東京クルージング (1)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041032657

作品紹介・あらすじ

あのニューヨークの秋を私は忘れない。ドキュメンタリー番組で出会った三阪剛という青年に、作家の私は強く惹きつけられた。彼の依頼してきた仕事は、松井秀喜のアメリカでの活躍を私の視点で追う番組だった。二人で作り上げた番組は成功し、全ては順調だった。だが、三阪君には病魔が迫っており、さらに決して忘れることのできない女性がいたのだった。彼が一生を誓い合ったその女性は、突然、彼の許を去ったというのだ。何も言わずに、何も残さずに……。彼の死後、手紙を受け取った私は、三阪君の過去を辿り、彼女の行方を探しはじめる──。

感想・レビュー・書評

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  • 1章は面白かったけど、2章からの描写にちょっとついて行けないところがあり、飛ばし読みして、ラストを読んだ。
    1章は実際あったことを書かれているようですが、松井秀喜っていい人なんだと知りました。
    2章はヤスコの半生があまりにも過酷すぎ。ただ、最後、彼女がクルーズ船でチェロを弾いた時に三阪さんの幻を見たシーンは感動した。ただ、感動したけれど、二人には幸せになってもらいたかった。

  • 伊集院静、初読。

    前半は半分ノンフィクションか。”極楽トンボ”伊知地先生、優秀でどこか少年の心を持つテレビマン三阪剛、そして松井秀喜。伊知地先生が何気無く漏らした洋画『めぐり会い』の粗筋に、何かが引っ掛かる三阪剛。その後彼は先生に、自らの恋の思い出、15年前に愛し合い、婚約までしていたのに忽然と消えた女性について、胸の内を告白する。そして間も無く、病により唐突の死を迎える。

    「死はその人に二度と会えなくなるものであり、それ以上でも以下でもない」。

    この言葉は当たり前のようでいて、とても重い。
    コロナウイルスや祖父母の健康状態等、身近な人の死を意識する機会が格段に増えた今、この一文に、胸の奥がこれまでにないほど痛んだ。

    つい先日まで元気だった人に、もう二度と会えない。
    この間話したばかりの人と、もう二度と話す事はない。
    その機会を永遠に失わせるもの、それが「死」。
    それ以上でもそれ以下でもない。

    物語の後半は、三阪の愛した女性、ヤスコ目線で話が進む。
    15年前、ヤスコと三阪は順調に愛を育むも、元夫でヤクザのナオキに追い詰められ、拉致されてしまう。彼に監禁され、他の男にも汚されたヤスコが三阪に会う事は、それきり二度となかった。

    何かあるとすぐ「ヤッター」「ヤホー」とはしゃぐ若き日の三阪が、正直読んでいて物凄く不快だった。が、繰り返されるその気持ち悪い仕草が、無邪気さが、この物語の大きな鍵となるので、どうか堪えて読み進めて欲しい。

    個人的には、方法こそ歪んでいたが最後までヤスコのために生きたナオキが好きだ。普通に犯罪だが、一人の女をどこまでも追いかけ、閉じ込め、助け出すと言う、人間味溢れる狂い方をしている。いかにも”悪役”として書かれていたが、きっともうヤスコも彼を恨んではいないだろう。それまで父を「ナオキ」「あいつ」と呼んでいたヤスコの娘が、「お父さん」と海に向かって叫ぶ場面が、たまらなく印象的だ。

    ただナオキの狂気は全くこの物語のメインではない。これから読む人はあくまで三阪の純情さと永遠の別離である死、そして母として女としてのヤスコを見守りながら読むべき。

    最後一応ヤスコと伊知地先生は「めぐり合う」のだが、特に会話を交わすなどはしない。その時点で物語の山場はとっくに超えているので、確かに余計な絡みでストーリーを引っ張る必要は全くないと思う。

    回想が時系列順でない、同じ話が何遍も繰り返されてくどい、心情表現とその形式が不適切、と文体は読みにくさの極みであるし、後半はずっと三阪にイライラするが、結末はかなり感動。娘に野球の才能があると言うのも伏線だったのだろう。
    何も考えずに恋愛小説が読みたい時には最適。

  • 【動機】
    伊集院静さんで未読だったため。

    【内容】
    〈第一部〉
    おそらく筆者の見聞き、体験したことを基に書かれている。
    小説家である伊地知先生はテレビ局のディレクター三阪と松井秀喜のドキュメンタリー番組制作で深く関わる。
    そこで三阪の過去の恋、いきなり消えてしまった恋人の話を聞く。

    〈第二部〉
    三阪の元恋人、ヤスコの半生。
    彼女がどうしているのか、どのような人生を送ってきたのか、そしてなぜいなくなったのかを描く。

    【所見・まとめ】
    悲恋である。
    が、不思議な読後感。

    『哀しみには終わりがくる』と小説内で述べられていたが、まさにそれか。
    ヤスコを忘れられず待ち続けた三阪。
    壮絶な半生を送ってきたヤスコ。
    なぜ添い遂げられなかったのか、それも「天使の悪戯」なのかもしれない。なんて残酷なことか。

    決してハッピーエンドではない、いやハッピーエンドなのかもしれない。
    終盤、ヤスコがクルーズ船でチェロを弾く。彼女はそこで三阪の幻影を見る。それもきっと「天使の悪戯」。
    ヤスコと娘ミカエと、そして三阪。それは安らかに家族だった。

    なんだか良くわからない気持ちだけど、無性に東京湾を観に、そして星空を見上げに行きたくなった。
    願わくば、一万二千年後もちゃんと彼女たちがお互いを見つけられますように。

  • 新聞に掲載された小説だからか、すごく読みやすく一気に読んでしまった。やすこさんの運命が凄すぎて圧巻

  • 松井秀樹選手の特番作成を機に若きディレクターと出会った作家。その青年は失踪した恋人を十余年たっても忘れられずにいた。ドキュメンタリー風の前半と、失踪した恋人の「事情」が語られる犯罪小説としての後半。この構成が物語をぎくしゃくさせている一方で深みを出しているとも言える。アウトロー小説を書かせるとやはり巧いなあ。

  • 小説全体としては若いふたりの悲恋ともいうべき内容だが、第一部は著者自身の体験であるような錯覚を感じさせる私小説的な内容である。
    一部と二部では文章運び等全く違う小説を読んでいるようだ。私は第一部に強く心動かされるものがあった。たびたび著者の作品(エッセイ等)で表現された著者自身の体験に基づいて書かれていることは間違いなく、「死」「奇跡」を強く意識している。淡々とした日常の出来事と一方、人間の生と死を意識させる内容や躍動的で果敢に挑戦をするスポーツマンなどが静謐な文章で表現されている。
    第二部では現実的で暴力的、第一部とは全く違う世界を生きる人びとを登場させ、第一部との対比を明確にしてる。だが底辺にあるのは純粋な愛の物語だ。辛い内容だが最後には希望を感じさせる。
    不思議な余韻を残す小説である。

  • 第一部
    作家の私は、松井秀喜のドキュメント番組を通じて知り合った青年ディレクターの人間性とまっすぐな情熱に好印象を抱いていた..。その彼は、結婚を約束し心から愛する女性が居たにも関わらず、彼女はある日突然姿を消す、という悲しい過去を背負っていた。結局、彼女との再会を果たすことなく彼は癌でこの世を去る。
    第二部では
    過去に遡り、二人が出会う経緯から現在に至るまで、突然姿を消すことしか選択の余地がなかった彼女の壮絶な半生を描く。

    第一部で「私」として登場する作家は、筆者の伊集院さんのように思いますが、ディレクターの三阪剛さんも実在の人物なのか?これが実話だとすると何とも切ない気持ちになります。

  • 伊地知くん、人の悲しみにはいつか終わりがくるのです。
    本当ですか?
    私は小さくうなずき、
    わかりました。やれるだけやってみます。
    と泣きながら応えた。

    抜粋です。

    小説とは、読み手が何か一つでも、心に残るメッセージを受け取れたら、それが全てではないかと思う。言葉の力は大きい。たった1行の文章が、人生をかえることもある。受け取る勇気。励まし。迷いが消え、昔の恋を思い出し、挫けそうな気持ちを立て直す。誰かのために泣く。希望を思い出す。そして、笑う。
    伊集院静氏は、私たちに直接言葉をくれる。氏の生き様から生まれた言葉。
    この小説は、著者のノンフィクションと、その中に登場するある青年の物語という二本立て。
    メッセージは、確かにある。おすすめ。

  • これは私小説なのだろうか…。
    作家で奥さんと仙台に住んでいて、弟を海難事故で、若き元妻を病気で亡くし…とくればまさに著者そのものの人生ではないか。
    ならこの小説のNHZの三阪さんもモデルがいるのだろうか。あんな純粋で松井秀喜が大好きで初恋の女性をいつまでも忘れられない青年を癌で死なせないでほしかった。
    ヤスコさんと結ばれてほしかった。
    でも、一方的に好かれ拉致され強姦され風俗で働かされって
    ありえない。立派な犯罪じゃない。
    その娘(ミカエ)が犯罪者の娘じゃなかったというのがせめてもの救い。(三阪の子だった、野球の素質があるってのが伏線だったんだね)

    著者が松井秀喜を敬愛しているのがよく伝わった。

    ”差しのべた手の中にしか葡萄の果実は落ちてこない”
    パブロ・カザルスの”鳥の歌”聴いてみたくなった。

  • 2003年にNHKで放送された松井秀喜の密着取材。インタビュアーは伊集院静。
    この本はその番組を作ったNHKのディレクターとの出会いと別れ、そして彼の残したある思いの物語。「一期一会」誰かとの出会いというのはあるべくしてそこにあるものなのだな、としみじみ。

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著者プロフィール

1950年山口県生まれ。’81年短編小説「皐月」でデビュー。’91年『乳房』で吉川英治文学新人賞、’92年『受け月』で直木賞、’94年『機関車先生』で柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で吉川英治文学賞、’14年『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』で司馬遼太郎賞をそれぞれ受賞する。’16年紫綬褒章を受章。著書に『三年坂』『白秋』『海峡』『春雷』『岬へ』『駅までの道をおしえて』『ぼくのボールが君に届けば』『いねむり先生』、『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』、エッセイ集『大人のカタチを語ろう』「大人の流儀」シリーズなどがある。

「2023年 『ミチクサ先生(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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