夏の災厄 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2015年2月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (608ページ) / ISBN・EAN: 9784041028124

作品紹介・あらすじ

平凡な郊外の町に、災いは舞い降りた。熱に浮かされ、けいれんを起こしながら倒れる住民が続出。彼らは日本脳炎と診断された。撲滅されたはずの伝染病が、なぜ今頃蔓延するのか? 保健センターの職員による感染防止と原因究明は、後手に回る行政の対応や大学病院の圧力のため難航する。その間にもウイルスは住民の肉体と精神をむしばみ続け――。
20年以上前から現代生活のもろさに警鐘を鳴らしていた、戦慄のパンデミック・ミステリ。
解説 海堂尊

みんなの感想まとめ

人々が次々と病に倒れ、平穏な郊外の町が恐怖に包まれる様子が描かれています。撲滅されたはずの日本脳炎が再び蔓延し、保健センターの職員たちがその原因を追求する中で、行政の無力さや地域間の格差が浮き彫りにな...

感想・レビュー・書評

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  • 埼玉県郊外の町で、謎の症状により亡くなる人が続出する。撲滅されたはずの伝染病、日本脳炎が再びまん延し始めたらしい。市保健センターの職員、小西と看護師の房代らは、現場の対応に追われながらも、伝染病の発生原因を突き止めようと奔走する。果たして、このパンデミックは無事に終わるのか。

    コロナが流行しだした頃に新聞の書評で紹介されていて、気になっていた本。
    本書が刊行されたのは1995年、30年近く前である。にもかかわらず、致死率の違い(日本脳炎は致死率35パーセント)や局地的な発生であることを除けば、コロナ禍の状況で書かれた本といっても信じてしまうくらい、描かれているパンデミックが現代と酷似していることに驚く。著者の先見性をたたえるべきか、人間の変わらなさに嘆息すべきか。

    ワクチン接種への拒否感、医療機関の隠蔽、東京が無事なら問題ないとする中央官庁。
    感染地域への売り渋りや差別、感染をきっかけに浮き彫りになった地域間格差など、新聞やニュースで目にする内容がこれでもかとつめ込まれている。1990年代はまだSNSが発達していないが、現代が舞台であったなら、SNSによる情報の拡散やデマの流布など、さらに複雑な問題が描かれていただろう。

    しかし本書は、基本的には行政マンが汗水たらして働く様子を描くお仕事小説である。
    主要人物である小西は、県庁勤務を希望するもかなわず出向先で腐っている保健センターの若手職員。看護師の房代は、夫の定年退職後に第二の人生を求めて復職したパート職員である。その他、女性のヒモとしてのらりくらりと生きているパート事務員の青柳や、出先機関に25年居座っている万年係長の永井、主張が強めで暴走しがちな医師の鵜川など、危機的状況を救ってくれる『シン・ゴジラ』の長谷川博己のようなヒーローは誰一人登場しない。
    そんなきわめて人間的な彼らが、自分の職務の中でできる限りのことを行い、現状を打破しようとあがくさまが本書の肝だといえる。

    感染の発生原因を探るミステリ要素もあるため、難しいことを考えなくとも楽しめるし、読み終えた後は、日々の業務を遂行する医療従事者や行政職員を応援したくなる一冊である。

  • 文庫で読む 医療小説
    「夏の災厄」篠田節子著|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/293567

  • じわじわ広がっていく患者と、不安にかられて引きこもる住民の様子がコロナ禍を思い出させた。
    なんだかやる気のなさそうな役場職員が、本当にいそうなキャラでリアルだったけど、これだけ死者が出てもなかなか国レベルでは騒がれなくて、町の問題みたいになっているのがちょっとひっかかったかな。

  • 刊行されたのは、1995年ということだが、今はいくらか落ち着いた現代のコロナ渦の勃興期を思わせるような作品。
    作家の想像力の凄さを感じさせる。
    埼玉県の郊外の街で、住民が次々に病魔に襲われる。
    日本脳炎と診断されるが、撲滅したはずの伝染病が何故?
    感染イコール発病、ウイルスが体内に入ったら必ず発病してしまうという事態に、異変を気づいた保健センターの職員やベテランの看護師、診療所の医師たちが真相に迫るべく行動を起こすが、彼らはけっしてヒーロー的な活躍をするわけではない。
    次第に無害化するのがウイルスの特徴なのに、このウイルスは進化の仕方がおかしいと、ますます悲惨な状況に。
    隔離、封じ込め、さらに感染者や感染場所への差別行為。現代のコロナ渦と同様な状況が繰り広げられる。
    パニック小説であるとともに、医療現場やその行政を告発した医療小説でもある。
    老獪な医師が語る言葉が、現代の我々への警句になっている。
    「・・・ウイルスを叩く薬なんかありゃせんのだ。対症療法か、さもなければあらかじめ免疫をつけておくしかない。たまたまここ70年ほど、疫病らしい疫病がなかっただけだ。愚か者の頭上に、まもなく災いが降りかかる・・・。半年か、1年かあるいは3年先か、そう遠くない未来だ。そのときになって慌てたって遅い」
    様々な警句や対処行動が描かれたこの小説、コロナ渦前にもっと読まれていたら・・・。

  • 新型日本脳炎ウイルスが突如として発生する設定の小説。新型コロナ前に書かれたものなのだけど、混乱、差別、ワクチン接種と強い副反応など、現実のコロナ禍との共通点もあり、作者の想像力が素晴らしい!最後の数行で示唆される新たなパンデミックの読後感たるや。

  • 「未知の疾病に関するバイオミステリー、職業人の矜持を描いたビジネス小説、医療現場の矛盾と医療行政の蒙昧さを指摘した医療小説、高度に発達した文明の陥穽を描出した社会派小説、地域社会が災厄に見舞われた際の群像劇としてのパニック小説」(解説より)。1995年の作品。

    埼玉県昭川市(架空の町)で突如、あり得ない程高い致死率の新型日本脳炎ウイルス感染が拡大する。硬直的で緩慢、後手後手にまわる行政の対応、人命より立場や都合を優先させる組織の論理、保健所や医療現場の混乱と疲弊、地域住民のエゴや差別…。まるで今起こっているパンデミックの状況を予言しているかのような内容だ。

    本作の中で、正義感に溢れる反体制派医師、鵜川の荒唐無稽な推理(アメリカ陸軍の生物兵器開発に協力した日本の大学から新しいウイルスが流出した)は余計だったな。推理の内容が陳腐すぎて…。とは言え、新型コロナウイルスが、怪しげなウイルスの研究をしている中国武漢の研究施設から流出したものではないか、との噂があることを考えると、鵜川医師の推理も現実と符合するのかも。そう考えると、ちょっと恐ろしい小説だ。

  • 現在コロナウイルスが世に蔓延しているが、
    小説の世界ではパンデミックはそう珍しいことじゃないのだ。
    あっちでもこっちでも起きている。

    『夏の災厄』の中では今現在ではほとんど見られなくなった日本脳炎が広がる。
    小説の中でも医療従事者たちは初期の頃から警鐘を鳴らし、役所はどうにか打つ手はないかと走り回っている。
    国はのギリギリまでらりくらり。

    25年前に書かれた本だが、あれ、何だか今と対応が何も変わっていない気がするぞ。
    感染対策とはそもそもこう言うモノなのか。
    それとも大元が全く成長していないのか。
    果たしてどっち。

    オカモノアラガイが気持ち悪すぎる!

  • ある地方都市で日本脳炎と思われる感染者が発生した。
    その原因となったものは何なのか?

    今年のコロナ渦で話題になったのと、前から読もうと思っていたが、電子版しか入手困難だったのが文庫版が再販されたので、購入。

    期待していた程、ショッキングな内容ではなかった。
    それにしても、一部地域での自殺者の増加については、ウイルスとの因果関係が全く書かれていないため、違和感が残るのが残念。

  • ドキドキハラハラパンデミック小説を読みたくて手に取ってみた!

    まあまあ楽しく読めたけど、ドキドキハラハラという感じではなかった!淡々とストーリーが進んでいく感じ。

    知ってる生き物が出てきてテンション上がった〜w

    市役所勤めあるあるがリアリティすごすぎ〜と思いながら読んでたら、解説のところで作者が市役所勤め経験あることが書いてあってやっぱり!!ってなった(笑)

    正義感強いキャラが好きな私にはベテラン看護師の房代さんが刺さったな〜良き!あと永井係長にも2回ぐらいすごいなって思った!!

  • なぜ舞台となった昭川市で新型日本脳炎が蔓延したのか? なぜそれがインドネシアのブンギ島と繋がるのか?
    謎は解けた。でも話が淡々と進み過ぎ?
    物語としては、クライマックスを感じることなく終わってしまった。

  • 局地的に流行する謎の病とそこでそれぞれの役割を全うするきっとどこにでもいるだろう人たち。
    スーパーヒーローみたいな人は一人もいないのが逆にいい。
    この時期に読むからこそ、病に対する人々のパニックやそれによってうまれる弊害がものすごす身近にリアルに感じられた

  • 新型日本脳炎ウィルスによるパンデミックを描いた25年前の作品です。今現在の新型コロナのパンデミックを短期間に凝縮して描いた様な予言書的な話で、随分昔のフィクションでありながら、今現在の状況と、この先の経過を描いている様で複雑な気持ちになりました。
    やはり人類を滅ぼすのは目に見えないウィルスなのでしょうか?!
    コロナ終息を祈るしかないです。

  • ★★★
    今月2冊目。
    これはまさにいまんとこコロナと戦っているが、この本は98年に書かれた物で現代と似ている。
    ネタバレだが、ウイルスを研究していた病院から悪徳産廃業者に注射器などが渡り、山の中に産廃から貝にウイルスが取り込まれ、貝を鳥が食べ、鳥の血液を蚊が吸う、その蚊が人間に刺し日本脳炎が発祥。ちょーこええっす、長いけどよくできてました

  • 看護師である房代が勤めるの夜間診療所に、

    光をまぶしく感じ、花のにおいを感じ、熱に浮かされ、

    痙攣を起こしながら倒れる。。。という患者がやってきた。

    その時は、日本脳炎と診断されたのだが、

    徐々に、同じ症状の患者が増え、死者も増え始める。



    撲滅されたはずの伝染病が、なぜ今頃蔓延するのか?

    疑問を持った房代たちは調査を始め、恐ろしい事実に突き当たる。


    一体、原因は何なのか、なかなか解決しない物語に、

    もどかしさを感じつつも、夢中させてくれる物語でした。



    蚊により、伝染していくというのが、なんだか、現実にありそうで、

    この本を読んでいる数日間は、蚊に神経をとがらせてしまいました。

  • 最後の7行で戦慄。台東区在住

  • 一度は制圧したはずの日本脳炎がなぜか近年になって復活し、法と制度の狭間で奮闘する保健センター職員面々のホラーサスペンス・ヒューマンドラマ。
    2009年に新型インフルエンザが流行し大騒動になったが、それを予見するかのように執筆されていたのが驚きだ。
    はるか昔に制圧したはずの病気が今になって流行した場合、「業務経験のある者がいない」という不安。非常に共感する。
    保健センターの若手職員・小西はどこにでもいる小役人という感じで別に仕事に燃えているわけでもないのだが、パンデミックを迎える時には使命感を持って業務にあたっていた。
    ワクチン認可までは大変な道のりだ。役所が法や前例に縛られて、突発の事態になった時に身動きが取れない組織だというのは非常によく分かる。そして、このような予測できない非常事態になった時に、真っ先に住民を守らなければならない組織であるというのも。

    激務の中ひそかに予防接種事務を進める永井係長、マスコミを利用してワクチン認可の打開策を見出す鵜川医師、肝っ玉のある堂元看護師、クールな東城保健師、どこにでもいそうな登場人物にリアリティがある。

    人体実験が行われたインドネシアのブンギ島の描写もとても読みやすかった。話がしっかりしているので文章を読んでいるだけでイメージがしやすかった。ウイルスを媒介するオカモノアラガイとコジュケイの描写がとても不気味だった。
    後半の部分は、続きが気になって寝るのも忘れ一気に読み進めてしまった。ラストシーンはホラー小説にありがちな感じではあったけれど、その終わり方で良かったと思う。
    中身の濃い、とてもいい本に出会ったと思う。篠田さんの他の本も読んでみたいと思っている。

  • とても面白かった。

    ただ、首都圏が被害にあってないので
    国民が他人事のように書いてあるが、
    新型インフルやコロナであんなに大騒ぎしてたのに
    死者があれほど出たこのパンデミックで
    あのような扱いはないなと思った。

    しかしコロナの時も思ったが
    所詮はよその国頼みなんだと哀しく思った。
    日本人は医学界でも優秀だと信じたい。

  • コロナ禍の今、この作品を読むと、これが25年近くも前に書かれていたことに驚く。
    かたや新型インフルエンザ、かたや新型日本脳炎という違いはあれど、役所の縦割り、前例主義、事なかれ主義、利益重視の医療機関、ワクチン開発の闇、デマに踊らされる人々、自殺の増加、挙げればキリがないほどの類似性に、篠田節子の社会を見る目の確かさを思う。

    現場で人がどんどん死んでいるのに、新しい法律を作るべきか今までの法律でいくべきかを悠長に議論している国とか、専門家会議の人選を専門性を優先しないで人事的な観点で決める厚生省とか、今もこの手のことが私たちの見えない所で山ほど起こっているんだろうな〜と思わせるリアリティは、篠田さんの市役所勤務の経験から来るものらしい。

    登場人物の造形も際立っている。
    ザ・市役所の役人って感じだった小西が、次第にこの感染症を抑えることへの熱量が上がっていく過程や、やる気のない事務員青柳が所変われば実に頼りになるところ、左翼系の医師鵜川がネットワークとフットワークで真相究明に力を尽くすところ、気難しい老医師を人心掌握術で手懐け味方にしてしまう看護師の堂元など枚挙にいとまがない。

    そして、作品全体を覆う不穏な空気。
    変異した貝の大量発生や幼鳥の大量死、殺虫剤に耐性を持った蚊の大量発生など、背筋がゾクっとする。やっと彼らに訪れた平和も次の悪夢への序章でしかないことの恐怖。
    未知の感染症にの前には、人の暮らしがいかに脆弱であるかをひしひしと感じる作品でした。

  • 日本脳炎が本作のテーマだが折しもコロナ禍で25年前の作品とは思えぬほどのシアルさで鳥肌がたった。文庫600頁ほどのボリュームで一週間かかって読み終えたがまだコロナが終息していない現代で願望も込めた祈りのような気持ちがこみ上げてきた。パンデミックが丁寧に作り込まれた作品の素晴らしさは巻末の海堂尊さんの解説が物語ってくれている。本当に同感。篠田節子さんの様々な作品に翻弄される読者というのも悪くない。

  • 篠田節子先生の『夏の厄災』を読もうとしたのは大方の予想通り、米澤穂信氏の『氷菓シリーズ』で折木奉太郎くんが読書中だったのを見たのがきっかけだったのだが、篠田節子作品を読むつもりだったのは前世紀の頃だった。以下次回。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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