  • 夜に関するエッセイ。旅先の夜、学生だった頃の夜、引っ越しした最初の夜、、、夜にはいろいろな表情があるということを思い出させてくれる本でした。

    よく、夜書いた手紙(今の時代は手紙ではなくメール?)は朝読み返してから送ったほうがいいと聞きます。夜は私たちを昼間よりも少しだけ感情的にしてしまうから。でもだからこそ夜が好き。自分が過ごしてきた幾千もの夜の中の、自分にとっての特別な瞬間を思い浮かべながら読みました。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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