信長の原理

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 812
レビュー : 122
  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041028384

作品紹介・あらすじ

どんなに軍団を鍛え上げても、必ず落ちこぼれる者が出てきてしまう――信長の疑問と苦悩を解く鍵は、蟻の観察にあった。原理で「本能寺の変」の謎に終止符を打つ、ベストセラー『光秀の定理』に続く革命的歴史小説!

感想・レビュー・書評

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  • 信長は、蟻を観察し、人を観察して、いわゆるパレートの原理を導き出す。活動する集団の2割は必死に働き、6割はその2割に引っ張られて働く、残りの2割はさぼっている、という社会学者が提唱した原理である。実際に信長が発見したかどうかは、どうでもいいのだ。これを、小説を貫くアイデアにしたことが、この小説の面白さに繋がっている。はたして、信長の周りの2割の者たちが、劣化するか、脱落するかしていく。明智光秀の裏切りも、その2割というわけだ。しかし、この小説の面白さは、原理はさておき、信長、佐久間大学、木下藤吉郎、柴田勝家、丹羽秀長、松永弾正、明智光秀たちの心の中に随時、作者が入り込んで、執拗にその考えることを追っていくことにある。それぞれの人物は、感情に揺れ動かされながらも、とにかく理詰めに考え詰めていく。これが、実に面白い。歴史上の人物が、本当にそう考えたかどうかは、どうでもよくなってくる。これは、作者の筆力というべきであろう。それにしても、最後は、信長よりも光秀に、感情移入してしまう。光秀の心の動きは、実際もそうだったのかなあと、ふと思う。

  • こんなに孤独に苛まれ苦悩する信長は初めてかもしれない。
    幼い頃から鬱屈した憤懣が常に燻り、鬱々とした気持ちを抱える。
    実母から虐げられ家臣からも疎まれる始末。
    周りの大人の言う世の通年は、言葉では理解できても感覚として馴染めない。
    身の置き場のないまま、信長は一人、心の中で自問自答する。
    世間の物差しというものは本当に正しいのであろうか、と。

    何事も理屈で考え、納得する理がなければ前には進めない信長。
    天才肌で直感で何事もやり遂げたイメージのあった信長だったけれど、今回の信長は、その内面で随分葛藤していたようで少し意外だった。
    幼い頃に発見した蟻の法則を家臣達になぞり、常に「2割」という数字にこだわり続ける。
    対して、同じく理屈で物事を考える明智光秀。
    「あの法則がこのまま通用するのなら、…このおれを裏切る者がいずれ現れるはずだ。しかしそれは、いったい誰だ」
    似た者同志で最も信頼を寄せていた光秀の手にかかった信長。
    けれど信長の原理からすれば、本当の敵は信長自身だったのかもしれない。

    今日6月2日は信長公忌。
    この日に読み終えて嬉しい。

  • 垣根さんの時代物は初めて読んだが、予想以上に面白かった。
    幼少時に目にした蟻の動き。そこから導かれた二・六・二(または一・三・一)の法則。
    どんな法則かはネタバレになってしまうので書かないが、その蟻の法則が人にも当てはまることを長じるに連れて目にしていく信長の驚愕とその法則をコントロールしようと抗う姿を、これまで散々描かれてきた信長像に当てはめるとこんなに面白い物語になるのかと感心した。

    なぜ彼は家臣たちを駒のように使い駒のように捨てたのか、一方で松永弾正のような男にはなぜ何度も慈悲をかけたのか、今川義元との戦いでなぜ自信を持って闘えたのか…数々の信長にまつわるエピソードが垣根流の解釈で興味深く読める。

    結局のところ二・六・二の法則に縛られその法則までも自分の良いように操ろうとした信長はその考え故に自らの首を締めることになってしまった。人は神仏を超えた自然の『原理』には逆らえないということなのか。

    ではなぜ秀吉は天下を統一できたのか、更に家康はなぜ二百五十年もの泰平の世の礎を築くことができたのか、その辺りもぜひ書いてほしい。
    この作品が面白かったので、遡って「光秀の定理」も読んでみたいと思う。

    • moboyokohamaかわぞえさん
      「室町無頼」の垣根さんですね。
      「信長の原理」小説らしくないタイトルと思っていましたが読みたくなりました。
      「室町無頼」の垣根さんですね。
      「信長の原理」小説らしくないタイトルと思っていましたが読みたくなりました。
      2019/06/09
    • fukuさん
      コメントありがとうございます。
      垣根さんの時代物は初めてでしたが読みやすくテーマも興味深かったです。
      コメントありがとうございます。
      垣根さんの時代物は初めてでしたが読みやすくテーマも興味深かったです。
      2019/06/10
  • 『光秀の定理』に続くシリーズとも言える『信長の原理』。
    少年時代に、蟻の動きからパレートの法則を見出した信長は、その法則に基づき、常備軍を鍛えあげて、天下取りを目指す。
    世評、非情の権化の如く見做される信長だが、一方で臣下に対する情愛溢れる一面や、さらに、信玄や謙信と比べて己の才能のないことや気性の悪さを嘆く信長を、著者は描き出す。
    幼少期の体験(蟻の動きから会得した)が彼の行動原理となっているが、しかしその法則に囚われるあまり、信長はやがてその身を亡ぼす。
    そんな信長の末路を松永弾正が評する。
    「信長よ、お前も所詮人ではないか。虫けらと同じだ。が、その虫けらがこの宇内の原理を根底から変えようとするなど、その原則を覆そうとする人事を常に試みるなど何を思い上がっている。いったい何様のつもりだ」と。
    第一章から第三章までは、信長が主役で語られるが、第四章以下は、彼の部下たちの視点で交互に綴られ、信長の行動を立体的に描き出している。
    すなわち、木下藤吉郎(秀吉)、丹羽長秀、佐久間信盛、柴田勝家、松永弾正。そして、より多く割かれるのが、やはり明智光秀の視点。
    信長が、光秀を身近に呼び寄せ、家康の謀殺を相談する場面がある。これは史実だろうか。歴史にifは禁句だが、それが遂行されていたら、その後の日本はどうなっていただろう。
    そして、本能寺の変。
    光秀のその動機について、著者は信長の度重なる仕打ちに重ねて、次の言葉で個人としての誇りがずたずたに切り裂かれたことによると、著者は述べる。
    「ぬしの今後も内蔵助の首も、すべてこのわしの匙加減ひとつであるぞ。その一事を忘れるなっ」
    『光秀の定理』と合わせて読むと、より深く味わえるのではないか。
    同時期に読んだ司馬遼太郎の『手掘り日本史』では、本能寺の変を、光秀ノイローゼ説としている。

  • 読み応えがあった。
    信長は勿論、藤吉郎、柴田勝家、佐久間信盛、など、そして明智光秀の視点からの語りもあり、物語が進む。

    なかなか興味深い物語の展開だったし、明智光秀の謀反までの流れも説得力があった。

    集団をまとめる時、人の考えをどれだけ読んだとて、結局はその通りにいかないもんだ。

    あと、信長の思い描く世界で、いろんな人が徐々に首を絞められていった感じがすごい伝わった。


    2019.12.1
    172

  • 前に読んだ「光秀の定理」と今回の「信長の原理 」が、まるで
    パズルがピッタリはまったように、合わさり当時の勢力分布図が完成した

    それにしても、息が詰まるような心情小説だった

    信長は、長年仕えてきた将や家臣を『働き蟻の法則 』に従い、今力を落としてきたのは誰かを見、力を落としてきたと思いきや信長の匙加減ひとつと気分次第で、いつでもその地位をすげ替え、家中から追放したり、切腹させる
    信長にとっては、家臣たちは覇権争いのための一つのコマに過ぎなかった

    佐久間信盛、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉、明智光秀は、織田家の中の自分の位置づけを考え、他者分析をする

    織田家で将としての資質を常に競わされ、前歴を問わない実力本位の激烈な競争原理によって死ぬまで生き残り合戦をさせられる
    そして、自分たちが信長にとっては、ただのコマに過ぎないのだと気づいていく

    本能寺の変に至るまでの光秀の苦悩、明智家の家老の苦悩は、読んでいて胸が締め付けられるような思いがした

    「 本能寺の変 」は、起こるべくして起こったのだと納得した

    202p〜218pの信長に命じられて秀吉と家臣が行った蟻の実験は、興味深かった

  • 戦国エンターテインメント小説として楽しめました。
    信長作品独特のヒリヒリした感じが伝わって来て読み応えも十分。そこはさすが垣根涼介って感じでした。

  • あーー、長い時間かかったー!
    信長の一生。ま、誰もが知ってる通り、最後は本能寺で殺されてしまうんだけど。
    強烈な利かん気で実母からも疎まれ、一人で過ごすしかなかった頃に蟻を見続けある原理に気付く。そしてそれは人間にも当てはまる事に気付く。
    有能で働き者の家臣も5人以上いると、精彩を欠いたり裏切ったり。脱落する者が出てきてしまう。
    それは自然の理ではあっても、あまりに厳しく周囲の人間に徹底、追い詰めるといつか、破滅の道しかなくなる。
    結局人は虚しいのか。

  • 勿論実際にはわからないが、光秀と信長の心情が実によく描かれていて、本能寺の変の動機は諸説あるが、これなのかと思わせるものだった。
    原理の話は興味深いが、久秀のあたりは少し無理もあるような気がする。原理の話がなくても十分に面白い。

    • moboyokohamaかわぞえさん
      そうですね、おっしゃるように「原理」の話がなくとも面白いですね。登場人物それぞれの視点から見た信長、そして時代が見えてきます。
      そうですね、おっしゃるように「原理」の話がなくとも面白いですね。登場人物それぞれの視点から見た信長、そして時代が見えてきます。
      2019/09/14
  • 史実を踏まえた奇抜な着眼、というので興味が湧き読んでみました。

    歴史小説というよりは、社会学や組織論・マネジメント論といった新たな発想から信長の戦略を分析し、急速に天下統一まで漕ぎつけた理由と、逆に部下に背かれ続け、最終的に命を落とした理由を明らかにしたビジネス書的な一面を持つ小説でした。

    懸命に働く2割の兵士を集めて戦に臨んでも、新たな集団では精鋭はやはり2割。
    組織をいくら編成しなおしても精鋭2割、怠惰2割が必ず出てしまうという、幼いころから蟻を観察し続けて導き出した2:6:2の法則を考慮した軍事戦略で時代の寵児となった信長。
    その一方で、徹底した合理主義と恐怖で部下をマネジメントしながら下克上を奨励する信長に、どんなに働いても過去の功績を考慮されず、今、役に立たなければ使い捨てにされることに気づいた武将たちが、次々に追い詰められた果てに裏切り行為に走る。
    また、信長の方でも、2:6:2=1:3:1とすれば秀吉や光秀といった精鋭な武将も5人いれば必ず1人は怠惰=裏切る、をいう風に思考を発展させてゆく。
    本能寺の変で自分の死を悟ったときに、世界は常に物事を拮抗させて維持させる機能が働く、ゆえにこの世界の中で突出した自分は滅ぼされる運命にあると悟る。

    という筋書きです。
    ビジネス書ぽい解釈でしょう。正しいリーダー像、マネジメント術の反面教師として信長は絶好のモデルでした(笑)。

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著者プロフィール

垣根涼介(かきね・りょうすけ)
1966年、長崎県生まれ。筑波大学筑波大学第二学群人間学類卒。
2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞しデビュー。2004年『ワイルド・ソウル』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞、大藪春彦賞の史上初の三冠に輝き、2005年『君たちに明日はない』で第18回山本周五郎賞を受賞。2013年、初の歴史時代小説『光秀の定理』を発表、歴史時代小説『室町無頼』は第156回直木賞候補、第7回山田風太郎賞候補となり、第6回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。2018年、『信長の原理』で第9回山田風太郎賞候補作、そして第160回直木賞候補となる。

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