天佑なり 上 高橋是清・百年前の日本国債 (2) (角川文庫)
- KADOKAWA (2015年7月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041031711
作品紹介・あらすじ
足軽の家に養子となった少年、のちの高橋是清は、英語を学び、渡米。奴隷として売られる体験もしつつ、帰国後は官・民を問わず様々な職に就く。生来の勉強家は、現場経験を積んだことで不世出の銀行家に――
感想・レビュー・書評
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感想は下巻で。
以下抜粋~
・和喜次(是清)と鈴木知雄が学んだのは、紐育より来日していた医師でもあり、宣教師でもあるジェームス・カーティス・ヘボンである。前年より横浜の居留地で施療院とともにヘボン塾を開き、ヘボン式ローマ字表記法を考案。
・「いいへ、日本人は真っ先に辞書を買っていました。英語を勉強するんです。それに較べると、中国人はなにをおいても貯金ですって」
帰国する者たちと入れ替わりに、今度はその兄弟や親戚が、寄せては返す潮のごとく、亜米利加に渡ってくるというのである。
・共立学校の若き校長であり、英学教師であった是清とこのころ接点を持った若者たちは数知れない。
洋画家であり美術教育にも貢献する黒田清輝、帝国海軍軍人の秋山真之、明治を代表する俳人正岡子規、作家の島崎藤村などのほか、やがて海軍大将となり内閣総理大臣ともなる岡田啓介のように、後年になって是清自身が関わる政治の場面で再会する教え子たちもいた。
・今回同行(渡航)するのは、串田万蔵や吉田鉄太郎といった若者たち。串田はのちに三菱銀行の会長となる青年だ。
・巴里二日目の朝になるのを待ちまねるように、日本公使館に蜂須賀公使を訪ねた。
このとき是清は、一人の男と出会う。
その名は原敬。
・(川田の是清の評価)現状を正しく把握し、その問題点を冷静な視点で分析する。そのうえで、自由かつ柔軟な発想と、周到な策を以って、果敢に、しかも現実的に解決していく。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昭和初期太平洋戦争に向かう時代に大蔵大臣として自分の身体を犠牲にしてまで日本の財政を健全化しようとした「高橋是清」の物語です。226事件で殺害された高橋是清については以前から興味がありましたが、この小説を書いたのが、あの「幸田真音」だったこともあり興味を惹きました。文庫本で読みましたが、ここには2013年(10年以上前)に単行本で発行されたとあります。
この小説の中に出てくる為替相場(ドル円)については、彼女の綿密な調査に基づくものだと思います。円とドルがどのような関係にあったか、それらが経時的にどのように変化していったかを知る上でも貴重な情報源となりました。
以下は気になったポイントです。
・足軽の子では正規の藩校で学ぶことができない、だが藩の菩提寺である寿昌寺に小姓として入れば読み書きが学べる、やがて成人すれば御家人与力の株を買ってもらい、侍になる道が開けるかもしれなかった(p11)
・新政府は幕府時代の高等教育機関をそれぞれ復興させた、年が明けた明治2年、お茶の水にあった昌平黌を本校とし、開成所と医学校を分け、総称して大学と呼ぶことにした(p100)明治10年4月には、開成学校と遺学校が統合され、東京大学が発足している(p229)
・明治2年には政治権力のトップとも言える新しい太政官制度を導入し、政治の中心を京都から東京に移した。このことをもって事実上の遷都と言えるかもしれない(p109)
・明治4年5月10日には新貨条例により、旧1両=新1円とされた、金貨を本位貨幣、銀貨と銅貨を補助貨とし、「銭」「厘」を補助単位とした(p165)
・開国当時、国内では金1に対して銀5の交換比率、西洋諸外国では、15であった。つまり日本の銀の比価が3倍程度も割高であった、このままだったので3分の1の安値で金の売却を強いられることになった。流出総額は、1957万両と言われ、明治元年の全貨幣流通残高の4倍に及んだ(p166)
・金銀の内外比価が是正されたのち、万延元年(1860)に金貨の改鋳に踏み切った、幕府はこの改鋳によりその年の歳入の7割近くの改鋳益を得て、財政赤字を埋めるのだが、その結果、年率10%を超えるインフレが発生して社会不安を増幅させた(p168)
・陰暦の明治5年11月9日、太政官布告により改暦の詔書が発令されている、明治5年12月3日を持って、明治6年1月1日とし、時刻もそれまでの12辰刻から1日24時間にした(p215)
・中国の飢饉で米価が急騰し、国内でも米が不作となり米価は上昇、激しいインフレとなった。明治9年には1俵1円17銭だった米価が、12年には2円64銭、13年には4円8銭となった、明治6年当時(地租改正)の3倍を超えることになった(p240)
・明治9年に実施された秩禄処分について、それまで全国に40万人いた武士を解雇して、武家社会を解体し「平時は5万人、戦時には20万人とする陸軍体制」への移行を狙った、政府によるリストラ策であり、歳出削減のための大軍縮政策であったという見方もある(p272)
2023年10月24日読了
2024年1月14日作成 -
【概略】
内閣総理大臣や大蔵大臣などの大臣経験があり、日銀総裁経験もある高橋是清の40歳手前までの半生が描かれた歴史小説。読み書きではなく話す聴くの英語力と、奴隷経験や山師(という誹謗)としての経験と、様々な局面を発想と胆力で乗り切ってきた様子を本書では垣間見ることができる。
2023年06月05日 読了
【書評】
来月(7月)の14日までにどうしても完成させないといけないオリジナル噺(英語落語)のオファーがあり、その縛りとして「国際ビジネス」というキーワードが。そこで素材として選んだのがこの高橋是清という人物で。まずは一冊目に手に取ってみたのがこの本。
いやぁ~面白い!もちろん小説として書かれている(しかも主人公)から、エンターテイメント色は強くなっている(と思われる)とはいえ、唸ったよ。この人の胆力というか発想力というか突破力というか。そして人生の山あり谷ありで、谷の部分でもしっかりと周囲の人達に覚えてもらえる人間力。12歳で(間違って署名しちゃったとはいえ)奴隷からはじまる様々な経験。失敗も含めて、凄い。失敗してもめげない。若いのに、いや、若いからこそ立ち直ることができる強さが凄まじい。
「いやぁ、明治維新という激動の時代だからこそのストーリーなんじゃないの?」なんて線の引き方をするのは本当にもったいないと思う。それって最大の他人・他物のせいにする言い訳。本質を抽出して現代に置き換える感覚を持てば、学びは本当にある。末松謙澄とタッグを組んで英字新聞の記事を翻訳して日本の新聞社に売り込んだアイデアなんて、今でも応用できると思った。大事なのは挑戦と(めげずにやるという)継続だなってね。
さぁ、問題のオリジナル噺にどう落とし込むか?これについてはまだまだ降りてこない。そりゃそうだ、密度の濃い人生からどこを抽出して、且つ国際ビジネスの風味を併せたものを作るなんて、そんな簡単なもんじゃないよ。でも、まずはこの偉大な人物の人生をしばらくは楽しもうと思うよ。 -
高橋是清・これほど面白く、情熱をたぎらせ、信念を曲げず、人を大事にして運を味方につけた人がいたとは
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まさに全力!
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2020.11.20
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青山にある公園をきっかけに高橋是清という名前を知り、どういった人なのかはよく知らなかったが、これを読んでとても学ぶことが多く面白かった。是清の波乱に満ちた生涯を描いてるが、個人的には特許に関する事業を始めだしたくらいからすごく興味が出てきた。銀行員や金融の知識がある人だったらもっと理解ができたろうな。日露戦争の膨大な戦費を賄うために欧米に国債を売りに行くのとかすごい。影の立役者とはこのこと。しかしユダヤ人はほんと金持ちだな。。笑 日本の財政破綻を幾度となく救った是清を日本人なら知っといた方がいいなと思った。
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高橋是清に興味があり、また数年読んでいなかった幸田真音の著作ということもあり購入した。しかし優先順位が高くなくなかなか読めなかったが、年末年始の休みを利用して上巻だけ読んだ。
出生から日銀の総裁に取り入ったところまでが書かれている。自分の信条に曲がったものが嫌いで、何回も辞職している。その都度権力者達に助けられていく。森有礼は1番の恩人であったことや、特許庁の設立に重要な役割を果たしたなど、知られていない点が沢山あり興味深く読んだ。 -
【作品紹介】
横浜で英語を学び12歳で渡米。契約社会のなか、奴隷として売られる逆境も乗り切った。帰国後は教師、官僚、相場師、銀行員と、官・民でさまざまな職に就く。武器は堪能な英語力と、型破りな発想力、そして持ち前の楽天主義。失敗を繰り返しつつも、現場からの視点を失わない姿勢は、一流の財政センスへ結実してゆく―。日本経済を救った男・高橋是清の生涯を克明に描いた第一級の歴史小説。第33回新田次郎文学賞受賞作。 -
高橋是清が、米国時代に奴隷にされたという話は聞いたことが有ったんですが、こういう事だったんですね。短期間で奴隷から抜け出られて良かったです。
後半は、官僚として頭角を現していく様を描いています。小説なので、事実そのままではないと思いますが、それでも、優秀だったんですね。