- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041033791
作品紹介・あらすじ
《主な登場人物》
ナツキ・ナシーム・トオミネ
15年前の内戦で両親を失い、後宮で育てられた日系孤児。植物工場の技術者だった父にならい、技術コースを専攻している。いつかアラルスタンに雨を降らせ、アラル海を復活させるのが夢。また密かに遊牧民への憧れも抱いている。頭脳明晰だが空気を読む能力は低め。だが真っ直ぐな性格で、皆から呆れられつつ愛されている。臨時政府ではなし崩し的に国防相を担当することに。亡き父の口癖「俺が現場にいなくてどうする」を実践し、口癖は「やることはやった。あとは野となれ」。
アイシャ・ファイシャル
人望篤い後宮のエリートにして若い衆のリーダー。“睡蓮(ニルフィヤ)の笑み”と呼ばれる微笑みが印象的なクールビューティ。政治コースを修了し外務省入りが決まっていたが、大統領暗殺を受け、アラルスタン臨時政府を立ち上げ、大統領代行に就任する。チェチェン難民の子女であり、この国を第二のチェチェンにすまいと奮闘。しっかり者だが、時にボケる一面も。
ジャミラ・クンディ・サドザイ
ケニア出身。ナツキを妹のように思っており、最初に仲よくなった人物。明るく勝ち気で面倒見が良いが、ノリに弱い面がある。いずれかは中央アジアの伝統文化を守る側になりたいと願っており、臨時政府では文化相を担当。銀のアクセサリーで鎧のように固めたファッションをしている。
ウズマ・ハリーファ
建国時よりアラルスタンの女社会に君臨する、枢密院の議長にして後宮のボス。アイシャたちを雛鳥扱いし、折に触れ妨害する老女。後宮内の保守派を取り仕切り、無学だが誰よりも政治の肝を心得ている。
イーゴリ・フェルツマン
後宮に出入りする神出鬼没の吟遊詩人。西欧の道化を思わせる服装で、どこからか二胡片手に現れる。
武器商人という一面も持っており、その真の顔は計り知れない。
ナジャフ・アリ・ラシード
イスラム原理主義系組織「アラルスタン・イスラム運動(AIM)」の幹部。大統領暗殺に乗じ、政権奪取をもくろみナツキと相見える。過激派組織に属してはいるが、その考えは本当は穏健な保守派。優男風の容姿で、後宮に隠れファンも?
感想・レビュー・書評
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2020/12/30読了
#このミス作品58冊目
中央アジアを舞台に
若い女性たちが国政に奔走する
SFガールズ活劇。
巧みな舞台設定で物語もリアル。
異国文化や歴史背景などを
肌で感じるような錯覚さえ受ける。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』に続く直木賞ノミネートですが、いやはやびっくりしました。
宮内さんってシリアスなSFを描く人、というイメージだったのですが、ここまでポップで明るいガールズ冒険小説で勝負してくるとは。
人を食ったようなタイトルしかり、正直過去作と同一の人物が書いたものとは思えません。文体も違いますし。
まさに新境地、という言葉がぴったりの作品だと思います。
本作は評価に迷いました。
はっきりいって設定自体は荒唐無稽で、ストーリーもご都合主義満載です。
架空の国家アラルスタンの成り立ちの部分は細かいところまで作り込まれていますが、いくら小国とはいえ、大統領が暗殺される事態になったら国連やアメリカが黙っちゃいないでしょう。そこに触れないのはおかしい。
国内情勢が不安定な中、政治そっちのけでお芝居に夢中になるあたりも不自然。というか常識的に考えてあり得ない。
と、途中までは意地悪く突っ込みながら読んでいたのですが、そういう細かいところに目くじら立てて読む話ではないという気にもなってきました。
宮内さんがやりたかったのは、現実世界との整合性なんかは二の次で、日本人にはなじみのない社会を舞台に、とにかく軽快で楽しい成長小説を描くことだったのではないでしょうか。
そういう意味では十二分に合格点を与えられる出来だと思います。
さまざまな困難を乗り越えて明日への一歩を踏み出すというのは、まさにエンタメ小説の王道の展開ですから。
登場人物がみなキャラ立ちしているところも好感が持てます。私が好きなのは吟遊詩人のイーゴリです。
それでもあえて言うと、政権委譲に至った場面だけは、個人的にはもうちょっと描き込んで欲しかったですね。
そうすれば「国家をやってみる」ことへの重みがぐっと強まり、後の展開に一段の深みが出たと思います。 -
ああ面白かった。非常に後味の良い極上のエンターテインメントでした。女性の立場が複雑なイスラム圏の国で立身する女性たちの物語です。シビアな現実がコミカルな表現力で柔らかく描かれています。酒見賢一「後宮小説」、高野秀行のソマリアレポート2編、須賀しのぶ「また、桜の国で」などを連想しながら読みました。雑然と読み漁った読書から得た文化や歴史の知識がイマジネーションを助けてくれました。この多幸感があるから読書はやめられません。内容に触れるとネタバレ祭りになりそうなので、あえての自粛ですw
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2017年上半期直木賞候補作品。
中央アジアの小国アラルスタン。大統領が射殺され、国内の政情が不安定に。そこで後宮の若き女性たちが、アイシャを中心に立ち上がり臨時政府を立ち上げる。対テロリスト、対周辺国対策だけでなく、国内にも問題が山積する中、彼女達は国を、そして自らを守れるか・・・
状況としてはかなりシリアスな設定だが、ユーモラスな箇所も多く楽しめる。中央アジアの歴史や情勢を知っていれば、更に面白く読めたかも。
各編の最後に組み込まれている「ママチャリで・・」の日本人旅日記も面白かった。 -
久々にこういうジャンルの話を読んだ。この方の作品は初めてだが面白い。幅広い年齢層から愛される作品なんじゃないかな。ハッピーすぎるほどみんな生きててハッピーエンドだった
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壮大なエンターテイメント作品だと思います。
他の人のレビューにもありますが、なじみの薄い中央アジアが舞台で、政情や気象風土、土地の人々の構成など、いろいろ考えさせられる部分もあります。その意味ではシリアスですが、それを上回るポップでハチャメチャなガールズで作品を盛り上げていると思います。
章の終わりの「ママチャリで世界一周」のコラム風のエピソードが物語とリンクして楽しみが増しています。
物語ですから、何でももありですが、反則それすれのどんでん返しの連続で、まんまとはめられてしまいました。
「盤上の夜」しか読んでいませんでしたが、正反対な印象の作品です。それだけ広い懐の作家さんということなのでしょう。他の作品も読まなきゃ。 -
面白かったけど、ちょっとわかりにくい部分が多数。
後宮の女性の特徴なのか、みんな同じ話し方だし、誰が話してるのか誰の視点なのかがわかりにくい。
でも、SFの要素あり恋愛要素ありエンタメ要素ありであきさせない。
終わり方もよかった。 -
アラルスタン?あれ?中央アジアってよくわからない…そのよくわからないところに緻密な世界観を構築してるリアルなファンタジー。冒険小説であり少女小説であり成長小説でありSF小説であり恋愛小説でした。こんなジャンルのお話読んだことない。時々出てくる料理の香辛料効いた感じとかお茶の清涼感とか乾いた海の乾燥のイメージとか五感を刺激されながら夢中に一気読み!
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<野にも海にも,吹き抜ける少女たちの風>
本の厚み対して,とても読みやすかった.
読みやすい中にも,政治や宗教,紛争や世界のとらえ方を各キャラクタが述べる個所では考えさせられることもあった.
自分がトルコに行ったことあるからか,物語の舞台の民族衣装や料理,し好品もなんだかイメージしやすかった.
随所に入る詩歌は,トールキンっぽいなと思ったら参考文献にはいってて,ファンタジー要素を感じたのもそこらへんが関係しているのかも.
アニメとかでも見たい.