雪と珊瑚と (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041030103

感想・レビュー・書評

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  • 図書館でなんとなく目に留まって借りてみた。
    珊瑚のまわりにいる人たちはみんな優しくて協力的だけど、どの人も隅々まで良い人な訳ではなく、珊瑚と合わない部分だったり、他の人と上手くいってない部分があって。珊瑚自身も完璧ではなくて。そういう人間らしいところが描かれていて、そうだよなぁって思うところが多かった。

    みんなそれぞれ色々抱えて生きてるけど、生きる源となるのはおいしい食事で。新鮮な野菜、食材の味を引き出す知恵、栄養価だけではない人の温もり…
    最後の雪の「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねえ」に全てが詰まっている。
    今晩は、この本に影響されて旦那さんと一緒に5品作って美味しく食べました。幸せなことですね。

  • 美知恵の手紙がなかなか核心を突いていて、ただの「シングルマザーが頑張って飲食店を立ち上げて経営する物語」ではないのが良い。

    珊瑚が雪のことを心底憎たらしくなってしまう瞬間があるシーンも、子どもの夜泣きに悩まされた親なら誰もが共感することが書かれていた。

    お店を立ち上げるための過程が詳しく書かれていて単純に勉強になった。物語の後半で一気に珊瑚がひとり親で雪を育てていくことの大変さや、珊瑚の背景に触れる内容が押し寄せてきて、一気に読み切りました。

    物語に出てくる料理はどれも美味しそうで、美味しくて健康的な料理は人を救うものだなと思った、、

  • 梨木さんは昔読んだ『西の魔女が死んだ』以来。おばあちゃんが素敵だしラストもいい。
    本作のラストも幸せの余韻が良かった。

    親とも疎遠な珊瑚が結婚、出産、離婚をした。頼る人もなく、どうやって一人で赤ちゃんを育てていけばいいのか…。
    珊瑚の悩みがすごく深刻で切実。
    そんな中、くららさんとの出会いは本当に奇跡と言ってもいいと思う。

    人生のこのタイミングで、もしこの人に出会わなければ…

    ということが現実でもある。
    子育てと仕事の両立の大変さ。心身の負担もだし将来への経済的な不安もそう。自分と子どものことを見守ってくれる存在の温かさ、心強さははかり知れない。
    作中のくららさんの作る何てことない素朴な料理が美味しそうでした。
    珊瑚とくららさんの子育てを通して、我が子が赤ちゃんの頃を思い出した。怪獣と化すことはあるけど、圧倒的に愛しい存在。
    そう感じる瞬間が作品に切り取られていて幸せな気持ちになりました。

    惣菜カフェオープンについては、ちょっとスムーズすぎて若干の違和感はあったかな。
    個人的に、珊瑚の言葉の選び方も慎重になろうとする姿勢に好感をもちました。
    言葉足らずも含め、人に対して自分が発する言葉に敏感になれるのは良いことだと思う。

    読みながら“野菜”のキーワードで瀧羽麻子著「女神のサラダ」を思い出しました。
    お気に入りの一冊。

    『だいじょうぶだよ、と囁く。おかあさんがいるからね』

    『一つ一つの何気ない動作
    腕を頭まで伸ばす、指で何かをつかむ、等々…
    を獲得することが、どんなに劇的で画期的なことなのか分かる。文字通り世界が広がっていくのが分かる』

  • 生まれたばかりの赤ん坊・雪を抱え途方にくれていたシングルマザーの珊瑚・21歳。「赤ちゃん、お預かりします」の貼り紙の主で元修道女のくららと出逢ったのをきっかけに、果敢に人生を切り拓いてゆく、生きること・食べることの根元的な意味を問いかける物語。

    読んだ印象、「素直な物語」だと思った。
    スタートに何か問題があって、主人公がその問題を乗り越えるために周りの人たちの力を借りて段々と強さと自信を得て、途中でまた別の問題が起きたり傷つくことがあるけれどそれが自分を見つめ直すきっかけになり、まだまだ先がある余韻を残しつつ物語が終わる。
    個人的には端折り方が好もしいと思った。たぶんもっと詳細に描写すれば読者の共感を得やすい場面もあっただろうけど(主人公が苦労する場面とか)、そこを省いてシンプルな流れになっているところが私は好きだった。著者的に言いたいことがはっきり分かる気がして。
    主人公の周りにある様々な問題の真相が結局分からないまま終わっているところもあるけれど、実際の人の人生だって何だったのか分からないまま時間が過ぎていくことや追求しないまま終わることはたくさんあるし、全て解決しないところもまたリアルで良いと思った。

    若いシングルマザーの珊瑚が、周りに助けてもらいながら、保護林の中にある民家にカフェを開業する物語。自分が子どもを持ったことで母親の気持ちが理解出来るようになり、うまくいかなった自分の母親との関係を見つめ直す、というのがもうひとつの流れ。
    物語のあいだは、けっこうトントン拍子に事が進むけれど、それはごく短期間の出来事で、その後にはきっと乗り越えなきゃいけない壁がたくさんある。描かれていなくても何となくそういうことが想像出来るから、トントン拍子の物語も違和感がなかった。

    全ての人は平等、という考え方もあるけれど、私はそうではないと思う。生まれた環境が恵まれているか否かによってその後の人生が左右される時点でもう平等ではない。
    そういう現実が前提にあることは分かりつつ、それでも人間は平等なのだと何となく思わせてくれるくららの存在が心強い。飢えを知っているからこそ食べることを大事にする。当たり前のことを幸福だと捉える。出来そうで出来ないことをくららは自然にしている。
    教えを与えるような内容ではないのに、読みながら自分を考え直してしまうことがたくさんある、そんな小説だった。
    美味しそうな野菜や食べ物がたくさん出てくるところ、そして登場人物の全員が善人ではないところもまた良かった。

  • あたたかいけど、あたたかいだけの、物語の中だけの良いお話、って感じじゃないところが良かった。雪ちゃんと珊瑚がずっと幸せにいられるといいなあ、って思う。珊瑚のお母さんのことも、くららさんのことも、由岐のことも、もっともっといろいろ掘り下げるところがたくさんありそうな気がするけど、深くは書かれていなくて、でもそれが消化不良な感じではないのも良かった。幸せだね、って、美味しいご飯を食べながら言える自分でいたいと思う。

  • 人とのつながりに疲れても
    それでも誰かに助けてほしいと思う

    ゆるやかにしっかりと
    人と関わっていくことの貴重さ、希少さ

    実は私たちの毎日も
    そうやって出来上がってるんだけど
    忘れがち

    偶然のつながりで人は出会い
    つながっていくんだよね

  • この物語の最後は、主人公の珊瑚の子ども(赤ん坊)である雪の台詞で幕を閉じます。
    「おいちいねえ、ああ、ちゃーちぇねえ」
    =美味しいねえ、ああ、幸せだねぇ。
    この台詞に本作の全てが詰まっている気がしました。
    生きるために食べる。ただ食べるのではなく、美味しく食べる。そして、それが自身の幸せや生きていることへの幸せに繋がる。
    簡単なようで難しい。人間関係や人との繋がりに似ているな、と思いました。

    生きること、食べること、人間関係の難しさ。人の温かさ。優しさ。厳しさ。
    それらが複雑に絡み合って人は生きていけるのだと感じました。

  • 冒頭は、ちょっと今まで読んだ梨木香歩作品とは違う路線か、と思いましたがいやはやどっこい、とんでもない、最強女子たちの物語。
    心が強い、生きる力もしなやか、何より生活することへの貪欲さが気持ち良し。人の心の中の葛藤とか、現実の厳しさも盛り込まれていて、だから余計に引き込まれるのだと思います。
    ストーリー上、とても重要な食へのこだわり。レシピや食材、そして生産農家のこと。これがよりこの小説を魅力的にしていると思います。

  • シングルマザーの珊瑚が生後九か月の雪を抱えて、預かってもらえるところを探してさまよっていた時に見つけた、子供を預かる旨の張り紙。くららという不思議な浮世離れした雰囲気の女性に雪を預かってもらい働くうちに、新たな夢に向かって歩み始めることになる、とても前向きな話です。
    珊瑚は母親からネグレクトされていた為、食べ物が無かった記憶が根強く残っていて、人にご飯を食べさせたいという欲求があります。そこに、くらら始め周囲の人々からの助けもありカフェを始めることになるのですが、このカフェがとても素晴らしく、あったら女性は接待行きたいと思うだろうし、なんなら自分でこういうカフェやりたいと思っている人には溜息ものではないでしょうか。

    しかしこの本の素晴らしい所はカフェ開業のホンワカ話ではなく、親子関係、人間関係が主役なんですね。親と自分、自分と子供、子供と父親、切っても切れない関係性の中で、どうやって幸せを感じるように生きていけるのか。それをとても考えさせられる本です。

    あと、乳児の雪ちゃんがとても可愛らしくて、歩いている姿、ご飯食べている姿、笑っている姿、泣いている姿が目に浮かぶんです。これほど赤ちゃんの姿が思い浮かぶ小説も珍しいと思います。

  •  シングルマザーの珊瑚が、くららという女性に出会い、カフェを始めて自分の道を切り開いていくという話。

     周りの人に助けられて食べ物屋を始めたり、母と確執があるところが「食堂かたつむり」と似ているけど、こちらの方がまだ地に足が付いている気がする。
     
     親切のつもりでやったことが相手に負い目を感じさせてしまったり、「シングルマザーとして頑張っている」というポーズを見せて同情を引こうとしていると言われたり、誰もが感じたことのあるような苦い感情が掬い上げられている。

     また、まるで家族のように珊瑚を助け、娘の雪の面倒を見てくれているくららさんとも、信仰を巡って相容れない部分があって、人間関係の微妙な摩擦がうまく描かれていると思う。

     単純にシングルマザーの奮闘記という物語ではなく、人との付き合い方について考えさせられる一冊だった。

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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