- 本 ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041031490
作品紹介・あらすじ
日本を代表する企業が失墜したのはなぜか? 名経営者も輩出し、名門であったはずの東京電力。実態は異論を許さぬ強権“村社会”だった。安全神話を守るために安全を度外視していき、アメリカへの一方的従属、管理・監視の自己目的化を進める。その果てに分割・民営化の先駆となった排除の体質。東電の本質を、社会的・歴史的に徹底取材して抉り出した“現代の古典”。大幅加筆し、無責任国家・企業に驚愕したすべての人に捧げる。解説・池上彰氏
単行本刊行時、池上彰氏、奥村宏氏、白井聡氏、森永卓郎氏、武田徹氏、新藤宗幸氏ら名だたるジャーナリスト・経済学者・エコノミストらが絶賛。さらに朝日、毎日、東京はじめ各紙で書評され、出版界の有志が1年で最も良かったと思える人文・社会科学の作品に贈る第三回「いける本大賞」をも受賞した大作。
文庫版では、『長崎の鐘』で聖者のイメージがある永井隆の人物像をえぐる論考が、文庫版新章として書き下ろされている。
一つの企業から、日本が見える。
感想・レビュー・書評
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膨大な文献と当時の関係者へのインタビューを基にして東京電力の姿を浮き彫りにした一冊です。我々はなぜ原発を選んだのか。なぜ巨大企業の支配を望んできたのか? これは全ての日本人に対する問いであると思います。
本書は書店で目にして以来、ずっと気になっておりました。で、先日ようやく手に入り、読み終えることができましたが、膨大な文献や、当時の関係者によるインタビューを元に、東京電力という日本を代表する「エクセレント・カンパニー」の裏にあるものを抉り出そうとする筆者の試みには本当に敬意を表します。
正直、一企業がここまでのことをするのかと…、読み終えたときにはしばらくの間、虚脱状態になりました。「3・11」で完全に崩壊した原子力発電所の「安全神話」を維持するために安全を度外視するすさまじいまでの逆説を打ち立て、これを堅持するために保守論壇を扶養し、最強の労働組合を潰し、東京電力の中興の祖である木川田一隆と経団連会長までのぼりつめた平岩外四などの歴代のカリスマ経営者を賞賛する―。
僕は本書で東電が専門の技術者を養成するための学校まで所有していたことを知り、改めてその影響力の大きさを知ることができました。さらに、組合をつぶすためにはそれこそ、ありとあらゆる諜略を仕掛け、経営陣の思うがままの体制を作っていく。さらには政界、マスコミにいたる工作活動も丹念に描かれており、あらゆる意味でも「すごい」会社だったんだなと思わずにはいられませんでした。
東京電力の歴史とはそのまま、戦後日本の日本史と日本経済史であり、三鷹事件や下山事件などの話や、レッド・パージなどのもはや教科書の「歴史」になっている事件がそのまま現在に続いているという事実。あまりの情報量の多さに、読破するには多少、骨が折れるかとは思いますが、日ごろマスメディアにはほとんどれることのないお話が随所に見られますので、「3・11」以後の世界を生きる、もしくは生きざるを得なくなったわれわれには、ぜひとも抑えておきたい文献のひとつかと思われます。
※追記
本書は2015年10月24日、KADOKAWA/角川書店から『「東京電力」研究 排除の系譜 (角川文庫)』として文庫化されました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
原発事故によって赤裸々になった東京電力の企業体質がどのように培われてきたか、歴代社長の経歴、労働組合(電産)潰し、反原発活動への対応などを輻輳的に絡めながら炙り出していく。
非常に脱線が多く読みながら「何を伝えたくってこの章を書いているんだろう?」という部分も多々ありますが、全体的には良質なノンフィクションで力作です。
終章の「犠牲のシステム」の観点から福島を原発ゴミ処理地にしてはいけないという主張を読んだときに途中の大幅な脱線を作者が書かざるを得なかった心情は個人的には腑に落ちましたが、いかんせん途中の脱線の長さが作品全体の完成度に水を指しまくっているのも又事実。文庫本にするときに3割くらい減量しておけばよかったのに。 -
気がつけば、あの日から今年で丸5年を迎える。忘れていたわけではなかったけど、当初よりはその記憶が薄れてきてしまっていることはたしかだ。だから、今年は意識的に震災や原発事故の関聯本を読むようにしたい。さて、その第1弾である本作は、タイトルからもわかるように、その原発事故の当事者である「東京電力」に焦点を当て、あの日までは日本を代表する優良企業であり、誰もが憧れる就職先であったはずの東電が、なぜ事故を起こし、国民全体から蛇蠍のように嫌われる企業になってしまったかに迫ったノンフィクションである。読んでみると、震災直後に東電について書きたてられた文章は洪水のように流れていたはずなのに、まだまだ知らないことだらけであったということがよくわかる。原発事故関係のノンフィクションも何冊か読んだが、東電という特殊な企業の体質を知らなければ、その全貌を完全に理解することは不可能であろう。ただ、本作がそこまで優れているかと問われると、微妙だ。たとえば作中には、「CIA」について触れている箇所などがある。それじたいは問題がないかもしれないが、同様の趣旨で陰謀だの圧力だのと書いている箇所はすくなくない。真偽については検証不可能とはいえ、こういう「よくある陰謀論」にちょっと著者は傾倒しすぎな気がする。もっと確実なエヴィデンスのみに基づいた記述であったほうがよかった。内容についても、幅広く書き立てているようで、肝腎なことについて触れていない。勲章云云については、人物を知るためには重要かもしれないけど、東電の体質を知るにはそこまで重要ではないように思う。社長の性格が、かならずしも忠実に社風に反映されるわけでもあるまい。原発は国策でもあったのだから、政治家の暗躍とか、社内の駈引とか、もうすこし書くべき部分はあったのではないか。たしかに、電産について書かれた部分など、原発と直接の関係性は薄くても、おもしろく読める部分もある。でも、全体を通してみると、けっきょく何について問題提起したいのかがよく見えてこない。原発関係で著名な賞を受賞したり、候補に入ったりしたノンフィクションはすくなくないが、本作はそのなかには選ばれなかった。じっさいに読んでみると、その理由がなんとなくわかるのである。原発事故についてあらためて考えてみるよい機会になり、読んでよい本、あるいは読んだほうがよい本であることはたしかだが、ノンフィクションとして右に出るものがない、至高の完成度であるというわけではない。
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ノンフィクションというよりは、まさに研究論文といった内容の作品である。圧倒される参考文献と註釈の洪水と鋭い考察が執拗なまでに繰り返される。
東日本大震災に端を発した福島第一原発事故を契機に浮き彫りにされた東京電力を中核にした原子力ムラの歪んだ実態。大企業の傲慢さと思想統制が招いた無責任体制は、朝鮮半島の北の国とも似ている。
起こるべくして、起きた原発事故。無責任体制が生み出される過程とそれを支えた人脈。腹立たしい限りであるが、世論は原発再稼働へと向かっている。所詮、同じ穴のムジナか。
著者プロフィール
斎藤貴男の作品





