失われた過去と未来の犯罪

  • KADOKAWA (2016年6月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784041034699

作品紹介・あらすじ

ようこそ、謎と人間の新しい可能性へ――。
『アリス殺し』の鬼才が贈るブラックSFミステリ、ここに開幕。

全人類が記憶障害に陥り、長期記憶を取り外し可能な外部装置に頼るようになった世界。
心と身体がバラバラになった今、いくつもの人生(ル・ものがたり)を覚えている、「わたし」は一体何者――?


◆女子高生の結城梨乃は、自分の記憶が10分ともたないことに気が付いた。いち早く状況を理解した梨乃は急いでSNSに書き込む――「全ての人間が記憶障害に陥っています。あなたが、人類が生き残るために、以下のことを行ってください」。それから幾年。人類は失った長期記憶を補うため、身体に挿し込む「外部記憶装置」(メモリ)に頼り、生活するようになった。

◆「わたし」の中には、なぜか何人分もの記憶、思い出が存在している。「替えメモリ受験」をしようとした学生の話。交通事故で子供を亡くした父親の話。双子の姉妹の話。メモリの使用を拒否する集団の話。謎の「声」に導かれ、「わたし」は自分の正体をついに思い出す……。

物語の終幕に、「進化の果て」が浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  • 小林泰三さんは、デビューしたてのころは短編の切れ味が凄まじかった。
    だんだんナマクラになってきたかなと思ったら、今度は長編がいい味だしてきました。

    モジュール簡単に外れすぎだろう、という突っ込みはさておき、本作は『記憶』という作者お得意の素材が遺憾なく発揮されています。ラストの行き着くところまで行ききった感じがお見事。

  • 発想がすごい。
    「肉体」と「記憶」どちらがその人を証明するのか。
    こういうSF好き。

  • 作品紹介・あらすじ
    ようこそ、謎と人間の新しい可能性へ――。
    『アリス殺し』の鬼才が贈るブラックSFミステリ、ここに開幕。

    全人類が記憶障害に陥り、長期記憶を取り外し可能な外部装置に頼るようになった世界。
    心と身体がバラバラになった今、いくつもの人生(ル・ものがたり)を覚えている、「わたし」は一体何者――?

    ◆女子高生の結城梨乃は、自分の記憶が10分ともたないことに気が付いた。いち早く状況を理解した梨乃は急いでSNSに書き込む――「全ての人間が記憶障害に陥っています。あなたが、人類が生き残るために、以下のことを行ってください」。それから幾年。人類は失った長期記憶を補うため、身体に挿し込む「外部記憶装置」(メモリ)に頼り、生活するようになった。

    ◆「わたし」の中には、なぜか何人分もの記憶、思い出が存在している。「替えメモリ受験」をしようとした学生の話。交通事故で子供を亡くした父親の話。双子の姉妹の話。メモリの使用を拒否する集団の話。謎の「声」に導かれ、「わたし」は自分の正体をついに思い出す……。

    物語の終幕に、「進化の果て」が浮かび上がる。

  • 自我の概念が問われる話でしょうか?

  • その人をその人と裏付けるものはなにか?魂なのか記憶なのか肉体なのか…とついつい考えてしまうんだけど、それ以前に読み進めるのが面白かった。
    こんな世界に陥ってしまったら、きっとここに記されたよりももっと様々なエピソードが世界に溢れているんだろうなと妄想したりして。
    一気読みの一冊でした。

  • 記憶がメモリー化されたら?

     面白い設定と平易な文章で、休日午後の2時間程度で一気読みできたよ。エンディングが2001年並みのスケールに拡大されるのは少しばかり笑えるけれど、いろんなケースでの「記憶の差し替え」が面白いね。

  • 外部メモリーに記憶を保存出来るようになって、他人の体にメモリーをさすと、中身が入れ替わる。
    っとなると、魂って何だろう。
    魂=メモリーなのかも。
    輪廻転生する事で人の魂は成長していくというし、どんどんメモリーに蓄積されて成長していくのかもと思った。そんな風に想像するのがまた楽しかった。

  • 人々のきおくが10分しか持たなくなった世界。
    長期記憶ができず短期記憶しかできなくなり、人としての生活が保てなくなり、時代が進み人はメモリという半導体に自分の記憶を残すようになる。
    6つほどの話に分かれていて、最初は記憶がなくなることをメモやSNSを使い状況を改善していく話から、メモリに頼りはじめた人類に起こることがまとまっていて面白い

  • 古典的テーマであるが故に、読みながら/読み終えた後も色々と考えさせられました。
    爽快感や感動とはまた別の、思慮深い作品です

  • 記憶を外部保存できるようになるとは、すなわちその人の人格や魂を保存できるようになること…
    前編では、記憶ができなくなってしまった人々がどのようにそれらの問題にまず立ち向かうか、後編は世界が大きく変わってからのお話

  • ある日突然長期記憶が不可能になった人類の混乱とその後の発展(?)の話。何をもって死と判断するのか、死後の魂は、記憶はどうなるのか、誰もが一度は抱くであろう疑問に切り込んだものであるように感じた。

  • ブラックSF単行本。2部構成。
    第1部
    地球規模で全人類の記憶障害が発生。それによって起きたパニック、解決策を探る様を原子炉運転の緊張感とともに描く。
    第2部
    数十年後、人類は連続しない記憶をメモリー化し持ち歩くことで、日常生活ができるレベルになった。
    果たして「自己」とはメモリーの情報なのか。
    人の進化と魂の帰結は読者に委ねられる。

    「自己」とは、己が〇〇だと認識し、それを他人が承認することによって生じる。
    他人の記憶メモリーを挿入したからといって直ちに他人に代わってしまうわけではない。
    しかし、自分が認知症になった場合、こういった事態に陥るであろう…なかなかにシンドイ作品。

    外レビューにもあるが、命ともいうべきメモリーが、階段を落ちたくらいで抜けたりしてしまう仕様は改善して欲しいものです。

  • 記憶という機能をほぼ失った人類の、その事象発生時の混乱と克服、そしてその後の物語。人間の命は体に宿るのか精神に宿るのか、では精神とは?と考えさせて興味深い。
    けど各人の記憶を担うことになった外部媒体=メモリの運用がここまで適当だと、ここに描かれたドラマはドラマというより日常になってしまうだろうな、というところが設定として弱い気が。

  • メモリの重要性の割に扱いが雑すぎる…

  • 相変わらずの小林泰三ワールド全開。SFなのか、哲学的なのか、ブラックユーモアなのか。独特の世界観で、自分は何者なのか、そもそも他者と自分との区別とは何か、既存の概念を根底から覆し、存在自体を危うくするような恐さがある。

    以前読んだ、クライオニクスを扱った小説を思い出した。
    クライオニクスとは、現代の医療では治せない病気や怪我を、その肉体や脳を冷凍保存することで、未来の医療に託すというもの。
    その話の中では、脳が人間にとって最も重要で、脳さえ冷凍保存できれば、自己を甦らせることができる、とされていた。
    それを読んだ時は、想像もつかない数十年、数百年後の世界に甦り、記憶だけを積み重ねて生きていくことが果たして幸せなのかと思った。

    今回の小林作品は、それをさらに突き詰めた形なのだろう。
    脳が記憶を保存できないなら、肉体はもちろん、脳にも何の価値はない。そうなった時、そもそも生きることに意味があるのか。
    行き尽くした感のあるラストにゾッとする。

    最後に。そういう問題ではないとは分かっているけれど、あえて言わせてもらいたい。
    外部メモリ、簡単に外れすぎじゃないか?

  • たまたま本屋で表紙を見て面白そうな題名の本だと思って手に取ったら非常に当たりだった。
    記憶が保たなくなった人類はどうやって過ごすのかと先が気になってしょうがなかった。思いの外、記憶はなんとかなるということが始めの方でなんとかなってしまい、この後の話はどうするのかと思ったが、いい意味で期待を裏切られた。
    自分も記憶を無くしてまた読みたい一冊。

  • 長期記憶が持たない。生まれながらにして持たざる人間は。記憶メモリーの普及で、肉体は違っても、記憶は再生できる。生とは、死とは。
    独特の会話が多く、静かな世界に浸りながら読める。

  • 記憶を外部装置で補完するようになった近未来。
    全人類が記憶障害に陥っているという事実のあぶり出し方からロジカルで、引き込まれます。
    そして記憶=心と体が離れた世界での物語。
    自身を信じられなくなり、記憶の空白におびえていきます。

    丁寧に積み上げられる恐怖、無情さに納得しながらドキドキしてしまいます。

  • 突如襲った「大忘却」と呼ばれる特異現象で、全人類が記憶が十分程度しか保てなくなった世界を描くブラックSF。本作はやや特殊な構成となっており、大忘却の発生と混乱、それを乗り越えるまでの第一部は序章に過ぎず、大忘却の原因を探る幕間を挟み、外部記憶に頼るようになった人類の細かなエピソード群となる第二部が実質的な本編である。読んだ感触としては長編というよりは連作短編のそれに近い。人間を定義する大事な要素である「記憶」と「人格」のほとんどが外付けハードディスクで賄えるようになった社会というのは偶発的であれ中々に悪夢的で、それによる社会の混乱や変化(具体的には暗記項目のテストがなくなる等)が面白かった。終盤の人間の定義や可能性にまで話が広がるのは必然とはいえやや興ざめで、そういう壮大さよりももっと身近な物語のほうが読みたかった。そういう意味では第二部の連作短編のような作りは良かったのだが、やはり少々物足りない。個人的に気になったのは外部記憶があまりにも簡単に着脱可能な点であることで、アップデートのしやすさという説明がなされてはいるものの、この取り外しの簡単さがほとんどの物語の原動力となっているため、もう少しここに突っ込んだ話が欲しかった気がする。取り外し可能で記憶が残らないとなると、やはりすぐに思いつくのは強盗や強姦といった犯罪行為で、そのあたりがどう対処されているのかが分からず、どうしても引っかかりを覚えてしまった。ただホラー出身の作家らしいゾワゾワとした感覚は健在で、倫理観や常識が足元から崩れていく恐怖や、存在の拠り所のないあやふやさなど、本作の設定でないと味わえない未知の恐怖感はひしひしと伝わってくる。特にラストのイタコの青年の好意を仇で返す老夫婦の話は人間の弱さとも相まってなんとも言えない後味の悪さがある。独特な構成とオチに向かうまでの話運びの求心力の弱さが難点だが、一つ一つのエピソード群はどれも秀逸で、設定もいくらでもひねれる良設定だと思う。

  • 記憶が10分しか持たなくなってしまった社会。

    人類の大多数が実行したのが、外部メモリに記憶を保存する方法で…。

    魂と身体、記憶と心の存在定義とか、死の定義とか、後半の世界の倫理観の揺らぎがすごくリアルで、科学が発達して、生命の神秘に近づけば近づくほど、ぶつかる問題なんだろうなぁって思う。

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著者プロフィール

1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2014年『アリス殺し』で啓文堂文芸書大賞受賞。その他、『大きな森の小さな密室』『密室・殺人』『肉食屋敷』『ウルトラマンF』『失われた過去と未来の犯罪』『人外サーカス』など著書多数。

「2023年 『人獣細工』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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