短歌ください 明日でイエスは2010才篇 (角川文庫)

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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041026458

作品紹介・あらすじ

人気歌人・穂村弘が選を務める短歌投稿コーナー(本の情報誌『ダ・ヴィンチ』連載)の書籍化第2弾が待望の文庫化。鮮やかな講評が、短歌それぞれの魅力をさらに際立たせる。

感想・レビュー・書評

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  • 「短歌ください」の第二弾です。
    穂村さんの選ぶ歌はちょっと一癖ある歌が多い気がしました。
    私の平々凡々な頭ではとても思いつかない歌ばかりだと思います。

    現在、歌人としてご活躍中の木下龍也さん岡野大嗣さん、鈴木晴香さんらのご活躍もあります。
    17歳の少年歌人として投稿されていた寺井龍哉さんが文庫の解説を書かれています。




    とにかく、歌を載せますのでお時間のある方は読まれてみてください。


    <革靴を買うと偽り二時間のロマンポルノを観た十五の夏> (寺井龍哉・男・17歳)

    <ともだちの家に今夜は泊まるけど何もいらないぜーんぶ借りる> (平岡あみ・女・16歳)

    <午前2時裸で便座を感じてる 明日でイエスは2010才> (直・女・17歳)

    <夏の日に山の手にある病院でたしかに野犬を見たのだけれど> (小川あい子・女・30歳)

    <あなたのそのキュピュンと光るつむじの中に吸い込まれそう雨上がったね> (深田海子・女・24歳)

    <俺なんかどこが良いのと聞く君はあたしのどこが駄目なんだろう> (泡凪伊良佳・女・16歳)

    <来年もよろしくと言ったあの人は知らないうちにオムレツの彼方> (エイシャ・女・22歳)

    <針に糸通せぬ父もメトロでは目を閉じたまま東京を縫う> (木下龍也・男・23歳)

    <おかあさん死なないでと掛け布団につかみかかる86歳のわたし> (滝谷脩紀奈・女・24歳)

    <幻か。愛していると思ってた。見たこともないこどものあなたも。> (ジュン・女・52歳)

    <パステルの黄色がみつからないのです、ちょうちょが白くて困っています> (いさご・女・22歳)

    <ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる> (岡野大嗣・男・31歳)

    <「そのコート素敵な闇の色ですね」君に心を持って行かれる> (えむ・女・21歳)

    <蛇口から銀河流れるシンクへと溜めた銀河でラディッシュ洗う> (九螺ささら・女・43歳)

    <答え合わせしてよ初めて愛すんだ空欄だけは無くしとくから> (ナルヒト・女・17歳)

    <あいつらが結婚したということでますます町は小さく見える> (ななはる・男・30歳)

    <死ぬときにこの手握ってくれる人募集中 すこし急いでいます> (つきの・女)

    <隣人にはじめて声をかけられる「おはよう」でなく「たすけてくれ」と> (木下龍也・男・24歳)

    • 傍らに珈琲を。さん
      まことさん、こんばんは!
      そうか、第二弾だから若き日の(?)木下さんや岡野さん、九螺さんの歌に会えるのですね♪
      まことさん、こんばんは!
      そうか、第二弾だから若き日の(?)木下さんや岡野さん、九螺さんの歌に会えるのですね♪
      2024/03/14
    • まことさん
      傍らに珈琲を。さん、おはようございます♪

      そうですね。詠まれた歌の名前をちょっとみると、木下さんだったり、岡野さんだったりするので楽し...
      傍らに珈琲を。さん、おはようございます♪

      そうですね。詠まれた歌の名前をちょっとみると、木下さんだったり、岡野さんだったりするので楽しかったです♪
      2024/03/15
  • 本の情報誌ダヴィンチの連載、短歌ください。
    誌上で読者から短歌を募集し、歌人穂村弘さんが選び、評する。
    常連さんから歌集を出版される方も出てきて、盛況している模様。
    文庫化第二弾の今作も、楽しく幸せな時間を過ごした。

    解説が歌人・文芸評論家の寺井龍哉さんなのだが、寺井さんは何と短歌くださいの常連。
    17歳のときから投稿していたようだ。
    この本は二年半分の連載をまとめたもので、常連さんもその分年齢を重ねている。
    順調に年齢を重ねた1年間に、他人ごとながら安堵する。
    数字がひとつ増えるごとに、そのひとの何かあったかも知れない、何もなかったかもしれない日々が輝いてみえる。
    短歌は作者の、思い出の断片、思考の断片、嘘の断片。
    作者のいのちの煌めきを練り込んでつくられた錬金物だと思う。

    穂村さんがほむほむ情報を小出しにしているのも憎い。
    ゴキブリに投げ飛ばされた記憶がある、がツボでした。

    最強寒波が居座る今日にぴったりの短歌を紹介。

    <霜柱 一匙すくい朝礼の生徒みたいだキラキラと泣く>
                    レイミ・女・22歳

    • 5552さん
      ☆ベルガモット☆さん、こんばんは。

      ハンドルネームちょこっと変えられたんですね。
      あと、だいぶ前にアイコンも!
      ☆ベルガモット☆さ...
      ☆ベルガモット☆さん、こんばんは。

      ハンドルネームちょこっと変えられたんですね。
      あと、だいぶ前にアイコンも!
      ☆ベルガモット☆さんらしくて素敵です♪
      穂村さん、いくつもの顔や頭や体を持っておられるように思えて、ミステリアスですね。
      短歌詠んでるとき、ウェーイと変にテンション上がってしまって…。
      でも、出来た歌は暗いというか、ネガティブというか…。
      不思議です。

      2023/01/29
    • ☆ベルガモット☆さん
      5552さん、アイコンお気づきでしたか!
      博多人形絵付け体験の作品なんです。「ベルガモット」さんが他にも2名おられるらしくちょっと変化をつ...
      5552さん、アイコンお気づきでしたか!
      博多人形絵付け体験の作品なんです。「ベルガモット」さんが他にも2名おられるらしくちょっと変化をつけました。
      穂村さんの顔や頭や体、分身がおられるかもしれないですね!
      テンション上がる時ってありますね、短歌詠み詠み時間♪
      『短歌は作者の、思い出の断片、思考の断片、嘘の断片。
      作者のいのちの煌めきを練り込んでつくられた錬金物だと思う。』
      煌めく言葉を繋げて穂村さんに読んでもらう贅沢な楽しく幸せな時間になりますね♪
      2023/01/29
    • 5552さん
      ☆ベルガモット☆さん、可愛らしいお人形ですね。
      手に持っているのは、お花かな?
      絵付け体験、面白そうです!
      「ベルガモット」って、よい...
      ☆ベルガモット☆さん、可愛らしいお人形ですね。
      手に持っているのは、お花かな?
      絵付け体験、面白そうです!
      「ベルガモット」って、よい香りのする果実ですよね。
      アロマでよく見かけます。
      音の響きも素敵だし、人気があるハンドルネームなのも分かります。

      そうですよね。
      憧れの穂村さんに読んでもらえてるかもしれないんですよね。
      よし、今日もやる気出てきました。
      いい歌が作れるよう、頑張ります☆



      2023/01/30
  • 極個人的な感覚だと思っていたものが、他の人によって鮮やかに言語化され、共有される驚きだったり、思いもよらない角度からのものの見方におお!となったり、かつて感じたことのある心の揺れがアルバムのように並んでいたり、31文字、季語がなくてOKな現代短歌の世界はとてもユニークで豊かでした。
    このシリーズの他の本も、読んでみようと思います。

    気になった短歌をいくつか

    さかあがり靴を飛ばして落下するもう懐かしい地上ただいま

    明日からも生きようとする者だけが集う夕べのスーパーマーケット

    戦争はもうなかったよ 飴を噛む六歳にとって私はおとな

    煮え切らぬきみに別れを告げている細胞たちの多数決として

  • 掲載されている短歌自体も素晴らしいが、穂村弘の解説も凄い。一つ、紹介したい。

    “君を待つ3分間、化学調味料と旅をする。2分、耐え切れずと目を覆い、蓋はついに暴かれた。”

    せつこという、当時15歳の女性が書いた短歌だ。定型から完全にはみ出したこの短歌に著者はこう書いている。

    “カップラーメンの出来上がりが待てなくて2分で開けて食べちゃった。たったそれだけのことを、ここまでハイテンションに詠い切ったのは凄い。今度は五七五七七の短歌定型でつくってみてください。”

    化学調味料と旅をする、っていう表現も斬新だが、蓋はついに暴かれた、っていう表現はもっと凄い。
    先祖代々絶対開けてはいけません、と言われている開かずの扉が、ついに今開かれる、みたいな異様なテンションだ。表現力が素晴らしい。

    あと、次の募集テーマが「バス」ということで、ブク友の5552が書いていたバス旅を俺もやってみたいと思い、昨日やってみた。

    ユニクロへ行くだけの短時間の旅だったが楽しかったなぁ。「降りますボタン」も久々に押したし、懐かしい気持ちになれて良かった。たまには、馬ではなくバスにも乗ろうと思う。

    バスの短歌のイメージもいろいろ湧いてきたからじっくり作っていきたい。

    • 張飛さん
      5552、コメントありがとよ!ブログも見てくれてありがとう!!

      バスに乗って、感じた事もあったし、今まで乗ったバスの事とか、となりのトトロ...
      5552、コメントありがとよ!ブログも見てくれてありがとう!!

      バスに乗って、感じた事もあったし、今まで乗ったバスの事とか、となりのトトロに出てくる少しユニークなバスの事とかいろいろ思い出す事が出来たぜ!

      お題が切手の時より、たくさん短歌を作れそうで、バスに乗るという発想をくれた5552のおかげだ!ありがとう!

      ブログの最後の短歌は、“明日からも生きようとする者だけが集う夕べのスーパーマーケット”って短歌だな!この本の中で1、2位を争うくらい好きな短歌なんだ!

      5552は、スーパーでバイトしてたのか!俺は戦いが終わった後によくスーパーに兵糧を買いに行くんだが、俺もこの短歌みたいに感じたことはなかった。

      そう考えると、短歌を詠むこと自体が日常を豊かにしてくれるのかもしれねえな!
      2022/10/18
    • ☆ベルガモット☆さん
      傍らに珈琲を。さん、5552さん、張飛さんこんばんは♪

      『短歌ください』投稿仲間の皆さんとの時間が、至福のひとときです 最近仕事が忙しくて...
      傍らに珈琲を。さん、5552さん、張飛さんこんばんは♪

      『短歌ください』投稿仲間の皆さんとの時間が、至福のひとときです 最近仕事が忙しくてブグログ覗けずやっと充電できます
      5552さんのご提案、バス旅は私もまだできていないので明日行ってきます♪降りますボタン押してこよう~
      スーパーへ兵糧買いに今日も行かれましたか、張飛さん!
      実は!また快進撃ですな!
      明日更新予定のブログのお楽しみにしまーす。
      2022/10/22
    • 張飛さん
      ベルガモット、コメントありがとう!!

      もしかすると、今日の日経歌壇読んでくれたのか!短歌が掲載されて凄く嬉しいぜ!

      ブログはほぼ書き終え...
      ベルガモット、コメントありがとう!!

      もしかすると、今日の日経歌壇読んでくれたのか!短歌が掲載されて凄く嬉しいぜ!

      ブログはほぼ書き終えたから、明日またおすすめの本とともに今日掲載された短歌の背景などブログで紹介したいと思う!良かったら、読んでみてくれ!

      俺もベルガモットはじめみんなから、いいねやコメントもらって本の感想を書いたり、短歌を作るやりがいが出てきたよ!本当にありがとう!

      バスの旅、気をつけて楽しんできてくれ!
      2022/10/22
  • 穂村さんのダ・ヴィンチ投稿のため、傾向と対策を知る参考書と思って取り寄せた 2010-2013年(第31-60回)連載分をまとめた単行本の加筆修正した文庫版 表紙は陣崎草子さん
    ブク友の5552さんも張飛さんもライバルですからねっ

    題詠はほんと苦手、今度のお題は切手だけど思いつかない
    テーマは多彩で罪、同性、数字、自然、体、味、エロ、距離、声などなど
    自由詠も募集していて、『どちらのテーマも上限はございません。どんどん送ってください』ですって
    皆さんの「穂村さんに読んでほしいんですけど!!!」と渾身の最高傑作を差し出し、素晴らしい作品が目白押し、才能のぶつかりあいですっ こりゃあ穂村さんに選んでもらって掲載まで遠い道のりだ
    同一作者で他の投稿作品も良かったら一緒に載せちゃうという贅沢さ
    解説は、投稿少年高校生だったのに今ではNHK短歌の先生という寺井龍哉氏にお願いだなんて、素敵すぎます☆彡
    「短歌を作るということは、多かれ少なかれ、うそをつくことでもある。」
    「穂村弘は、こんなにも気軽な調子で、こんなにも罪深い営為に、読者たちを誘うのだ。その罪深さが、本書の愉悦の豊かさである。」
    5552さん情報にもあった、木下龍也さんも常連でよく載ってました

    どれも良すぎて選びきれないので、穂村さんの講評を抜粋します 褒め言葉も素敵
    限りなく幻に近い愛の真実
    自分自身の内側に充ちている命の反映
    無軌道な情熱を込めた歌は多いけど、その逆の静かな現実的対応を詠った秀作は珍しい
    ユーモアの反射神経に惹かれました
    意外性、ドライブ感、パラレルワールドなどが多用されてました

    ご自身のことを開示しているのも楽しみ
    募集テーマは料理 僕は林檎を剝くことと素麺を茹でることしかできないんですけど。
    募集テーマは幸福 私は散歩や買い物やお茶をしていると幸福なんだけど、人によって感じ方が違いますよね。
    募集テーマは地元 僕の地元は作務衣を着たおじいさんが無農薬野菜を抱えてスケートボードに載っているようなイメージのところ

    女子便所からもおんなじ空が見えおなじ身体の向きになるはず
    月光の降る大通り警官と婦警が手と手つないで渡る(寺井龍哉、18歳)
    動物は何も言わずに死んでゆく人間だけがとてもうるさい
    だしぬけに葡萄の種を吐き出せば葡萄の種の影が遅れる(木下龍也、24歳)
    お二人ともたつやさんです?!

    • 5552さん
      ベルガモットさん、おはようございます。

      言葉足らずでした。ごめんなさい。
      不意打ちで嬉しかったです。

      夜の散歩、いいですね。
      ...
      ベルガモットさん、おはようございます。

      言葉足らずでした。ごめんなさい。
      不意打ちで嬉しかったです。

      夜の散歩、いいですね。
      お月様は出ていたのでしょうか。
      月に見守られ、鈴虫の声を聴きながら散歩だなんて、これぞ、秋、という感じですね。

      切手歌は先日私も一首投稿してみたんですよ。
      なぜか、けっこうグロいホラー短歌となりました……。
      選ばれるといいな♪
      ささやかな期待を持って日々を過ごせます。
      このような楽しみを紹介してくださり、ベルガモットさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
      2022/09/16
    • ☆ベルガモット☆さん
      5552さん ご配慮いつもありがとうございます☆
      月明かりのもと公園を独り占めできて良かったでーす
      これからも歌詠み友としてよろしくお願いい...
      5552さん ご配慮いつもありがとうございます☆
      月明かりのもと公園を独り占めできて良かったでーす
      これからも歌詠み友としてよろしくお願いいたします♪

      話がずれますが
      この時期はフジファブリックの『若者のすべて』を聴き号泣します
      5552さんの本棚レビューを見逃しておりまして、すぐさま♡マーク強めに押しました!

      ダ・ヴィンチ発売は6日前後、本屋さんか図書館へレッツゴーしましょ♪
      2022/09/16
    • 5552さん
      ベルガモットさん、こんばんは。

      台風、心配です。
      どうぞ落ち着いて行動してくださいね。

      『若者のすべて』への強めのいいね!あり...
      ベルガモットさん、こんばんは。

      台風、心配です。
      どうぞ落ち着いて行動してくださいね。

      『若者のすべて』への強めのいいね!ありがとうございます。
      この曲、泣いてしまいますよね。
      以前、レビューでくるりの『ばらの花』に触れてらっしゃいましたよね。
      私も『ばらの花』好きなんですよ!

      最近知ったスカートというミュージシャンの『CALL』っていう曲、良かったです。
      ポップな曲の中にせつなさと寂しさがあって、くるりとか、フジファブリックとか想起しました。
      また、台風が去って、お暇なときに、YouTubeなどで聴いてみてくださいね♪
      いきなりの音楽のおすすめ失礼しました。
      2022/09/17
  • 本の情報誌、『ダ・ヴィンチ』の読者投稿企画の連載「短歌ください」の文庫化第二弾。


    今回も面白い。掲載されている短歌の作者さんは比較的若い方が多く、自由で寂しくとても軽やか。短歌に添えられた穂村さんの一言が、また優しくて、歌がより味わい深くなります。
    私はテーマ「性格」の回が好きです。31文字で、人の性格という繊細で複雑なものを表現できるのが素敵で惹かれました。

    私は短歌を詠んだりする経験はあまりないですが、日常をこういった新鮮な観点で切りとり、言語化するという感性は磨いていきたいなと思います。

  • 一般の方から募集した短歌と、穂村さんによる選評。
    日常生活のささやかなことやディテールを通して普遍的なことが浮かび上がっていたりと、面白い作品が多くて、どんどん読んだ。選評があることで、その作品の面白さが引き立ったり、短歌の味わい方が掴めてきたりするのもいい。

  • 「あるある」や「新発見」を通り越してギョッとさせられるような短歌の群れを楽しんだ。というかおののいた。

    60のママ、これ以上生きないで 死に近づいていくのがこわい

    その傷がまぶたとなってひらいたらおそろしいからガーゼを当てる

    声優を声優さんと呼んでいるあの子に呼び捨てされていた日々

    聞いたことない花の名をあたしの名よりもはっきり言い切った母

    「かぎかっこ、僕がつかうからとっといて」(だったら私はかっこでいいや)

    愛ん家で見たエロ本と脱衣所のない風呂たぶん愛は美しい

    だしぬけに葡萄の種を吐き出せば葡萄の種の影が遅れる

    柔らかい笑顔するのね下半身は暴力的に動いているのに

    飲みながらおしっこしたらそれはもう管よ私は一本の管

    死ぬときにこの手握ってくれる人募集中 すこし急いでいます

    明日からも生きようとする者だけが集う夕べのスーパーマーケット

  • 「どこにでも行ける気がした真夜中のサービスエリアの空気を吸えば」サービスエリアって特別な感覚になる。嗅覚も聴覚もとても澄んでほんとうにどこまでもどこまでも行けるよう。人工物の匂いから自然が救い出してくれるような、どこか懐かしい香り。不可思議で少し足がすくむ感覚。思い出してアンニュイな気分になった

    「煮え切らぬきみに別れを告げている細胞たちの多数決として」こうでも結論づけなくちゃ前に進めないよなぁ。とも詠めたし、全力で拒絶しているとも仮定できた面白い歌。人間関係の断ち切りの難しさを感じる

    「筆圧の強いあの子が今日は来たイヤホン外して「かりかり」を聴く」今日は、はいつも心待ちにしている人なのかな。前のめりで相手に関心のある様子は捉え方によっては怖く感じてしまうんだけど、気になる人を少しでも感じたい欲が露骨に出ていて愛おしい歌。イヤホンっていうフレーズを見ると、私はどこか閉ざされたイメージを持つのだけれど全力で開いている歌の空気感がすき。かわいい

    「冬の朝窓開け放ちてあおむけば五体にひろがりやまぬ風紋」風紋‥風によってできる模様。なるほど。知らない言葉だった。言葉を知るとまた深くこの歌が身近に感じる。風は目には見えないはずだけど、確かにそこにいるな。様々な形で存在することを教えてくれるみたい。目には見えないけど確かに存在する。癒される。力がみなぎる。風って、自然って神様みたい

    「俺なんかどこが良いのと聞く君はあたしのどこが駄目なんだろう」ストレートな言葉がしっかりささる。彼は質問しているだけなんだけどしっかり拒絶しているように感じるから凄い。わたし、ではなくあたし、としている女の子に純粋さを感じるから切ない。「あたし」はまだ世の中を知らない。恋愛を知らない。男性を知らない。なんだか懐かしくてやっぱりせつない

    「行ったのか待てば来るのかバス停で本当のことはわからずにいる」バスの話だったのか!私は想いを寄せる人に対しての歌だと思っていた‥なるほど。でもその後の、本当のことはわからずにいる。という文は人生そのものを俯瞰して見ているように感じた。わからないんだろうな。だれにも本当のことは

    「まだそんな幼いことをやってるの」言いつつ涙溢れるばかり」21歳の女性の歌なんだなぁと思うとより一層胸が締め付けられる。この成人した少女は大人にならなくてはやっていけない現実についていけてないのだろうなぁ

    「針に糸通せぬ父もメトロでは目を閉じたまま東京を縫う」東京を縫うってすごい。針に糸、という細かいフレーズからいきなり東京って飛躍するから面白い。細かいことは苦手だよって聴こえてきそう。大都会で働くお父さん。偉大だな。世の中のお父さんが力強く感じた。

    「お願いです。駅構内で不審物を発見しないでください。(駅長)」当事者の切実な思いが伝わる。わかるー!責任重いよなあ。緊張感あるよなあ。当番の日には当たらないでくれー!って誰もが願うもの

    「さよならが弾けるときは音の粒まで深呼吸してやりたい」すごく覚悟のいることをサラッと受け止めてしまうこの人が素敵。痛みまで、悲しみまできちんと全て吸収しようとするところ、中々真似できない。全部全部大事にしていたいっていじらしさも感じてすきだなあこの歌

    「この赤い手すりの下に動脈が埋まっているはずエスカレータの」機械に熱を感じることってあるな。まるで生き物みたいに温もりを感じるとき。もしかしたら命は吹き込まれているのかも知れない。廃墟とかもそうだもんな。それ自体が大きないきものみたいだもん

    「享年は書かれてないのね牛肉の細切れ肉のパックの表示に」命日と表記が変わるだけで私たちの生活の何かは変わるんだろうな。加工、消費、と表記されるだけで生き物がモノに変わる物騒さが刺さる。生き物だって頭ではわかっているけれどそれを再度認識して有り難く命をいただいている人間はどれほどいるのだろう。惰性でお肉を選ぶ日もあるもんなあ。なんだか残酷で傲慢で横暴で‥人が人であることを反省する感覚になる

    「部長室で頭下げても目の端に窓の緑をいつも入れとく」したたかで素敵な歌。一瞬ですきになった歌。自然っていつも寄り添ってくれる。みなぎる活力を与えてくれる。心身共に平穏無事を恵んでくれる友だと年々感じる。人からパワーをもらったりあげたりするのって時々とてもしんどいから。落ち込んだら自然に頼ってみるのがいい

    「地球上の総人口が偶数であれとひとりの朝に願った」ひとりではやっぱり生きていけない。現実社会で手を取り合って生きていくパートナーは必ずいてほしいと切な願いが伝わる。自分の未来に対しての希望なのだろうけど、みんながそんな想いを持てたら日々はもっと穏やかになりそう

    「こおろぎは鳴いているけど冷やし中華やめましたとは誰も言わない」はじまりは宣言するのにやめるときは何も言わない。確かに。そもそもなぜ冷やし中華だけはじまるのだろう。かき氷でも肉まんでもおでんでもなく冷やし中華

    「君よりも少しだけ長いお祈りで、君はわたしよりしあわせになる」こんなふうに想えるわたしは誰よりしあわせになるんだろうな。いや、既にわたしはしあわせなんだ

    「もう少し早く出会っているような世界はどこにもない世界より」もう少し早く出会っていれば‥違う場所で出会っていた‥出会い方のせいにすることってあるけれど、そんな世界ないですよって今の世界が世界なのだからって身も蓋もない歌で素敵

    「しあわせな人ぶる君にみあうためコントレックスが不味くてもわらう」しあわせな人ぶるかあ。私たちは常に裏腹を含んで生活してるんだろうな。明け透けで生きても生きづらいリアル。愛嬌をもって建前をもってしたたかに生きるリアル

    「くちびるの皮をひとかけ食べました。明日つぶやく予定の言葉」その皮の上で言葉は通り過ぎるはずだったのに早めにその皮を食べてしまったって想像したのだけれど、解説を見たら違ったみたい。SNSにつぶやくってことか!「つぶやく」=SNSやTwitterを想像するのってほんとデジタル社会だなあ

    「一人旅装うブログ打つ君の携帯カメラに映らぬわたし」かなしい。さみしい。とてもストレートでリアル。一緒に過ごしているのにいないことになっていて、それをわざわざ証明してるようにも見えてつらい。わたし、いるよってきこえる

    「背中をさする手の美しさを咳き込むわたくしは見ることができない」想像しただけで切なくなったり美しく感じたり。人の心は豊かだ

    「鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい」ごまかさないで言葉にされるとささる。生き物の死を美味しい美味しい食べている人間って‥

    「改札の数が少ないあふれてる人が落ち着くまで並ばない」こういう手法のうたいかたもあるんだな。二句切れと言うのか‥

    「「好きにしろ」父の口癖聞くたびに好きにできない呪縛にかかる」わかるなあ。好きにしろって自由とは真逆の意味に聞こえてしまう。だから言っただろうと未来からの声まで聞こえてくるよう

    「明日からも生きようとする者だけが集う夕べのスーパーマーケット」力強い意志の集まる場所。ただの人じゃない。ただのスーパーじゃない。感度を持ってアンテナを張り巡らせているとこんな風に詩にできるんだなあ。日常に豊かさをくれる短歌の世界。日常であればあるほどその力に魅せられる

  • 新鮮ではっとさせられる作品がたくさんありました。
    読んでいて、そういうものの捉え方あるんだと知り、楽しくなる。

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

穂村弘の作品

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