料理番子守り唄 包丁人侍事件帖 (3) (角川文庫)

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  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041024300

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  • 江戸城の台所人で人並み外れた嗅覚を持つ鮎川惣介と、幼馴染で大奥添番で剣の達人・片桐隼人が大奥を舞台にした様々な事件に挑むシリーズ第三作。

    第一話「稲荷寿司異聞」
    万病に効くと噂の稲荷寿司を調べると阿芙蓉(阿片)が混ぜられていた。
    一方大奥では将軍・家斉の側室・お美代の方の部屋方・千登勢が殺されたという。

    第二話「四谷の物の怪」
    惣介の娘・鈴菜の友人・香乃の家<美濃屋>が新築した家で夜な夜な幽霊が出るという。
    一方、殺されたはずの千登勢がお茶屋で働いているのを惣介が見つけ…。

    第三話「下総中山子守り唄」
    将軍・家斉の召し出しの場で思いもかけず側室・お美代の方に頼まれごとをされてしまった惣介と隼人。
    一方、先の稲荷寿司屋の客の母子が行方不明になり…。

    第一作と第二作は学研M文庫で読んだのだが、こちらは角川文庫。同じ内容だと思ったら『大幅に加筆・修正』と注釈があった。
    通りで違和感を感じるはず。
    突然現れた『日寂』なる偽坊主。阿芙蓉混入に大奥の女たちを借金まみれにしてまで高額な鬼子母神像を買わせたり。今作突然現れたように思ったが、前作でも出ていただろうか。それとも角川文庫版第二作から登場したのか。
    それから前作で殺されたあらし=あんずが名を変えて大奥に潜入したものと思っていたら、今作ではあんずはあんずで行方不明になっているらしい。前作で私が読み間違えたのか、それとも加筆・修正で話が変わったのか。改めて第二作を角川文庫版で読んでみなければ。

    今回は惣介・隼人の家庭のゴタゴタは少し影を潜めている。その代わり惣介の天敵・雪之丞が再び江戸にやって来て用心棒の忍び?睦月も日寂成敗に加勢する。
    水野忠邦の懐刀・大鷹源吾は相変わらず『油断できない策士でもあり、ときには揺るぎなく非情にもなる』のだが、どこか憎めない。

    シリーズとしては第一作からの大奥での権力争いがずっと尾を引いている。その間に一体何人の者が命を奪われ、人生を狂わされたのだろう。
    これまでは将軍・家斉の将軍ならではの苦悩に共感できていたのだが、今回は将軍ならではの冷酷さが出てきて雰囲気が変わる。
    家斉は惣介に目を掛けてくれて(その理由も明らかになった)危ない目に遭わせないように気遣ってはくれるものの、いざとなれば惣介を切り捨てざるを得ないだろう。それは添番・隼人も同じ。大鷹源吾もまた水野の道具に過ぎず、出世の妨げになるようなことがあれば遠慮なく切り捨てられる。

    日寂はそんな狂った宮仕えを嘲笑うように現れる。町人たちだけでなく大奥にも入り込み人々を混乱させる。
    日寂もまた将軍・家斉や大奥に狂わされたのだろうか。結局誰が後ろにいてどういう明確な意図があって…というのが分からないままでモヤモヤした。

    宮仕えの惣介や隼人らにも苦しいことがあるように、町人は町人で苦しい。
    惣介が隼人と共に命を掛けた使命を果たそうとする中で、行きあった町人の母子を気にかけてくれている。
    最後に惣介が唯一助かった赤子を背に、タイトル通りの子守り唄を歌いながら赤子を励ますシーンが良かった。そしてこんな切ない場面でも隣に隼人がいてくれることが嬉しい。

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著者プロフィール

三重県伊勢市生まれ。愛知教育大学教育学部教職科心理学教室卒業。高校時代より古典と日本史が好きで、特に江戸に興味を持つ。日本推理作家協会会員。三重県文化賞文化新人賞受賞。主な著作に「包丁人侍事件帖」シリーズほか、「大江戸いきもの草紙」シリーズや『芝の天吉捕物帳』『冷飯喰い 小熊十兵衛 開運指南』がある。

「2019年 『料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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