光秀の定理 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.94
  • (54)
  • (127)
  • (46)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 744
レビュー : 99
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041028100

作品紹介・あらすじ

明智光秀はなぜ瞬く間に出世し、信長と相前後して滅びたのか――。

厳然たる「定理」が解き明かす、乱世と人間の本質。
各界絶賛の全く新しい歴史小説、ここに誕生!

永禄3(1560)年の京。
牢人中の明智光秀は、若き兵法者の新九郎、辻博打を行う破戒僧・愚息と運命の出会いを果たす。
光秀は幕臣となった後も二人と交流を続ける。やがて織田信長に仕えた光秀は、初陣で長光寺城攻めを命じられた。
敵の戦略に焦る中、愚息が得意とした「四つの椀」の博打を思い出すが――。
何故、人は必死に生きながらも、滅びゆく者と生き延びる者に分かれるのか。
革命的歴史小説、待望の文庫化!

解説・篠田節子

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 歴史小説に対する自分の中のルールが崩されたかもしれない……。

    歴史小説は、史実や歴史上の出来事を神の(作者)の視点から、何らかの意味づけであったり評価したりするものだと思っていました。そして、歴史小説はあくまで歴史上の有名人物が中心であることは当然だと思っていました。

    この『光秀の定理』はもちろん明智光秀が主役なのですが、その主役を喰いつつも、一方でその主役の人物や人柄を際立たせる二人の名も無き恐らく架空の登場人物がいます。この二人に自分の歴史小説の思い込みが崩されました。

    剣の道を志すも金に困り辻斬りをしていた新九郎は、愚息と名乗る奇妙な賭けをする僧と出会います。そして新九郎がある日辻斬りをしようと思った相手は、若き明智光秀で……。

    そこから始まる三人の奇妙な押し問答。実力の差を認め、剣を交えることなく金を渡そうとする光秀。一方で愚息は、この勝負は光秀の勝ちだとして、新九郎に金を返すよう求め、徐々に新九郎は自分が勝った気がしなくなり……

    このやり取りで、一気にこの三人に引き込まれます。この三人がそれぞれキャラを崩さず話が進めば、間違いなく面白い小説になるだろう、という予感が生まれました。

    物語は光秀の視点と、愚息・新九郎の視点で語られます。世の流れに迎合せず、独自で仏の教えを理解し、そして愚直なまでにそれを実践する愚息。それは、相手が権力者であろうと関係なく、その姿や愚息の言葉に影響され、新九郎は徐々に肩の力が抜け、自身の剣技を極めていきます。
    二人のやり取りやキャラの面白さに加え、新九郎が徐々に成長していく姿も面白く読み応えがありました。こっちはこっちで時代小説・成長小説としても通用しそう。

    一方で光秀。自分だけでなく家門の復権を背負い、生真面目に活動し、愚息や新九郎の助力も得つつ、遂に織田信長の家臣となります。そして迎える運命の二択の場面。そこで光秀は再び愚息のことを思い出し……

    明智光秀のイメージとなると三日天下とか、反逆者とか、なんとなく小悪党なイメージもあったりしたのですが、生真面目さであったり、家系への思いであったり、苦悩であったり、そのあたりのことを描かれているのも良かったです。

    また、愚息と新九郎以外の登場人物それぞれが、それぞれの個性を出しつつ光秀の人間性を浮かび上がらせているのも良かった。
    愚息曰く「悪人ではなく悪党」の光秀が初めに使える細川藤孝は、その処世術が喰わせ者感があっていいし、光秀の妻の煕子の聡明さ、そして光秀が妻に相談するシーンも、光秀の人間性の一端を現していると思うし、信長と光秀の関係性の描き方も良かった!
    サブキャラそれぞれが、脇役だけど素晴らしい助演を演じていると思います。

    物語のラストは本能寺の変から数年後の愚息と新九郎の会話から始まります。この二人だからこそたどり着く、本能寺の変の真実。これはある意味WHYミステリの面白さがあるのですが、光秀の心の動きを、これまでの物語と、光秀、愚息、新九郎の三人の絆を合わせて、この推理に落ち着けるのが見事。

    そして光秀の生き方と愚息の奇妙な賭けが時代の流れと相まって、生まれる一つの定理。登場人物それぞれの生き方の対比や、戦国という時代背景が、また一つの余情を生みます。

    垣根涼介さんの本は初読でしたが、非常に面白く読めました。また他の作品も追いかけていきそう。

  • 明智光秀のことをこんなに魅力的に感じたことは今までなかった。
    私の中にあった光秀に対する負の感情が、オセロを裏返すかのようにひっくり返る。
    それは光秀を最後まで「十兵衛」と親しく呼ぶ、愚息と新九郎の存在によるものに他ならない。
    乱世をあくまでも自由気儘に生きる愚息と新九郎。
    そんな二人の生きざまを羨ましく思いつつも、その血筋と性格により叶うことのできない光秀。
    これらの対比により光秀に対する親しみがわくと同時に、乱世における苦悩を身近に感じられた。

    光秀は何故あの事変を起こしたのか。
    朋友コンビ、愚息と新九郎にしか解けない「十兵衛の定理」は切なく遣りきれない。
    真面目で不器用な光秀は乱世を生き抜くことには不向きであったけれど、人としての魅力を感じられずにはいられない。
    「歴史の表舞台で、その生き様の初志を貫徹しようとする者は、多くの場合、滅ぶということよ。信長とて例外ではない。自分が蒔いた時代の変化に、自らが足をすくわれた。生き方を変えられぬ者は、生き残れぬ」
    ラストの愚息の言葉が胸に残る。

    数学を掛け合わせた歴史小説はとても面白かった。
    垣根さんの他の作品も読んでみたい。

  • お椀が云々とか、勝率?とかの話はあまりよくわかりませんでしたが、なぜ光秀は本能寺の変を起こしたのか?という、光秀の友人二人の推理が面白かったです。

    戦国の時代も、多分今の時代も、変わり身の早い人は出世するのですね。人にどう思われるかは別として。

  • 正直あんまり食指が動かない感じで読み始めたんだけど、数学的な話題と歴史、そして何よりサブキャラ二人が魅力的過ぎて光秀もさらに言えば信長も魅力3割増し!

  • 地に足の着いた独自の価値観を持つ僧と侍。彼らを通して光秀を描き、彼の性格、背負っていたもの、そして、なぜ本能寺の変を起こすに至ったかを解き明かした作品。
    登場人物が少ないが、それだけにそれぞれの人物の輪郭がしっかりとしていて、ストーリーに引き込まれていきます。
    真面目で優秀で、部下からも好かれる人だったんだろうな、光秀という人は。

  • 四つの椀の話(定理)を使った展開。この四つ椀の確率の問題は思考実験の本などに取り上げられる問題。アメリカのクイズ番組で話題になったらしい。
    信長の定理に比べると面白さはいまいちかな。

  • 戦国時代の雄となる「明智光秀」が世に出るまでの話が中心。新九郎と愚息、2人の朋輩と共に定理とからめて時々頭を使いながら進行するので楽しく読めた。

    歴史の教科書では「信長の側近でありながら、天下統一の土壇場で裏切り、三日天下に終わった裏切り者」のようにまとめられていたが、「そんなはずがあるわけ無いだろう」と学生の頃から違和感を感じていた。

    最後は敗戦の将となり賊軍扱い。仕方の無い事だが、後の世で歴史は都合のいいように書き換えられ。謎の多い武将の一人となってしまった。しかし、謎が多いからこそ、明智光秀という人は興味深い。

    来年の大河で取り上げられて、再び脚光をあびるかも知れないが、この小説のように今までの定説には一石投じて欲しい。

  • 北方先生もハードボイルドから歴史小説に移行。そして本作の垣根涼介先生も推理小説から近年は歴史小説に移行しているなんかはやりなのかなぁ?久し振りに嫉妬した尊敬じゃなくなぜか嫉妬だった。読んでいて久し振りに面白いではなく、素晴らしいと感じた。

    「光秀の定理」

    浅倉家でわずかな扶持を得て奮闘する十兵衛と剣豪の新九郎に破戒僧とも呼べそうな愚息。この3人が生き抜いた安土桃山時代を爽快に描いていく。正直、これだけのものを書ける垣根先生を羨ましく思えた。話の構成が素晴らしいうえに言語の使いまわしが上手い!それに加え小出しに出してくる当時の時代背景の中での豆知識みたいなものは歴史マニアの心をくすぐり続けた。「室町無頼」と「信長の原理」をすでに探し始めた!

  • 明智光秀さん。
    こどもの頃の私にとっては『裏切り者、反逆者、逆賊、3日天下』といったマイナスイメージばかりでした。ところが大人になってからふと時代小説を読んでみると、光秀さんとは何とも真面目で義理人情に厚く、文武両道のカッコいいお人なんだと気付いたのです。
    そうしたらなおのこと、何故、本能寺の変という未だに謎多き一大事件を起こしたのか、その心の遍歴はどんな道筋を辿ったのか、どんな思いで、またどんな覚悟で、その時に至ってしまったのか。あぁ知りたい、知りたい。この光秀さんをもっと知りたいという気持ちはずんずんと大きくなっていました。
    そんな時に出会ったこの一冊。
    光秀さんの周りにいるこれまた魅力的な登場人物(愚息&新九郎)により、明智光秀像を描き出すようなそんなお話です。
    信長さんも革命児ならば、光秀さんもこれまた違った意味での革命児であり、歴史に名を残した武将たちも其々が意味ある生と死を繰り返していたのが戦国時代なんだなと感じます。儚くも惚れ惚れする心意気を持った人達、それぞれの目指した天下=理想の世界の実現のために生きた人達はやはり魅力的ですね。
    光秀さんのこともまた少し知れたような、そんな気分になりました。

  • これは確かに歴史小説だ。だが、その一方でこれほどロジカルな歴史小説は初めてだ。
    真の主人公の二人が光秀の本能寺の変を解釈しているところを読むと、分かりきっていたはずなのに、確かにそうだ、と納得してしまう。本能寺の変は必然的なものだったのだと。
    しかし、個人的には細川藤孝の名脇役ぶりが際立っていて、この作者に藤孝を主人公にした作品を書いてもらいたいと思うレベル。

全99件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞。その他の著書に『ヒート アイランド』『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』『クレイジーヘヴン』『ゆりかごで眠れ』『真夏の島に咲く花は』『光秀の定理』などがある。

「2020年 『信長の原理 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

垣根涼介の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
朝井 リョウ
有効な右矢印 無効な右矢印

光秀の定理 (角川文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×