羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)

  • 角川書店 (2007年6月23日発売)
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  • 本 ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041033159

作品紹介・あらすじ

荒廃した平安京の羅生門で、死人の髪の毛を抜く老婆の姿に、下人は自分の生き延びる道を見つける。表題作「羅生門」をはじめ、初期の作品を中心に計18編。芥川文学の原点を示す、繊細で濃密な短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 名前だけ知ってても一度も手にしたことがない、
    歴史的文豪、芥川龍之介の世界に触れてみよう。このたびやっと決心致しました。

    短編集で各々、読みやすいものから難解なものまで
    用意されていて、出し手の波長の変化を受け取りつつ、
    そして、どれも内容は違うようで横文字混じりの『芥川節』が随所に込められていて、
    それが全体を束ねる、いわゆる芥川色の紐として機能してると思いました。


    表題にもなっている有名な『羅生門』ですが、一見して、
    正直なところ自分には、これの何がそんなにいいのかがわかりかねましたが、
    落ち着いていま考えるとこれは、老婆の言葉尻を捕らえて、
    食うに困るなら相手の道理にならって追い剥ぎやればいーやんとなる、
    この短絡的な思考能力の非を問われて、下人が勤め先を失って羅生門に辿り着く前の
    過去が見えないといけないわけで、冒頭で述べられた、下人の失職は必ずしも
    世の中が悪いせい、これだけの問題ではとてもあり得ないという点は
    間違いないかと思います。

    物事には必ずとはいわずとも因果関係は少なからずあり、
    舞台の羅生門のような、生死を問わず人間の掃き溜めのような場所に
    当たり前の人が寄り付くはずもなく、よしんばそこで少しの銭を手にしたとしても、
    先に繋がるはずが無い←ってメッセージがこめられてるのかな、と、
    勝手に解釈したところです。

    それを踏まえて考えてみると、いまの自分の居る場所って、
    羅生門なのか?それとも羅生門ではないのか?
    羅生門が近づいてきているのか?遠ざかっているのか?
    考えだすと眠れなくなさそうです。難しいです。


    自分の好みとしては、芋粥、手巾、大川の水の3作で、
    芋粥の、バカバカしい事に豪快に取り組まれ、密かな願望が
    叶ってしまうことに対して蛙化する五位の揺れる精神状態に、
    普遍的な人間心理は今も昔も大した変化はないなと感じた点、
    手巾では夏目先生よろしくの、西洋ドラマツルギー(作劇法)への
    皮肉を感じてちょっとニヤニヤしてみたり、
    大川の水は、徹底して自然に対する観察眼により出来ていて、
    人間関係や何かのこじれに疲れたそこまでの脳を、いい感じに
    リセットする効果があるように思いました。

    葬儀記は、自らの師である夏目漱石を弔った、
    当時の芥川龍之介の気持ちがにじみ出ていて、
    師と彼の絆の深さを表現するものである事は当然として、
    それがずっと後世において見ても歴史の大事な1ページであることを
    全身で受け取ったもののことばとして重く印象に残ります。


    1冊読んだだけですから、自分には芥川龍之介のことは
    ハッキリしたシルエットとしてはまだ見えてきませんが、
    彼は歴史的文豪でありつつ、偉大なる歴史的文豪の『影』にも
    苛まれていたのではないか?と、このたび勝手に思った所で、ひとまず中断です。
    また他の作品を読んで自分なりの答えを出そうと思います。

  • 芥川が二十歳そこそこで書いた作品に触れ、只々、感嘆してしまう。
    若い青年の書いた文章のわりに、大人びてというより老けすぎていて、なんだか生き急いでいるようで、ちょっぴり哀しくなってしまった。

    本書は表題3作品の他プラス15作品収めてあり、その中でも私が印象に残った作品は『葬儀記』。
    これは夏目漱石の葬式の記なのです。
    大正5年12月に胃潰瘍のため死去した漱石先生の死顔に、たくさんの文学青年たちが最後の別れを惜しんでいる様子が伝わってくる。
    その文学青年たちの中でも若いほうであった芥川が、忙しない葬儀中にあたふたとしている姿に、やはり年相応の幼さがあり、あんなに大人びた作品を書いている反面、『葬儀記』では、素顔が見え隠れしている。

    18作品の最後の最後に『葬儀記』をもってきた編集の仕方にグッドジョブ!!と言ってしまった。

    • だいさん
      時々読むと、現代作品と違い、感激することありますね。
      時々読むと、現代作品と違い、感激することありますね。
      2016/06/25
    • あいす桃さん
      遠い昔に読んだかな??と思われる本を、大人になって読み返してみるのはいいものですね。
      内容こんなふうだっけ?と随分と忘れていました。
      遠い昔に読んだかな??と思われる本を、大人になって読み返してみるのはいいものですね。
      内容こんなふうだっけ?と随分と忘れていました。
      2016/10/07
  • 昭和48年5月30日 改版14版 
    (日焼け変色の為、今回で廃棄)

    文学講座 「シューマンと芥川龍之介」視聴、再読

    シューマンと芥川が歴史的背景、精神性、作品の芸術性など類似性が高くドッペルゲンガーなのだというようなことを楽しそうに講義されてました。

    作家活動初期の頃の短編集。少し堅いというか道徳的な内容が多いかなぁ。漱石が芥川を激推ししていたのは有名らしいけど、手紙の中で、無暗にカタカナ使わない方が良いとアドバイスしていた。そう言われると、英単語をそのままカタカナで使っている言葉は、読者を選択する感じがしてしまう。
    巻末に当時の先輩作家さん達からの書評が掲載されていた。厳しめの評価の方もいて、若手だったし、小説としては面白くは無かったかな。

    「水の三日」は中学校学友会雑誌掲載の芥川の作文?水害被災者が学校に避難している時のボランティアについて、誠実に書かれていて印象に残った。

  • 羅生門の下人も、鼻の内供も、内供を笑う者たちも、煙管の斉広も、芋粥の五位も、ただの物語の登場人物ではなく、私達人間そのものである。
    人間の孤独さ、侘びしさ、なんのために生きているのか…というものを鋭くシニカルに描いていて面白かった。

  • 芋粥がとても良い。マリッジブルーの話と解釈した。人間は目標の達成という事実よりも目標を達成する努力や憧れなどプロセスを好む。夢が叶いそうになる時の一瞬の戸惑いはよくわかる。鼻は素晴らしい。コンプレックスという人間には切っても切り離せない問題をうまくついている。アイデンティティというものは、欠点も含めて存在している。その人にとってどんなに嫌な体の一部や考え方の癖などは、実はなくなってしまうと意外に寂しいものであったりするのである。
    ひょっとこ。これは、仮面をつけている間に、元の自分に戻れなくなってしまった人間の話である。最近、ジキルとハイドを読んだせいか、なんだか近いものを感じた。人間の内面を感情と理性の葛藤とみなした場合、一度感情や快楽に溺れてしまうと、もはや元の自分には戻れなくなる。
    煙管。どこかで読んだことがあった。ものというものはそれ自体の価値だけではなく、社会的に付与された価値というものがある。皆が持っていないこと、そしてそれを惜しげもなくあげてしまうことが富の顕示につながるのだ。ここに、マルクスの物化・物象化の概念を見出すのは拡大解釈だろうか。物の価値は、あたかも自然にあるもののような外装をしているが、実際には社会的関係の中で価値を持っている。富の顕示という意味では、モースの贈与論など、贈与というものがもたらす人類学的な働きについても考えることが可能である。

    このような作品群を見る中で私が感じたことは。生きることや自分という存在への肯定である。つらいことや苦しいことも含めて人生であり、醜いところも含めて自分なのである。人は夢や理想を語るが、叶いそうになる瞬間に躊躇する心は、まさしく理想や夢を具現化できていない自分への愛、何か憎めない、不能への愛であると思う。そのような意味で、芥川龍之介はやはり人間の真理を鋭く突いている。

  • 本屋にて、かまわぬ限定カバーということで購入した。
    芥川作品で羅生門・鼻は読んだ記憶があるが、その他は呼んだ記憶がないのでいろいろな作品を読めてよかった。
    すらすらと読んでしまい、何も印象に残らなかったので、逆に印象に残らずに読み終えるのも気持ちがいいと思われる。

  • 鼻や芋粥は芥川初心者な私でも共感しやすくて読みやすかった。
    他にはエッセイのような話もあったりしたけど、後味がなんとなく悪いような話が多かったように思った。
    注釈多過ぎてびっくり。しかも注釈読んでも意味がよくわからなかったり、逆に「注釈別にいらないんじゃないか?」と思ってしまう事もあったりした。

  • 角川文庫版の表紙はとても奇麗だと思いました。
    芥川龍之介は好きで、ほとんど読みましたが、羅生門だけは、好きになれませんでした。

    京都があまり好きでなかったからかもしれません。
    天災や飢饉という時代背景が後ろ向きだと感じたからかもしれません。
    荒れはてた羅生門という場所設定が暗いと思ったからかもしれません。
    死人の髪の毛をひきぬいている老婆という話が苦しいのかもしれません。

    男が生きのびる道を見つけるところはよかったと思いました。
    それでも、全体として暗い印象だけが残っています。

  • 生きていく中で目を覆いたくなるような嫌な部分を文章にして見つめることができる芥川さんは偉大。

  • 『鼻』が好き

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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