あとは野となれ大和撫子

著者 :
  • KADOKAWA
3.40
  • (33)
  • (79)
  • (92)
  • (27)
  • (11)
本棚登録 : 757
レビュー : 142
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041033791

作品紹介・あらすじ

かつて中央アジアに存在した海。塩の沙漠となったそこは今、アラルスタンという国だ。だが大統領が暗殺され残ったのはうら若き後宮の女子のみ。生きる場所を守るため、ナツキたちは自分たちで臨時政府を立ち上げ!?

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 旅をしているような気分になるし、とても旅したくなる本でした。スパイスの香りのする異国…いいなぁ。。。

    舞台は中央アジアの沙漠の国・アラルスタン。後宮の少女たちが主役。かなり異国情緒あふれるラノベ?エンタメ系で今までになく読みやすく、まさにノリノリ状態である。(そのぶんSF要素が少なく物足りない)。今までこんなことなかった…登場する飲み物や食べ物がおいしそうで、お茶やスパイスなど香ってくるようなこういう情景を描くのも珍しいな…と感動。とあるお菓子の行方が気になる。これは続きありでしょ、これは。宝塚っぽいところもあり夢落ちならぬ劇落ちじゃなくてよかった…とホッとした。

    面白いんだけど想像が追いつかない展開や場面が多々あって、奇想天外すぎて呆気にとられてしまったところもある。ロシア(元ソ連)と周辺諸国の力関係や水や油田などの利権…たくさんの要素が絡み合い、ジャミラの故郷の場面ではつい涙がこぼれてしまった。わからないことがあったので検索しながら読んだけどショックなことが多かった。あまりに現実に近い要素もあったので物語なのか実際にあった事件(または存在していた人物)なのか、少し混乱しながら読了。

    『カブールの園』では日系人強制収容所に触れ、この『あとは野となれ大和撫子』では主にロシア(ソ連)とその周辺国について取り上げている。私は今まで何も知らないで生きてきたんだな…と、そう思ってしまった。

    ナツキがよく口にしていた「やることはやった、あとは野となれ」ってセリフが、とても遊牧民っぽく強さやしなやかさを感じた。若さっていいな。沙漠も国も政治も恋も文明も地球の再生力もみな未知だ。表紙もタイトルも内容も色彩豊かでいいなと思った。個人的にはSF作品の方が好みなので評価は星3で。続きがありそうな終わり方なのでぜひぜひお願いします。(直木賞候補作品)

  • 『盤上の夜』『ヨハネスブルグの天使たち』に続く直木賞ノミネートですが、いやはやびっくりしました。
    宮内さんってシリアスなSFを描く人、というイメージだったのですが、ここまでポップで明るいガールズ冒険小説で勝負してくるとは。
    人を食ったようなタイトルしかり、正直過去作と同一の人物が書いたものとは思えません。文体も違いますし。
    まさに新境地、という言葉がぴったりの作品だと思います。

    本作は評価に迷いました。
    はっきりいって設定自体は荒唐無稽で、ストーリーもご都合主義満載です。
    架空の国家アラルスタンの成り立ちの部分は細かいところまで作り込まれていますが、いくら小国とはいえ、大統領が暗殺される事態になったら国連やアメリカが黙っちゃいないでしょう。そこに触れないのはおかしい。
    国内情勢が不安定な中、政治そっちのけでお芝居に夢中になるあたりも不自然。というか常識的に考えてあり得ない。
    と、途中までは意地悪く突っ込みながら読んでいたのですが、そういう細かいところに目くじら立てて読む話ではないという気にもなってきました。
    宮内さんがやりたかったのは、現実世界との整合性なんかは二の次で、日本人にはなじみのない社会を舞台に、とにかく軽快で楽しい成長小説を描くことだったのではないでしょうか。
    そういう意味では十二分に合格点を与えられる出来だと思います。
    さまざまな困難を乗り越えて明日への一歩を踏み出すというのは、まさにエンタメ小説の王道の展開ですから。
    登場人物がみなキャラ立ちしているところも好感が持てます。私が好きなのは吟遊詩人のイーゴリです。

    それでもあえて言うと、政権委譲に至った場面だけは、個人的にはもうちょっと描き込んで欲しかったですね。
    そうすれば「国家をやってみる」ことへの重みがぐっと強まり、後の展開に一段の深みが出たと思います。

  • ああ面白かった。非常に後味の良い極上のエンターテインメントでした。女性の立場が複雑なイスラム圏の国で立身する女性たちの物語です。シビアな現実がコミカルな表現力で柔らかく描かれています。酒見賢一「後宮小説」、高野秀行のソマリアレポート2編、須賀しのぶ「また、桜の国で」などを連想しながら読みました。雑然と読み漁った読書から得た文化や歴史の知識がイマジネーションを助けてくれました。この多幸感があるから読書はやめられません。内容に触れるとネタバレ祭りになりそうなので、あえての自粛ですw

  • 中央アジアの小国・アラルスタンを舞台に、後宮のお嬢たちが自分たちで国家をやろうと立ち上がる、ぶっちぎりのエンタメ小説です。

    表紙デザインとあおり文句に一目惚れして読みましたが、期待を裏切らないどころか、好きすぎて何度も読み返したくなる面白さ❗️

    中央アジアの、アラル海がかつてあった地に誕生した架空の小国・アラルスタン。
    大統領が暗殺され、反政府組織が首都へと進軍する中、議員の男たちは皆逃げ出してしまう。
    「国家をやろう」と勇敢に立ち上がったのは、後宮のお嬢がた。実は、この国の後宮は生え抜きの人材を育てる教育機関で、お嬢がたは頭脳明晰なエリート予備軍。
    爆撃で両親を失い後宮入りした日系二世のナツキ。元チェチェン難民で後宮のリーダー的存在のアイシャ。一匹狼気質だが根は優しいジャミラ。彼女たちを中心としたメンバーが、臨時政府を起ち上げ、国家を運営していく。

    状況だけみればものすっごいシリアスなのに、コメディかと思うくらいユーモラスな部分がそこかしこに。

    魅力的な登場人物たちが紡ぎ出す、友情あり、陰謀あり、淡いラブロマンスありの、疾走感抜群なエンタメ小説です。

  • 2017年上半期直木賞候補作品。
    中央アジアの小国アラルスタン。大統領が射殺され、国内の政情が不安定に。そこで後宮の若き女性たちが、アイシャを中心に立ち上がり臨時政府を立ち上げる。対テロリスト、対周辺国対策だけでなく、国内にも問題が山積する中、彼女達は国を、そして自らを守れるか・・・
    状況としてはかなりシリアスな設定だが、ユーモラスな箇所も多く楽しめる。中央アジアの歴史や情勢を知っていれば、更に面白く読めたかも。
    各編の最後に組み込まれている「ママチャリで・・」の日本人旅日記も面白かった。

  • かつてソ連時代の灌漑によって水が干上がり、「20世紀最大の環境破壊」とも言われたアラル海。そこがもし、人の住める土地となって独立国を名乗っていたら……、という架空国家を舞台に語られる一つの物語。

    一見タイトルから出オチに見えますが、読み終えてみると、まさにこれ以外にぴったりのタイトルは無いと思います。乾いた沙漠に吹く、一陣の風を思わせるような爽快さ。それにちゃんと文字通りの意味もある巧みさ。

    中央アジアで「自由主義で多民族主義で世俗的な国家があるなんて」ということの荒唐無稽さを問うても仕方ありません。このお話自体が、一つの試みであり、シミュレーションです。世界各地で、国家が、民族が、信仰が上手くいかなくなって混沌に陥っているこの21世紀で、「じゃあどうしたら私達はより幸せにやっていけるのか」ということを考えるために。

    国家の運営をいきなり任されてしまうのが、なぜ他の誰でもなく女の子達なのか。その答えは、劇中のナツキの言葉に端的に集約されています。

    "過去、紛争をはじめた男たちを恨んだこともある。それによって、大切な家族だって喪った。けれど、いまは少し考えが違う。
    「戦争ははじめたのは男でも女でもない。大人たちだよ」"
    (129ページ)

    こうした前提を踏まえた上で読んでいくと、本当にリアルに創り出された国家のドキュメンタリーを読んでいるようでもあり、一方で首都防衛戦のシーンや、徐々に明らかになっていく各キャラクターの伏線回収的なバックグラウンドなど、エンタメとしても楽しめるところしかない作品だと思いました。
    そして、ただ面白いだけじゃなく、読者の私達にも今一度この世界のことを考える機会と視点を与えてくれます。

    20世紀までに人類は様々な過ちを犯し、今現在も、そしてこれからも、たくさん過ちは犯され続けます。ただ、現代の我々が唯一学んだことがあるとすれば、それは「この地球は分からない」ということ。

    "わからないのだ。
    自分たちは、この地球という惑星のことを。"
    (226ページ)

    この地球のことを分かっていないということを分かっていなかったがために、人類は大量の兵器を作り、環境を作り変え、各々の社会の利益を優先した。結果、地球は温暖化し、環境は破壊され、人々の衝突が起きた。
    物語の舞台にアラル海が選ばれたのも、その「分からなさ」を象徴しています。
    沙漠を緑化する夢を持つナツキがぶつかるのは、沙漠で暮らす遊牧民達の生活を奪ってしまうという問題。誰かが幸福を追求した時、巡り巡っては誰かの不幸を招きかねない。

    では、これからの私達はどうしたら良いのか。その「分からなさ」を前にして何もせずにひるんでしまっていいのか。これにも、ナツキ達は一つの方針を持っています。

    "「大切なのは、いまを生きている人々。そしてもっと大切なのは、千年後を生きる人々。そうだとは思わない?」"
    (232ページ)

    そして、個人の人間にとって必要となってくるのは、「やることはやった」という実感です。「やることはやった。あとは野となれ山となれ」と思えるか。
    その結果が吉と出るか凶と出るか、判断できるのは何世代も後かもしれません。でも、人の寿命が限られていて、いつか死ぬということを思う時、どうせならこうやって思えるような人生を送りたいと、少なくとも私は思います。

    だから、ナツキの姿はとても眩しく、カッコよく、美しく見えました。
    劇中の範囲で、ナツキとアイシャそれぞれが持つ夢の結果は語られません。沙漠を緑で満たしたら何が起きるか。国体と信仰と人権の三権分立を果たしたら何が起きるか。まだ、誰にも分かりません。それでも彼女達は、胸を張って突き進みます。「やることはやった」と自信を持って言えるように。

    まだ同著者の全作品を読んでるわけではありませんが、今年読んだ中では間違いなく最高だと思いました。

  • 壮大なエンターテイメント作品だと思います。
    他の人のレビューにもありますが、なじみの薄い中央アジアが舞台で、政情や気象風土、土地の人々の構成など、いろいろ考えさせられる部分もあります。その意味ではシリアスですが、それを上回るポップでハチャメチャなガールズで作品を盛り上げていると思います。
    章の終わりの「ママチャリで世界一周」のコラム風のエピソードが物語とリンクして楽しみが増しています。
    物語ですから、何でももありですが、反則それすれのどんでん返しの連続で、まんまとはめられてしまいました。
    「盤上の夜」しか読んでいませんでしたが、正反対な印象の作品です。それだけ広い懐の作家さんということなのでしょう。他の作品も読まなきゃ。

  • 面白かったけど、ちょっとわかりにくい部分が多数。
    後宮の女性の特徴なのか、みんな同じ話し方だし、誰が話してるのか誰の視点なのかがわかりにくい。
    でも、SFの要素あり恋愛要素ありエンタメ要素ありであきさせない。
    終わり方もよかった。

  • アラルスタン?あれ?中央アジアってよくわからない…そのよくわからないところに緻密な世界観を構築してるリアルなファンタジー。冒険小説であり少女小説であり成長小説でありSF小説であり恋愛小説でした。こんなジャンルのお話読んだことない。時々出てくる料理の香辛料効いた感じとかお茶の清涼感とか乾いた海の乾燥のイメージとか五感を刺激されながら夢中に一気読み!

  • <野にも海にも,吹き抜ける少女たちの風>
    本の厚み対して,とても読みやすかった.
    読みやすい中にも,政治や宗教,紛争や世界のとらえ方を各キャラクタが述べる個所では考えさせられることもあった.
    自分がトルコに行ったことあるからか,物語の舞台の民族衣装や料理,し好品もなんだかイメージしやすかった.
    随所に入る詩歌は,トールキンっぽいなと思ったら参考文献にはいってて,ファンタジー要素を感じたのもそこらへんが関係しているのかも.
    アニメとかでも見たい.

全142件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。2010年「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー。12年同名の作品集で第33回日本SF大賞、13年第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞をそれぞれ受賞。14年『ヨハネスブルグの天使たち
』で第34回日本SF大賞特別賞。17年『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞、18年『あとは野となれ大和撫子』で第49回星雲賞〈日本長編部門〉を受賞。近著に『超動く家にて』『偶然の聖地』『遠い他国でひょんと死ぬるや』など。


「2019年 『宮辻薬東宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

あとは野となれ大和撫子のその他の作品

宮内悠介の作品

あとは野となれ大和撫子を本棚に登録しているひと

ツイートする