一房の葡萄 (角川文庫 緑 29-5)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041029053

感想・レビュー・書評

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  • 遥か昔のうっすらと残る記憶だが、小学校3~4年の担任の先生が、国語の授業とは別に読み聞かせをしてくれたのが「一房の葡萄」だった。
    横浜の山の手が舞台であり、万国旗、西洋絵具など、異国の香り漂うのが、見知らぬ世界を覗いているような不思議な気分だった。

    子供ながらに「ぼく」のやってしまった事に罪悪感からドキドキしたし、同時に、藍色と洋紅色はとても美しい色なのだろうと想像した。
    そして先生が捥いでくれた西洋葡萄とはどんな葡萄なのだろうと想像した。
    自分が普段口にする葡萄とは違う、何か特別なフルーツに思えた。
    なにより「ぼく」に対して、いやな事をしてしまったと自分で分かっているのならそれでいいと、子供の立場に降りてきて話をしてくれる「受持の先生」に、とても安心感を得たのを覚えている。

    こんなにも主人公に気持ちを寄せてしまうなんて、私自身、たまたま多感な時期だったのかもしれない。
    けれど大人になり、ふと「一房の葡萄」を読み直したいと思えたのは、間違いなく3~4年の担任の先生のお陰だ。
    改めて読み直すと、とても美しい日本語で、優しい響きを持って書かれている。
    子供の世界を丁寧に捉えているからこそ、当時の私も主人公と共にドキドキしたし、優しい先生に安堵したのだと気付いた。
    主人公と共に、私も救われていた。

    小学校の教科書など、まれに、子供には少し難しいのでは?と思う作品ってないだろうか。
    例えば、三好達治の「雪」や中原中也の「一つのメルヘン」など。
    勿論、子供の頃から深く読み解く事が出来る方も居るだろうが、私は、
    どう理解すればいいのだろう、意味が良く分からない、こんなに浅い解釈でいいのか…そんな作品が幾つかあった。
    でも、それで良いのだと大人になってから思うようになった。
    そういった作品に早々に出会っておく事こそが大事なのだ。
    記憶の奥に忘れ去られていても、後の人生で必要とされる時があれば、人はちゃんと思い出す。
    「ふと」読み直そうと思う。
    その「ふと」の引出しを作っておく為に、学校の教科書や図書室はあるのではないだろうか。

  • 随分マセた子どもだったようである、初めて読んだのは6歳のころで、小学校3年生のはじめての読書感想文は「一房の葡萄」だったのです…。最早何を書いたんだか記憶にありませんが。
    只、当時は「書かれている出来事」だけに注目しておりましたが、もう少し年齢を重ねると文体の美しさにも気付かされますね。
    一番印象に残っているのは掲題の「一房の葡萄」ですが、罪を犯した少年に苦味が含まれつつも温かいのは、主人公その人が有島武郎だったからですね。
    ヘルマンヘッセの「少年の日の思い出」(=「クジャクヤママユ」)を連想します。

  • 有島武郎の童話集。
    文章がとにかく美しくやさしい。そしてそれぞれの主人公の置かれた状況による感情が生々しく伝わってくる描写力。
    重たいできごとは起こるが登場人物はおしなべてやさしい。
    非常に秀逸な童話集なので、もっと子どもが手に取りやすい形態で広まると良いのだけれど。
    宗教色が強い「真夏の夢」と「燕と王子」はいまひとつ。

    ◆収録作品
    ・一房の葡萄
    ・おぼれかけた兄妹
    ・碁石を飲んだ八っちゃん
    ・ぼくの帽子のお話
    ・かたわ者
    ・火事とポチ
    ・真夏の夢
    ・燕と王子

  • 配置場所:摂枚文庫本
    請求記号:913.8||A
    資料ID:95970316

  • 童話集。日本語がやさしい。
    易しいじゃなくて、優しくてあたたかい。

  • 死や盗み、エゴなど、童話ではなかなか取り上げないようなテーマが深く掘り下げられている。
    「火事とポチ」に幼い頃の自分を見つけ、自己嫌悪に陥った。

  • 童話と言いながら、解説を読むと自殺の直前に書かれたものとあると、その影がなんとなく見え隠れしているような気がしてならない。

  • 童話にカテゴライズされるようだが、子供を題材とした短編の趣を感じた。登場人物に向けられる眼差しは温かく繊細。
    (2012.1)

  • 有島武郎は芥川と並んで、童話もうまい。中勘助のような文体を想起させる童話集だ。僕が高校3年生の時、「神奈川と文学」という授業を取っていて、有島が神奈川の出身だということで、その時に出会った作品。表題作である『一房の葡萄』を読んで、「おおお・・・いやぁ、言葉遣いがキレイだなぁ・・・」と、しみじみ思った。有島はこれらの童話を通じて、子どもたちに、子どもだからこそ、教えておかなければいけない「やってはいけないこと」を教示しているように思う。それは、読めば何となくでも分かると思う。この辺りが芥川の童話と異なる点でもある。

  • 有島武郎の童話八篇を収録した本。
    どの作品もすごく面白く、心が温かくなった。中でも「火事とポチ」は犬嫌いの僕ですら読んでてちょっとうるっときた。本を読み終わった後に小学校の教員免許が欲しくなった。
    「真夏の夢」だけちょっと作風が違うなと思ったら、ストリンドベルヒという作家の作品の翻訳らしく、自分の勘が当たったことが嬉しかった。

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