料理番 春の絆 包丁人侍事件帖 (5) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041024294

作品紹介・あらすじ

江戸城台所人、鮎川惣介は、上司に睨まれ元旦当番を命じられてしまった。大晦日の夜、下拵えを終えて幼馴染みの添番、片桐隼人と帰る途中、断末魔の叫び声を聞いた。またも惣介は殺人事件に巻き込まれてしまう――。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸城の台所人・鮎川惣介と大奥添番・片桐隼人の幼なじみコンビが様々な事件に挑むシリーズ第五作。
    学研M文庫版で読んだはずだが既読感がないので新鮮な気持ちで読めた。

    前作のゴタゴタで仕事を早引けした代わりに大晦日と元日の当番を言い渡された惣介。
    今回はその大晦日の帰宅途中、惣介と隼人が殺人事件に遭遇することから始まる。
    またもや陰鬱になるような真実に行き当たるのか…とハラハラしたが、被害者は誰もが口を揃えて指摘する嫌な人物だった。
    もちろん嫌な人物だからと言って殺して良いというわけではないが、被害者の嫌がらせで自殺に追いやられた者もいるほどで、喪主自ら殺されて良かったと言われてしまう人物もなかなかいない。

    そしてタイプは違うがまたも嫌な人物に惣介と隼人は出会う。それが今回全体を通してキーマンとなる三ヶ田武実という新米添番。
    自信家で自慢屋で他者に対しては慇懃無礼で…と良いところなし。惣介がハラハラするほどで、案の定惣介の上司・長尾に一喝されるのだがそれで気持ちを入れ替えるどころか更なる事件を起こす。

    三ヶ田のような人物は裏を返せば自信がないとも言える。だからこそ様々な自慢や他者に対する攻撃で武装しているのだろう。しかし何事もやり過ぎは禁物。
    それが証拠に三ヶ田の所業は自身に返ってきている。それでも彼は何とか体裁を繕いプライドを保っているのだが痛々しい。

    などとあらすじを書いてみるとやはり今回も陰鬱な話になりそうな印象だが、あちこちにコミカルな要素を挟んでいる。
    例えば第二話では上司・長尾に懇願されて狸の毛皮で作った着ぐるみを着て大奥の屋根裏に入るという冒険をさせられているし、第三話では惣介の娘・鈴菜が迷える三ヶ田にクセのある占い師を紹介している。将軍・家斉も惣介のピンチをユーモアで救ってくれた。
    描き方次第ではシリアスどころか取り返しのつかない悲惨な結末に行き着きそうだが、惣介や鈴菜の活躍で上手く収拾したようだ。

    とは言えオチはなかなかシビア。男が自分の生きる道に必死な一方で、女もまた男をシビアに見ている。
    それでもこれまでのシリーズ作品に比べると救いがある結末で良かった。
    読み終えて今回は曲亭馬琴や雪之丞が出て来なかったことに気付いたが、そのくらい三ヶ田のキャラクターは強烈だった。途中はどうなるかと心配したが、最終的には彼なりの筋を通したので印象も持ち直した。

    隼人の活躍が少なかったが、惣介を慰めてくれたりいざというときにはいつも傍にいてくれて二人の絆は健在。
    そして将軍・家斉のお気に入りであることで惣介に冷たい同僚たちに少し変化があったのも嬉しい。
    久しぶりの家族サービスで穏やかな休日の一コマもホッとする。

  • 第11代将軍・家斉の食事を作る「お広敷御膳所台所人」、ぽっちゃり癒し系の鮎川惣介のシリーズ第五弾。
    「春の絆」の春は、新春のこと。
    以前、勝手に早退したと上司の長尾に叱られ、大晦日も元日もシフトを入れられた惣介が、さらに事件に巻き込まれる。

    血生臭い事件も起きるが、出汁の匂いが立ち込める江戸城の台所や、惣介の自宅で作られる料理の描写はとても美味しそうで、食べ物のことが書かれている場面は血の匂いも忘れ、登場人物たちも幸せそうである。
    今ある和食がほとんど江戸時代に確立していることを考えると、色々美味しいものがあったのだろうなと思う。

    江戸の神社の行事はともかく、あまり知られる機会のない大奥の行事が描かれるのも面白い。
    今回も惣介のコスプレあり。ご苦労様です。
    そして・・・時代小説を読むたび毎回のように思うけれど、長男以外の武家の男子の扱いの酷さよ・・・
    難しい試験に受かるか、お役目のある家の養子にでも入らなければ職にも就けない。
    人生に希望を見いだせないのもむべなるかな、といつも同情してしまう。
    三ケ田武実の今後は描かれるのだろうか?

    第一話 義によりて
    第二話 狸騒動
    第三話 鷽(うそ)替え

  • いつもの運の悪さなのか?上役からの大晦日と元旦の当番を命じられた主人公の鮎川惣介。

    少しお腹の出た体型で、幼馴染の大奥警護の片桐隼人とのやり取りが、おもしろいのだが、、
    3話からなるこの本。
    2話の「狸騒動」など、少し無理のある話。
    3話の「鷽替え」天満宮の神事について描かれている所も多いが、呪いの藁人形について、こんなにも大変なことなのだと、知った。(まずは、そんなことをしないけれど、、、)
    料理の話よりも、家庭事情の事が描かれているようにも思えた。

    宋いえば、「鷽替え」の終わりごろのページに、旗本の嫡男と奥方が、下谷に茶漬け店を出したことが、数行出てきているが、、、、
    先日今井絵美子氏の「ぶぶ漬屋 稲茶でございます」だったか、、、やはり、旗本の母君と、嫡男とが、茶漬け屋を始めるというのを、読んだばかりであった、、、、

    まさに今、後1カ月程で、新年であるから、鏡餅の話やお節の話も載せて欲しかったような気がする。

    でも、もう今の子供たちには、七草がゆ、具足開き、小正月の小豆粥等の言葉も知らないだろうと、思う。

    鏡餅の中見は、砂糖が、入っていると思っている子に出くわして、びっくりしたこと!あり。
    もうこうゆう時代なのかも、、、。

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著者プロフィール

三重県伊勢市生まれ。愛知教育大学教育学部教職科心理学教室卒業。高校時代より古典と日本史が好きで、特に江戸に興味を持つ。日本推理作家協会会員。三重県文化賞文化新人賞受賞。主な著作に「包丁人侍事件帖」シリーズほか、「大江戸いきもの草紙」シリーズや『芝の天吉捕物帳』『冷飯喰い 小熊十兵衛 開運指南』がある。

「2019年 『料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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