料理番に夏疾風 新・包丁人侍事件帖 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041024324

作品紹介・あらすじ

将軍家斉お気に入りの台所人・鮎川惣介にまたひとつやっかい事が持ち込まれた。家斉から異国からやってきた男に料理を教えるよう頼まれたのだ。文化が違う相手に苦戦する惣介。そんな折り事件が──。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ名は<『新』包丁人侍事件帖>となっているが、出版社が学研M文庫から角川文庫へ変わったためであって、内容的にはシリーズ第八作ということになる。

    江戸城の台所人・鮎川惣介は一介の台所人ながら将軍・家斉に気に入られ『お召し出し』の機会がある。普段は毒味を経て冷めた料理しか食べられない家斉に、その時だけは惣介が作りたての料理を直接出せる。
    今回惣介は毒味の過程を簡素化してもっと良い状態の料理を家斉に出すことは出来ないかと物申す。
    それに対しての家斉の回答が印象的。

    『公方様だ、殿様だと偉そうにしていても、できたての熱い味噌汁を啜る心地よさも手に入らぬのか。そう思えば親しみも湧く。勘弁してやろうという気にもなる。それで治世は丸く収まる。違うか、惣介』

    もう一つ、家斉の直々の命令でイギリス人の末沢主水(本名はもちろん違う)に料理の手ほどきをすることになるのだが、その主水から身分が一番高い武士が、なぜ裕福な町民から金子を取り上げて武士の禄を増やさないのかと問われたときの惣介の回答も印象的。

    『刀を差して威張っている上に、金までむしり取っては、盗賊と変わらん。それでは武士の道に反するだろう。当たり前のことではないか』

    家斉も惣介も身分や権力を傘に高圧的に振る舞うどころか、真逆の道を行っている。そこがこのシリーズの魅力的なところの一つかと思う。

    ところが相変わらず城内はゴタゴタしている。
    前作で西の丸の台所での嫌がらせ騒動がやっと収まったと思ったら、今度は西の丸書院番で聞くも耐えないような嫌がらせが起きていた。その被害者・松平外記が知り合いとあって心配する大奥添番・片桐隼人だったが、その思いも虚しく大事件が起きてしまう。

    この事件、あとがきによると『千代田の刃傷』として有名らしい。
    もちろんこの作品では実際の事件をそのまま描くのではなくフィクションを織り交ぜている。前作で起きた、西の丸台所の事件とも繋げ、別の殺人事件にも発展させてミステリーにしている。

    事件を起こした松平外記も前作の被害者も、殺人事件に絡む関係者・津田兵馬もまた相手の心を思いやることが出来ずズケズケ言う面倒なタイプ。
    曲亭馬琴といい雪之丞といい、付き合い方の難しい人間が次々出て来る。これもまたシリーズの特徴だろうか。
    勿論だからと言って一方的に攻撃していいわけはないし、外記の反撃も最悪のやり方だったのだが。
    何とも鬱々としてしまう事件だったが、その大元である旗本が『西の丸の灸花(屁糞蔓)』として『大鉈を振る』われたことは良かった。

    そんな第一話・第二話の後だからか、第三話はイギリス人の弟子・主水を巡っての新展開と惣介の娘・鈴菜の恋のお相手判明という、ちょっと一息の巻。
    主水の料理指南は主水自身の超絶不器用さもあって進まない中、ふみと伝吉という母子との出会いで一挙解決となる。主水とふみ・伝吉のその後の展開が気になる。

    そして鈴菜。惣介は鈴菜に誰か意中の男がいるのでは?と怪しんでいるのだが、誰かは勿論、二人の仲が惣介も読者も思わぬほど進んでいることも知らない。
    終盤、鮎川家に三人の男が集まり、惣介はこの中の誰かが相手ではないかと考える。
    貧乏旗本・近森銀治郎なのか、アルコール中毒からの脱却中の二宮一矢なのか、水野忠邦の懐刀、大鷹源吾なのか。
    最後に読者にだけ相手が分かるのだが、惣介はまだ知らない。

    隼人の親バカはますます暴走中。一話・二話でつらい思いをしただけに惣介もホッとして付き合ってあげている。
    曲亭馬琴は相変わらず登場しないが、代わりに雪之丞が憎まれ口を叩いている。
    そこに加わりこれからは主水が良いスパイスになるだろうか。

    ※庖丁人侍事件帖シリーズレビュー一覧
    https://booklog.jp/users/fuku2828?keyword=%E5%8C%85%E4%B8%81%E4%BA%BA%E4%BE%8D%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E5%B8%96&display=front

  • 食べることが大好きな、ぽっちゃり癒し系の料理人・鮎川惣介(あゆかわ そうすけ)は、江戸城御広敷御膳所で将軍家斉の食事を作る御家人。
    末沢主水(すえさわ もんど)と名乗るイギリス人に料理を教えることとなる。
    文化の違いにビックリしたり疲れたり・・・
    愉快な日常のかたわら、身近に血生臭い事件も起きる。
    誰にでも与えられた、美味しいものを食べて幸せになる権利を自ら手放す者が残念でならない、そして、人からそれを奪ってしまう者を許せない惣介。
    ぽんぽこなお腹には、優しさがいっぱい詰まっている。

    第一話 西の丸炎風
    惣介の幼馴染で御家人の、片桐隼人(かたぎり はやと)は、旗本家嫡男で西の丸書院番の松平外記(まつだいら げき)から悩み事の相談を受けていた。
    大きな事件に発展する。
    (実際にあった事件を元にしている)

    第二話 外つ国の風
    惣介は、リタイアした先輩料理人から、三男のことで相談を受ける。
    変わり者であることが常に心配だったが、この度は殺人事件に関わっているのではないかと・・・

    第三話 鈴菜恋風
    惣介の長女・鈴菜(すずな)が、育児放棄されていた!と3歳くらいの男の子をひろってくる。
    鈴菜には好きな人がいるらしいのだが、それが誰なのか、宗介は気になって仕方がない。
    年頃の娘を持つ父親は、悩み事が尽きないのであった。

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    図書館の「ただいま返却されました」の棚に1〜3まで並んでいて、江戸の料理が出てくる小説がマイブームなので、まとめて借りてきました。
    どうやら、その前から続くシリーズがあったようです。

    お団子みたいな主人公、鮎川惣介
    子煩悩すぎる残念なイケメン、片桐隼人
    お世継ぎの正室に付いて京から下ってきたイケズ口の減らない料理人・桜井雪之丞(さくらい ゆきのじょう)
    良いバランス。
    何か訳ありげな主水さんも気になります。

  • 新シリーズ。旧シリーズを全部読んでないような気がするので何で新シリーズになったのか不明だが、気にせず読めた。
    鈴菜の恋の行方と主水、ふみ、伝吉の新たな登場人物がどのように絡んでくるのか楽しみだ。

  • 考証がしっかりしているのか、江戸時代当時の食生活の描写がリアル。

  • 出版社が変わっての第一弾、全くの続き
    同僚の陰湿ないじめに切れた後輩?。真相隠しを図る者ども
    更にはそれに焚きつけたワル
    無事解決、そして娘鈴菜の恋の相手は思いもよらない!

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著者プロフィール

三重県伊勢市生まれ。愛知教育大学教育学部教職科心理学教室卒業。高校時代より古典と日本史が好きで、特に江戸に興味を持つ。日本推理作家協会会員。三重県文化賞文化新人賞受賞。主な著作に「包丁人侍事件帖」シリーズほか、「大江戸いきもの草紙」シリーズや『芝の天吉捕物帳』『冷飯喰い 小熊十兵衛 開運指南』がある。

「2019年 『料理番 旅立ちの季節 新・包丁人侍事件帖(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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