金魚姫

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
3.86
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本棚登録 : 881
レビュー : 144
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041025284

作品紹介・あらすじ

勤め先はブラック企業、うつうつと暮らしていた潤。日曜の夕刻、近所の夏祭で目に留まった金魚を持ち帰ったら、部屋に妖しい美女が現れて……!? 金魚の化身に戸惑う潤。だがそれ以来、商談が成立するようになり。

感想・レビュー・書評

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  • 夕暮れ時にはいつも心がざわめく。
    茜色の夕陽を見ただけで泣けてくるのは、彼女と過ごした記憶がいつまでも消えないから。
    黄昏時の紅が彼女を連想させるから。

    彼女との出逢いは単なる偶然でなく、前世から決められた必然で、見えない糸で繋がり絡まる因果そのもの。
    だから日常が彼女のペースに巻き込まれても、常ならざる世界へ誘いこまれたとしても抗うことはできなかった。

    私がこんなにセンチメンタルな気分に陥ったのは、きっと晩夏の夕暮れに読み終えてしまったから。
    評判通りとても感動した。
    出来れば映像化してほしい作品。

  • ブラック企業で神経をすり減らしながら働いている潤。
    同棲していた恋人は、未来が見えない関係に見切りを付けて出て行った。
    明日が来なければよいのに。死んでしまえればよいのに。そう思いつつ、自殺する勇気も出ない。
    泥水の中をのたうつような毎日。ある日、潤はふと祭の縁日にふらふらと入り込み、金魚すくいの夜店で1匹の琉金を掬う。

    古代中国。1人の女が夕闇をひた走る。
    女には相思相愛の男がいた。しかし理不尽にも2人の仲は引き裂かれた。
    激しい怒り、強い恨みを抱き、女は走る。
    どこへ? この憎悪の赴く先に。姿を変え、時を渡り、どこまでも。
    女は暗い沼に身を投げる。

    2つの人生が時空を超えて交錯する。
    偶然であるかのように見えた出会いは、1つの流れの先にあった。
    時に支流に入り込みつつ、最後に1つの河口に至る著者の手腕に心地よく乗せられる。

    ブラック企業の描写は、渦中の息苦しさを感じさせ、十分な取材を重ねた上と思われる。
    金魚の化身として現れる女は、艶美なだけでなく、お茶目でかわいらしく、一方で妖しの凄みも抱えて魅力的な造形。表紙も本作の雰囲気をよく醸し出している。

    タイトルから、何となく室生犀星の『蜜のあわれ』を思い出したのだが、また違った味わいで、しかし、これはこれで余韻が残る。

    夢のように水中を漂う緋の魚には、人を異界に誘い込む妖しい力が潜んでいるのかもしれない。

  • まずは表紙にヒトメボレ。実にそそられる配色なのでした。
    私は表紙の雰囲気にまず酔いたいタイプなのだと実感。

    読後の印象は、というとホラーに近いファンタジーのような、人情に泣かされるような、なお且つブラック企業を揶揄するような社会派ぶってもいて一言では表現できない美しい物語なのでした。

    とはいえ、さえない主人公の潤君に思わず渇を入れたくなるようなシーンも散りばめられていて、あ~楽しい読書タイムありがとう!という感想です。

  • 誰もが考えつきそうで、実はなかった「金魚姫」というタイトルがまずいいですね。タイトルから連想したのはもちろん人魚姫、そしてポニョ、それから室生犀星の「蜜のあはれ」というベタなラインナップでしたが、意外にも中国の民話風の味付けだったので新鮮だった。

    一歩間違えば「僕の金魚が美少女に変身するわけがない」的ラノベになりそうな金魚女子とのコミカルなやりとりも、主人公があやうく鬱で自殺しかけるほどの会社のブラックぶりのリアリティなど背景がしっかりしていたことと、金魚の回想である古代中国パートの残酷さとのバランスのおかげで、ぎりぎりラノベにはならず大人の読者の鑑賞に耐えるレベルになっていた印象。でもまあもうちょっと固めの文体のほうが自分の好みではあるし、定義は個人の見解だけど、この軽さだとファンタジーにしかならないので、もうちょい硬質だと幻想文学として読めたのになあというのは残念。

    とはいえ、なぜ金魚に変身してまで彼女が千数百年生きながらえたのかという理由を、小出しにしていきながら、ラストにちょっとしたドンデン返し(というか読者にあえてミスリードさせるのが上手い)もあり、結果、憎悪が復讐の完遂ではなく愛情に昇華される美しい終わり方なのは良かった。

  • こういうのが、好きです(照)。
    ファンタジーだけど少しホラー、
    おとぎ話で、どっちかっていうと、アンデルセン。
    でなきゃ、ジャパニーズ昔話(ジャパニーズホラー)だよね。
    少しホラーなんで、怨念や哀しみもあります。
    巡り巡っちゃうところも、幻想的なところも、好みです。

    つっこみどころもなんのその、「そこ、作りすぎじゃない?」みたいな調子よすぎなところもあるけど、まぁ、軽快でいいんじゃないでしょうか?
    過去と現代のギャップも、とってもイイです。

    うん、こういうの、好きだなぁ。

    巡りめぐって、姫が出会えたのが彼でよかったな。と思います。
    ラスト4ページ、ウルウルしました。(全体では2度読み、このラストだけ、図書館に返却する前に、何度も読みました。賛否あると思いますが、私は好みです。)


    やっぱ好きだなあ。
    手元に置きたいくらい好き。(買わないけど。笑)

    映像として観たいですね。
    映画化して、金魚姫を幻想のように妖しく美しく、
    過去を「リング」や「仄暗い水の底から」のように恐ろしく哀しく撮って欲しいです。

  • 仕事に疲れ、死を考えている主人公が金魚すくいですくった金魚。主人公と金魚の奇妙な同居生活が始まる。
    現実の話の途中に、金魚の過去と輪廻が挿し込まれていて、過去が段々と現実に近付く展開がとても興奮し面白かった。復讐劇のようだが、意外とゆるく進み、結末は意外なものだったので読みごたえがあった。

  • +++
    勤め先の仏壇仏具販売会社はブラック企業。同棲していた彼女は出て行った。うつうつと暮らす潤は、日曜日、明日からの地獄の日々を思い、憂鬱なまま、近所の夏祭りに立ち寄った。目に留まった金魚の琉金を持ち帰り、入手した『金魚傳』で飼育法を学んでいると、ふいに濡れ髪から水を滴らせた妖しい美女が目の前に現れた。幽霊、それとも金魚の化身!?漆黒の髪、黒目がちの目。えびせんをほしがり、テレビで覚えた日本語を喋るヘンな奴。素性を忘れた女をリュウと名付けると、なぜか死んだ人の姿が見えるようになり、そして潤のもとに次々と大口契約が舞い込み始める―。だがリュウの記憶の底には、遠き時代の、深く鋭い悲しみが横たわっていた。
    +++

    読み終えて改めて装丁を見ると、物語の空気そのままで切なくなる。ブラック企業の仏具会社でまったく芽が出ず、明日を生きる気力も失いかけていた潤が、ふらりと立ち寄った縁日で掬った琉金との日々奇譚である。時空を超えた愛と憎しみの物語でもあるのだが、人間の女性に姿を変えたリュウの言動や振舞いが可愛らしくも可笑しく、振り回される潤の気持ちの変化も興味深い。だが、リュウが自らの出自の記憶を取り戻すにつれ、胸が痛くなってくる。どうにかならないものか。二人で乗り越えることはできないのか。ラストはあまりにも哀しく切なく、そして愛にあふれている。不思議なおかしみのある一冊だった。

  • ボロボロのときにこんな可愛い金魚を飼うことになったら気分が紛れそう。
    金魚すくいで自分でとった金魚なら、なおさら特別感が増すわ〜。
    社長が! と思っていたのに、実は、潤、その人だったなんて悲しい。リュウもそう思ったから手を緩めたに違いない。
    息子の揚河は……よね。
    最後が良かったなぁ。

  • 面白かった~。リュウが凄く可愛くて、読み進めるうちにどんどん好きになって!
    だが、時々差し込まれる過去のストーリーがあまりにも残酷で、タイトルからの印象もあり、このままハッピーエンドでは終われないのかな?との予感もあって…。
    切ないファンタジーだった。
    それと。砕石のスコーンが悲しかった。

  • 転職先はブラック企業。
    一緒に住んでいた彼女は出て行った。
    薬の力では、もはや眠れない。
    欝の症状は進行していくばかり。

    夢も希望のない生活。いっそ、死んでしまいたい。

    日曜日の夕方。食欲もない中でかけた近所のお祭り。コンビニ代わりに夕食を探すためだけだった。
    江沢潤は、吸い寄せられるように金魚すくいの屋台に足を止める。

    屋台の主人も知らぬうちに紛れ込んだという琉金。
    亡き祖父のことを思い出しながら、琉金を手に入れる。
    主人は、水草をおまけでつけてくれた。

    飼育道具をそろえ、古本屋で「金魚傳」をみつける。


    自宅に戻り、金魚の面倒を見て眠りについた潤の前に現れたのは、赤い服を着た美女。


    奇妙な彼女との共同生活が始まる。

    すると、潤には不思議な力がついてしまう。死者の姿が見える。会話すらできてしまうのだ。


    物語の最後に潤たちが訪れる、母の故郷・長崎。


    美しい街で、切なく、スリリングで、温かい物語が繰り広げられる、荻原浩の世界。


    現代の人魚姫物語。

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著者プロフィール

1956年埼玉県生まれ。広告制作会社勤務を経て、コピーライターとして独立。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞、14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞、16年『海の見える理髪店』で直木賞を受賞。『砂の王国』『花のさくら通り』『ストロベリーライフ』『海馬の尻尾』『極小農園日記』など著作多数。

「2018年 『金魚姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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